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「ご馳走様でしたー」

昼休み、茶川達と一緒に弁当を食べ終え、手を合わせた。

「あぁー、もう来週からテストやん、あかん。現実逃避したい」
「やばいよな、俺らずっとゲームばっかしてたもんな」
「三分とみょうじ、最近、夜ゲームしと
んのやろ?ええなあ、俺ずっと塾やのに」
「そやねん。みょうじとな、通話しながらやってん」
「あのゲーム、時間溶けるよな」
「ほんまなぁ」
「俺ら、ヘッドセットつけてガチでやってるからな」
「勉強せえっちゅう話よな」
三分が自虐的に苦笑いする。

「息抜き、息抜き」
「息抜きが長いねんな。でもコントローラー握ってまうよな」

俺たちどうしようもないな、と笑う。受験が終わったら、ロングライド行こうぜ200km超えコースで、と提案すると『行きたいっ』という二人の声が揃った。

輪行もアリだよなと未来の計画を約束して、教室に戻るため席を立った。


まだ昼休み終了まで時間がある。
ジュースを買いに行こうと、自販機に向かっていると前方にがっしりとした体つきの短髪頭を見つけた。

「銀っ、」

後ろから声をかけると、前を歩いていた銀が振り向く。侑を見上げるレベルなら、銀も見上げるレベルだ。

どうもこうして俺の周りは背の高い奴ばっかりなんだ、と少し悲しくなる。
俺の身長の伸びが止まってしまったのに、いつも話すバレー部四人組はぐんぐんと伸びた結果、去年よりも見上げる位置が高くなった気がする。

十数センチ、物差しで見ればこんなものか、と思うのに並ぶと全然違うのは何故なんだ。

「おっ、みょうじも自販機か?」
「おう」

一緒に歩いて階段を降りていく。
自販機で紙パックのジュースを買い、中庭に面した屋根付きのスペースで壁に寄りかかり、ストローを口に加えた。

「バレー部、今度合宿あるんだろ?」
「ん、テスト終わった後なぁ」
「ひぇー、金曜のテスト午前終わりからの、午後から日曜夕方までミッチリか…」

自転車部ではそんなに頻繁に合宿や遠征はないため、バレー部の練習量の多さには感服する。

結果を出しているからこそ、学校から優遇もされるし、部費も潤うだろう。

「最後のバレーやねん。吐くほど練習せな」

前を見て強く言う銀の横顔はいつも以上にキリッとしていた。

「…最後かぁ」

運動部の3年生の大半は引退して部活動は終わってしまったが、銀達はまだ春高がある。
ひと月半後に迫っている最後の大会に懸ける思いは並々ならぬものであることは、近くにいるとよくわかる。

「吐くまで、って、熱い男だな」

くすりと笑うと銀は強く頷いた。

「根性だけなら負けへん!」

背後にメラメラと情熱の炎が見えそうな気さえして笑う。いつでも真っ直ぐな銀が微笑ましい。

「さすが、熱血の銀島センパイ。俺、最初、銀か治がバレー部の部長になるかと思ってた」

「えっ、ほんまか?」

「うん、銀って責任感あるし。正直、侑が部長になるって聞いた時、まじかよ、バレー部大丈夫かよって思ったもん」

あのジャイアンなバレー少年が部長だぞ?ケラケラ笑うと銀も頷きながら笑った。

「侑は気分屋やからなぁ…」
「ほんと。銀とかなら普通に納得できた」
「嬉しいこと言うやんか!ま、侑でよかった思うけどな」
「そうなんだ?」
「何だかんだ言って、侑は技術も高いしすごい奴やもん。確かに気分で空気が変わる時はあるけど、引っ張っていってくれるのは変わらん」

侑の気分がブレブレな時は、フォロー頼むでって北さんらから言われてん。と嬉しそうに話す銀に俺も口元が緩んだ。

「銀がいなきゃ、まとまってないだろうなぁ」
「そ、そうやろか」
「うん。双子の暴走も銀がいるから何とかなってると思う。角名は基本スルーだし」
「まあな…分かってくれるのはみょうじだけや…」
「……大変だよな、分かる、分かるよ…っ、アイツらノリ始めたら手がつけられないもんな…」

竜巻みたいな奴らだよ、特に侑は感情表現ゴリラだし、と言うと銀は腹を抱えた。

「はっはっは、みょうじは絡まれすぎやもんなぁ」
「絡まれすぎのレベルじゃない」
「2年に上がった時、同じ組になったやん」
「うん」
「最初は侑がバレー部以外の奴に絡むん、珍しいなぁ思ってて。みょうじ、別に目立つとこもないし何でやろって」
「おい、銀ナチュラルにディスってる?」
「や、ちゃうちゃう。今はなんかわかるわ。みょうじ、懐が広いなあ、て」

「そんなことない、俺、口に出さないだけで心の中では色々思ってるから!毒吐いてるからな!」
「ふっ、せやけど全部受け止めるから、侑と合ってんのかなあって」
「受け止めてないぞ?!俺は毎日必死で跳ね返してるんだけどな?」

首を振ると銀が歯を見せて笑った。
「結果的に受け止めとるやろ。侑も部長になってから、上手いこといかへんこともあったと思うし、割と、いや、結構ぶつかってること多いけど、どこかでそれを吐き出せるとこが必要やねんな。同じ選手の俺らには言い難いこともみょうじには言えるんちゃうかな、て」

銀の言葉に、あぁ、と俺の部屋で愚痴る侑を思い出した。
侑が部長になったばかりの時、「後輩に本気で教えたら、近づいて来んくなった」なんて言う侑に言い方が酷いんだよバカって言うと「本気で教えてやっとんのに、上手くなる気無い奴はいらん」と言い出した挙句、バカって言うた、とキレていた。

また別の日には「サムが俺の教え方にいちゃもん付けてきた」と言うから、だから言い方がひどいんだって、と言うとまたムスッとしていた。

「宮主将ねぇ。北さんの時とはまた一味違う男バレ部なんだろうな。北さんがビシッと決めてくれてたけど、今は銀が侑達の隣でビシッと決めてくれてるから、やっていけてんだろうし」

「双子の暴走も喧嘩止めんのも大変やけど、侑らがノッてる時の引っ張りようは誰にも真似できんからな。大波みたいに俺らも飲み込まれて調子上がんねん」

満足そうに笑う銀を見て、バレー部の中での繋がりが見える気がした。その絆は、俺達自転車部の3人と同じように思える。

お互いに信頼し合って、背中を任せることが出来る戦友。
切磋琢磨し合い、高め合うことができるライバル。

「…たまに体育館の横通る時にさ、侑が後輩を褒めたり、教えてるとこ見かける度に俺感動したもん」
「おかんか」
「あの侑が、立派になって…って」
「おかんやん」

「先輩になって、人は上に立てば、なるようになるんだなと学んだわ。宮部長の成長に俺は影で泣いた」
「はははっ、その分、俺らには侑のまんまやけどな」
「それな。いつまでも感情表現ゴリラだからな」

「…特にみょうじには『宮部長』じゃなくて、素の侑のまんまでおれると思うで」

銀の言葉に胸の内がムズ痒い何かで覆われた。恥ずかしいような嬉しいような、そんな気持ち。
そうであってくれたら嬉しいな、と。

等身大の高校生、宮侑 を同い年で親友の俺が隣で理解(わか)ってやりたい。
これからも笑って怒って悩みながらも元気に前に突き進む侑を隣で見ていけたら、と密かに思った。


銀と二人で話していると、目の前に大きな人影が現れた。

「おう、平介」
「お、理石くん」

俺たちの前に現れたのは2年の理石くんだった。銀よりもさらにデカイ。去年より身長も伸びて190cmあるんじゃないですか?というほどのデカさだ。

「っス!!」
「いらっしゃいー」

理石くんに手を上げてへらりと笑う。壁に寄りかかる俺達の隣に立った。

両隣に銀と理石くんがいる形になり、二人の圧に俺は取り囲まれている気さえしてくる。
俺でさえ、身長差に圧倒されているのに、これが女子だったら絵面的にすごいことになってそうだと考える。

「今な、侑が成長したなって話しててん」
「理石くんも大変だなぁ、侑に振り回されまくってるっしょ」

レギュラーメンバーの理石くんなら、侑とも常に接しているだろうし、その大変さは窺える。

もし俺がバレー部の後輩だったら絶対宮先輩近づきたくねぇぇって思っていただろう。

「いや、まぁ慣れました」

ハハハと乾いた笑いをしている理石くんにここにも苦労人がいたか、と侑に振り回される三人衆として一体感を感じる。

「侑が暴走したら、俺に言ってね。銀が何とかするから」
「俺かよっ!」
銀のツッコミにくふくふと笑っていると理石くんが眉を下げた。

「苦労人三人衆、ここに集う。つって、」
冗談を言っていると理石くんが俺を見下ろしてきた。

「でも、侑さんの機嫌悪い時は大体みょうじさんが原因じゃないですか」
「えっ、ごめん…」
「治さんとの喧嘩ならどうせすぐ仲直りするかなぁとか思って、危険察知して逃げられるんすけど、みょうじさんの場合、どうにもできへんっていうか…」

「…ごめんなさい…」

色々思い当たる節がありすぎて、固まる。
本当にごめん、理石くん。

「いや、俺もね?喧嘩したくてしてるわけじゃなくて、アイツがつっかかってくるから…お互い譲れないところがあると、こう、勃発するというか…」

「すごいですよね…あの侑さんと喧嘩するんですもん…」
「ほんまな。俺やったら侑と喧嘩しようとは思わへんわ」

理石くんと銀の視線に居た堪れないような気持ちになる。

「違うよ、俺もそんな好戦的じゃなくて普通に、ふっつうにアイツの無茶ぶりを飲み込んだ上で、解せないことには解せないって示すと怪獣みたいに火を吹き出すんだもん」

俺も助けてほしいぐらいだよ、肩をすくめると銀が「想像できるわ、」と笑った。

「あのジャイアンめ…」

銀と俺の顔を見て理石くんがふっ、と笑った。

「厳しい人ですけど、侑さんは誰よりも自分に一番厳しいし、稲荷崎(ここ)に入って侑さんと同じコートに立てることが俺は嬉しいです」

侑さんの背中をすぐ近くで追えることが嬉しいんです、という理石くんに胸の内が温かくなった。

なんだ、侑、お前ちゃんと後輩に慕われてんじゃん。

こんなにも大きな気持ちを聞いて口元が緩まないわけがなかった。

「分かる。ストイックだけど、何よりバレーが好きって伝わってくるし、何だかんだ、前向いて走ってるアイツ、カッコイイよなぁ」

真っ青な秋空に目を細めてぼやくと、銀と理石くんがきょとんとした顔で見てきた。

「……あ、本人には絶対言うなよ。言ったら調子乗るから」

念押して、本人、言う、ダメ、絶対。と手でバツを作ると二人は笑った。

「ちゅうか平介、侑だけかいっ!」

銀が笑って理石くんの肩をバシッと叩く。

「いやっ、もちろん先輩方全員っすよ!!」
「今のは取ってつけた感じだな〜っ」

ニヤニヤ笑って銀と一緒に理石くんをいじる。

「同じようなこと、奈良木も言うてましたよ」
「え?奈良木?」

いきなり自転車部の後輩の話が出てきて首を傾げる。

「僕はみょうじ先輩のアシスト魂にやられたんや、って。みょうじ先輩みたいな全てを懸けたアシストができるようになりたい、って」

「奈良木〜っ、可愛いこと言うじゃん!」

嬉しくて擽ったい。自分の走りを見てくれる人がいる、それだけで十分に満たされる。
柴さんの言葉も、茶川、三分の言葉も、奈良木の言葉も全部全部、大切に心の中にしまっておく。




理石くんと銀と雑談をしていると昼休みの終了も近づき、教室へ戻った。

前の席では侑が机に伏せて寝ていた。
静かにそっと椅子に座ると、侑の肩がぴくりと動く。むくりと起き上がり、後ろを見てきた。

反応の良さに、俺が家の中に入ると即座に反応するチロルを思い出す。

「何わろてんねん」
「ふっ、いや、なんでもない」
「は?」
「侑、くしゃみ出た?」
「はぁ?」

噂をされるとくしゃみが出る、とよく言う。

「さっき盛大にくしゃみしてたじゃん」
角名が隣から呟いた。

「まじでっ?!うっは、すげ〜」

本当にそんなことあるんだ、と1人で笑っていると「何で嬉しそうやねん」と怪訝な顔で見てくる。

「何でもなぁい」

納得いかない顔をする侑を前に午後の授業の準備に取り掛かった。

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