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嵐は突然やってくる。

テスト期間に入る前に最後の遊びを、と夜に三分と通話しながらゲームをしていた。

『みょうじ、残りちょっとしかないでっ』
「あああ、俺らのゲーム時間がなくなっていくうぅ」
『あっ、敵そっち行った〜』
「了解〜」

楽しくキャラクターを操作してマイク越しに三分とお喋りしていると背中にぼふりと物が当たった。

床に落ちたのは使用済みのタオル。後ろを振り向く。

「ちょっ、邪魔するなっ」

投げてきたのは風呂上がりの侑。風呂場から直行で俺の部屋に入ってきて、そのまま居座っている。

『え、なに?』
「いや、ごめんこっちの話。侑がタオル投げてきた」
『え?宮おるん?』
「うん、部屋に」
『へぇ!やっほーー!聞こえるーー??』
「ぶっは、聞こえるわけないじゃん!俺ヘッドホンなのに!」

ケラケラ笑う俺に侑がむぅと面白くなさそうな顔をして隣に座ってきた。風呂上がりの石鹸の匂いがふわりと香る。

「ぎゃっ、あーもうっ邪魔っ」

のしかかってくる侑の横腹に肘鉄を食らわせるも全然効いていない。

結果、俺の操作するキャラクターは敵にやられてしまいゲームオーバーとなった。

「あぁぁ、終わったっ」
『負けて終わりか〜』
「侑のせいだっ」
『ほな、俺そろそろ落ちるわぁ』
「ん、おやすみぃ」

三分と通話を終わりヘッドセットを外して侑を睨む。

「せっかく三分と対戦してたのに、負けたっ」

侑のせいだ、と責めると「三分、三分て喧しい」と不機嫌そうに返ってきた。喧しいと思うなら、俺の部屋から出ればいいのに。

「ゲームばっかして、他にすることないんかい」
「はぁ?」

母親みたいなことを言ってくる侑にイラッとする。

「アニメ鑑賞、漫画、ゲーム、やることありすぎて忙しいくらいだわ」
「うわ、出たオタク」
「あ?オタクバカにすんなよ」

いつもファッション系とか流行や最先端を追ってる陽キャのお前には分からんだろうが、この世には二次という素晴らしい世界があるのだ。

「そんなやからモテへんのや」
「はぁ??」
「いっつも女子にモテたいとか言うて、オタク趣味全開でモテるわけあらへんやろ。一生モテへんし」

何だこいつ、喧嘩売ってんのか?

確かにそうだけど、侑に言われると腹が立つ。
いつもなら、そんなこと分かってるし、好きなもんは好きなんだから放っておけ、と言えるも、たった今侑のせいでゲームオーバーになってしまった俺にはそんな心の広さはなかった。

ムカついて売り言葉に買い言葉で応戦する。

「いいし、オタク趣味理解してくれて、俺のこと好きになってくれる人だって、この世界のどこかに絶対いるし」

というかそう信じたい。
じと目で睨むと、侑は鼻で笑い風呂上がりの湿った髪をかき上げた。

「はん、現れるわけないやん。傍から見たら平々凡々なふっつーのオタクくん、好きになる奴なんかおらんやろ」

今までなまえ目当てで声掛けてきた女子、おるぅ?

ムカ、ムカムカムカ。
俺の怒りのボルテージがぐんぐんと上がっていく。

確かに、平々凡々のふっつうの人間ですけど?オタクですけど?ゲーム好きですけど?
毎度毎度、女子から声かけられるのはお前目当てですけど??

だからといって、上から目線のその態度に腹が立たないこともなく。

「…………」

黙り込む俺に侑がまたふん、と笑った。

「なんや、図星かぁ?そうやろなぁなまえ目当てなんかおらんやろなぁ」

侑の言葉にプツン、と切れる音が聞こえた。

…俺も人間なので堪忍袋の緒が切れることもあるわけです。

もう怒った。俺はお前を許さない。

俯いていた顔を上げて、笑顔を作った。
にこりと笑う俺に侑が眉をピクりと動かした。

「侑くん、そろそろ部屋帰る?帰ろうか」

床に落ちているタオルを拾って侑の胸板に押し当てる。
ニコニコと顔は笑顔のまま、俺を見上げる侑をぐい、と引っ張って無理やり立たせた。

「なん、や。まだ帰らへ「帰ろうか。ってか帰れ?」

にっこり笑って侑を部屋の外に追い出す。
ドアを閉める前に侑の顔を見上げて、笑う。

「おやすみ」
「な、」

終始、笑顔の俺に侑は戸惑いを見せたが無視して、ドアを勢いよく閉めた。

部屋の中に向き直り、笑顔を解く。

なんだアイツ…くっっっそ、腹が立つ!!!


***

翌朝の食堂。
テスト期間に入り、朝練がないバレー部と出会した。

「…はよ」
角名が隣に座ってきた。
「おー、おはよ」

宮兄弟も食堂に入ってくる。
欠伸をしながら、腹をポリポリとかく治の隣で、侑が俺を見て何か言いたそうにしている。

「おはよぉさん…」
治が配膳されたトレーを持って眠そうに座る。
その横に侑も座った。

「はよぉー、」
侑の挨拶に角名が「はよ」と小さく返した。

黙る俺に侑がちらりと視線を寄越してきた。お前の挨拶はないんかい、と言いたげな顔に目を合わせてにっこりと笑う。

「おはよう」

この笑顔で昨日の件は継続していることを理解したのか、侑がぐっ、と固まった。

ちゃんと挨拶はしたし、おかしいところは何も無いはず。
それなのに4人の間に言いようのない空気感が生まれる。治が侑をちらりと見た。

「……ツム、お前何したん」
「何もしてへんしっ」
「………」
角名が静かに俺を見てくる。

「なんや、ツムがなんかやらかしたん?」

治が俺に聞いてきた。だから、笑顔で答える。

「何にも?」

本人も何にもしてないみたいだし、何にもなかったんだと思うよ。
そう言ってニコニコと笑って返すと治が呆れたように侑を見た。

「盛大にやらかしとるやん」
「意味わからんっ、何で怒ってんねんっ腹立つっ」

逆ギレのように侑がムスッと頬を膨らませて箸を握る。

「え?別に怒ってないよ?」

怒ってるように見える?どこが?笑顔じゃないか。と笑って答えた。

ていうか、聞き捨てならない。
腹立つって何?俺の方が内心、腹立ってんだけどな?

「何にもないから気にしないで、」
治に笑いかけてご飯を咀嚼する。

侑をスルーしてご飯をパクパクと食べ進めるも、侑の視線がうるさい。

「〜っ、せやから昨日のことは…っ!」

侑が言いかけてモゴモゴと黙り込む。

「何?」

何か言いたいことでもあるか?謝罪の一言でもあるか?と思い、促すとキッと強い視線で見てきた。

「…察しろや!」

はぁぁ?察しろ?アホか。
俺はそんな匂わせ的な謝り方じゃ、絶対に許さねえ。
モテないとか、好きになるやついないとか散々言われたこの恨み。簡単に許せるわけないだろ?

箸をカタン、とトレーの上に置いてご馳走様でした、と手を合わせる。

「俺は治じゃないから。察しろ、とか無理」

口で言われないと、分からないので。と笑顔で念押しすると治が肩を震わせた。

「ご馳走様でした」

静かに席を立った俺は侑の視線を背中に感じながら、バレー部メンツを残して食堂を出た。



***


(宮 侑)

「ぶっふぉ、ツム言われとんなぁ。笑かすっ」

隣で楽しそうに笑う治を見て、腹立たしさが生まれる。

食堂に入り、なまえの笑顔を見た瞬間、こいつ、まだ怒っとる…と察したのは先程の話。

そもそも、昨日の夜、部屋を無理やり追い出された時から怒っているのは分かってはいたが。

だって、アイツが悪いんやもん。
ずっと三分と楽しそうにゲームしとって、俺が部屋に入ってきても何にも反応なし。
俺は空気かよ、っちゅうかもはや空気やった。
腹が立って、色々言ってしまったのはちょおっと悪かったかなぁて思うところもあるけど、全体的にアイツが悪いと俺はおも「で、何やらかしたん」

「せやから、やらかしてない、て!」
「いや、ブチ切れてんじゃんなまえ」

角名がニヤニヤと笑ってくるところがまた腹立たしい。

「何言うたん。どうせツムのことやし、ろくでもないこと言うたんやろ。やないとなまえあんな怒らへんやろ」

「アイツが悪いねん。いっつも女子にモテたいとか言うとるくせにオタク趣味全開で昨日も三分とずっと通話しながらゲームしてん」

「ほお」

「そんなオタク趣味全開でモテるわけないやん、て。なまえみたいなふっつーのオタクくん好きになるやつおるわけないやん、て」

俺以外で!!っていう付け加えは心の中で、したし!!
俺以外でナマエを好きになってくれるやつなんておってたまるか!!っていう思いもちゃんとあるし!!

と心の中で自分の言い分を叫ぶ。

話を聞いていた治がアホやなあとニヤニヤしている。

「ツムぅ、教えたろか?誰にでも我慢の限界っちゅうもんがあるんやで?」
「…うっさいボケ」

ツムの日頃の行いが積み重なって見事に崩れたな、基本人でなしやもんと上から目線で馬鹿にしたように言う治にムカついてグーパンチで腕を殴る。

「あちゃあ、やらかしたね侑」

角名が面白そうにくふくふと笑っている。

「お前らやって思うやろ!なまえがモテるわけないやん!」

「モテんやろなぁ」
約一名を除いては、とぼやく治をド突いた。

「あのままやと怒ったまんまやで」
「俺、悪うないもん」
「いや、どう考えてもツムが悪いやろ」

笑顔なのにどこか距離があったなまえを思い返す。

言いたい一言が喉まで出かかっているが、なかなか出ない。
飯は喉を通るも、三文字の言葉は出てこない。

伝えたいのに、伝えられない思いがつっかえている。

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