※某タイムリープアニメ映画ネタあり
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学校から男子寮に帰り爆睡した後、目が覚めたのは中途半端な時間だった。
進路も決まり、部活もない三年生は時間に余裕がある。
夜ご飯を食べに行くにはまだ時間が早いと思い、レクルームに向かった。
適当に漫画でも読もうかな、と自由に利用できる漫画やDVDが置いてあるスペースを物色する。
ふと目に入った有名なアニメ映画、時を/か/け/る/少/女。
ぼんやりと見た事あるような気がして大まかなストーリーは何となく知ってはいるが、ちゃんとみた事はなかった。
何度かテレビでもやってたなぁと手に取り、レクルームに置いてある再生機にセットした。
部屋の中には誰もいないし、最上級生という立場なら他の寮生が入ってきてもそこまで言われないだろう。誰か来たら停めればいいや、という思いで再生した。
***
そして、映画が終了する頃には隣に角名が座っていて、俺は目に汗をかいていた。
タイムリープもので、見終わった後は青春の甘酸っぱさと切なさが一気に押し寄せて俺の涙腺は崩壊寸前だった。
「…っ、」
ひたすら黙って涙を落とさないように上を向く俺を角名がニヤニヤと笑いながら頬杖をついて見てくる。
「切なすぎる…っ、なんだよこの映画…!ちょっと今から30分くらい語る?」
途中参加して隣で見ていた角名が「泣きすぎなんだけど」と鼻で笑う。
「いや、あのセリフ、聞いた?聞いたよな?ヤバくないか?辛すぎない?え?辛いの俺だけ?」
未来で待ってる、なんて言って二度と会えない時空を超えた甘酸っぱい青春を見せられた俺は心臓をぺしゃんこにされた気分だ。
「画面の前で顔面崩壊してるなまえの方がヤバい」
「だって泣けんだろ〜〜っあぁ、辛いっ胸が痛いっ」
「感情移入しすぎっしょ」
携帯を操作して色んな考察記事を見せてくる角名に、さらに胸を痛めているとレクルームに双子が入ってきた。
侑が俺の顔を見てギョッとする。
「なんや、その顔」
反応が泣いてることじゃなくて顔かよっ。
「ひっどい顔やなぁ」
治も同じようなことを言うのやめてくれませんかね、と双子を睨む。俺と角名に近づきテーブルの上に置いてある時/か/けのDVDに気づいた。
「これ観て、こうなった」
角名の簡潔な説明に双子がほぅ、と呟く。
双子が来たということはそろそろ飯か、と立ち上がりDVDを元の位置に戻した。
瞬間、首元に感じる感触。後ろから優しく触れる手に誘導され振り向くと侑が顔を近づけてきていた。
まさにさっきまで画面上で見ていた、千昭と真琴のシーンと同じだ。
突然のことで反応する間もなく顔を寄せた侑が耳元で囁いた。
「食堂で、待ってる」
条件反射で口から出る言葉は決まっている。感動的なシーンに目が潤う。
「…っ、すぐ行くぅ…っ、走って行ぐぅゔ…」
治が隣でエンディングのサビをしっとりと歌い始めた。無駄に上手いし、感情がこもっているところが笑える。
もはや笑えば良いのか、泣けば良いのか分からない俺の表情は崩壊していることだろう。
角名は堪えきれない、と肩を震わせて爆笑している。違う意味で目が潤っていて、笑いすぎて苦しそうだ。
「ツム!はよ消えろ!ここ消えるシーンやねん!」
「無理やろ!」
「はよ未来に帰れや!」
再現度を高めようとガチな治に角名と二人で笑った。
ひとしきり、時/か/けごっこを再現した後、4人で食堂に入り夜ご飯のビビンバ丼の定食をトレーに乗せて席に座った。
「なんやツムがなまえ泣かせたみたいになっとんな」
治が隣同士で座る俺と侑を見た。目元の赤みはまだ引いてないのだろう。
「完全にいじめっ子といじめられっ子の図。ていうかいつもと変わんないじゃん。大体侑に絞められて泣いてるし」
治と角名の会話に俺は顔をしかめる。
「泣いてない。物理的な痛みでちょっとだけ目に汗かくくらいだし。さっきのあの涙は切なすぎる青春物語にやられた純粋無垢な聖水なんだぞ、一緒にするなよ」
「ふ、聖水とかウケる」
「俺やったらもっと泣かせたる」
キャッキャと笑いながら怖いことを言う侑を無視してビビンバ丼を食べる。ピリ辛な味付けが美味い。
「…はぁ切ないよな。未来で待ってるって言ったくせに、会えないってどういうことだってばよ…俺が未来まで連れてってやりたい…」
頭をガクリと落として余韻に浸る。
「さっきからずっとこれ」
角名が鼻で笑いながら治をちろりと見た。
「なまえの頭ん中、時/か/け状態なんか」
「うん、多分明日もずっと言ってると思う」
「よし明日、茶川と三分に語り尽くそ。あ、でも茶川に見せたら完全な考察出してきそうで怖いな…三分は『まじで感動したわ!終わり!』みたいな一言で終わる感想しか言わなさそうだし…」
「未来で会えないかなぁ、なんか力が働いて結ばれないかなぁ。俺はあの二人が出会わないと夜しか眠れねえ…っ」
ぶつぶつ言う俺に侑がじとりと視線を寄越した。
「時かける前に今を生きてくれませんかぁ?なまえクンはここにおるんとちゃうんですかぁ?」
「いません。みょうじなまえは今、現実逃避してるのでいません」
空想の世界ではハイスペキャラクターになって主人公の脇で活躍する二枚目くらいにはなってみたい。主人公は大変そうだから脇役くらいで順調に生きていけたら、と妄想を始める。
「現実に戻ってこいアホ」
侑が横から俺の皿に乗っているミニオムレツに箸をつけた。その所業に、あっと声を出す前に侑の口の中におさまる。
目を見開いて侑をガン見する。
ああ、妄想なんかしなくても主人公みたいな奴がすでに存在していた。すぐ隣にいたよ。
「俺のミニオムレツ…」
「んまいっ」
「クソジャイアンめ…」
「あ?ボケッとしとるなまえが悪い」
侑は「アニメの恋路心配する前に自分の恋路何とかせえや、」なんて口の中でぼそりと呟いてきた。
「うるさいうるさい」
いつものように小言を言いながらご飯を食べる。
こうして侑達と一緒にご飯を食べる回数は何百回と超えている。気遣うことなく、楽しくて、たまに4人の中で喧嘩が発生して空気が凍りつく時もあるけど、男子寮の食堂は俺にとってリラックスできる場所だと言える。
親しい友達と楽しく過ごせるなら十分。
恋路って言ったってもういっその事、今のままでも良い気がする。
すぐ隣にいて、笑い合えるこの環境は居心地が良すぎて、無理に先に進まなくても良いのでは…。
***
なんて思っていた。昨日までは。
翌朝、ロードバイクで登校した後、昇降口で内履きに履き替えていると「あの…」と声をかけられた。
顔を上げると後輩らしき女子が立っていた。
「?」
「侑先輩に、これ渡してくれませんかっ」
目の前に差し出された小さなミニレター。可愛らしいそれは多分、気持ちを伝えるものか、連絡先が書いてあるものだろうと察した。
「…ごめん。俺から渡しても受け取らないと思う…。直接渡すしか…」
ごめんねと苦笑いして謝ると、へにゃりと眉を下げて「そうですよね…」と悲しそうに笑う様子に良心が傷んだ。
告白されたわけじゃないのに、自分が告白を断っているような気持ちになる。
「侑先輩に話しかける勇気…なくて…、いつも遠くから見ることしか…」
きゅっ、と握るその細い指先に俺は共感を覚える。
わかる…俺も話しかける勇気なくて、その人の視界に入れたらな、って同じ空間に行ったりすることしか出来なかった過去がある…。
「少しでもお話できるチャンスがあったらな、って…」
目の前に立つ後輩女子は大人しそうで、自分からグイグイ行きそうなタイプには見えない。
まぁ、侑に話しかける女子って大体強めな子が多いしな…。
アイツは自分の気分次第でファーストインプレッションを極端に上下する奴だ。話しかけた時に吉と出るか凶と出るか、反応が良いか悪いかは完全に侑の気分次第だから、ある意味強くないと心を折られる気がする。
前までの俺だったらここで仕方なく受け取ってしまっていたが…。
渡したくない、侑に想いを寄せる人の気持ちを阻止したいと思ってしまう自分がいた。
「どうしても…ダメですか…?」
上目遣いで見られると弱い。
「やっぱりダメですよね…」
くしゃりとその子の手の中で潰れたミニレターを見た瞬間、思わず手を出してしまった。
「わ、渡すだけなら…」
嬉しそうに俺を見る目に、やってしまったと心の中で項垂れた。
受け取った後、渡したくないという気持ちと受け取ってしまったという気持ちがぶつかり合ってどんな顔をして良いか分からなかった。
後輩女子から託され、階段を一段ずつ登っていると後ろから三分の声が届く。
「みょうじ〜〜っ、見たでぇ!何もらっとったんや!」
ニヤニヤする三分が俺の隣に追いついた。
「…これ」
「!!まさかみょうじに…っ」
「んなわけ。侑に、って」
「あぁ、そうよなぁ。現実はそんなもんよなあ」
おい、そんなもんとはどんなもんだ。と三分にツッコミながら廊下を歩く。
「まぁ仲良さそうな友達、言うたらみょうじになるもんなぁ。みょうじに渡してくれって言うん多そうやわ」
友達、ね。うん、そうだよな。
周りから見たら友達にしか見えないし、その通りだ。俺達の関係は友達以外の何者でもない。
別に、このミニレターを阻止する権利がある恋人でも何でもない。
ただの友達なのだから、俺が代わりに女子から受け取ったっておかしくはない。
それでも手の中にあるこのミニレターを渡すのが怖いと思った。渡した後、もし侑がひょんなことから連絡するようになったら。可愛いな、ってなったら…。
自覚しているこの気持ち。多分アイツも同じ想い…のハズ。でも所詮、俺たちは友達同士。
受け取った後で後悔の渦に巻き込まれる。気分を落とす俺に首を傾げた三分と教室の前で別れて、自分の席に向かった。
侑と角名はまだ入ってきてない。
机に黒リュックを置いて可愛らしいミニレターをじっと眺めていると「宮、おはよ〜」と生徒の声が聞こえて反応した。
「はよ〜」
侑の声が聞こえてきた。急いでミニレターを机の中に入れる。
「?どしたんや」
「…何も?」
自席について見下ろす侑に「はよ、」と声をかけて笑っておく。
特に気に留めることもなく侑は席についておにぎりを食べ始めた。
横向きに座りおにぎりを頬張る侑を見て、渡さなきゃ、渡したくない、渡さなきゃ、渡したくないの言葉が頭の中で繰り返される。
「今朝なぁサムの起こし方がむっちゃひどかってん。俺の枕、いきなり引き抜いたんやで?有り得へんやろ。頭ガンッなって地球ひっくり返ったわ」
「へぇ」
「聞いとる?」
「んぅ?うん」
気もそぞろな俺は机の中のミニレターのことで頭がいっぱいだ。
「…ほな、どこまで話したか言うて」
「…治が地球ひっくり返した話?」
「……聞いてへんやろ」
キレ気味に俺の頬を片手で挟んでくる侑に
「ごめん、今日の小テスのことで頭いっぱいだったぁ…」
咄嗟に言い訳を考えて伝えると侑が目を細めた。少しの間の後「ふうん」と呟いて、サムんとこ行ってくると席を立った。
教室を出ていく後ろ姿を見て、渡しそびれた焦りでため息を吐く。自分の手から直接は渡しにくい。
受け取っておいてこんなこと思うのも何だけど、これでも…好きなんだ…ジャイアンみたいなアイツが。
好きな奴に他人の想いが詰まった手紙を渡すなんて…正直、辛い。
俺から渡して、何とも思ってないのかって勘違いされるのも嫌だし…。
いつも機嫌悪くするけど、拗らせて『もう知らん』なんて愛想を尽かされて、距離取られたら…。
そもそも、侑はいつも受け取るなって言うのに受け取ってしまった俺も悪いし、ブチ切れて終了する可能性が…。
「はぁぁ」
最悪の事態を考えると直接渡そうなんて気にはなれなかった。
こうなれば、強行手段だ。今のうちに侑の机の中に黙って入れてしまおうと考えた。
それなら俺が受け取ったとはバレない。自分の机の中からミニレターを取り出し、腕を伸ばして後ろから侑の机の中に素早くミニレターを入れた。瞬間、「おはよ」
顔を上げると角名が侑の机の中に手を入れる俺を見下ろしていた。
「お、おう…」
何事もなく席に座る角名に、俺も黙ってストンと自席に腰を下ろす。
「何して「何も聞くな。いいか、君は何も見ていない。わかった?」
「………」
被せるように角名に言うと、黙ったままじっと見てきた。
「…まぁ、いいけど」
「侑から聞かれても何も言うなよ?」
「…見返りは?」
「んまっ、倫太郎くん見返りなんて求める子になったの?!お母さん信じられない…!」
「うるさい、自販機奢りね」
「えー」
角名と交渉成立して話していると侑が戻ってきた。席に座り準備をする侑をドキドキとした気持ちで見る。
「んぁ?なんこれ」
うわ、気づいた…
侑が机の中からミニレターを取り出してまじまじと見た。
「なんこれ。誰か俺の机ん中入れた?」
「いや?知らない」
即答して角名を見る。お前も合わせろ、と目線を送る。
「角名は?知っとる?」
「…知らない」
角名の返事に内心ホッと安堵した。侑はミニレターを開けて読んでいる。
「何て書いてんの…」
大方想像はできるが、内容を恐る恐る聞いてみる。
「2年から。連絡先交換したい、て」
「ふうん…」
侑がミニレターをじっと眺めた後、俺の目を見てきた。さりげなく逸らして俺も準備しよ、と独り言る。
「なぁ、ホンマに知らん?」
「知らないって」
「さっきはなかったよな?俺がサムんとこ行っとる間に入ったっちゅうことは、入れた奴見とるよな?」
いつもテキトーなのに、変なところで推理能力働せるなよ。お前、昨日の夜、名探偵コナ○でも見たんかっ?!
「…嘘ついたら針千本飲ますで?」
「…ついてない」
「ほお…なまえは何も知らんのやな」
「うにゅ」
やばい、焦って噛んでしまった。
目を細めてじっと見てくる侑にポーカーをしているような気分で見返す。まるでメンタリストと戦っているような気持ちになる。
「ほな、角名。角名は知らん?」
「知らない」
「…嘘ついとったら、今日の練習、部長権限で角名だけ延々とレセプション練はりつけにしたるからな…」
睨む侑に角名が数秒,間を空けて口を開いた。
「なまえが何か入れてたのは見た」
「っ?!はっ?!りんたろっ、おま」
目を見開いて角名を見ると素知らぬ顔で俺から目を逸らした。即行で裏切られた俺は絶対絶命。
「…さあて、なまえクン説明してもろてええ?」
にっこりと笑う侑の笑顔がこれほどまでに冷え冷えとしているのは初めてかもしれない。
「いや、成り行きで…話聞いてると…受け取ってしまってぇ…」
侑の顔から段々と笑顔が消えていく。真顔なところが一番怖い。
「なまえは、学習能力ないん?」
ああ、怖い。こんなこと前にもあった気がする。怒ってる。侑クン、完全に怒ってるぅ…。
「俺にこれを渡してどうしたいんや?」
こっわ、まじでこっわ。低い声で俺を見下ろす侑に、角名さえ言わなければと睨むも目を合わせようとしない。
「別に、受け取りたくて受け取ったわけじゃないし」
消え入りそうな言葉尻に侑が片眉を上げた。
「あ?受け取っとんなら同じやろが」
不可抗力という言葉がありまして。ということを言ったらさらに怒りそうなので口を噤んだ。
さて、どうしたものか、と考えあぐねていると教室に担任が入ってきた。
「おはよう、SHR始めます」
会話は強制終了され、侑が俺をじろりと睨んだ後、前に向き直る。
受け取りたくて受け取ったわけじゃない。渡したかったわけじゃない。本当は、侑の目に入れてほしくなかった。最低なことを思う俺だけど、本心に嘘はつけない。
怒らないで、勘違いしないで。
そんな思いがとめどなく押し流れる。
教室の一番後ろの角の席。少しだけ身を乗り出し、口元に手を添えて侑の耳元に近づいた。
こそりと誰にも聞き取れないよう、限りなく小さな小さな声で囁いた。
「ほんとは…、渡したくなかった…」
薄く開いた唇からそっと零れた言葉。
「はぁっ?!」
「っ、」
侑の耳に届いたのか、いきなり声を上げた侑にびっくりしたのは俺だけじゃない。教室内の目が侑に集中する。
「どうした?宮」
先生の言葉に「なんもないっす!!さーせんっ!」と直ぐに謝った。
くすくすと教室内から笑いが漏れる。普段ならテヘペロ状態でへらへらしてるくせに今は静かに前を向いている。
覗き込むように体をずらすと、黄金色の髪が触れる両耳が赤くなっていた。
「………」
心なしか頬も赤いような…。
え、今ので…?
弁解という名の本心の告白。
侑の反応を見て俺まで体がぽかぽかと熱くなってきた。両手で火照った頬を押さえる。
そういう不意打ちの反応は、やめていただきたい。
トクトクと、心臓の鼓動が大きく波打つ。
侑以外の友達には持たないこの感情。
友達じゃなくて、親友じゃなくて…その先の何かになれる日は来るんだろうか。