(宮 侑)
朝からなまえの様子がいつもと少し違うな、と感じた。
深く気に留めなかったが治の所に行き戻ってきたら、机の中にあったミニレター。
手に取り中の紙を取り出すと、連絡先が書かれていた。
2年3組、○○…。
全然顔も名前も知らんな、と眺めながらなまえの顔を盗み見るとそわりと目が動いた。
…何か知っとるなコイツ。
まさか、まさかのまさか。お前が受け取ったわけじゃあらへんよなぁ?
前に言うたもんな?受け取ったらあかんよ、って。
痛いほど、教え込んだはず、なのに。
聞いてみると目の前のなまえは知らないと言う。
ホンマか??ほんまのほんまに知らんのやな?
角名に問うてみた。角名の天秤で何が勝つかなんて3年間、バレーでも学校でも寮でも一緒だったからよく分かる。
カマかけるとすぐに「なまえが何か入れていた」と答えが返ってきた。
はい、確定〜。絶対シメる。
なぁなぁ、どういうこと??
笑顔でなまえを見ると、へらりと笑ってきた。今すぐはっ倒したくなる。
言い訳苦しく「成り行きで…」なんて言い出した。
おいおい、ええんか?それ以上言うたら、キレるけどええ?
ちゅうか、もうキレとるけど。
「俺にこれを渡してどうしたいんや?」
お前、俺のこと好きとちゃうん?
わざわざライバル増やして何してんの??
話聞いとったら受け取ってしまった、とか良くも悪くも共感能力高すぎやねんドアホ。
俺に彼女作れってか?彼女作ってほしいんか?
問い詰めようとしたが担任が教室に入ってきたためやむを得ず、ひと睨みして前を向いた。
どうやって痛い目を見せようかと眉間に皺を寄せて前を睨んでいると耳元にふわりと息がかかった。
くすぐったいその感触と聞こえてきたなまえの小さな小さな声。
消え入りそうなその言葉が耳に入った瞬間、思わず声が上がった。
自分に教室内の視線が集中するもテキトーに担任に謝ってその場をおさめる。
ちょお、待って。
「ほんとは…、渡したくなかった…」て…え、は?どういうこと?
一直線に自分の求める考えに結びつく。どこからどう考えてもそういうことよな?
あかんて。期待が渋滞してる。
俺のこと好きやから渡したくなかった、っちゅうことよな??
ほぁ〜?!アホちゃう!ほんまアホやろ!今それ言う時ちゃうし!!SHRやで!!こんなしーーんとした時間に言うなボケ!!
担任の話、ひっとことも頭ん中に入ってこんわ!!
もう、これは告白に近い。
え、どないしよ、これ絶対告白されるパターンよな?ここまで言われたら絶対に確定よな?
脈アリまくりやん?
もしかして…次の休みの『クリぼっち励まし会』、男5人でイルミネーション見に行く言うたけど…告白、されるかも…?
えっ、やばぃ…。ついに来たか…俺のかっこよさに見惚れて、好きて言うてくる日が…「もうSHR終わったぞ?次、移動教室」
「あ?」
教室の中に残る生徒は半数以下。教科書を手に佇むなまえを見上げる。
「何や、さっきの」
「何やって何や」
「渡したくない、て」
「……別にぃ?深い意味はない。渡したら侑、調子乗るし。モテてんのがムカついただけっ」
「はぁぁぁ?」
「もう置いていくからな」
ふい、と顔を背けて出ていくなまえの頬は少し赤いように見えた。
あんな顔しといてよく『深い意味はない』なんて言えたな!?
「待てやっ、」
急いで机の中から教科書を取り出してなまえを背中を追いかけた。
移動教室に着くと、角名となまえが隣同士で座っていた。
なまえの左隣が空いているのは、多分いつも俺が座るから。暗黙の了解で誰も座らないのだろう。
一度、座ってる生徒に『そこなぁ、俺の席やねん♪』と声をかけたら退けてくれた。皆、優しいから助かるわ。
隣に座り、自分の持ってきた教材を見下ろして「あ、」と声を上げる。
「持ってくる教科書間違えたわ」
「何してんだよドジっ子かよ」
「うっさい。貸して」
「やだ」
「ありがとう、ほな借りるわ」
「あ゙っ!」
なまえの教科書を無理矢理奪って自分の前に広げる。
「俺が見れないだろっ」
「しゃーないなぁ。見せたげるから机くっつけて?」
「それ俺の教科書な?」
何で俺が見せてもらう立場なんだよ、と言いながら机をガタガタと動かすなまえに笑いが漏れる。
俺の言葉で表情豊かに見せるなまえが面白くて、やっぱええなぁと思う。
あ〜次の休み、楽しみぃ。
脈アリ大アリやし、絶対告白されるパターンやわ。期待しとこぉ。
堪えられない笑いを必死で我慢していると隣のなまえから「何ムフムフ笑ってんだよ怖い」と怪訝な目で見られた。
***
待ちに待った休みの日。練習は午前で終わり、一旦男子寮に帰って着替える。
「なぁ、まじで俺今日バチバチにきまっとるやろ?」
「…普通に遊び行くだけやん。何でそんな張り切ってんねん」
鏡の前でスタイリング剤を使って前髪を上げているとサムが呆れた目で見てきた。
どの角度から見ても、イケとるわ。うん。
「やって今日記念日になるかもしれへんしぃ」
「はぁ?朝からずっとニヤついてキッショいわ、ほんま」
2人で寮の玄関に降りると角名となまえが待っていた。
俺の姿を見てなまえがぽかんと口を開けた後、呆れたようにため息を吐いた。
「おま…どんだけキメてんだよ…。言っとくけど女子は一人もいないからな?んなバチくそにきめても残念ながら男5人ですけどね?」
俺の周りをぐるぐる回りながら見上げてくるなまえに、誰のためにバッチリオシャレしとると思てんのや、とツッコミたくなる。
全部揃えてやってんのやぞ!今日こそ想いを告げるチャンスを!全部お膳立てしたってんねん!
4人で男子寮を出て、繁華街の方面へ向かう。途中で銀も合流して5人で電車に乗ると、高身長の集まりは少し目立つようで特に女性からの視線がうるさかった。
俺としてはいつ告白されるやろか、とその事ばかり考えていた。やっぱイルミネーション見てる時とか?ムードある時やないとあかんよな。
どうやって2人きりになろうかな、なんて計画を練る。
「やっぱクリスマス前の休みって人多いなぁ」
「どこもかしこもカップルばかりっ!解せぬっ、どうやったら付き合えるんだ?」
銀となまえの会話を余所に治はさっきから「腹減った、飢え死にしそう」とボヤいている。
「角名ぁ、腹減ったぁ、何かない?」と支柱にもたれる角名に物乞いをする治。
「ない」と即答する角名に治がしおしおになっていた。その横でなまえが励ます。
「治、もうちょっとしたら店が見えてくるからな、それまで持つんだっ」
目的の駅で降りて目指す先は運動部男子御用達の食べ放題の店。お財布に優しく、和食、洋食、中華なんでもござれだ。
「あっ、見えてきた!」
「おおおおっ飯!」
治が元気よく走り始めて、その背中をみて角名となまえが吹き出す。
治の背中を追って走る。
「サムよりお先っ!」
「ツム!俺が先やっ!」
どっちが先に入店するかで勝負するのも恒例で、食への執着が強い治が力尽くで俺を押さえ込んだ。
それでなくても治は力が強い。仕方なく譲ってやることにした。負けたわけじゃない、決して。
今日の俺は気分がええからな、サムにも優しくなれるんや。
5人で入店してボックス席に移動した。
***
(みょうじ なまえ)
なぜか俺のクリスマス一人ぼっちを励ます会として開催された今日の集まり。
ただいつものように5人で集まって遊ぶだけなのだが名目がヒジョーに不名誉だ。
食べ放題コースで掃除機のように吸い込む治を前に首を傾げる。治の隣で角名は卵スープを飲んでいた。
「街中、どこ見てもカップルばっかり…何でだよ…皆クリスマス前にこぞって付き合い始めるの何?」
学校でもあの人とこの人が〜なんていう噂は絶えない。その噂に1ミリも掠ったことさえない俺には遙か別の次元の話に思える。
文化祭マジックで付き合って、クリスマスデートをする、これぞ俺の描いた理想像だったのに…。
「今からでも遅くないんとちゃう? まだクリスマスは終わってへんで」
横から侑が入ってきた。
出かける前から思っていたが、今日の侑はいつも以上にバチバチにキメてきている。髪も前髪を上げたスタイルで服なんか女子とデートでもするんですか?と言いたくなるような格好だ。
侑の言葉に目を細めて、どういう意味だ、と視線を送る。ニヤリと笑う侑の言いたいことが何となく分かる気もするが、そこは察しないでおく。
「え、みょうじ好きな奴おるん?」
銀の言葉に俺は 何と返答しようか、と言葉に詰まった。
横では、なぜか侑が急に背筋を伸ばして髪の毛を触り始めた。何でこのタイミングで髪を整えるんだ。
そんな奴を横目にズルズルとストローを使ってジュースを飲む。
「…いる」
「おぉっ!どんな子やっ」
身を乗り出す銀に少し間を置いた。
「…黒髪で、清楚系で、」
ポツ、ポツと口に出すと隣の侑がは「は?」と信じられないものでも見たかのような顔を向けてきた。
「おおっ、確かにみょうじのタイプっぽいなぁっ!」
「小柄で、優しくて…、物静かで…」
ワードを一つ一つ出す度に侑の眉間のシワが深くなり、リアクションが増えていく。
ハムスターみたいに頬を膨らませた治が楽しそうに頷いた。
「ええなぁ。優しくて、物静か、最高やん!」
ケラケラと楽しそうに笑う治を侑が思いっきり睨んだ後、え、待って前のアレは何やったん、俺の幻聴か?脈アリ大ありやなかったん…と呟きながら侑が首を捻っている。
「どないする!そんな子と付き合えたら!」
「えっ、付き合えたら…?クリスマスデートとか、してみたい」
妄想に思わずニヤけると横から侑がド突いてきた。むすっとした顔で睨んでくる。
「ニヤケんなアホ」
角名が携帯を操作して読み上げる。
「冬デートのきゅんとくる行動、コートのポケットの中で手を繋ぐ、だって」
「ああっ、分かる、手ぇ冷たいとか言われたらそれやってみたい。でもさぁ、そんなん結局『ただしイケメンに限る』とかだろ」
「なまえで想像したら…ウケるんだけど」
ニヤニヤと笑う角名に「うるさい、角名のばぁか」と頬を膨らませる。
隣では未だに機嫌の悪い侑に「侑クン、何でそんな怒ってんの」と好きなトロ丼をはい、と渡してあげる。
完全に拗ねている理由は分かっている。だってわざとだから。
怖いもの見たさで侑がどんな反応をするか気になって咄嗟に銀の質問に答えた。隣でころころと表情を変える侑が面白くて心の中でくすりと笑ってしまった。
好物を食べたら戻るだろうとトロ丼に口をつけた侑に「機嫌なおった?」と聞く。
「誰のせいやねん」頬を膨らませながらもあっという間になくなっていくトロ丼に俺はついに笑ってしまった。
***
運動部男子(高身長)の食べる量は半端じゃない。練習後の空腹を満たすため、腹いっぱい食べた俺達は満足した顔でゲーセンに寄ったり、スポーツショップに寄ったりと繁華街を歩いた。
時間はあっという間に夕方になり、暗くなってきた外にイルミネーションが点灯される。
街ゆく人達が足を止めて繁華街を彩る輝きを見つめている。
「あ、俺見たいゲームあるんよなぁ本屋行きたい」
銀の言葉に治も同意した。侑が「俺はシューズ見たいわ。後で合流しよ」と声をかける。
ふうん、じゃあ俺は本屋に行こっと。
治と銀の後ろについて行こうとすると腕を引っ張られた。
「なまえは、こっち」
えっ、俺もゲーム見たかったんだけど…。
残された角名がちらりと俺と侑を見た後、黙って治の後ろを歩いていった。
「俺もゲーム見たい」
「なまえに決定権なんかあらへん。俺がシューズ見る言うたら、シューズ」
出た、ジャイアンッ。
ジャイアニズムを繰り出してくるのは今に始まったことではない。仕方ないと侑の隣を歩く。
陽も落ちれば気温は一気に下がっていく。12月も後半ともなれば寒さを感じること、必至だ。街頭で照らされた道を二人で並んで歩く。
「うぅっ、さっむ」
縮こまるようにポケットに手を入れる俺を見て、侑が立ち止まった。
「…ん、」
手を差し出してくる侑に首を傾げる。
「何?」
「…寒い。…手ぇ冷たい」
鼻先を赤くしながら、大きなその手を差し出したまま目を伏せる侑に俺は数秒固まる。
「…自販機で温かいヤツでも買う?」
「ちゃうやろ!!」
盛大なツッコミが返ってきた。
違う?何が正解なんだ?と考えて、思考をフル回転させる。
「手ぇ冷たい言われてやること、言うたらひとつしかないやろが…っ」
ぼそぼそと呟く侑の言葉が辛うじて断片的に聞き取れた。
その言葉にさっきまで銀、角名と話していた冬デートのキュン仕草の話が頭を過ぎった。
手が冷たいと差し出された手。それをポケットの中に入れたい、なんて話はしたけど。
もしかして…?いや、そんな、まさか。俺にさっき話していたアレをしろ、と?手を握ってポケットに入れるアレをやれと?
周りを見るとそこまで人はいないし、暗いため、近くでくっついていれば多分他の人にはバレない。
「ん!」
催促するように手をぶんと振る侑の意図が計り知れない。
本当にあの話のことであってる?勘違いだったらどうしよう、と思いながら恐る恐る侑の手を触る。
「…って、温かいじゃねえかっっ!!」
全然冷たくねぇしっ。
ペシッと手を離すと侑が不服そうに口を尖らせた。
「冷たいもん」
「冷たくねえよっ俺よりあったかいわっ」
さすがトップレベルのセッター、大事な手先の血行が悪いなんてことはない。しっかりとあったかい指先に俺のポケットなんて不要だ。
色々考えて損した、と侑を残してポケットに手を突っ込んで歩きはじめる。5,6歩進んだところでズボッと俺のマウンテンパーカーのポケットに、侑の手が突っ込んできた。
「ぎゃっ」
「寒い言うてんねやろっ」
キュン仕草も自然にやるからキュンなわけで、無理やりは良くないですよ侑くん。
ていうか、俺のポケットに手を入れてナチュラルに握って来てるの何なん。侑よりも冷たい俺の指先が温かくなっていく。
ちらりと横を見て侑の顔を見上げる。
握られた手から侑の手のひらの大きさを感じて、急に恥ずかしくなってきた。
え、おかしくない?何で手ぇ繋いでんの?俺ら友達なのに、えっ…。
うぁあ〜…すごく恥ずかしい。
夜で良かった、今、絶対顔赤い…。
冬の寒さなんてそっちのけでポカポカしてくる。
「ぁ、侑さん…離してくれませんか」
「無理ぃ」
何言うてんのお前、という顔で見下ろしてくる侑と目を合わせられなくて俯く。
ぎゃあ何これ。何だよこの状態。まるで恋人同士みたいだ。そう思った瞬間、沸騰しそうになった。
されるがまま歩いていると周りの景色が少し変わる。
「…あれ、こっち、店の方じゃなくね」
向かう方向が違うため、シューズは?と聞くと「シューズはええ。イルミネーション見に行く」と広場の方向へ歩いていく。
カップル達がイルミネーションを見上げている中、吹き抜けのようになっていて上から見下ろせる場所に着いた。上から見る人は少なく、輝くイルミネーションは下から見ても、上から見ても綺麗だ。
「おお…」
綺麗な風景や光景に目がない俺は侑の手をすり抜け、ガラスフェンスに歩み寄りイルミネーションを見下ろした。
「うわあ、すごいな」
隣に侑が来た。
「キラキラしてる…」
暗闇で小さな灯が無数に煌めいている。侑がじっと見つめてきた。お互いにライトアップされた飾りの灯りを受けながら、目を合わせる。
「全部揃ったんやけど」
「…何が」
「申し分ない状況やと思わへん?」
こてんと首を傾げる侑に何が言いたいのか、何を言わせようとしているのか気づきたくないが、ここまでされると気づかざるを得ないところまで来ている。
「あ、つむくん…何の事を言っているのか…」
「今日が記念日でもええけど?」
うっ、何だよ、記念日って。
「…何の記念日デスカ…」
「聞きたい?」
「いや、やっぱりいいです」
聞くのが怖い。なまえが俺に告白した日記念日とか言い出しそうで怖い。
確実に侑は、俺にあの二文字を言わせようとしている。静かな空間、この雰囲気、全て揃った、と。
「……」
「待ってるんですけどぉ」
「うるさい、イルミネーションを堪能させてくれ」
暗闇の中で2人で並んで見るイルミネーションにこの空間だけ世界から切り離されたように感じる。
あのイルミネーションの下にいるカップル達のように恋人になれたら、こうして2人だけで過ごせるんだろうか…。
恋人になりたい?なりたいけど、少しばかりの不安が頭を過ぎる。もし失敗したらどうしよう、とか。ただでさえ平凡で何の取り柄もない人間なのに、その先の関係で愛想つかされたらどうしよう、とか最悪なことばかり巡ってしまう。
そんな奥手な俺は、自分から一歩踏み出すことはできない。清水寺の舞台から飛び降りる勇気はないのだ。
隣の侑をチラ見する。だってこんなにカッコいい奴(性格はジャイアンだけど)が俺のこと、ずっと好きでいてくれる?相手なんて選り取りみどりなのに。
結局、俺には現状維持で侑の気持ちを試すことしか出来ない。思わせぶりな事を言ったって自ら好きと言わなければいざという時、ダメージは少ないはずだから。きっと。
それが狡いのは俺だって分かってる。
でも、踏み出す勇気はやっぱり、ない。
ゆっくりと流れる時間、静かにイルミネーションを見下ろしていると侑の携帯が短く音を鳴らした。
「……サムからや」
携帯を見て「はぁタイムアップ、帰るで」と呟いた。
え、もう?
まだ…この時間に浸りたい。好きな人とこうして2人でいる時間を。
宮侑に想いを寄せている女子もできないこと。隣で立っている宮侑を独り占めしたい。
そんな思いが反射的に手を動かした。侑の袖を握る。
「…もうちょっとだけ…」
呟くように漏れた声に侑が目を見開いた。
「〜っ…お、…まえ」
「……」
そういうやり方せこいでっ!と額を押さえている。
「どうした」
「今、己と戦ってんのやっ」
煽んなアホッと吐き捨てる侑を見上げる。もっと、侑を焦らしたら、どんな顔するだろう。
「…煽ってるように見える?」
「煽っとるやろっ!」
「……じゃあ、そうかも」
「〜〜っ」
侑の瞳の中がゆらりと燃えた。喉の奥から唸るような低い声が耳に届く。
「おい。今、火ぃつけた自覚あるか?」
「…ない」
さらにその火が強くなった。半歩、近づいてきて密着した距離に気圧される。逃げるように体を引いたが、素早く両腕で手すりをつかんだ侑の体と、ガラスフェンスとの間にすっぽりと取り囲まれてしまった。
しまった、逃げ道を無くした。
「なぁ煽りすぎちゃう?」
「……気のせいじゃない?」
目を細めて鼻に皺を寄せる侑はどんな顔をしても様になるところが憎い。
「あ?はっ倒したろか」
「え、遠慮しますぅ」
「いつになったら進むんや。もうクリスマスやけど」
その言葉に目を逸らす。侑から言ってくれればいいのに。あの言葉を。でもコイツは自分からは言う気がないらしい。なんて、ずるい奴だ。
「ほら、はよ」
早く言え、さもなくば噛み付くぞとでも言いいたげなその表情にごくりと唾を飲み込んだ。何かしら侑が納得することを言わないと解放してもらえないだろう。
頭をフル回転させた。
「……春高…終わったらな」
「はぁ??…ここまで煽っといてずるいわ」
ああ、顔が近い、近すぎる。
それでなくても手すりとの間に挟まれて壁ドンに近い状態なのにそんな圧をかけないでほしい。
「ずるくないし、」
ぼそぼそと呟いて否定すると、侑が顔を近づけてきた。肩が揺れて、強ばる。
「な、」
耳元で侑が囁いた。吐息が耳朶に触れ、低音に痺れる。
「…ええけど、待たした分だけ責任取ってもらうから」
覚悟しときや。
逃げたら逃げた分だけ、えらい目にあうで。
それはもはや、脅しだった。
綺麗に笑う侑の顔はイルミネーションの灯りに照らされていて、その脅迫に到底逃げられる気はしない。
見惚れるほどの微笑みに、軽率に煽るんじゃなかったと後悔したがもう遅い。
腹の底が疼いて、喉に牙を当てられたような感覚に陥る。
ペロリと赤い舌で獲物を待つように舌なめずりをする男に俺はどうやったら対抗できるのか、考えても何も見つからなかった。
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「あっ、やっと来たわ侑とみょうじ!」
「どこおったん」
「イルミネーション見に行っとったぁ」
「………」
「どしたんやみょうじ、黙って」
「なまえ、今、脳みそのキャパオーバーやねん。そっとしといたげて♪」
「何言うたんやツム」
「ん?早く降参するか、我慢比べ続けるかどっちにするぅ?て聞いただけや♪」
「(…こっわ。で、記念日にはならへんかったんや。かわいそぉ)」
「…サム、お前喧嘩売っとんか」
「売ってへんよ、おもろいだけやねん」
「あん?」
「お前らストップ!角名がイルミネーションで写真撮る、て!みょうじも!」
「インカメ、入って。撮るよ」
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〘角名倫太郎が『なまえのクリぼっちを励ます会』へ写真を登録しました〙
〘みょうじなまえが『クリスマス会』へアルバム名を変更しました〙
〘宮侑が『なまえヘタレすぎ誰かどうにかせん会』へアルバム名を変更しました〙
〘宮治が『結局なんも進んでないん会』へアルバム名を変更しました〙
〘銀島結が『何の話しとん会』へアルバム名を変更しました〙