139

春高が終わり、体育館で男子バレー部の全国ベスト4の成績が表彰された。
教室に戻るまでの間、そして戻ってからも侑は多くの生徒から声をかけられていた。

「宮くんすごいねっお疲れ!」
「宮ぁ、おめでとう〜」
「やっぱバレー部強いなぁ、宮主将!」

周りを囲まれるも、大体は侑よりも背が低いので頭一つ分高い侑はより一層目立って見える。

さすがバレー部…身長高ぇな。
10cmくらい分けてくれないだろうかと遠巻きに見ていると、隣に角名が来た。

「あれ、倫くんもさっきまで囲まれてたのにどうしたんだ」
「回避してきた」
「もっと愛想良くにっこり笑って『ありがとう』って言っとかないと。どうせ倫太郎のことだから『どうも』ってさらっと言ってきたんだろ」

角名の真似をしてチベスナ顔を作る。俺を目だけで見下ろし、静かに携帯を取り出した。その手をガシッと掴んで角名を見上げる。

「ちょっと待ちなさい。何をしようとしているんだね君は」
「春高で撮ったなまえのひどい泣きっ面、全世界に晒そうかなって」
「やめて?そういう精神的に来る仕返しとか良くないよ倫くん」

俺は正しいことを言っただけだ、これからプロ選手になるってのに愛想も必要不可欠じゃん?と言うとやればできる子なんで、と返ってきた。

「じゃあ笑ってみて」
「……」
角名が俺を見下ろして笑った。笑ったというか、嘲笑うような笑みだ。その笑みは違う、そういうことじゃない。

「違うって、もっとこう花が咲いたように笑うんだよ」
「はぁ?」
「ふわぁって。あ、ほらこの時の倫太郎とか良い笑顔じゃん」

携帯を取り出して、いつぞや寮でふざけていた時の写真を見せる。角名が歯を見せて笑っているショットだ。眉を下げて堪えられない笑いに破顔している写真、良く撮れていると我ながら自分を褒めた。

「見ろ、これ、無邪気で純粋無垢な角名少年の、」「消す」「ちょ、やめやめやめっ!携帯壊れるぅっ!」

角名が力の限り俺の携帯を握るから、急いで救出する。静かなふりして力技で来るのよくない!

教室の端で格闘する俺達の所へ侑がやってきた。

「何してん」
「倫太郎にはじける笑顔の練習させてた」
「そこまで言うならなまえ見せてよ」
その弾ける笑顔っての。

挑発する角名に、俺のとっておきスマイルを見せてあげようと目尻を下げて口角を上げる。人あたりの良い笑顔を駆使してきた俺の転校遍歴をナメるなよ、と笑いかけると侑が急に手で俺の顔を覆ってきた。

「ぐっ、あつ、む、」
「あかんあかんあかん。目が腐る、こんなん他人に見せられへんわ」

公開不可っ、閲覧注意っ!と俺のとっておきスマイルを手で塞ぐ。

「俺の笑顔、そんなにひどいのかっ?!自信なくすわぁ」
ぶうぶう不満を垂れる俺に侑が万人受けはせんな、とグサグサ刺してくる。

「ひでえ、まじひでえ」
「万人受けはせん、て言うただけやん」
「はあ?」

まぁ…一人ぐらいは受けとる奴もおるかもしらん、と口の中でぼそぼそ言っていたため、聞こえなかったフリをした。
意味を考えると勘違いしそうになるから、無理やり遮断する。

休み時間が終わるぞっ、と声をかけて席に戻った。


***


清掃時間、外で箒を握る俺と佐倉さんは寒さから避難して渡り廊下で風を凌いでいる。

「東京、バレー部の試合どうやった?」
「いやあ、迫力あったよ。全国大会ってやっぱレベルが高い。強い高校生がわんさかいるんだもん」
「ベスト4ってすごいよねぇ」
佐倉さんの言葉に賛同する。

「うん、全国の猛者達が集まってその中で上位4校に入ってるってすごい。まぁ本人は全然嬉しく無さそうだったけど」
「さすが宮くん…ストイックやわ」
「本当にストイック…」
「…かっこよかった?」
「…うん。いつもバカ騒ぎしてどうしようもないのにさ、試合で本気で戦うアイツら、マジでかっこよかったよ」

コートで跳び、ボール追いかけて本気で戦っていた侑達を思い返す。春高が終わったことで三年生は皆、部活を引退した。

「学校来るのも少なくなってくるね。佐倉さんは今から受験だもんなぁ、頑張って…!」
「そうなんよねぇ、この後も塾。みょうじくんはもう進路決まったんやっけ」
「うん、進路確定組だからしばらくは教習所通い」

進路確定した生徒は校則で自動車教習所に通う許可が出る。確定組の双子、角名と一緒に4人で同じ教習所に通う。銀は受験勉強のため、卒業後に取ると聞いた。

「車、運転できるようになんの、かっこええなぁ」

「ちょっと楽しみではある。学校も半日で終わるし、2月からはほぼ休みだし…」

お互いに頑張ろうと話して清掃活動を終え、教室に戻る。放課後に突入し、賑やかな教室内で帰り支度をする。

「なまえ、帰るで」
「ん、倫太郎は?」
「先に降りた」

侑の呼びかけに黒リュックを背負う。教室のドア付近で俺を待つ侑に近づくと歩き始める。

「あ、ちょっと待って」
侑に声をかけて6組の教室に頭を突っ込む。教室の中を覗いて目当ての人物を探した。

「茶川、三分っ、帰るわ、またなー」
「お〜」「またな〜」

突っ込んでいた頭を戻して廊下で立ち止まっていた侑にお待たせ、と伝え歩を進める。

「ちゅうか呼び方ぁ」
「何?」
「角名のこと、何でりんたろー呼びなん」
「ああ…。春高で角名のお母さん前にして、苗字呼び捨てはしにくいから、倫太郎呼びに変えた」

それだけのことなのに、侑の頬が少し膨れているのは気のせいか。何だか拗ねているような雰囲気だ。

「高校入って名前で呼んだのは俺がはじめてやろっ?」
「え?うん」
「サムよりも俺が先やんなっ 」
「確か…そうだったな」

二年に上がった時のことを思い出す。事実なため肯定すると、侑が途端に得意げな顔になる。

「ふっふ、初めては俺やし、勝負にならんな」

何を言っているんだ、と思ったが深くツッコまずスルーした。昇降口に降りて靴を履き替え、治と合流する。

侑と治、角名と4人でバス停までの道を歩いた。寒さに凍える4人に容赦なく北風が吹き付ける。

「ああぁっ、寒いぃ」
鼻が冷たい、頬が冷たい、早く暖かい室内に入りたい。
「…寒い」「……ぜんざい食いたい」
マフラーに顔を埋める角名と甘味を食べたいと呟く治。俺は風が冷たすぎて風避けとして侑の後ろに避難した。

「なっ、俺を盾にすんなっ」
「いいじゃん、北風回避っ。その体躯を活かしてちょっとは俺の寒さを軽減してくれ。壁だ壁」
「俺の体は風避けやあらへんっ」
「ツムガードッ」

吹く北風に侑の背中にしがみつく。
「さっむぅ!!何か温まるん食いたいっ!」
「肉まん」
「ゆずレモン」
「おしるこ缶」

寒がる侑に俺と治、角名がそれぞれ飲みたいもの、食べたいものを上げる。自然とコンビニに足が向かう。目当てのものを買い、外に出た。

肉まんを買ったはいいが、やっぱり侑の大きな一口が俺の肉まんを奪っていった。
歩きながら明日から通う教習所のことについて話題が上がる。

「侑はペーパードライバーになりそうだよな」
「運転するより、助手席座ってあそこ行け、ここ行けってうるさそう」
「分かるぅ」
「お前ら、俺に喧嘩売っとんのか?」

侑が角名と俺を睨んでくる。
「俺の運転テクニックに驚くなよ、自信しかあらへんわ」
「どっから出てくるんだよ、その自信は」

侑の運転何だか怖いから、先生に宮侑くんとだけは一緒に組まないでくださいって申告しとこうかな、と言うといきなり路上で絞めあげてきた。

「ぐえっ」
「さっきから黙って聞いとれば言うてくれるやんけっ」
「ギブっ!ギブッ!」
「なまえは普通に乗りこなしそうやな。自転車乗っとるし」

治が乗り物系は強そう、とのんびりと呟く。絞められている俺をぼんやりと見ながら呟く様子にそこでおっとりを発揮するな、助けろっとツッコむ。やっと侑の腕から逃れた俺は制服を整えながら歩いた。

「道路交通法は任せろ。車運転出来たら、ロードバイク積んで遠くまでいけるし、早く取りたいなぁ」

走る世界が広がる楽しみに期待を膨らませて、ワクワクした気持ちになる。

「ああ、車の上に自転車乗せてるの見た事ある」
角名の呟きに頷いた。
「そう。遠征も基本ロードバイク車載して行くし、レース会場もそういう車が多いんだよな」
「ほお」
「治も普通にこなしそうだよな。まぁ治は何でもさらっとやっちゃうもんなあ」
「ちょお待て!教習で誰が一番上手いか勝負や!」
侑が対抗心を燃やして、張り切っている。そんな侑を見て口を開いた。

「「「侑(ツム)に負ける気はせんわ」」」

ハモった返しに吹き出した。
果たして俺たちは全員無事に運転免許を取れるのだろうか。

prev Back next ︎︎