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(宮 侑)

平日の夕方。
体育館の中でボールを叩く音、キュ、キュ、と刻み良くシューズが床を擦る音が響く。スパイカーが床を蹴り上げる音は高校の部活とは少しレベルが違う。

「宮くん、ナイストスッ!」
「あざすっ!」

「角名くんもいいスパイク打つねぇ、今のもっとスペース空いてるところあったからそこ狙って」
「はい」

大学生とのバレー練習でコーチから指導を受けながら汗を流した後、角名と2人で夜の帰り道を歩く。

「あー、腹減ったぁ」
隣でもぐもぐとプロテインバーを食べている角名を見る。
「あげないから」
「…なまえやったら一口はくれたのに」
「…一口どころかなまえ相手だったら無理やり奪って食べてるっしょ」
角名の指摘に否定はできない。
だってなまえのもんは俺のもんやし。

俺のだから、と首を振る角名に頬を膨らませてコンビニに入った。店内にはバレンタインの特設ブースが出来ている。

「登校日、バレンタインデーと被っとったよな」
「うん」
「あっ!ええこと思いついたっ!なぁ、なまえの靴箱にチョコ入れたらおもろない?!」
自分の靴箱にチョコが入っていて驚くなまえを想像する。笑いが込み上げてきた。

「『やばい、俺チョコ貰ったんだけど!』ってすごい顔して教室入ってきそう。それか放心状態で入ってくるか…」
角名も想像したのか面白そうに笑っている。
「決定や!仕込んどかな…」

驚く親友を想像して悪い顔を見合わせる。バレンタインデーが楽しみすぎると、ウキウキして男子寮に帰った。


「飯、飯〜♪」
腹減ったし、コンビニで買った補給食じゃ全然足りひんし。はよ食べたいなぁと食事前になまえの部屋に行くと「もう治と食べた」と言う。

は?最近、サムと食べるの多すぎん?と思ったが、帰りが遅いことも自覚しているため、渋々角名と食べに行った。

晩御飯のメインはタコの唐揚げだった。ほかほかの白米と一緒に口に頬張る。練習で使い切って枯渇した体に温かいご飯はすぐに吸収され、空腹が満たされていく。

食べながらなまえに〘後で部屋に行く〙とメッセージを送るとすぐに返ってきた。

みょうじなまえ〘もう寝る。練習疲れたろ?早く寝ろよ〙

「はぁぁ?」
思わず持っていた箸を強く握る。
「なに」
角名がうるさそうに見てきた。

「…何でもあらへん」

何やねん、コイツ。最新付き合い悪ない?いや、付き合いっちゅうか。なんちゅうか…。

最近、なまえの言動に違和感を覚えることが多い。思えば春高が終わってから何かしら引っかかることを言ってくるのだ。

彼女とかすぐ出来るだろうな、とか、卒業したら出会いが多いバイトする、とか。
何考えてんねん?としか言いようがない。

挙句の果てには、こちらから歩み寄れば、こうしてタイミングが合わないからと 避けられる。本当に何を考えているのか、

…ん?…え、ちょお待って…。避けられとんのか俺…??


一度生まれた疑問はもくもくと大きくなっていく。疑ってかかると考えれば考えるほどに、何だか避けられている気がしてきた。
部屋に行くと言っても眠たいと断られるし、最近絡んでもいつも通りの反応ではあるが、こちらを意識しているような素振りはない。

前なら意識してます、と視線をそわそわさせたり、固まる表情にこちらも味をしめていたのに、思い返せばそんな反応もなくなったような…。
かなり分かりにくいけど、確実に何かがあったのではないか、と断定できる。

…気づくのに遅すぎた。いつもと変わらないと思っていたのに振り返れば振り返るほど、どんどん疑惑が生じてきている。

…クソッ、分っかりにくいねん!外面決め込むの上手すぎてシャレにならん!

何があった?避けられる原因は何だ?

目の前で付け合せの野菜を食べている角名を見る。
「…なぁ、友達の話やねんけど…」
「侑に友達いたっけ」
「おい。友達やろ」
冗談言うてる場合ちゃうねん。緊急事態やぞ!
「で、なに」
「友達の友達の友達の話やねん」
「……ふうん」
絶対俺の話を信じていなさそうな顔だ。
とにかくこれは赤の他人の話や!
「…好きな奴が急に素っ気なくなった、て言うてん」
「…へぇ」
「何でやと思う?」
角名が片手で携帯の画面をすいすいと動かした。

「…ぐーぐる先生に聞いたら素っ気なくなったのは『恥ずかしい』、『周りの目が気になる』、『気が変わった』」
「は?!」
「…『恋人ができた』」
「は?!?!」
「うるさい」

そんなわけないやん!気が変わった、とか恋人ができた、とかそんなわけ……。
考えただけで胸がザワつく。

ただ少し不安なのはなまえが非常にチョロい奴だということ。女子からちょっとでも期待させられるようなことがあれば簡単にその気になる奴だということは間違いない。

まさか、俺の知らないところで誰かに唆されたり…。

「まさかぁ、んなわけ」
笑って平常心を保とうとしたが無理だった。眉間に皺が寄る。
「さっきから百面相すごいんだけど」
「認めん、俺は絶対認めん」

何があったか知らんけど聞き出してやる。

「ごっそさんでした!!」
角名に先帰る、と告げて返却口にトレーを戻す。
「侑くん明日も練習やろ、明日冷えるらしいで気ぃつけてな〜」
寮母のおばちゃんから声をかけられて返事をした。
「あざす!ご馳走様でしたっ!」
「はいよ〜」

食堂を出て部屋に帰る途中、窓から見える外の景色に足を止めた。

「おお?」
雨とは違う大粒の白いものが降っている。
雪かみぞれか。今日は一段と寒かったため、頷ける天候だ。

宮侑〘みぞれみたいなん、降っとる〙
みょうじなまえ〘ほんとだ、明日気をつけろよー。おやすみ〙

「寝るんかいっ…」

同じ寮内にいるのに、携帯の連絡で終わるこの距離感…やっぱり何かある…。

角名が淡々と口に出した『気が変わった』『恋人ができた』が頭の中でリピートされる。

「いやいや、なまえにアピってくる奴なんかおらんやろ…」

あぁ、でもアイツ、上辺では見せんけど、女子から声かけられただけで、内心浮ついとるしな…。
そういえば、今日教習所で他校の女子から話しかけられとるのは見た。
俺も他で話しとったし、入れんかったけど…あれか?!

気ぃ変わったとか絶対許さへん。
なまえのもんは俺のもんやし、俺のもんは俺のもん。もちろん、なまえも俺のもんやし。

自分が俺のもんであることを自覚してくれん??
コロコロ他に目ぇ行っとる場合ちゃうねん。

あ〜〜気になって眠れん!今すぐ部屋に押しかけたい!

「はぁぁっ」

明日は休日、練習が終わったらなまえを問い詰めよう。そう決めて部屋に戻った。


***

朝、外に出ると道路は濡れていた。昨夜の天候は明け方には止んだようで今は曇り空だ。雪だと練習に遅れていたかも、とぼーっと考えながら角名と練習に向かう。

スポーツ用のベンチコートにマフラーを足して防寒対策はバッチリだがそれでも寒いものは寒い。
時間通りに来たバスに二人で乗り込む。

暖房がきいた車内に、寒さで強ばった体が少し和らいだ。走り始めたバスから見る外の景色は寒々しい。

「今日寒すぎやろ」
「ここ一番の冷えらしいよ」
お互い朝のローテンションでぼそぼそ会話をしていると携帯がポロンとなった。トークアプリの通知が来ている。

宮治〘外出るん寒い、帰りこれ買ってきて〙
〘宮治が写真を送信しました〙

「……」
治が送ってきたのは今日治が自分で買いに行くと言っていた日用品の数々。

前回の買い出しは俺が行ったし、今回はサムの番やんけ。

宮侑〘無理、寒い、サムの番やん〙
宮治〘こんな寒い中出られるわけないやん。布団からも出られんのにアホ言うな〙

何こいつぅ。布団から出られんのは自分のことやん!

「サムから帰り買い出し行ってこい、て来た」
「えぇ…俺はすぐ帰るよ。寒いし」

角名はどこにも寄る気がなさそうだ。俺も早く帰りたいし、なまえに問い詰めるという重大任務がある。角名が寄らないなら、俺も寄らない、と兄弟の甘えを蹴ることにした。

宮侑〘無理無理無理〙
宮治〘どう考えても合理的やん、外に出た人間が帰りに寄る!わざわざ俺が出んでもええやん〙
宮侑〘無理無理無理〙
宮治〘もうええ〙

勝った。携帯を握り、治に勝利した気分になりスッキリしていると目的地に到着した。

バスから降りれば、凍てつく寒さが襲ってくる。
「さむっ」

角名も猫背のまま寒そうにマフラーに顔を埋めている。気合いを入れて、背筋を伸ばした。

よぉし、今日もいっちょ暴れたろっ。

明日のために今日何ができるか、バレーボールに触れる楽しみを心に灯して、体育館に向かった。

***

練習後、汗を拭いて着替え終わり角名と一緒に体育館を出た。
携帯をちらりと見て、治からメッセージが来ていることに気づきタップする。

「はぁっ?!」
「いきなり何」
「…サムがなまえと買い出し行ってきた、て」
「ふうん、寄らなくなって良かったじゃん」
「…そうやけどぉ」

宮治〘なまえと一緒に買い出し来た〙
〘宮治が写真を送信しました〙

インカメで撮った治となまえの写真。
画面に映るなまえは治のコートを着ているのか、はたまた着せられているのか、サイズが大きすぎて手も出ていない。ブカブカのコートを着て暖かそうに首を埋めている。治は帽子を被り、マフラーをぐるぐるに巻いて笑っている。この笑顔、腹立たしいこと、この上ない。

角名に画面を見せると「ふっ、なまえ、ほぼコートじゃん。コートに着られてるし」と噴き出した。

〘宮治が動画を送信しました〙

送られてきた動画をタップする。

『ぁああ〜さっみぃい〜』
『さっむぅ!』
『ぁぁあ゙あ゙!!寒いぃっ』
『なまえ、恨むならツム恨むんやで。アイツが買い出し行かへん言うたからや』
『さっむぅぅぅ風が冷てえぇ侑コノヤロー』

ただただ二人が寒い寒いと連呼しながら、買い出しの荷物を持ち、歩道を歩いている動画だ。

角名が隣で笑って見ている。
「東北でもあるまいし、この寒さで寒い寒い言ってたら北上出来ないね」

東日本はどれくらいの寒さなんだろうか、関西に住む俺らには想像が出来ない。

傍から見ればただの日常動画だが、俺の気持ちを知っているくせにこれはいただけない。

治に激おこスタンプを連打しておく。
こんなことなら、自分が買い物に寄ればよかったと少し後悔した。

俺だってなまえと一緒に過ごしたいのに。ただでさえ、卒業後は東京、大阪と離れるのだ。

バレーの練習もあるし、一緒に過ごせない時間はどうしてもある。さらにはなまえの気が変わったという疑惑もあるし、心穏やかではない俺は早く男子寮に帰ろうと帰路を急いだ。


寮に帰ってきて玄関に入ると寒さはマシになる。建物の中と外ではやっぱり違うな、なんて当たり前のことを思いながら寮の廊下を歩く。

荷物置いたら、なまえの部屋に行こう。それで何を考えているのか問い詰めるのだ。

女子から何か言われて『俺にも可能性が…』なんて考えているならバッサリ切るまで。恋人が出来た…はないと思う。万が一そんなことがあったら、潰すまで。

とにかく何があったのか、何を考えているのか吐き出させないとな、とシミュレーションしながら階段を上った。

自分の部屋に向かい、ドアノブに手をかける。まずは治に一言言いたくて言葉にしながら、ドアを上げた。

「サムぅ、お前なんやあの」動画は、と続けようとしたところで部屋の中を目を向けた瞬間。

息が止まった。

視界に映るは床に倒れている治。その上になまえが乗っている。なまえの手は治の服を捲り上げ、治の腹筋が露になっていた。

「「ぁ…」」

二人の目が俺を見ている。俺も床で重なり合う二人を見た。

「………」
え、なにこれ、嘘やろ?

停止した思考に一旦ドアノブにかけた手を離して、パタンとドアを閉めた。

今のは…嘘やんな…。

もう一度ドアを開けて部屋の中を見る。先程と変わらない光景。嘘じゃなかった。

え…??どういうこと??

頭を殴られたような衝撃に部屋のドアを閉めた。部屋に入ることをやめ、ドアから数歩遠ざかる。

焼き付いた光景が脳裏に浮かんだ。

何や今の…なまえがサムを脱がせようとしとった?まさか…サムのこと…
えっ…?

思考が追いつかず、大混乱に陥る。
俺はただただ廊下で立ち尽くすことしか出来なかった。

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