(宮侑)
バレー部の部活はバレー練習だけではなく、体力補強のためのロードワーク、筋力補強のためのウエイトトレーニングもある。
今日はロードワークの日。
学校外のコースを走り込む日だ。
体力が近いもの同士で自然と集まって走っていく。治とはいつも一緒だった。どっちつかずで競い合い、負けたり勝ったり決着のつかない平行線。
折り返し地点も過ぎて学校に戻る途中、信号待ちで足を止める。
「あ、みょうじや」
銀の声に道路を見た。
コンビニ前の交差点、向かい側対向車線に自転車競技部の2年が停まっていた。
信号待ちのようだ。
俺達とは進行方向が逆で互いに信号が変わるのを待っている状況だった。
前から茶川、なまえ、三分と並んでいる。
「茶川トレインにご乗車いただき誠にありがとうございますー。こちら鈍行のためゆっくり進みます」
「おい、特急になれよ。快速おなしゃーす」
「茶川、新幹線とちゃうんかー」
三分となまえが後ろから笑いながら茶々をいれる。
「乗車拒否すんで」と返す茶川に二人はさらに笑った。
信号が青に変わって3人が進もうとした瞬間、なまえらの後方からものすごい勢いで自転車の列が来ているのが見えた。
「はっは!!追い付いたで2年!ちょっと手加減したら調子乗りよって!」
後ろを振り向いた3人が青ざめている。
「おいおいおい秋田さん来たし、つか柴さん先頭じゃん!」
「やばいやばい柴トレイン、新幹線どころやないジェット機やん!」
「捕まったら終わりやで!みょうじ!前いけ!こっちはみょうじトレインや!」
「後方、車ヨシ!!2年を追い抜くで!」
「逃げ切れ!」
3人ともペダルに脚をかける。ガチッという音がした。ビンディングというペダルと脚を固定するものがシューズについているらしい。なまえが茶川の前に出て大きく踏み込んだ。
顔が焦っとるようにも見えるが、口は笑っていた。
楽しそうや。
「みょうじトレイン出発しまーーす!振り落とされないようにお気をつけくださいー!」
「言うてる場合ちゃうで!!来る来る来る!!」
「全開や!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら瞬発的にスタートダッシュしていく三人。程なくして3年の列が向かい側の車線を駆け抜けていく。規則的な呼吸と車輪の回る音。静かだった。追われる者と追う者。
「はっや…」
「追いかけっこやなあ」
角名と治の言葉に心の中で同意した。俺らの横を過ぎ去る数秒間。
あっという間に背中は見えなくなっていった。
「行くで」
3年の声に俺らも走り始めた。
***
部活が終わって寮に帰ってきたのは20時過ぎ。
食堂で飯を胃の中に詰め込んで、部屋に戻る。
腹いっぱい食べた後、治はベッドに寝転んだ。
「サムぅ、食ってすぐ寝たら牛になんで?あ、もうブタやったな」
「うっさい。打ち込み練で疲れとんねん。一瞬寝て風呂行く」
「お前の一瞬は数時間やろ」
うとうとしている治を置いて風呂場に向かう。
脱衣所でちょうどなまえがいた。
そういえば風呂場でなまえを見かけるのは初めてや。サムも言っとったけど、どんだけ希少種レベルやねん。
「なまえやん」
「んあ?」
下だけ履いて、タオルで頭を拭いている。
俺に気づいたなまえは「おお」と返事した。
なまえの手足は肌の色が違う。
「うわ、日焼けの色すごない?」
自転車部のサイクルジャージから露出して外に出ているところは程よく焼けている。逆に覆われている背中や腰、腹は真っ白だ。
コントラストが面白くて腕を掴む。
「ふがっ、」
二の腕を掴んだ俺を上目遣いで見てくる。
「なんだよ、日々外走ってんだからそりゃ焼けるだろ」
むしろ焼けているところを誇らしげにしてるようにも見える。
「脚どうなっとん。見せて」
「脚?腕と同じ」
ハーフパンツで隠れているため境は分からない。
気になって自然と手が伸びた。
「ぎゃっ!」
通気性の良いスポーツ用のハーフパンツの裾をぐい、と上げてみると太ももが露になる。
なるほど、腕と同じように太ももの真ん中下あたりで日焼けしてない白い部分と日焼けした部分が分かれている。
へぇー、と指でつんと触るとなまえがビクついた。
「ぎぇ、触んな!」
え、おもろ。
ニヤニヤすると嫌そうな顔をして睨んできた。
「あのピチピチのジャージ、よう着れるよな。ピッチピチやん」
「空気抵抗を減らすためだわ。速さを競うのに邪魔するバタつく服なんか着てられねえよ。締め付けてピチピチでなんぼ」
「ふうん」
「逆にバレー部こそ、あのショートパンツみたいな丈、よく着れるよな。短すぎだろ」
「普通やで。動きやすいやん」
「うん、だろうな…でも俺には短すぎて着れないわ。際どいし、太もも露出すぎだろ。あの短さはない」
「そっちもピチピチやん」
「こっちはまだ長さがあるからな。丈の長さが違う」
「筋肉ついとる脚、見えるのがええんやろ」
ハーフパンツをまくっていつものバレーパンツの高さにする。
どや、と自慢の筋肉を見せたる。
なまえは俺の太ももを見てから自分の焼けた太ももを見た。
「バレー部は屋内だし、白いよなあ」
「なんや女々しい言うんか」
「言ってないだろ」
俺の鍛えられた上半身を見せたる、とシャツを脱ぐとなまえが顔を引いた。
「見せつけやめろ」
「ほれ、羨ましいやろ」
ばしと、なまえの薄い背中を叩く。
「ぐ…羨ましくなんか…俺だってウエイトトレーニングしてるわ!」
「の割には薄いなぁ」
「使う筋肉が違うんだよ!」
なまえは上を着てドライヤーのところに歩いて行った。
ふっふ、勝った。
焼けてなくてもバレーで鍛えた俺の体は十分仕上がっとる。
風呂に入る前、ドライヤー中のなまえの背中をつーーっとなぞった。
「ぶぁぁあっ」
「ブハッ!!笑かす!ブサ猫みたいな鳴き声や」
睨んでくるなまえの反応が面白すぎて腹抱えながら風呂に逃げた。
ああ、なまえってホンマおもろいわ。