総合の時間という授業がある。調べ物とか発表とか、そんな学ぶ科目に捕らわれない授業。
そんな総合学習の一環としてパソコンルームで俺は調べ物をしていた。
「どーん、」
コロコロと転がる椅子を動かして、隣から分厚い体がぶつかってきた。
横を見ると侑。
「邪魔すんな」
「なあ俺の課題は「兵庫県の歴史について」やで。調べて?」
「自分で調べろ」
横から俺の画面を覗いてくる侑に肩で押し返して、キーボードを叩く。俺は提出用のレポートを完成させないといけないのだ。
「なまえは何やねん」
「グローバル社会の在り方」
「うっわ、横文字使えばなんかええとか思うとるやろ」
「んなわけねえだろ」
「ハア、、あと30分もある…」
時計を見て頬杖を着く侑。
「はよ体育館行きたいー」
部活をこんなにも待ち遠しそうにしてるバレーバカは他にいるだろうか。
「…すげえよな俺はキツい練習が待ってると考えただけであと1時間くらい時間伸びないかな、って心の底で願ってるわ」
「キツくても楽しいもん。バレー」
当たり前のように言う侑にさすが全国レベルは違うなと思った。この間、銀と話している時、聞いたところによると侑は中総体でも有名なサーバーで中学でも強かったらしい。
バカと天才は紙一重とか言わなかったっけ。
バレーのことしか頭にないコイツは天才なのか、たまにバカに見える時が…「おい、何や俺のことアホ見るような目で見て」
「何も言ってないだろ」
「いーや、今アホや、て考えとったやろ」
「被害妄想おつ」
「こんの…」
侑の手が脇腹を掴む。手のひらが大きくて横腹をがし、と捕まれると地味に痛い。
「ぎゃっ!やめ!」
よじるようにぐね、と体を避けるも手のひらの力が強くて離れない。
「こら、そこ静かに」
先生に注意されて「お前のせいだろ」と訴える。
「最近、侑のせいで注意されるから俺の内申点が心配すぎる件について。北さんに相談しよ」
「はあ?人のせいにすんなやゴルァ」
また掴んできてジタバタとする。先生の目がキッとこちらを向いた。
やばいやばいやばい、必死で平静を装ってパソコンに向かった。まだ横腹を侑に鷲掴みにされたままだ。
「おいクソジャイアン離せっ!」
ボリュームを抑えた声で言う。
「誰がジャイアンやて?離すか」
「いだだだだ」
「寮やったら絞めとるからな」
俺の最新の絞め技で今度やったろ、とかなんとか言ってる侑の肩を押して俺は必死で抵抗した。
総合学習の時間が終われば清掃の後は部活になる。自分の掃除場所に行くために教室を出て、下駄箱に着いた。
箒を掃除用具入れから取り出し、下駄箱の角から履き始めていると足元の視界にちょこんと小さな足が見えた。
顔を上げると同じ組の女子、佐倉さんが立っている。
プリントの手渡しとか、ノート集めとかで話したことがある程度だ。
何か用があるのか?と首を傾げた。
「佐倉さん?」
「…いきなり聞いてごめんなんやけど。みょうじくんさ宮くんと仲ええの?あ、侑くんの方な」
「侑?仲良い…のかな、どうだろ」
「一緒にいるの多いよね」
「あー、あいつが絡んでくるからなあ」
「…宮くんてさ…彼女おるんかな」
佐倉さんは頬を赤くさせて地面を見ている。段々声が小さくなっていった。
うわ、これは…もしかして…。
「さあ…」
「な、今度聞いてみてや!急がんから!教えて!」
「あ、え…」
スカートを揺らし、走っていく佐倉さんの背中を見て、俺は今起こったことを反芻した。
…佐倉さんって、侑のこと好きなのか…?
うわあ人の恋愛事情とか全然聞いたことないけど、俺でも分かるくらいには恋してる感じだった。
侑に彼女…。どうなんだろうか。
話に聞いたことはないけど、もしかしたらいるのかもしれない。中学の時から、とか?いや、この間バレーで女子生徒から結構きゃーきゃー言われてたから案外フリーだったり?
そもそも、あのジャイアンに彼女ぉ…?
俺が女子だったら嫌だわ、なんて勝手なことを思う。
「ハッ、、」
ぼやっと考えすぎて手が進んでなかった。
今度聞いてみるかなあと考えながら掃除を急いだ。
***
部活が終わり寮に帰った後、ランドリールームに直行して洗濯物を洗濯機にぶち込んだ。
洗濯の間に飯を食おう、と食堂に入るとちらほら人がいた。
今日のご飯は麻婆茄子。トレーを持ち、自分の好みの量におかずや白ご飯を配膳してメインの皿に麻婆茄子を入れた。
食堂の角の方に座って、熱々の麻婆茄子を口に入れる。
「あつ、」
熱いけど、美味い。はふはふしながら食べていると背中にどん、衝撃が走った。
「ぶふっ」
何かが俺の背中に伸し掛かっている。こんなことをするのは一人しかいない。
「おい、麻婆茄子食ってんだぞ」
「うわあ、めっちゃええ匂い!」
部活が終わったのか帰ってきたジャージ姿のままの侑が全体重をかけてきている。
重い重い重い!自分のガタイを考えろ!
「え、今日麻婆茄子なん」
さらに背中が重くなった。
治…!おまえ…!
侑の後ろから更に治が乗っかってきた。2人の重さはさすがに堪える。ウエイトトレよりキツい。
「重いっての!」
踏ん張って耐えているとふっと、軽くなった。
ケラケラ笑う双子に俺はジト目で見上げる。
「ひ弱やなぁ」
「筋力つけんとあかんで」
元々のポテンシャルが違う双子に言われても説得力がない。
「俺も食べよ」
治がトレーを取りに行った。
麻婆茄子を大盛りで取ってきた双子が目の前に座った。
勢いよく食べていく2人の皿はすぐに綺麗になっていく。半分ほど食べたところで部屋着姿の角名が食堂に入ってきた。
俺たちを見つけてあくびをしながら隣に座る。
「麻婆茄子かー」
「え、何なん嫌いなん?」
「いや、今なんか和食の気分。濃いやつより薄いの」
「わがままかよ笑」
涼しい顔でわがままを言う角名に鼻で笑ってしまう。
仕方なさそうに配膳をしに行った角名。侑と治はバチ当たりなこと言う奴は滅べと話している。
角名のイメージで言うと、好みじゃなかったら女子みたいにちょっとしか取ってこないんだろうな…
「と、思ったら大盛りかい!」
戻ってきた角名の手元には山盛りの麻婆茄子。ご飯もしっかり盛ってあった。
「無駄に動きすぎてお腹空いてるんだよね。誰かさんのせいで」
「あ?俺を見んなや」
侑が角名にガンを飛ばす。
「もっと打ちやすいところが良いなーー」
侑の顔を見ず、空を見てぼやく角名。
「わかるわー上げる奴は楽でええよなー」
治まで空を見てぼやきはじめた。
「ああ?!お前らさっきから聞いとれば…!!」
侑が机をガンガン叩き始めたので動物園状態と化してきた。
ああ…もう最終手段…。
「あっ、北さん」
食堂の入口を見て、あたかも北さんが来たように声を上げる。北さんのワードに三人ともビクッと固まった。
「なっ、どこや!」
「おらんやないか!ビビらすな!」
「ビビったんかい」
焦る双子に笑ってしまう。
「角名くん、取ってきたからにはちゃんと食べろよ。お残しは許しまへんで」
「忍 た ま かよ」
麻婆茄子に不満そうにしていたくせに大盛りにしてきた角名にちゃんと食べろよと言うと、余裕そうに笑った後パクリと麻婆茄子を口に入れた。
大丈夫そうだ。
まだぶつくさ言っている侑を見て思い出した。そういえば、俺は頼まれごとがあったんだった。
「なあ侑って彼女いんの」
「いきなり何やねん」
「女子に聞かれたんだよ。『宮くん、彼女おるんかな』って」
「え、誰?」
角名が横から入ってきた。
「いや、それは秘密…」
顔を赤くしていた佐倉さんを思い出す。さすがに名前を上げるのは可哀想だ。
多分俺に聞いてきたのも勇気がいっただろう…。俺で力になれるなら、恋のキューピットにでもなってあげられないだろうか。
「はあ、モテる男って辛いわ。まあ俺イケメンやし仕方ないなぁ」
困ったような顔をして嘆く侑に、恋のキューピットとかどうでもよくなった。ごめん、佐倉さん。
「…聞いた俺がバカだったわ」
「なまえ、この人でなしに彼女がおると思うか?」
治が笑う。
「俺が女子だったらまず侑はないわ」
「はあ?なんやて!」
「ジャイアンだし暴言吐くし、すぐに手が出るし、授業中後ろ向いたら白目の時あるし、あっムリーー」
「俺も、侑はない」
鼻で笑う角名と2人で同意しあう。
「もし俺が女子だったら北さんとか惚れそうだな。頭良いし、バレー部キャプテンだし、優しいし…あれ、侑の良いところ…どこだ?」
心配して不安げに侑を見ると笑いながらも目が笑ってなかった。
「おっま、えっ…ちょお部屋行こか?なぁ?」
俺の肩をガシッと掴んできた、握力が強すぎて肩がもげそうだ。
「いだだだ、ほら!こういうとこ!これだろこれ!」
ちょっと冗談言っただけなのに、と侑を睨む。
「案外なまえもええ性格しとんよなぁ」と治が笑った。
恋愛関係の話とか今までしたことがない俺は内心テンションが上がっていたのだ。転校ばかりで輪に入れず、こういった話はしたことがない。
「じゃあ、好きなタイプは?はい、左からどうぞ」
「好きっちゅうか、束縛せん奴がええ」
最初から質問と違う回答をする侑。
「美味しそうに食べる子がええなあ」
ちゃんと回答してくれる治。
「ノーコメント」回答しない角名。
「何でノーコメントなんだよ」
「あれやろ角名甘えたいタイプやろ」
ニヤニヤ笑う侑にうざったそうな顔をする角名。図星か?!
「なまえはどうなん」
治が聞いてきた。
「俺?えー…黒髪眼鏡」
「黒髪眼鏡て、むっつりかいな」 侑が鼻で笑う。
「何でむっつりなんだよ!眼鏡って何かこうくるだろ」
「わかった、初恋が黒髪眼鏡やったんちゃうか?」
侑の言葉に俺は開けた口をそっと閉じた。
「………」
「あっ、顔赤いでなまえ、当たりや!」
ニヤニヤしている侑が楽しそうにしている。
「……っ!違うわ!」
「違うのに何で耳まで赤いんですかねぇなまえくん〜」
「見、ん、な」
一生の不覚。両手で顔を隠すと腕が伸びてきて、手を掴まれる。
「ぶっは、りんごや」侑が俺の顔を見ようと腕を掴むから、必死で抵抗して力を入れる。が、侑の方が強すぎてすぐに引っ張られた。
「ぐっ、眼鏡は…正義だろ」
「開き直っとるのウケるわ」
治に笑われた。
「くそお、いつか黒髪眼鏡の彼女をだな…」
「そもそも告られたことあるん」
侑の素朴な疑問が俺をえぐる。
「……ノーコメントで」
「聞いてすまん」
「おい、謝んな。一番傷つくだろ!ないとは言ってない」
「いや、聞かんかったことにしとくで」
「自己解決すんなよ。そう言う侑くんはあるんですかぁ」
「俺はいつでも言い寄られるんで〜。自分から言ったことはないな」
ふふんと鼻高々の侑に俺は呆れた。
「プライドたっか!背高いし、モテる人はいいですねー。ふん、どうせ俺は万年ぼっちだわ、言ってろ」
「悲しい奴やな」
哀れな目で見てくる侑。
「よし、目標。高校卒業までに付き合う」
グッと握りこぶしを作る。
「じゃあ俺は達成不可に賭ける」
麻婆茄子を食べながらニヤッと笑う角名を睨む。
「おい、わかんねえだろ。いつか俺のことを好きっていってくれる子が現れるかもしれない…」
「寝言は寝ていいやなまえくん〜。 俺も角名に乗ったで♪ごっそさん」
食べ終わった侑が席を立つ。
「さき風呂行っとくでぇ」
治も手を振ってトレーを片付けに行った。
「あんの双子共…」
悔しくも背も高い、顔も良いあいつらには性格でしか勝ててない。性格だけは俺の方がまともだと思う、が敗北を感じて項垂れる。
「俺もあと10cmあったらな…今でも四捨五入したら170cmなんだけどなー…」
「10cmあっても俺から見たらそんなに変わんないけどね」
「うるせー」
「てか侑の後ろ振り向いたら白目って何」
「あー、授業中プリントを後ろに回す時に振り向いたらあいつ白目の時があるんだよ。大体、午後」
「なにそれウケる」
「ほんと笑いすぎてこの間声出そうになったわ」
「見たい。その顔撮って全世界に公開したい」
「だろ、睡魔との必死な戦いがシュールすぎる」
結局角名が完食するまで俺は食堂に残った。
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佐倉さん、ごめん。俺は恋のキューピットにはなれそうにないです。
宮侑、あいつだけは本当におすすめしません。
あいつはジャイアンなんです。人の物も平気で使うし、食べてる最中、人のパンに噛み付いてくるような野生児なので僕はおすすめしません。
以上
みょうじなまえの心の叫び、おわり。