3年時 127,128話の間くらい ※なまえ:この時期は角名呼び
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午前中、二学期定期テストの通知票が担任から配られた。
「おおっ!前回より順位上がった…っ」
受け取った通知票を見てほくほくと喜ぶ俺の呟きに、前の席に座る侑が振り向いてきた。
「…何位や」
「真ん中より上。侑は?」
ニヤニヤして成績を言うように促すと、侑はふいっと目を逸らす。
「…教えん」
「何位だったんだよ、勝った方の言うこと聞くっていう約束だったじゃん」
「そんな約束した覚えないわ」
「嘘つけ!なぁ角名っ、角名も聞いたよな?今回の定期テストで勝った方の言うこと聞くって!」
バッと隣の席の角名を見ると、興味無さそうに頷いた。
事の発端は定期テスト前、男子寮のレクルームに集まって勉強している中、何かご褒美がないとモチベも何もないよなという会話から生まれた勝負。
その時「侑くん、俺に勝つ自信ないんだろ〜」と煽れば、「あ?余裕やわ、後で泣くんはなまえや」と売り言葉に買い言葉、まんまと俺の煽りに引っかかってくれたのだ。
俺は絶対に勝つ自信があったから、その日から何を言いつけてやろうと楽しみに待っていたのだが…。
当の本人は負けを認めず、ムスッとした顔をしている。
「記憶にない。あの日、俺は部屋で寝とった」
「嘘つくな。寝てたのは寝てたけど、ノートの上で寝てただろうが」
「数字見とったら眠なるぅ」と言い、侑はデカイ図体を突っ伏してノートの上に頭を乗せ、スゥスゥと寝ていた。そんな侑に負けるわけがなかった。
「通知票、見せてみろ」
「嫌や」
「はぁ〜さては俺に負けたんだな」
「方程式がこれから社会で生きて行く上で必要か?もっと大切なもんがあるんちゃうか?なぁ?生きていくために方程式いるんか?」
「御託はいいから、見、せ、ろ」
真顔で訴えかけてくる侑を無視してヒョイと、その手にある通知票を抜いた。代わりに俺の通知票を押し付け勝った証拠を見せつける。
「うわっ、やばギリギリじゃん」
「うっさい、今回は手ぇ抜いてやっただけや」
「抜いてやった、ておかしいだろ。手ぇ抜く必要ないんですけど。全力で挑めよ」
侑クンの本気見せたら担任がびっくりするやん、驚かすんのも可哀想やし、とか言い訳にもならないことをブツブツ言う侑に呆れて肩を竦めた。
「とにかく俺の勝ち、な」
「なんや、ジュース奢れ、か?購買のパンか?」
頬を膨らます侑に口角を上げた。そんなもんじゃない、と首を振る。
「今日一日、俺に『優しくする』こと!」
「優しくぅ?いっつも優しくしとるやん、俺ほど優しい奴おらんやろ」
「どこがだよっ、俺の中で一番ひどいヤツ認定されてるからなっ」
隙あらば手加減なしの物理的攻撃をしてくるくせに何を言っているんだか。
「いいか?俺が何言っても、何しても笑って優しく笑顔で接すること。キレるの禁止、手ぇ出すのも禁止っ」
ビシッと指を突きつけて条件を提示すると侑は目を細めた。
「はぁ?楽勝やん」
「言ったな?男に二言はないからな侑くん?一日と言わず、みょうじなまえに従順な優しい宮侑でいてくださいねぇ?」
「余裕やわ。俺の仏のような御心に触れて泣くなよ」
「角名、今の聞いた?」
隣を見て確認する。
「仏が何て?」
「侑が俺に優しくなるって!優しさキャンペーン開始!」
「ふうん」
面白そうに笑う角名に侑が むちゃくちゃ優しい俺を見とけよ、と得意げになっている。
そこから、侑の切り替えは早かった。次の授業が移動教室で準備していた時、「ん、」と俺に手の平を出してきた。
「?」
「持ってったる」
「…!!」
ま、まさか俺の勉強道具を持とうとしているのか…?!
恐る恐る教科書、ノート、ペンケース一式を侑に渡した。
「…っやればできるじゃん!」
「ったり前やん、優しさ100%の侑くんやで?」
いつもは、持てと俺がジャイアン侑に押し付けられるのだが今日は違う。
快適、快適とニコニコ笑顔のままスキップする勢いで廊下を歩く。あの侑が自分から申し出て、荷物持ちをしてくれるなんて!我ながら良い条件を出したなぁ、とルンルンで移動先の教室に入る。空いてる席に座ろうと教室内を見渡した。
クラスメイトの田中の隣が空いている。
先生から当てられたら嫌だし勉強できる田中の隣に座ろうっと。
侑から勉強道具を受け取って田中の座る席に向かった。
「田中、隣座っていい?」
「ええよ…って、み、宮」
田中の視線が俺の背後を見ている。後ろを向くと侑がついてきていた。タッパがあるため立っている姿だけでも圧がある。
「侑、他の席空いてんじゃん、この席は俺の。」
俺の言葉に侑が目を細めた。慌てて田中がノートやペンケースをまとめ始める。
「俺、席変わるで?」
「ああ、田中っ、気にするな!最初に座ってたのは田中なんだから!それに侑は今仏の心だから、な?侑くん」
にこりと笑って侑に、という笑いかけると少しの間の後、笑顔を作った。
「…せやなぁ、田中にその席譲ったるわぁ」
ニッコリと笑い、踵を返して空いている席に向かっていった。素晴らしい、優しさキャンペーンの効果は絶大だ。
「な、なぁ…宮、今の完全にキレとったよな…?」
「ん?キレてないキレてない。大丈夫」
「いや、俺…後で何かされんやろか」
「優しさキャンペーン開催中!今、仏の心だから大丈夫」
「仏じゃなくて鬼やったぞ…?!」
蒼白な顔でリアクションをする田中に笑った。確かに背中には刺すような視線を感じるがどうって事はない。何せ、今日は俺に優しくする日なのだから。何を言っても笑顔で頷く日だ。
始まった授業では、少し引っかかるところがあると田中がこそっと耳打ちして教えてくれた。授業が終わり「田中ぁ、助かった!ありがとうっ」とお礼を言うと「ううん、いつでも聞いて」と笑う田中に人の優しさを感じた。
侑に話すと、にっこりと笑って「そうなん、よかったなぁ」と共感してくれた。
***
昼休みになり、空腹の限界に達した侑が立ち上がる。
「腹減ったぁ、購買行こ。なまえも行くやろ?」
弁当にプラスで惣菜パンを買いに行くと言う侑がなぜか俺も行くことが当たり前かのように聞いてきた。
まぁたまには購買のパンもおやつ代わりに良いなと思い、ついて行くことにする。
「絶対今の時間多いだろ」
「争奪戦やろな」
まぁ俺は争奪戦に負ける気はせんけど、と階段を降りる侑の後ろを歩く。
食堂近くにある購買では人集りが出来ていた。
背の高い侑は賑わう生徒に埋もれることもなく、難なく手を伸ばしてお目当ての焼きそばパンをゲットしている。
「何にしようかなぁ…」
揚げパンとか美味しそう。手を伸ばして最後の一個を取ろうとした時。
「あっ」
横から伸びてきた手に、視線を上げると他組の男子だった。去年、同じ組だった顔に、へらりと笑って「ごめん、最後の一個だったな」と相手に譲る。
「ええよ、みょうじに上げるわ」
「え、いいの?」
「俺いっつもパンやし、適当に選んだだけやもん」
「マジでっ、ありがとう…!」
優しい…!じんと温まる胸の内、嬉しさに顔を綻ばせ有難く揚げパンを購入した。
「優しいなぁ、パン譲ってくれた!」
ゲットした揚げパンを侑に見せると、にっこりと笑い「よかったなぁ」と返してくれる。
「なぁ」
「なに?」
「ちょおっとヘラヘラし過ぎとちゃう?」
笑顔のまま、軽い口調で言う侑に俺は首を傾げる。
「?どこが?」
「……」
侑が笑顔のまま無言で固まった。
「あー、皆優しくて人の温かさを考えさせられるな…」
笑顔のままの侑を放置して購買を出ていく俺は侑が焼きそばパンを握り潰しかけていたことなんて知らなかった。
***
一日の授業が終わり放課後に入った教室は一気に騒がしくなる。
今日は男バレ部もオフの日。日頃のトレーニングで酷使している体を疲労が蓄積しないよう、しっかり休ませる日だ。
「帰るで〜」
廊下から銀の声が聞こえて侑、角名と一緒に立ち上がる。今日は治、銀を含め5人で遊んで帰る予定だった。廊下に出て隣に並ぶ銀が首を傾げた。
「どしたんや、みょうじえらい機嫌ええなぁ」
「ん?ふっふっふ、世界は優しさで溢れてるって感じてるんだよ。あ、侑〜、リュック重たくってさぁ」
侑を見ると微笑んで「持ったるで」と俺の肩から黒リュックを取り上げた。
「あ?!?!あ、侑…?!」
驚愕の表情で目を見開く銀にクスクスと笑ってみせる。
「今日は俺に至れり尽くせりの優しさキャンペーンの日なんですっ」
「何やそれ」
「テストで勝った方の言うこと聞くっていう勝負した」
「ほーん」
「(いつも散々、侑に好き勝手されてるから仕返しっ)」
悪い顔をして笑うと銀は眉を下げて笑った。
「それにしても侑があんな言うこと聞くとか怖いわぁ」
銀の言葉にニシシと笑っていると、頭の後ろで両手を組んで歩く治が面白そうに呟いた。
「まだ続いとんや」
「そろそろヤバいかもね」
角名と治が何やら意味深な会話をしている。後ろで歩く二人を余所に昇降口へ行くと三分と茶川が帰るところだった。
「三分、茶川〜」
「おおみょうじ、先帰るで。また明日なぁ」
「うん」
「あ、せや、これあげるわ」
茶川がカバンの中から何かを取りだしてきた。手のひらを出すとコロンと飴を乗せられる。
「えっ、いいん?」
「さっき女子から貰ってん。ほら、俺らも今、アメ舐めとる」
飴が口の中に入っているのか、片頬を膨らませる茶川と口をもごもごと動かす三分に笑いが込み上げる。2人が食べてるなら俺も、とペリリと飴の小袋を開け口に含んだ。
「ん〜甘っ、イチゴ味っ」
舌で飴を転がすと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
3人共、飴を舐めているという状況に顔を見合せ笑い合った。
「ありがと!ちょうど小腹空いてたんだよなぁ、糖分摂取、「…もう耐えられへん」ん…?」
俺の肩に手が置かれ重みを感じる。
「みょうじ…後ろ…」
指差す三分に従い、飴をコロコロと転がしながら振り返ると侑が怖い顔をして立っている。
「…お?」
「『お?』ちゃうやろが…人が黙ってニコニコしとけば、ようもデレッデレ、デレッデレ…」
キレ気味な侑が俺を靴箱に追いやってきた。余りの剣幕に気圧されて後退る。
「え、何、ちょ」
「…めんどくさいの始まった」
「俺ら、先行っとくで」
角名と治が涼しい顔で靴を履き替え昇降口を出ていく。
「え?え?ちょ、」
銀も知らぬ振りで靴を履き替えている。
「ほなみょうじまた明日なぁ〜」「じゃあなー」
茶川と三分も手を振って昇降口を出ていった。
靴箱に追い詰められ後ろがない俺と見下ろしてくる侑。残る二人となった。
「な、 何だよ。今日はキレるの禁止って約束だろ」
口の中でイチゴ味の飴を転がしながら対抗するように視線を返す。その目には苛立ちの色がゆらりと燃えていた。
「何でキレて」んだよ
と、言い終わる前に頬を片手で挟まれた。
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(宮侑)
定期テストで勝った方の言うことを聞く、という勝負で一日優しくしろと言ってきたなまえ。
人が仏の心で優しく微笑んでやっていたのに、あまりにも周りにデレデレしているから、凄くイライラして我慢できなくなった。
移動教室でも、昼休みの購買でも『俺は仏、俺は仏、神の御心…』と念仏を唱えるように言い聞かせて耐えてきたが、飴をもらって茶川達にデレデレしている所を目の前で見せられ、耐えられなかった。
何でキレてんだよ、と言うなまえの口を手で挟んで強制的に黙らせてやる。
「手、出すの禁止っ」
潰れた顔で恨めしく見てくるなまえの残念なこと。自分で作り上げた変顔に思わず笑いそうになる。
「出してへんし、」
「出してる。これはもう出してる。物理的接触はアウト」
「うっさい、誰のせいやねん。腹立つ顔してヘラヘラしよって」
「は?何だとっ?! 腹立つ顔って何?!ヘラヘラもしてねえしっ!お前、優しさ皆無だぞ?!」
ああ、うっさいなぁ。全然分かってへんコイツの口を塞ぎたい。周りに愛想振りまいてデレデレ、ヘラヘラしているこいつに分からせてやりたい。
このまま、ここで無理やりキスして口の中の飴、奪ってやろうかとなまえを押さえ込むところを想像をしては理性で欲をせき止める。
喋る度に唇の間から見えるピンク色の球体、濡れた舌、コロコロと歯に当たり音を鳴らして甘い匂いを作り出すそれは、顔を寄せたくなるには十分な要素だった。
「お前、言ってることとやってること違うぞ!俺を姫扱いする約束だろうがっ」
なまえの口から出た姫扱い。
それは今日の授業で世界史の教師が歴史上の至れり尽くせりだった姫の話をし始めたことが発端だった。
なまえが「これだっ、至れり尽くせりの姫扱いしろ」なんて言うから、どこが姫やねんと鼻で笑っていたのだ。
「誰が姫やて?あ?」
「俺」
「どこが姫やねん、アホか。『姫』の要素の欠片もあらへんわ」
「…守りたくなる可愛さ」
「ない、皆無」
「優しくしたくなる慎ましさ」
「ない、皆無」
「…笑うだけで周りに花を咲かせる可憐さ」
「ない、なまえが笑うだけでむっちゃ腹立つ」
「はっ?!ひどくないか?!」
解せない、と憤慨するなまえを見下ろす。
正確には、お前のそのヘラヘラした笑顔を他の奴に見せんのが腹が立つっちゅうことやねん。
……だって…、か、可愛ええんやもん…
〜〜っ、絶ッ対に!言わんけどな!!
「アホな顔して笑っとん自覚しろやっ」
「はぁ??人の顔見て腹立つとか、人間性欠けてるぞっ。そんなに腹立つならいくらでも笑ってやる」
俺を煽るようにへにゃ、と笑って見上げてきたなまえに頭を抱えたくなり、咄嗟になまえにヘッドロックをかける。
ああ〜〜っ、クソッ!可愛ええ!可愛ええ!腹立つ!!
腹立つ気持ちと可愛いと思う気持ちが入り交じり、力加減が出来ない。腕の中でジタバタするなまえが叫ぶ。
「いだだだだぁぁっ!おまっ完全に手ぇ出してるっ!!」
「ちょお黙ってくれん?」
「あっ、せ、、先生ぇっ!宮くんがっ、宮くんがイジめてきますっ」
なまえがいきなり廊下の方に手を上げて助けを求めるから、視線を移せば2年の時の担任の姿が見えた。
「宮〜、弱いものイジメはあかんやろ」
「どこがっスか?!見てくださいっ!仲良うしてるだけですっ」
ギュ、となまえの肩に腕を回して仲良いアピールをしておく。
「ちがっ、今完全に俺、プロレス技かけられてましたっ!」
「軽く遊んだだけやん、」
「はっはっ、宮の軽くは、軽くないねんな」
「(このゴリラめ…)」
「(あ?シメられたいか?)」
隣同士でブツクサ言っていると先生は「気ぃつけて帰れよ〜」と言い残して去っていった。
「はぁ〜〜結局こうなるのかよっ!優しさはどこへ行ったんだっ!あー、もう、治達が待ってるから行くぞっ」
靴を履き替えるなまえに、自分も靴を取り出しながら「優しさがなんやっちゅうねん。優しかったら無条件に惚れるんか?」と独り言のように吐き出す。
「…俺の好きなタイプ、優しい子だもん」
「……」
コイツ…。
優しくない俺は好きなタイプには入ってないとでも言いたいのか。
「…ほな、好きなタイプ『3年5組のイケメンで背が高うて、運動神経むちゃくちゃ良くて、前の席のおもろいヤツ』に変えといて」
「……おま…自分を変えようとしないところ…そういうとこだぞ…」
じと目で見てくるなまえにケラケラと笑ってみせる。
優しくないから、て何?関係ないし。
好きなタイプ?関係ないし。
惚れさせたもん勝ちやん。
ひどい?それが何?ひどくて結構、俺の性格についてこれる奴だけでええし。
なまえはそれを受け止めて、ボールを返してくるから、俺は返球せずにはいられない。
「俺には俺の優しさがあるんや」
「もう、いい。お前に優しさを求めるのは諦めた」
「俺のやり方で優しくしたる、て」
「やめろ、侑が優しくなった日には槍が降る」
「なまえクーン♪」
「うっわ!!鳥肌立った!こっち来んな!!」
「あ??」
「ぎゃああああっ走ってくんなっ!!治ぅぅうっ、角名ぁぁっ!!」
ああ、楽しい。
逃げ回るなまえの背中を追いかける楽しさは何にも変えられない。