「銀っ!髪伸びたなぁ!」
午前10時、商業施設の前で卒業後久しぶりに会う友達にテンションが上がり、小走りで駆け寄った。
「おお、久しぶりやな!みょうじは髪切ったんか?」
「うん、引っ越す前に切っておこうと思って」
合流した2人は一緒に歩き始める。目指すは待ち合わせのコンビニ。
今日は俺が東京へ引っ越す前に皆で集まろうということで、倫太郎以外のメンバーと遊ぶ約束をしていた。集合場所は双子が住む街。
「どっちのセ○ンやったっけ」
「え、ファミ○じゃね?」
「え、ほんま?」
「俺、さっき侑からファミ○って聞いたけど」
「治からセブ○って聞いたで」
「……はぁぁ?ほんっとうにあいつら…」
何で2人して集合場所がそれぞれ違うんだと呆れるも双子のよくあることなので深く考えないでおく。
大方、寄りたいコンビニを主張してお互いに意見が割れたんじゃないかと推測する。
「まぁ、どっちも近いし俺たちが居なかったら侑から鬼電くるっしょ」
どこおるんや、はよ来いとか電話をかけてくるだろうし適当に歩いて向かっておけばいい、と諦め半分で眉を下げる。
「みょうじ、侑の扱い上手なってきたな…」
「散々振り回されてきたからな。ドンと来いの精神でいる」
「さすが…」
関心する銀に肩を竦めながら歩いていると予想通り携帯が震えた。
「もしもーし」
『どこにおるんやっ』
「銀と適当に歩いてるー。もうちょいで着くけどセブ○とファ○マ、決着着いた?」
『あっ!!見っけた!』
「ん……?」
見つけた、ということは…
銀と2人で歩道を歩いているとゆっくりと低速で動く車が近づいてきた。
車の色を見て、あっ、と気づく。助手席のパワーウィンドウが下がり、何故かドヤ顔の侑と運転手の治が見えた。
「お〜、やっほー」
「治、運転しとるやん!車かっこええな!」
「これ、おとんのやけどな〜」
少し先のコンビニに入るという双子を見送り、銀と駐車場を目指して歩く。
たどり着くと駐車場には大きな車とその隣に双子が立っていた。
「この車に新免マークって違和感あるな」
「大きいしかっこええもんなぁ」
「最初はおかんの軽で来ようかと思とったんやけどな、それ言うたら『あんたら、車に入るん?』って」
治の言葉に小さい箱の中に詰め込まれる高身長3人を想像して、あぁ…と納得する。
窮屈なことこの上ないだろうし、軽自動車なら大柄な男3人の重量に走りが鈍くなりそうだ。
「車が可哀想やから、っておとんの車使わせてくれた」
「確かに…車が悲鳴をあげるな…」
「ほな出発するで!今度は俺が運転する!」
俺の運転見とけよと自信満々に運転席に向かい乗り込む侑。治が「ほな、俺助手席〜、」と助手席側のドアを開けた。
「あ?サム後ろ行けや」
「は?何でやねん」
「…同じ顔が並んで乗っとったら、すれ違う車がビビるやろが。周りの車、事故らせたらどないすんねん。助手席はなまえが座れ」
俺をビシッと指差す侑に首を傾げる。
「はぁ?俺?俺、後ろでいいけど?」
「あかん」
「はぁ、ツムの意味分からんわがまま始まったで」
言うことを聞こうとしない侑に治と交代して助手席に乗り込んだ。治と銀は後部座席へ乗り込む。
シートベルトを締め、右隣でハンドルを握る侑をちらりと見ると、満足そうに俺を見ている目と合う。
「何だよ」
「ふふん♪ハンドル握る俺、かっこええやろ?」
「…自分で言いますぅ??」
出た、自己肯定感が突き抜けている侑の言いそうなことではあるが「はいはい、かっこええかっこええ」と受け流すと不服そうに小突いてきた。
事故るな、飛ばすな、安全運転!と念を押す。
「ツムの運転下っ手くそやで」
「おい!サム!嘘言うなっ」
「角名も侑らも4人とも免許持っとるもんなぁ、すごいわ。俺もいつか取りに行かんとなぁ」
「侑の運転は教習所で一緒に乗ったけど、あん時やばかったもん。挙動不審だった」
「あ、思い出したわ。
ツムん時、教官が『宮くん、ブレーキ急すぎるからもっと優しくな。人に優しくと同じやで』って言うたら、俺の横でなまえが『侑に人への優しさを求めるのは無理があります…』てボソボソ呟くし、あん時まじで笑い堪えるん辛かったぁ」
「はっ?!お前そんなん言うとったんか!おいっ!」
「ちょ、運転席からの攻撃はやめろっハンドルを前にしたら無になれ!」
車内で騒ぎ立てる俺達はやっとのことで出発し、侑の運転でドライブがてら車を走らせた。
▽
軽く街中を探索した後、昼飯をどこで食べるかの話になり、車で来たからにはドライブスルーチャレンジをしようという話になる。
運転をしながら注文、受取、会計をするというハードルの高さに俄然盛り上がる。
「次、なまえが運転な。注文役」
侑の言葉に不安を吐露する。
「えー、俺んちの車より大きいし、そもそも家族以外乗せたことないし緊張する…」
「家族以外、人乗せんの初めてなん」
「うん」
「おーし、ほななまえ運転席で俺、助手席な」
助手席のドアを開ける治に侑が手をかけた。
「おいサム待て…、俺が助手席や」
「はぁ?ドライブスルーやったらメニューよう見える所やないとあかんやろが」
何食べるか本気で選ぶのに余念はいらん、と本気モードの治。
「無理、助手席は譲らん」
なまえの初めては俺や、とぼそりと呟く声が聞こえた気がするが気のせいだと思い運転席に回り、乗り込んだ。
後部座席で外の2人を眺める銀が不思議そうにしている。
「2人とも何を言い合っとん」
「助手席どっちが座るか問題」
「はっはっ、治、本気でメニュー見るために見晴らしが良くないと無理とか言うとるんちゃう」
「ビンゴ!」
運転席に座り、シートベルトを装着する。パワーウィンドウを下げ、未だに揉み合っている2人に声をかける。
「おーい、置いてくぞ?走ってついてくる?」
「いや、2人置いてくのは笑うわっ俺とみょうじの2人ドライブ!」
渋々治が車の後ろに乗り込み、勝ったとご満悦な侑が助手席に乗り込んできた。
「なまえの助手席、俺が初めてやんなぁ!」
満足そうな顔で笑う侑にシートベルト締めた?と確認する。
「締めた!」
「はいはい、出発しまーす」
ゆっくりとアクセルを踏み、周囲を確認して運転を始めるも、自分以外の人を載せている緊張感に体が強ばる。
「はぁ…緊張するぅ」
助手席に家族以外乗せたことがない俺はドキドキしながら赤信号で車を停止させた。
そんな俺を見て隣の侑が「ええ方法あるで」とケロッとした顔で手を上げた。
「稲荷崎校歌、1番!校歌斉唱!」
いきなり高校の校歌を歌い始めた侑に思わず噴き出す。
後ろから野太い声で参加し始めた野郎共に俺はついに我慢できず、肩を震わせた。
「や、やめっ、車内で校歌斉唱はやめっ、腹いてぇぇっ」
プルプルと震えながら、稲荷崎校歌をBGMに発進する。
「ま、じで!笑いすぎて危ないからやめろっ」
「「「緑の〜♪」」」
「ぶはっ、ファルセット入れんなっ」
笑い死にそうになりながら車を走らせること数分。近づいてきたファストフード店に治が後ろでワクワクを隠せず身を乗り出してきた。
「来た来た来たぁっ!」
「欲しいもの、すぐに決めろよ!あと一人ずつ言えよ!」
注文待ちの車の後ろにつけて、順番を待つ。俺達の番になり注文ブースに車を進めた。
〘いらっしゃいませ、こんにちは!!〙
「「こんにちはー!!」」
〘……こ、こんにちは〜〙
双子の元気な挨拶に俺と銀は噴き出した。
まさか挨拶を返されると思っていなかったのかスタッフの戸惑いが伝わってくる。
〘ご注文がお決まりでしたら、お伺いいたしますっ〙
「銀から!」
「俺はテリヤキダブルバーガーセット、ドリンクはジンジャエール!」
「おけ!」
声を張り上げてそのまま伝えるとスタッフの復唱後、間違っていないか確認される。
「はい、合ってます、大丈夫ですっ」
「次、治!」
「俺はなぁ、チーズバーガー、ソース多めとナゲットセットとドリンクはソーダで、あとポテト追加〜」
「おい!注文多いぞ!わざとか?!」
いや、メニューを見る目がガチな治がわざとな訳がない。
仕方なく治の言ったメニューを思い出しながら口に出す。
「えっと、チーズバーガーのセットで、「ソース多め!」あ、ソース多めで…で、なんだっけ「ナゲットセット!サイダー」ナゲットセットのサイダー…で、」
「ポテト追加!」
「サイズは?」「M!」
「ポテトMサイズ、追加で」
無事に伝わったのか、スタッフが復唱した内容は合致しており安心した。
「次、侑っ」
「んー、俺は牛増しバーガーのセットでなぁ、ドリンクはウーロン…」
「牛肉な、えっと牛増しバー「あっ、やっぱ厚切りベーコンにしよかなぁ」はっ?!」
注文途中でいきなり変えてくる侑に勢いよく振り向けば、面白そうに笑う侑。
コイツ…わざとだな…
「厚切りベーコンとぉ、あ、やっぱ、どないしよ〜「うるさい、もう俺が決める!お前はフィッシュバーガーにしとけ!」はぁっ?!」
後ろで次の人が待っているのに侑に付き合っていられない。問答無用で俺が決めてやる、とマイクに向かって声を張り上げる。
「フィッシュバーガーのセットでドリンクウーロンでお願いしますっっ!!」
「おい!全然食いたいもんちゃうわ!!」
「お前は魚食べとけ!」
自分の注文も忘れず頼んでおく。
「半熟卵のてりやきセットで、ドリンクはアイスレモンティー、以上で!」
隣で「最悪や!勝手に決められた!」とぶうぶう文句を言っている侑を放置して注文の再確認が終わる。
〘ご注文は完了しましたので、前へお進みください!〙
「もうええっ、なまえの半熟卵てりやきバーガー食べる」
「俺のだから無理ですぅ」
「なまえのもんは俺のもんやし、問題ないし」
「調子乗っとるからやアホやなぁ」
バカにしたような治の言葉にすぐに反応する侑。賑やかな車内で順番を待ち、受取口へ回った。
「お待たせいたしましたぁ〜」
受け取ると出来たてほやほやで紙袋が温かい。
会計を済ませ、やっとのことでドライブスルーから抜け出せた俺は解放感に包まれていた。
「はぁぁ、無事終わった…」
「どこで食べる?」
「緑地公園あるやんか、あそこええやん」
双子の提案で近くの公園に寄り、ありつくことにした。
「ナビよろしく!」
「えーとぉ、次の信号左な、あっ!ちゃう次の次や!」
「お前っ!頼むぞ!?道知らないんだからな?!」
双子のナビで何とかたどり着いた公園。
芝生で覆われた緑溢れる公園内は良い気候もあってか、ピクニックをしている人も多い。
公園内のテーブルベンチに買ってきた昼ご飯を広げた。
「青い空の下で食べる飯は何故かいつもより上手く感じるわっ」
「銀…それ分かる。環境って大事だってことだよな」
「いきなり真面目な感想どしたんやなまえ」
「いや、俺はいつでも真面目ですけど?」
寮ではいつもひとり飯だったけど、侑達、北さん達と食べるようになってからはもっと美味しく感じたんだよなぁ、と呟けば侑が「俺のおかげやんな。一生かけて俺に感謝せえ」と変なことを言ってくる。
「はいはい、ありがとうありがとう」
「ツム、なまえが降りてくるまで食堂で食べずに待っとったしな、ウケるわ」
俺やったらご馳走前にして待てへんわぁ、無理無理と治が手を振る。
「はぁ?待ってへんし!」
「飼い主のヨシを待つワンコやん…」
銀の呟きに俺は噴き出しそうになった。
「よしよし、可愛い可愛い」
侑の頭をチロルを可愛がるみたいに撫でてやると頭を振り、がるると威嚇してきた。
それも照れ隠しだと今は分かる。くすっと笑う俺に侑は怒ったように、半熟卵のてりやきバーガーを奪ってきた。
「あっ!俺の!」
「これは俺のや。なまえはこっち食え」
「フィッシュバーガー半分しかないじゃんかっ!」
美味しそうに頬張る治の横で銀はポテトをつまんでいる。 仕方なく押し付けられたフィッシュバーガーを口にする。
俺様すぎる侑に振り回されながら昼飯を食べ終わった後、どこに遊びに行くか話が上がった。
カラオケ、ゲーセン、ショッピング…何がしたい?と話す中で侑が声を上げた。
「あそこ行こ、○△の広場、あそこならネット張っとるで」
「あぁええなぁ、車の後ろ外練用のボールもあるし、遊べるわ」
「どこ?それ」
「昔よう行っとった公園みたいな広場があってな。バレー好きのおっちゃんが外にネット張っとんや」
「無人やし、誰でも遊んでええよーってなっとる」
「へぇ〜」
「広いし、クラブの練習終わってもあそこ行って遊んだなぁ」
「あのおっちゃん普段優しいし、好きに遊びや〜楽しいのが一番やで〜って言うんやけど『強なりたい』っちゅう奴には厳しいんよな」
ケラケラと笑う侑と治にスパルタ練習に慣れている双子のメンタルの強さが伺える。
「『どこ投げとんやぁ!コート内に打たんと意味ないやろがぁっ!』て熱入ったおっちゃん、すごかったよな」
ビシバシとしごかれたのだろうが、ものともせず楽しそうに思い出し話す2人を眺める。
バレーが大好き、楽しい、が一番だったからこそ、どんな指導でも自分の力に変えていったのだろう。
「ええなっ、久しぶりに打ちたいわ!」
銀の言葉で決定となり、治の運転で目的の広場に向かった。
着いた場所には住民が自由に遊べるようなコートもあった。バレー用のネットが張られている場所は使用している人もおらず、車から出してきたバレーボールを手に4人でボール遊びを始める。
「はぁぁっ、引退して数ヶ月!体が重いっ!」
そんなことを言いながらも銀は力強く蹴り上げ、しっかり跳んでいる。
「ぎゃあっ!手加減しろよー!」
俺の腕を弾くボールを同じコート内の侑が楽しそうに追いかけていく。
「ほいっ、」
侑のトスで素人レベルではあるが俺も跳んでみる。治、銀ほどの跳力も打撃力もないが、それでも体を動かすことは楽しい。
へなちょこアタックのボールを治が受ける。その返球を銀が上げた。
「治っ!」「ん、」
治は侑を見てニヤリと笑った。侑に打ち込む気か?
体育館とは違い跳びにくいはずなのに、綺麗なフォームで叩き込む治に俺はただただ感心していた。ボールは侑の腕を弾き、俺は追いかけるものの侑のようには追いつけずアウトしたボールを拾う。
「やってくれるやんか…」
「プロ選手が今のボール取れんとか大丈夫か?」
ニヤッと笑い挑発する治に侑がピキピキと怒りを表し始める。
ああ、また始まった2人の闘いが…。こうなることは大体予想はできている。銀と目を合わせて、お互い同じ気持ちだと通じ合った。
この感覚、楽しさ、学校でよく侑に誘われては体育館でバレーをしたことを思い出し、懐かしくなる。
「サムをボコボコにするまで終わらんで!」
「誰がボコボコやと?上等や、かかってこい」
2人の衝突に笑いながら、ボールを構える。
「サーブ行くぞー、」
「サッこぉーい!」「この一本で切るで!!」「集中集中!!」「っしゃあ!!」
まるで試合中かのように本気サーブを切るような気迫で構える相手コートの治と銀。
脅かすほどのサーブも打てない俺に対する本気の姿勢に、絶対ウケ狙ってんだろ!と噴き出す。
「もぉ〜、まじで笑かすなっ!」
「行ったれなまえ!」
「ふはっ、お前までもか、侑!」
楽しい、その一言に尽きる。上がる口角のままに、ボールを叩いた。
▽
ひとしきり遊んだ後、飲み物を買いに行った治達を待ちながら、俺と侑はベンチで座っていた。
「はぁ楽しかったぁ」
「まだまだ下っ手くそやなぁ」
「はぁ?ちょっとは成長しただろ?」
「成長が足りんわ」
「厳しーー」
侑のスパルタ教育で『ド素人』から『素人』に成長した気でいるのだが侑はそうではないらしい。
まぁ、でも楽しかったからいいや、という心持ちで侑の横顔をちらりと見た。バレーネットを見つめるその目は真っ直ぐだ。
「…なぁ」
「なん?」
「侑は何でセッターになろうと思ったん?」
「何で…」
俺は自転車競技をしていく中で、自分の得意不得意を考え登りも平坦もそこそこ走れるため、総合的な動きをするアシストというポジションを選んだ。
侑は何を思って選んだんだろう、と気になった。
「最初はスパイカーがいっちゃんかっこええなって思とったんやけど」
「うん」
「小4の時、バレーボール教室でセッターの選手に教えてもろてん」
「うん」
「そん時にな、おっちゃんが打たしたるで〜って皆にボール上げていきよったんやけど、皆綺麗にスパイク打てるんよな」
「さすが、すごいな…」
「せや、それ見てすごいな、て思た。
その人が上げたら皆綺麗に打てるし、俺も自分でびっくりするくらい打ちやすかってん。
上げるだけなのに何が違うんやろ、て。そん時からセッターかっこええな、とは思とったけど…」
「へぇ」
「…中学でサムがセッター任された日があってん。アイツ、『セッターは1番上手い奴がやるポジションやし』とか抜かすし、それなりに上手いことやりよるし…ムカつくやん」
あぁ…中学時代の侑が想像できる…。治の言葉にムキになる侑が…
「サムがセッターやったんなら、俺もいつかセッター任される日が明日にでもすぐにくる、思て練習しとったんや」
「うん」
「で、やっと俺がセッターやる時があって、そっからやな。自分のトスでスパイカーが点もぎ取っていくん面白かったし、俺の選択でその攻撃が決まるか大きく左右すんねん」
「サムとの攻撃のリズムもドンピシャやったし、サムに上げればあいつも絶対決めるし…。セッターやるの楽しいし、かっこええし、」
「ふうん…じゃあ、もしその時のバレーボール教室でセッターの人見なかったら違ってたかもしれないってこと?」
「分からんけど…どうなっても俺はセッターやる選択しとったと思うけどな」
『セッター一筋』の意思が見え、かっこいいと思うと同時に微笑ましくなる。
「…なまえは?自転車始めたきっかけ」
「俺?俺は…小学生の時引っ越ししたばっかりで、学校もあんまり面白くないなぁって時に、近くでロードレースが開かれてさ。それを見に行ったのがきっかけだな…」
「高速で目の前を走るロードレーサー達を見て、何なんだこの人たちは!?俺の乗ってる自転車と違う!ってなった…それからロードバイク買ってもらって…って感じかな」
「ほな、そのレース見んかったらロードバイクしてなかったかもしれへん、っちゅうこと?」
「…有り得るかもなぁ。ロードバイクしてなかったら稲荷崎にも入らなかったと思う。
……そう考えると、出会いとか偶然ってすごいよなぁ…侑もバレーに出会って、ここまで来たんだもん、すごいわ」
素直に気持ちを述べると侑は目を逸らした。
「さっきもだけど…楽しそうにバレーしてる侑見たら、侑がバレーと出会えてよかったなぁ、治がいてよかったなぁ、2人が兄弟で、双子でよかったなぁ、って思った、あはは」
「…何目線やねんアホ」
「…人生の奇跡、運命の出会いに感動する親鳥目線。出会いは必然だったーーって始まる漫画あるじゃん」
「アホか、漫画の読みすぎや。……まぁでも奇跡言うたらなまえと出会ったんも、「買うてきたで〜!」」
「おっ!おかえりー! ん、何か言った?」
「…何でもないわっ」
侑の耳の縁がほんのりと赤い。「なに?気になる」と顔を覗き込むと片手で頭を鷲掴みにされた。
「いててててっ!!おまっ、何?!」
「うっさい、こっち見んな」
「なまえ〜、番犬のしつけ、ちゃんとしとかなアカンで〜」
「片割れをどうにかしろ!バイオレンスすぎるぞ!」
どうにもならんで、と呑気な治の言葉に諦めを感じつつ、飲み物を受け取った。
ときどき甘えたで、ときどきバイオレンスで、いつもはジャイアンな親友兼恋人を見つめる。
「痛いから離してください侑くん」
「やだぁ」
本当に自由な奴だ。
でも、それくらい伸び伸びとバレーをやっている侑がかっこよくて好きなのだから、結局このジャイアンを甘やかしてしまうのだ。
▽▽▽
帰る時間になり、双子に駅まで送ってもらった銀と俺は別れの挨拶を交わしていた。
「ほな、みょうじもまた会おうな。こっち帰ってきたら声かけてくれ」
「おう!銀も元気でな」
「角名とも会うんやったっけ?」
「うん、東京行く途中で、倫太郎とのとこに寄って遊ぶ予定!」
「角名にも、よろしゅうな。治も侑もまた遊ぼうや。侑は今から忙しいやろうけど、頑張ってな!」
「ん、またなー」
電車の時間があり、先に帰る銀を3人で見送った。
「ほな、俺らも帰ろか」
帰ろう、と言い出した侑が何故か俺の手を引っ張ってきた。グイグイと引いてくる侑に困惑する。
「え?ちょ、そろそろ俺も電車来るんだけど」
「おいツム、ナチュラルになまえを連れて帰ろうとすな」
「何言うとん、連れて帰ろうとかそんなん思うてへんし」
「なんやその手は。その手を離せ、手を。連れ帰ろうとしとるやろが」
「……なまえ、おかんの手料理が待っとるで。ウチ来る?」
お前それ誘拐犯と同じ手口やで、とツッコミを入れられ、侑は面白くなさそうな顔をする。
「宮家のご飯にはかなりそそられるんだけどな!じゃあ、そろそろだし、治また遊ぼうな」
「おう、ツムは別やけど俺は学校とバイトだけやし時間合わせられるで」
手を軽く上げていつでも連絡してや〜とのんびりと言う治を侑が睨む。
「わかった、連絡する!」
「おい!お前ら俺の前で何の話しとん?!密会か?!密会するつもりか?!」
吠える侑が面白くて、ケラケラと笑う。治は両手を上げ久しぶりに跳んだわ、と体を伸ばした。
「…俺は先、車戻っとくわぁ。なまえまたな」
「ん、今日はありがとなー」
またすぐに会うかのようにふらっと手を上げて治と別れた。
「…改札んとこまで行くぅ」
侑は見送ってくれるらしい。一緒に駅に入り、改札手前で向き合う。
「じゃあ、またな」
「ほんまに帰るん?」
そんな捨てられた子犬のような顔をするな、と言いたい。
「んん゙、帰りマス」
「………」
「またすぐ会えるよ」
「すぐっていつ?何月何日ぃ?」
重てえぇっ、くすりと笑いそうになるのを堪え、「それはまた調整しよ」と返す。
「…俺が会いたいって言うたら飛んできて」
メンヘラ彼女か!無茶なことを言い、彼氏を困らせるメンヘラ彼女とやらを最近よく見るが、そんな感じなんだろうかと考えてしまう。
「試合も応援行きたいし、俺もバイト頑張るから、侑も頑張れよっ」
「……分かったぁ」
最近は会う度に触れてくるが、今日は健全な遊びしかしていない。侑の顔には物足りないと言いたげに不満がありありと浮かんでいて、多分そこらへんが不満なんだろうと推測した。
そんな侑を見ていると、少しいじめたくなってしまう。
「どした?」
「…….別にぃ」
別にぃ、って顔じゃないけどなぁ。
「耳貸して、」
侑に近づき手を口元に添え、爪先へ体重をかけて少し背伸びをする。
「次会う時はギュッて、して」
こそっと小声で囁く。
侑の耳を掠めるように指でなぞり離れると、侑は目を見開いて見下ろしてきた。
耳を押さえ顔を赤くする侑の反応は上々で、してやったりな俺は思わず笑いが漏れた。
「お、ま…、今、何…っ!」
「足りないならまた今度な、あ、電車来るし、じゃ、またな!」
「おい…言い逃げはずるいでっ!」
侑から離れれば、こっちのもの。
眉を寄せ怒っている侑に舌を出してケラケラを笑ってやる。
「覚えとけよっ」
「ははっ」
手を振り急いで改札を抜ける。
電車に乗った後、侑から激おこスタンプと一緒に〘次の日立てんようにしたるからな〙と来ていて笑ってしまった。
後日、その言葉を本気にしていなかった俺が、言葉通り酷い目に遭ったのは言うまでもない。