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「いらっしゃいませ〜、あ、赤葦くん!」
「どうも」

バイト先で偶然の出会いを見つけてからというもの、同い年の赤葦くんは見事にうちの店にハマってくれたようで通ってくれていた。
大学と家の途中にあるため、立ち寄りやすいようだ。

見上げる背丈の赤葦くんに「今日は何にする?」と聞く。

「日替わり定食にしようかな」
「ん、日替わりの牛モモステーキね!」

同学年かつ共通の話題(バレー)があるおかげで敬語も外れ、タメ口になっていた。
落ち着いていて、話しやすいし赤葦くんとは気が合うなと感じる。

2回目に来てくれた時に、俺が反射的に赤葦くんの名前を呼んだことがきっかけであれよあれよと話すようになった。

何で名前を知っているんだろうと不思議そうな顔をした赤葦くんに、侑が教えてくれたと伝えると「ああ、」と合点が行ったように頷いていた。
人の名前を知るからには自分も名乗らなければ、と思い「みょうじなまえです」と頭を下げたら「赤葦京治です」と真面目に返してくれた。

その真面目さにツボってしまい、同い年だしタメ口で、と伝え、その日から来る度に少しづつ話すようになったのだ。

「お待たせしました〜牛モモステーキ定食っ」
「美味しそう」
「美味いよ!肉ってやっぱ美味い!」
「ふっ」

口元で手を握り、笑う赤葦くんに少し恥ずかしくなる。

「ごめん、ちょっと今自分もアホっぽい発言だったなって反省した」

周りの奴ら(双子)がこんな調子だったから移ってしまったのかもしれない。
『肉ってやっぱ美味いよなぁ!肉で不味いもんなんかないわ!!』何て言いながら俺と銀に焼肉奉行を押し付けてくる侑達を思い出していた。

「いや、面白い」
くすりと笑う赤葦くんには初めのうちはあまり笑わない印象を持っていたが、最近ではそれも思い違いだったと感じている。

「…赤葦くんは笑う時と笑わない時のギャップが激しいよなぁ」
「そう?」
「うん、キリッとしてるのに笑う時は良い笑顔してる」
「良い笑顔とは…」

どんな笑顔なんだ、といった顔で考え込みはじめた赤葦くんに手を振って止める。

「ああ、ごめんごめん、食べるの邪魔した!ごゆっくり!」

赤葦くんは手を合わせて箸を持った。
「いただきます」

毎度美味しそうに食べる姿に顔を綻ばせる。

「みょうじー、3番テーブル、セッティング」
「はいっ!」

ミネさんに呼ばれ、慣れてきた仕事をこなしていく。テーブルの片付け、セッティング、配膳準備、店内清掃…

「ミネさん、これはどこに納めたら…」
「それはカウンターの棚の方、右下」
「あざすっ」

勉強もバイトも覚えることばかりだが、一つ一つちゃんとやっていけば大丈夫と言い聞かせ忘れないように自分なりにメモを取っておく。

店内に目を配りながら、オーダーを受けたり、配膳したりと滞りなく止まらないように回すのはゲームをしているようで少し楽しい。

店内のお客様の様子を伺うのは、教室内の空気を読んでいる時の気分に近い。
目配り、気配り、心配りを意識して見渡す。

赤葦くんのお冷が減っているな、と気づきピッチャーを持って近づく。

「失礼しまーす、お冷、いる?」
「うん、ありがとう」

こくりと頷く赤葦くんはもぐもぐと雑穀米ブレンドのご飯を食べている。お冷を注ぎコップをテーブルの上に置くと赤葦くんの視線を感じて目を向けた。

「…??」
首を傾げると、赤葦くんはごくりと飲み込んだ後、真っ直ぐに俺を見て口を開いた。

「来月、○○体育館で地域住民のバレーボール大会があります」
「バレーボール大会?」
「参加メンバーが足りなくて、どうかな、と」
「え、俺っ?」

こくりと頷く赤葦くんになぜ俺?!と目を見開く。

「宮ツインズとバレーしてたってこの間聞いたから…」
「いや、俺は本当に遊び程度にしか…侑からも毎回下手くそって言われてるレベルだよ?!」

「宮侑から見れば大勢が下手くそに見えるのでは…」

「まぁそれはそうなんだけど!俺バレーぜんっぜん出来ないし…」

「大丈夫。ママさんバレーよりも緩いイベントだから。俺も母親から人を集めろと言われてしまい、人集めに奔走してる状態…」

先輩にも声をかけたけどスケジュールが合わなくて中々集まらないという赤葦くんにお気持ちお察しします、という気持ちになる。

イベントの日を聞くと予定もないため参加はできる状態だ。

「人助けと思って参加してくれると…」
「う…俺がやったら投げたボールも受けたボールも全部変な方向飛んでいくけど…」

侑は『下手くそ!』と言いながらも、それでもキャッチして上げてくれるけど、俺がコート内でそんなことをしたら顰蹙を買うのでは…

「ふっ、楽しそうでいいんじゃないかな」

赤葦くんは想像したのか口元を少し緩めた。ちょうど良いチームバランスになるように俺も入るし、と付け加える。

「どうでしょうか。言い方を変えれば、道連れとも言えますが」

赤葦くんの凛々しい表情に少し好奇心が湧いてくる。赤葦くんはどんなバレーをするんだろうか。すごいと思った彼のバレーを間近で見てみたいと思ったのも少しはある。

「下手くそだし…ぶっつけ本番は緊張するというか…」
「練習なら付き合うよ、毎週体育館でやってる」
「……それなら」

満足そうに笑った赤葦くんはご馳走様でした、と手を合わせた。

「これ、連絡先」

小さな紙に書かれた赤葦くんの連絡先を受け取る。

「ありがとう、助かったよ。また詳しいこと連絡する」

手の中にある紙を見つめ、少し不安に思う気持ちを吐露する。

「俺、ど素人だけど大丈夫かなぁ」
「大丈夫、交流メインの緩いイベントだし、もう一人道連れにしてるから」
「もう一人?」
「当日来ると思う」
「ってことはバレー経験者?」
「うん、春高も出てた」

「?!?!ま、じで?!いや、でもそれぐらいのレベルの人がいてやっとバランスがとれるかも…俺本当に下手だからなぁ…」

「楽しむのが一番、」

微笑む赤葦くんに、不安と緊張で少しドキドキするが練習に付き合ってくれると聞いたおかげで安心して頷いた。

お会計を済ませ赤葦くんを見送った後も忙しないバイト時間はあっという間に過ぎていく。

「お疲れ様でしたっ」
「おー、気をつけて帰れよー」
「みょうじくん、今日もお疲れ様〜」

ミネさんとオーナーへ挨拶をしてロードバイクに乗る。

夜風を頬で感じながら、赤葦くんから誘われたバレーボール大会について考えていた。

少し不安もあるけど楽しみだなぁ…。

侑達と体育館でバレーをして遊んだ日々を懐かしく思い、自然と笑みが生まれる。

帰ったら侑に伝えよう。何て言うかな。
『下手くそなんに大丈夫か?』とか言われるかな、と想像して笑った。



▽


『……もっかい言うて?』

「え?聞こえなかった?」

『いや、ちゃうねん。聞こえとったけど、俺の幻聴かもしらんし、確認しときたい。もっかい言うて?』

「だから…赤葦くんとバレーボール大会に『んんんんっっ!!』お?どした?」

『どした?じゃ、ないわ!!何でそうなるん?!ちゅうか赤葦クンなに?!通い始めた、てなに?!』

侑の反応は予想していたものである。拗ねるか面白くなさそうな反応をするか。そんなところを一応想定していた。

「いやあ、お店のファンが増えて嬉しい」
『嬉しいけど!嬉しいけども、や!!』
「けど?」
『何で連絡先交換するんっ?!』
「だってバレーボール大会出るから…」
『何でバレーすることになっとん?!』
「人が足りないそうで…」
『はぁぁ、押しに弱すぎる…』
「それと、侑とバレーしたことあるって話から派生した」
『ぐっ、まぁ仲良いアピールはええけど!ええけどもぉっ!』

何でバレーしようってなるん、意味がわからん、目が合ったらバレーか?目が合ったらバトルと同じやん、ポ○モンか?とブツブツと言っている。

「はぁ…俺下手なのに大丈夫かな…」
『大丈夫ちゃうやろ』
「侑みたいに俺の変なボール取ってくれる人いなかったらまじで泣くかも…」
『…そんな奴おらんやろ、勝つためならどんなボールでも拾いに行くし』
「…そうだよな、侑でも拾いに行くくらいだし、心優しい誰かが拾ってくれるよな…」
『おい、俺が優しくないみたいな言い方すな』

侑の声に少し悪戯心が湧いてくる。

「…優しい?」
『優しいやん』
「どこが??」
『……』
「俺忘れてないからな?侑のせいで風邪引いたの」

きっと俺の言っていることがいつの出来事か分かっているだろう。卒業前に男子寮で喧嘩した時、雨の中の置き去り事件…。

『あ、れは…っ!……なまえが悪かったし!』
「だからと言って雨の中置き去りにしますぅぅ??」

寒かったし、ズキズキしたし、最悪だったと付け加えると侑がぐぅぅと唸った。

『あの後、ちゃんと栄養あるもん持ってったやんか!』
「治を装ってな」
『っ!!!』
「プリンもな」
『っ!!!』
「挙句の果てにいきなりマウストゥーマウスしてくるし」
『っ!!!うっさい!はーー潰したい、まじでシメたい』
「うわっ、バイオレンス!暴力反対!」
『自分のせいやで?ひどくさせるん自分が原因なん知らんの??』
「はぁっ?!責任転嫁っ。ひどい奴だわ」

『しゃーないもん、なまえのせいでひどいだけやもん。本当の俺は心優しい紳士やし』

「心優しい紳士が毎回シメてくるわけないじゃん」
『なまえ限定や』
「最悪」
『でもそんな侑クンが好きなんやろ?諦めて?』
「好きじゃないし」
『あ??』

いきなり声のトーンが落ちる侑が面白くてケラケラと笑うと遊ぶな、と苛立ったような声が聞こえてくる。

「うそうそ、好き好き」

軽快にノリに合わせてさらっと言ってみる。

『侑クンが好きすぎて困る?そやろな。分かるで』
「いや、そこまで言ってねえし」

噴き出す俺に侑は続けた。

『会いたくて堪らんやろ?』

ふふん、と鼻を鳴らす侑にノリで否定しようと思ったが留まった。少し考えて、小さく肯定してみる。

「……うん」
『………』

続く沈黙に侑の声が返ってこない。

「……あつむ…?」
『……い、きなりデレんなっ!!』
「デレてないし…」
『ほんま、離れとるんええことに煽りまくるんやめてくれる??爆発しそうなんやけど』
「ふはっ、何だよ爆発って」

『……何でそんなこと言いながら他の奴と遊ぼうとするん?彼氏と会いたいのに他の奴と遊ぶとか完全に言うとることとやっとることちゃうやろ?』

「ええ?ただの遊びじゃん」
『…嫌や』

不貞腐れたような声でぼそりと言う侑にこそっと笑う。

「何が嫌なんだよ」
『他の奴と遊ぶの』
「そんなこと言ったら遊べないじゃん」
『……嫌や』

嫌しか言わねえ!半端ない束縛系だ!
度を超えた侑のイヤイヤに逆に面白くなってきた。どう返そうかと頬杖をつきながら考える。

「健全な遊びなんだし良くない?」
『いつか不健全になったらどないするん』
「ぶはっ、なるわけないだろ!」

『自分ほんまチョロいの分かっとん?お前当てられたらイチコロやろ?……あぁぁぁ簡単に想像できるところがあかんっっ』

「だからぁ、俺にそんな言ってくる人いないって、18年間生きてきて…」

侑しかいなかった、と口に出た言葉は恥ずかしくて少し小さな声になる。

『……まぁそやろな。ふっつーのなまえに言い寄る奴なんて滅多におらんやろな…けどぉ!一人二人おるかもしれんっ!』

ぶうぶうと不満そうな侑にトドメの一発を入れてやろうと通話口越しに含み笑いをした。
こういう何かを企む時は普段は言えないこともするっと言えてしまうから不思議だ。

「いたとしても俺は侑しか見てないよ。
…だってこんなに好きになったの侑が初めてだもん」

どう、だ…っ。
俺の渾身の一撃…!侑の顔を見れないのが残念だがきっと効いているはず…と信じたい。
息を飲む音が聞こえた後、無言が続いた。

「おーい」
『…………寝る』
「はっ?!わかった、照れてるんだろ侑クン〜っ」
『うっさい!寝る!』

プツ、と切られた通話はピョロンと情けない音で終了した。

「…え、あいつマジで切りやがった…」

何だあの反応は…まぁいいか。俺の一撃が効いたと思っておこう。

みょうじなまえ〘おやすみー〙

メッセージだけ送り、俺も寝ようかなと両手を伸ばす。欠伸を噛み殺した時、着信音がなった。画面を見れば宮侑の名前が表示されている。

「侑?」
画面をタップして通話に出てみる。

「なに?寝るんだろ?」
『遊ぶの……』
「ん?」
『………毎日好きって言うなら許すぅ』
「………」

いやいやいや、束縛系彼女を超えてほんのりヤンデレメンヘラ要素入ってきてないか?!

「む、無り『無理なら許さん』」

ええええぇぇ??

「毎日ぃ?」

毎日好き、とか恥ずかしくて無理だろっ
あれか、スタンプとか押しておけば『スタンプとかで誤魔化すん許さんから』……、条件厳しいな、おい!

携帯の向こうでは折れそうにない雰囲気が伝わってくる。
これでこのまま、赤葦くんと遊んだらキレるんだろうなぁと思うと侑の要望を飲み込んだ方がまだマシだ。

「はぁ…わかった、…好き!」
『……むぅ、よかろう』

よかろう、じゃねえ!
満足そうにむふむふと笑う侑に「これで満足ですかぁ」と聞いてみる。

『満足?んなわけないやろ。足りんわボケ』
「はぁぁ?」

愛が足りないという侑に肩を竦めた。
バレーと同じように自分が120%出すから、同じように返せと求めるところは変わらない。

うちのセッターはわがままで困るなぁとため息を吐く。

『あ?なんや?不服か?文句あるんか?』
「いーえ、侑さまの仰せの通りにぃっ」

わがままだけど憎めない、耳を傾けてしまうのは惚れた弱みなのかもしれない、と唸る侑に笑い返した。

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