6月末 体育祭当日。天候は晴れ。
いつも通り朝練を終えた後、自転車で学校に向かう。
今日の祭り事に生徒のテンションも高く、すでに体操服に着替えている人も多かった。
頭にハチマキを巻き、手鏡を見ている女子が目立つ。校内の大きなイベントの一つでもあるし、今日は授業もないため、生徒達のテンションが上がるのも無理はない。
俺は一日応援ブースのテントの中で穏やかに過ごせればそれで良いんだけどな。
体操服に着替え終わった教室内は非日常的でいつにも増して騒がしい。体育祭は全校朝礼のため、グラウンドに集合する。
整列している2組の後ろ側にひっそりと立っていると、隣に侑がやってきた。黒色のハチマキを手にしている。
俺はというと、頭には巻いてなくて首輪みたいに首に軽く巻いている。
「ん、」
侑から俺の目の前に差し出された黒のハチマキ。
出された黒のハチマキを見下ろして、侑を見上げる。
…結べ、ということか??
おい、「ん、」じゃ分かんねえだろ!
侑の手から黒ハチマキを取ると、背中を向けてきた。こいつ…さも当たり前のように…。
身長差があるから、侑の頭に結ぶには腕が辛い。
「侑、屈めよ」
「はぁ?これやから身長低いんは困んねん」
空気椅子や!と言って手を伸ばして膝を曲げる侑に、周りの人たちがクスクスと笑う。
ウケも逃さず狙いにいくコイツは本当に……!!
「低くてっ、悪かったな!」強く縛ってやる!
「きっつ!頭ちぎれるわ!」「ちぎれんわ!」
隣の組の人まで笑っている。注目されることに慣れていない俺は恥ずかしくて素早くリボン結びをした。
終わったぞ、とパシッと肩を叩く。
「あー、辛かった」
空気椅子を解除して一気に俺より高くなる目線。
「宮くん可愛ええ〜」「後ろリボンやー」
女子の声に侑が後ろに手をやる。
「あっ、お前何でリボン結びやねん!」
「すっげぇ綺麗に出来たから崩すなよ。勿体ない」
我ながら上手に出来すぎて何かのお手本かというぐらい綺麗なリボンが侑の頭で出来た。
1組の列の後ろ側に治と角名もやってきた。
「ぶはっ、なんやねんツム。後ろ可愛ええやん」
「なまえにやられたんや!」
「みょうじ貸して。俺が結んであげる」
角名が俺の首に掛かっているハチマキを指差した。
「いや、自分でできるし」
「まぁまぁ。遠慮しないでよ」
ニヤリと笑う角名が怖い。何か絶対企んでるだろ。渋々、角名にハチマキを渡して後ろを向こうとすると「あ、後ろは向かないでいい」と制された。
対面したまま角名が俺の頭にハチマキを掛け、おでこの上側で結び始めた。頭一つ分違うため、俺は屈まなくてもいいのが悔しい。
「おい、前向いて結ぶとか普通におかしいだろ、つか結び目の位置がおかしい!」
ニヤリと笑う角名に俺の頭はどんなことになってるんだと恐ろしくなった。
「できた」
双子が覗き込んできた。
「ぶっは、なんやこれウケる!」
笑う双子に俺は恐る恐る手でハチマキを触る。
頭の上部には固く結ばれたリボンの手触り。
「魔女の/宅/急/便やん!」「似合わん〜!」
ゲラゲラ笑う双子を睨む。
「2組の宅急便や。仮装大会やん」
ニヨニヨと笑う治に笑顔で声をかける。
「おい、治。俺が結んでやるぞ?」
「ええて。遠慮するわ」
「いや、任せろ。俺リボン結び得意なんだわ」
治の赤いハチマキを取ろうとするとひらりと翻って俺の手を避けた。
「遠慮すんなってー」
「絶対にええ事にならんわ」
「大丈夫、大丈夫!俺みたいなのにはしないから!」
逃げる治の腕から侑がパシッとハチマキを取り上げた。
「あっ、ツム!」
「よくやった!」
してやったりと笑う侑から赤いハチマキを受け取り、治の肩を優しく下に押す。
「よし屈め。で、前に向け」
「前向きな時点でもうおかしいわ」
どうだ、俺の気持ちがわかったか、と言わんばかりに治の頭に赤いハチマキを巻く。
俺は黒色だからそこまで目立たないけど、赤色は目立つ。治の髪色なら更に映える気がする。
リボン結びを片側に寄せて小さくちょこんと作った。
「よし、やっぱ俺のリボン結び綺麗すぎるな」
「治!お前キ/テ/ィちゃんやん!」
某リボン付きネコのキャラクターを彷彿させるハチマキに角名も肩を震わせた。
「治くん可愛い〜」「みょうじのは何か…微妙やんね…」
女子に可愛いと言われてにこりと笑う治。こいつ、自分の顔の良さを分かってやがる…。
そして女子の微妙という言葉に俺はぐさっと傷ついた…。
「なまえも可愛ええやん」
ニヤニヤと笑いながら言う侑を睨んだ。
俺は普通で良いのに角名がやってきたんだわ!やっぱり、後で侑のハチマキもキ/テ/ィちゃん結びにしてやろうかなと思った。
そうこうしていると、マイクが入り朝礼と開会式が始まった。
関西の高校だけあって先生も生徒もノリツッコミのサービス精神が旺盛でキレキレの話は聞いているだけで面白い。
くすりと笑っているとあっという間に開会式も終わり応援ブースのテントに入る。
障害物レースや女子だけの種目がスタートする。
盛り上がる生徒たちの中で俺も応援をする。特に得点や勝敗を気にしていないため、どこの組が勝っても楽しく見ているが、応援団や実行委員会等の本気のヤツらは声援がすごい。
「次の二人三脚出る人、集合〜!」
招集がかかって集合場所へ行こうと周りを見る。
あれ?一緒に走る宮地くんどこだ?
まあ集合場所に行けばいいか、と行くも彼の姿は見当たらない。キョロキョロと周りを見ていると「みょうじ!」と声を掛けられた。
「おう、茶川も二人三脚?」
「せや。誰と走るん」
「放送部の宮地くんなんだけどな、見当たらん」
そこにダッシュの宮地くんが見えた。ホッとして手をふる。
「お、宮地く「みょうじくん堪忍な!」え…?」
「今放送部に人、おらんねや!さっきの種目で負傷者出てん!俺、抜けるわ!」
「えっ、えっ」
「代わりの人、探してくれ!すまん!」
そう言って宮地くんは放送席にダッシュで戻っていく。後ろ姿を見て立ち尽くす俺。
「みょうじ…人探さな…一人で走るんか?」
ハッとして茶川を見る。
「二人三脚、もう出られるー?」
実行委員の声に焦る。人を、人を用意せねば…!
とにかく同じ組なら誰でも良い。
ダッシュで自分の組のテントに戻る。他の人と談笑している侑を見かけた。
「侑!!」
俺の声に気づいて侑が振り向く。
「なん?」
「来てくれ!」
侑の腕を引っ張る。
「え?なに?」
「二人三脚の宮地くんが出られなくなって、そんで、代役!」
「俺ぇ?走りにくいんとちゃう?」
確かに身長差を考えるとキツイ。でも…
「仕方ないだろ!お前しかいないんだもん!」
こんな無茶なお願いを言えるのはクラス内では銀と侑くらいだ。銀は次の種目の借り物競争に出るし、空いているのは侑しかいない。
侑が俺の顔を見て、ふふんと笑った。
「しゃーないなあ。侑くんが助けてやるか」
小走りで集合場所まで戻る。茶川が戻ってきた俺と侑を見て笑った。
「その組み合わせかい」
「この際誰でも良い!」
「はぁ?来てやったんや、本気で走るで!」
入場門から、音楽と共に入場する。
『次は二人三脚です!息ピッタリ合わせて頑張ってください!僕も出る予定でしたが急遽、ここでマイクを握っています!2年2組のみょうじくん!すまんな!』
公開謝罪をされて会場がドッと笑う。
うん、宮地くん、全然許すから!俺の名前は言わんでいいぞ!
『二人三脚は色組別に1年から3年へとバトンタッチして行きます。それでは、各組の選手はスタート位置についてください』
赤、白、黒、緑。それぞれの色のハチマキを巻いた二人組がレースに横並びになる。
俺は待機場所で侑と並ぶ。俺の右足と侑の左足に黒色のハチマキを巻いた。
「ちょっと緩めにしたらいけるかな」
「歩幅ちゃうねんから大きく走ってや」
「侑に合わす前提かよ!」
「どっちから出す?」
左足?右足?と話しているとあっという間に順が巡ってきた。
「次、黒組の2年2組〜!ここ〜!」
実行委員の声に侑と足を引きずりながら位置につく。
「あっ、おい、コケるコケる!」
「左から言うたやん」
2人で肩を組んで歩くも、そもそも肩を組むのも体格差ゆえに俺には辛い。
仕方ない、これはもう腰に手を回すしかない。
2人でレーン上に並ぶ。後ろから迫ってくるバトン。黒組は白組と接戦で来ていた。一年生の女子ペアからバトンを受け取る。
「せーのっ、」
左足から出すかと思えば、俺の左足も引っ張られて前につんのめる。
「ぎゃっ!」
倒れるかと思ったら、侑が俺の体をぐいと支えた。
『おーっと!黒組の2年2組、体格差があり苦しいか?!みょうじくん、行き当たりばったりの相手と息合わず?!白組、今のうちに進みます!』
「言うてくれるやんか…」
侑がピクリと眉を上げた。
「おま、左って、」
「俺の左、こっちやん」
「だぁっ、そうだけど!わかった、じゃ、こっちからな」
「「せーのっ!」」
今度は一歩を上手く出せた。
「いっち、に、いっち、に、」
足元を見ながらたどたどしく進む。
前には先行した白組の背中が見える。
「いっち、に、、「なまえ、あげるで」は?」
いきなり侑がリズムを速くした。
こいつ〜〜!
辛うじて、俺も速く足を蹴りだし合わせる。
『おおっ!黒組追い上げてきた!』
速い!速いんですけど!
宮地くんと練習した時の速さより断然早いんだが…。
侑は普通に走るも俺にはキツイ。ただ、ある程度のスピードに乗れば後は脚がまわってくれる。
そのまま白組を追い抜いて次の組にバトンを渡した。
『おおー!逆転!』
「はぁっはぁっ、はやっ」
「うぇーいっ!」
バトンを渡し終えコース上から退ける時もスピードを落とすタイミングが合わないとつんのめってしまう。
「うぉっ」
またもや、侑の脚に引っ張られて倒れそうになった。手を出して受け身を取ろうとしたが、侑の腕が俺の腰を掴んで支えたため転けずに済んだ。
「1着〜」
「おま、ハチマキ!外すからストップ!」
足元にしゃがみ込み、結んでいたハチマキを解いた。
「まじで無茶する…!」
「助っ人で貢献したったんや。文句あらへんやろ」
遠くで宮くんカッコええという女子の言葉が聞こえてくる。
「はいはい、あざーす」
「なんや可愛くあらへんな」
侑が俺の頬を挟む。
「おい、ひゃめろ」
「あかん、更に可愛くないものを製造してもうた。頭のリボンにこの変顔は悲惨や」
パッと手を離す侑を睨む。自分でやっといて言うな!
「あはは、二人とも速かったなぁ」
ゴールした茶川が寄ってきた。
「大型犬に連れ回された感じ」
「ふは、みょうじめっちゃ大股で辛そうやったわ」
思い出し笑いをする茶川を肘でつついた。
「この身長差だとそうなるだろ、足の長さが違う!」
「まあそうなるよなー」
二人三脚は無事終わり、黒組は2位の得点だった。退場する時に、入場門の所で次の借り物競走に出場する銀と角名の姿を見た。角名はいつも以上に虚無感が増していた。多分借り物競争で何が出るか不安なんだろう。
テントに戻ってきて、やっと出番が終わったと一段落ついた。
もう今日はやることやったし、後はぼーっと見ておくだけでいいな。
「宮、助っ人お疲れ〜」
「おーきにー」
整地された地べたに侑と2人で胡座をかいて座る。
「次は借り物競走かー。稲高の借り物競走ってもはや仮装大会よな」
「ネタがそもそも普通のものやないねん。人とか、モノマネとか、何でもありやん」
「角名が何を引くか気になる。さっきすれ違った時、もう目が据わってたわ、あれは笑った」
二人でケラケラと笑う。
全力でウケ狙いを用意している実行委員会の借り物競争は見る方だと楽しい。
ピストルの合図で始まる。
それぞれがお題を引いて探し回る。ゴールする前に審判の体育祭実行委員長にお題と一緒に持ってきた人や物を見せないといけない。
『お題、「いっちゃん怖い先生」!うわぁぁ、君に幸あれ!行ってヨシ!』
生活指導の先生を連れてきて一緒に走る生徒に笑いが起きる。
『お題、「女装してゴール」!そのウィッグとスカートはどこから!?行ってヨシ!』
長い髪を
見てるだけには本当に楽しいんだよなあ。
治も隣のテントから来ていて、3人で集まって競走を見る。くすくすと笑いながら見ていると銀がコースに立った。
「お、来るぞ」
「あ、銀が引いた」
引いたくじを見て銀が青ざめた。
「待って、あいつ何引いたんだよ!」
青ざめる程のお題が逆に気になり3人で笑う。銀が3年生のテントに向かった。頭を下げて連れてきたのは北さんだった。
「北さん!まじか!お題何なんやろ!」
まさかの人選に3人のテンションも上がる。気になるお題は…
審判の前に北さんを連れてきて恐る恐るお題を見せる銀。
『お題!「怖いけど実は優しいと思う先輩」!さすがバレー部主将ー!』
「ぶっは、やばい!あのお題で北さん連れてくる銀強ぇぇ!」「さすがに強いわ!」
2人が爆笑している。
お題を読み上げられた後、北さんが首を傾げて銀を見た。
「『怖い』か?」
心当たりがないであろう北さんは真面目に疑問に思ってるだけだろう。不思議そうに尋ねる姿にひゅん、と二人とも息を飲んだ。
「あかん、銀よ。達者でな」
手を合わせる2人に笑っていると角名もくじを引いた。
「おっ!角名、何引いたんだろ」
「世界史の先生と手を繋ぎながらゴール、とかおもろいよな?」
「世界史の先生はやばい。破壊力半端ないやろ」
くじを見た後、角名が空を見あげた。その目は虚無だ。
「なあーっ、ちょ、なにあれ、腹痛ぇえっ!ひぃっ、ぶははっ、何あの顔!」
「何であんな絶望感醸し出してるんあいつ!」
「やばい、おもろすぎて、っ」
3人で爆笑していると角名がこっちを見た。
「ひぇーっ、困ってる困ってる」
他人の不幸は蜜の味、とは違うものの角名が途方に暮れている姿を見て面白くないわけがない。
お互いに肩を叩きながら笑っていると角名がこちらに走ってきていた。
「何でこっち来んだよっ」
笑いすぎて辛い。
2年のテント前まで来た角名が仏頂面のまま、俺の腕を取った。
「は?は?は?えっ、ちょ、助け」
まさか連れていかれると思ってない俺は笑いも引っ込んで双子を見る。
「あいつ連れてかれとるやん!ウケるわ!」
「やばい、ほんま何のお題なん!」
テントで未だ爆笑している侑と治がどんどん離れていく。
角名が俺を審判の前まで連れてきてお題を見せた。
『お題「お姫様抱っこでゴールする」!人の指定はないから、、おっけー!行ってヨシ!』
「はぁぁぁ???っうおっ」
いきなり横向きに抱き抱えられて思わず角名の首に腕を回す。
テント側からヒューヒューと黄色い声と笑いが起こる。
「角名っ何で俺なんだよ!」
「だって軽い奴って考えたらみょうじしかいなかったし」
角名は周りからの声にも表情を変えず、チベットスナギツネみたいな顔でゴールした。ゴール後にやっと降ろしてもらえた俺は顔を手で覆った。
「ぁああ、恥ずかしいいいい…っ!」
なぜこんな年になってお姫様抱っこをされないといけないのか。
「爆笑したお返し」
ニヤリと笑う角名に、こいつ俺達がさっき笑ってたの根に持ってるな…と唇を噛んだ。角名から離れてテントに戻ると双子はまだ笑っていた。
「絶望で佇む角名、からのお姫様抱っこのなまえとか笑いすぎて辛いわ!」
「お前ら…」
俺はとんだ巻き込まれだったわ、とため息をついた。
午前中最後の種目はクラス対抗リレー。侑と治は招集がかかり、テントから出ていく。
帰ってきた銀と角名。
「銀、最高に面白かったぞ」と声をかけると「俺は最高に恐怖やったわ」と返ってきた。
クラス対抗リレーの2年の部がスタートした。
2組の選抜メンバーをクラスの皆が応援する。
侑と治がレーンに出た。
「うわぁ、あいつら同じ並びかぁ」
1組も2組も競り合ってバトンが近づいてきている。
「これはもう双子対決やん!」
クラスの誰かが言った。
バトンが渡された次の瞬間、侑と治がスタートラインを蹴り出した。
「速ぇ…」
他の組を追い抜いてダッシュする2人は互いに互いのことしか見えてなさそうで絶対に譲らないという意志を感じる。
「あいつら、何したって競い合うもんなぁ」
小さい頃からそれが当たり前だったんだろう。
家族であり、
「飽きないよねー」
「あれが当たり前なんやろうな」
角名と銀と3人で競り合う双子を見る。
黄色い歓声と湧く会場を盛り上げてぶっちぎりでゴールした。
「で、結局どっちが勝ったんや」
結果、1組と2組は引き分けだったらしい。らしいなぁ、と笑ってしまう。
決着が着かなかったのが悔しかったのか言い合いながら帰ってきた双子に「昼飯!」と声を掛けるとすぐに終わった。
腹を空かせた怪獣達は走って教室に戻って行った。
***
体操服のまま、食べる昼飯はいつもと違う光景で新鮮だ。
イベント時、寮生は食堂のメニューが用意されるため、食堂で席についた。双子、角名と銀の5人で座る。
暑いなぁとハチマキを取ろうとすると、角名が止めてきた。携帯を出して、俺達にカメラを向ける。
自然とハチマキ姿でピースをする。
インカメにして角名も入れてもう一枚撮った。
ハチマキを外すと少しスッキリして首に掛けた。
今日は唐揚げ定食だ。ミニオムライスもついたメニューで治が嬉しそうに頬張っている。
「すげえ、このオムライス、ふわとろ」
「唐揚げ、うまいわ」
「やっぱ借り物競走がいっちゃんおもろかったわ」
「銀と角名が最高やった」侑と治の会話に頷く。
「角名のこの顔な…」
角名の真似をして、虚無の表情で上を見上げる侑。
それでまた思い出して肩が震えた。
「その
「……」
角名のフォークが俺の皿のウインナーを刺した。
「あぁっ俺の!!ったく。あー、でもあの顔撮りたかったわ。最高だった」
「来年は、絶対に、出ない」
角名は固い決意を決めたのか、来年は出場種目の話し合いで寝ないという目標を立てたようだ。
「まだ愛を叫ぶ、とかダンスとかそんなんじゃなくて良かったじゃん。それも見てみたいけど」
「いや、なんかそれは想像しただけで怖い。そう思ったらあれでよかったわ…」
「だろ。俺はよくなかったけどな」
「大丈夫やなまえ。ちゃんとウケとったで」
「大丈夫なわけあるか。俺のガラスハートはブロークンだわ。恥ずか死んだわ」
「銀の顔面蒼白も良かったわ。あれでよう北さんとこ行ったなぁ」
「いや、もうあのお題で出てくるの北さんしかおらんかってん」
「「わかるわぁ」」
昼ごはんを食べ終わり、午後からの種目が始まった。
各組の応援団が演目を披露する。
音楽とか掛け声とかすげえなあ、とテントから見ながら体育祭の熱を感じる。
去年よりも楽しい。それが率直な思いだった。去年も面白かったけど、過ぎ行く時間をただ見ているだけだった。
今年は爆笑したり、二人三脚を本気で走ったり、体育祭を楽しめている感じがする。
応援合戦が終わり、部活動の対抗リレーになった。
運動部と文化部別のリレーとなる。うちの自転車競技部は秋田部長と柴さん以外に、三分を含めスプリンターで短距離が得意な三年の先輩や一年が出る。
出場選手は皆、それぞれの部活のユニフォームを着用し、各部活の道具がバトン代わりとなる。
うちの部はドリンクボトルだ。
『それでは運動部の選手スタートラインへ!』
それぞれのユニフォームも色々あって面白い。バスケ、バレー、サッカー、野球部、テニス部、水泳部は肌の露出の方が多い。我らが自転車競技部もピチピチではあるが、陸上部も同じだ。
一斉にスタートして走り始める。
「頑張れ〜」
応援ブースから応援するだけというのは最高に楽で良い。茶川と二人で声を張って応援する。
「三分ー!ふぁいとー!ここが見せ場やー!」
「柴さんんん!!我らがエースぅぅ!!」
颯爽と走るクールな柴さん、女子の声が黄色い気がする。
「秋田部長、何て言う?」
「いつも喝入れられとるからな…めっちゃ言うたろ」
「バレたらヤバいだろ」
肩を揺らして笑うと茶川はニヤリと笑った。
「こんだけ賑やかなんや。聞こえへんやろ」
二人で笑いながら秋田部長にドリンクボトルが渡ったのを見る。
それぞれアンカーだ。うちの部活も健闘しているようで順位は中ほどだった。
「秋田部長ー!もっと脚回してー!!!走れー!!」
「
「もがけー!!」
「走り倒せーー!」
二人で大声で応援する。先にゴールした柴さんが吹き出してるように見えた。
結果、陸上部、野球部、バレー部、バスケ部、テニス部、自転車部、水泳部だった。
「なんやぁ、秋田さん抜かれてるやん」
「おい、そこぉ!色々と聞こえとったからなぁ!」
走り終わった秋田部長が俺らの方を指差して笑った。いや、目は笑ってない。柴さんは秋田部長の隣で静かに笑っている。
「うっわ、やっば!聞こえてたんかい!」
「あかん!練習で絞られるで!」
2人でギャーギャー騒いで「結局聞こえてんじゃん」と爆笑する。
体育祭の長い一日が終わって教室に戻った頃には喉が枯れていた。結構大きな声を出していたみたいだ。
「はぁー、疲れた」
机に突っ伏すとひんやりとしていて、体の熱を取ってくれる。
「今から練習や!」
バレーができると楽しそうな侑を見て元気だなぁと思う。
「ほな、また後でな」
後で、というのは寮で、ということだろう。軽く手を上げて教室を出ていく侑を見送る。
楽しかったな。今年の体育祭。
窓から見えるグラウンドには各組のパネルが立ったままだ。俺は携帯を取り出して、並ぶパネル群の写真を撮った。
カメラロールを見て、今日角名が撮った写真や今撮ったパネルの写真を眺める。
楽しそうに笑う俺たちが画面には写っていた。
「…ふふ、」
来年の体育祭も楽しみだな、と思った。