ついに7月に入った。インハイまであと一ヶ月。
毎朝山を登るという自主練は欠かしていない。朝の山練にも慣れてきて、最初の頃よりは疲労感も少なくなった。
それでも眠いものは眠い。朝から運動して昼飯を食べれば眠くなる。
午後の授業で猛烈に眠くて、終わった瞬間机に突っ伏した。
次の授業まで10分、5分寝て、5分で次の教室に移動すれば…と頭の中で時間の計画をしているうちに意識が落ちた。
***
(宮侑)
午後一の授業が終わって移動教室。
むちゃくちゃ眠かったなぁと目を擦りながら次の授業の教科書を引っ張り出す。
席を立ち、視界入るのは机に突っ伏したままのなまえ。
(こいつ、まだ寝とるやん)
「おい起きやぁ…」
「…….」
「起きんやん。っしゃ、撮ったろ」
反応しないなまえを見て携帯を出した。
机横に座り込んでカメラを起動し、すやすやと眠るなまえの顔を写す。
笑いそうになるのを必死で堪える。
口半開きや。
座り込んだ俺となまえの顔は同じ高さになる。携帯からカシャッと音が鳴った。
「ん…」
なまえの目がぼやぁと開いて焦点の定まらない視線がカメラ越しに俺を見た。
「…ちろる…」
ちろる?
なんやお菓子か?と思ったら、なまえと同じ高さにある俺の頭になまえの手が伸びてきた。
「ちょっ、なんや」
髪の毛をふわりと触って、口元を緩めた。
「ちろるぅ…おまえ、、ふわふわ…かわい」
こいつ寝ぼけとんのか?!
力無いなまえの手が俺の頭をくしゃりと撫でてたかと思うと、顔を近づけてきた。
「うん…」
まるで飼い犬に顔を近づけてぐりぐりするかのように俺の頭にぐりぐりしてきた。
予想以上に近く、なまえの匂いが鼻を掠める。
なんやこれ!なんか俺、間違われてへんか!
「なぁっ、やめぃ!!」
なまえの手を払って立ち上がる。
「んぁ…?………、…?」
段々、覚醒してきたのか俺を見て瞬きをした。
「何…?」
「ち、ちろるとかなんやねん!」
「……!!今リアルなチロルの夢見てた!感触もリアル!夢の中で俺、撫でくりまわして…た…」
そして、俺の頭を見て悟る。
俺の頭がボサボサになっとることを。
なまえは自分の手のひらを見た。
「なっ、俺、今何してた!?はっ!?忘れろ!」
「なんやねん『ちろるぅ…』て!甘えたか?!」
「うるさい!飼い犬のことだわ!お前こそ何で顔真っ赤なんだよ!」
「はぁっ?!真っ赤なわけ!もうええ!」
「あっ、手にスマホ!お前っ、撮ったな…!消せ!」
「ちゅうか移動教室なんやけど!」
「はっ!そうだった!」
教室には2人しか残っていない。教科書を掴んでなまえと廊下に出た。
トイレから出てきた治とすれ違う。
「なんやツム。頭ぼっさやん」
「うっさいサムっ」
「何で顔赤いん」
「
走り抜けるなまえと俺にどっかの教室から「こら走るなぁー」と注意する声が聞こえてきたがそんな訳にも行かない。
「早く起こせよ!」
「優しい侑くんが起こしたわ!起きんかったんは自分やろ!」
「あ、まじ?それはごめん」
急に謝んな!調子狂うわ!
「ガチで眠たすぎて、つい…」
そんな眠気も今はどっかに行っているだろう。次の移動教室は遅れたら恐ろしい先生なのだ。
見えてきた教室の札。
チャイムの最初の音が鳴ったと同時にドアを開いて滑り込む。
「セーーーーフッ」
「はぁっ、はぁっ、っ、きつ」
「……揃いましたね。では始めましょう」
先生の舐めるような視線が痛い。
こそこそと2人で会話する
「あっぶねーーー!」
「ギリセーフやっ、」
くすくすと笑う周りを他所に俺はさっきのなまえを思い出していた。
頭を撫でられた感触が残っている。
髪を手ぐしで整えて、ぶんぶんと頭を振った。
『ちろるぅ…』
舌っ足らずななまえの声。近づいてくる顔。
胸の内がざわざわとする。
何なんだろう、この違和感は。早くなる鼓動は。
隣に座るなまえを横目で見る。
眠気は去ったのか、ノートを取りながら黒板を見上げたりしている。
普通の男子なのに。ドキドキする意味が分からない。変な感じだな、と気にせず俺も黒板を眺めた。
授業が終わった後、なまえが「写真を消せ」と言うので〘( ˘ω˘ ) スヤァ…〙というメッセージと共に治達との5人のトーク画面に送っておいた。
「おい侑!なんだよこれ!」
「スヤァ写真やねん」
角名倫太郎〘ねぇ、これいつのwwwwww〙
宮侑〘さっきの休み時間〙
角名倫太郎〘休み時間にこんだけ爆睡できるのある意味天才じゃない?のび太?〙
みょうじなまえ〘記憶から、消せ〙
「てかチロルって何やねん」
「…じいちゃんちで飼ってる犬。ゴールデンレトリバーでふわっふわ。人懐っこくてじいちゃんち行くたびにずっと一緒にいるんだよ。…なぁ、俺何言った?何も言ってないよな?」
なまえは自分が無意識に言ったであろう寝言が気になるようだ。
「ちろるぅ、ふわふわぁ、て」
「はい、もう言い。忘れろ」
「忘れられるか。犬に間違われてぐりぐりされてみ、衝撃やわ」
「うっ…だめだ。昼寝って怖いわ。何言うか、何するか分かんねえ」
自分の失態に身震いして頭を抱えるなまえ。
「せや。気をつけとき。俺はええけど、他の奴だったらド突いてたかもしれへんで」
「うっ…反省…」
あかんやろ。
あんなん、やられたらド突くどころか…。
何か変な感じになるっちゅうか…。
いや、変な感じって何やねん。
ああ、もやもやする。