26

「なんや焼けたなぁ」

休み時間に侑が俺を見て言った。

「今更?」

夏服から出た日焼けが目立つ自分の腕を見る。侑よりは焼けている。

「焼けとる部分と焼けとらん部分のコントラストが濃くなっとる気がすんねん」

じっと腕を見られ、そんな真顔で言われても…
「外、走ってるからなぁ」と返した。

「テスト、終わったらインハイだな」
「楽しみやなぁ」
「…すごいな侑は。俺は弱いから不安しかないわ。楽しみに思えるのは力がある証拠だな」
「今も試合もやることやるだけや。それしか出来ひんやろ」
「まぁな…」

タイムも良くなってきたし、春よりは走れるようになったことを実感しているとはいえ、不安要素は大きい。
初めてのインターハイ、3年生についていけるか、完走できるかさえも不安だ。

ただ、その前にテストがある。テスト週間の今、勉学に集中するように、とテスト前の部活動は休みが多い。あっても強制ではないし、短時間だけ。
うちの部もバレー部も休みらしい。

「放課後どうするん」
「俺は図書館でテスト勉強して帰るわ」
「ほな俺もそうしよ」
「え……まじ?」
「なんや、おかしいか?」
「侑がテスト勉強するとか、明日雨降るんじゃね?」
「失礼やな。俺だってする時はするんや」




そう言っていたのに、放課後の図書館、目の前でノートに突っ伏して寝ている侑はやっぱり宮侑だった。

「そもそもテスト勉強するって言った時点でおかしかったわ」
侑と治、角名と俺で学習机に向かい合って座っている。

「赤点取ったら補習なのにね」
「角名は大丈夫なのか?」
「赤点は回避する」
「赤点「は」が意味深、」

こいつらの脳内はバレーが占めすぎていて勉強の入る余地がないのでは…と心配になる。

ノートを開きカリカリとシャーペンを走らせ3時間、終わる頃には外は薄暗くなっていた。

図書館から出て、小腹が空いたと帰り道にコンビニでからあげを買ったら綺麗に1個ずつ食べられた。
というのも、コンビニから出てきた瞬間、口を開けて待っている3人が並んでいたからだ。

タッパのある奴らが口を開けて待っている光景を見た俺の気持ちは計り知れない。

「……おい、何で口開けてんだよ」
「唐揚げの入る場所、開けてんで」早く、と急かして口を開けている侑。
「あーん」美味しそうにからあげを見つめる治。
「………」 無言で口を開ける角名。

「〜〜〜っおまえらっ」
爪楊枝で唐揚げをぶっ刺して、瞬殺で入れていく。

「むぐっ」
「うまぁ」
「……、」
もぐもぐと食べる3人を横目に減ったからあげの箱を強く握った。

「俺のからあげっ!」
「なん?なまえもあーんしてほしいんか?したるで」
貸して、と手を伸ばす侑から唐揚げを守るように体を捻る。

ここでこいつに渡したら、あーんすると見せかけて食べられそうだ。

「いい、いい、自分で食べる」
「遠慮せんでええ、て。やったるで」
「ぎゃーーやめ!やめ!」
力づくで取られた。力ではどうしても侑に負けてしまう。

「はい、あーーん」
仕方なく口を開ける。侑が俺の口に持っていこうとした瞬間、ニヤリと笑った。

あ、こいつやっぱり……!
と思ったら侑の口に動こうとした腕を治が捕まえた。
ナイス、治。
と見ると治が口を開けて、侑の手からからあげを食べた。

「「あああああ!!」」
俺と侑が叫ぶ。
「うま」

「うま、じゃねえよ!」
「こんの豚サム!!」
「侑もだわ!お前食べようとしただろ!」
「サムに食べられたわ!」
「逆ギレすんな!」

俺の唐揚げ残り2個…。
侑から奪い取って自分で食べる。
うまぃぃ…。
そんな俺達のやり取りを動画に撮っていたようで角名がニヤニヤしながらトーク画面に送ってきた。

「北さんにチクってやる…!」

恨めしそうに言うと北さんがいない場だと強気の侑はなまえのものは俺のもの、なんて暴言を吐いている。

許すまじ三人衆…と思っていると後ろから凛と澄んだ声が聞こえた。

「見てたで」

こ、この声は…。俺の目の前にいる3人がギクリとした顔をしている、ということは…。
後ろを振り向くと、制服姿の北さんと尾白先輩が立っていた。

「き、北さん…」
「い、いつから…」
双子の信じられないというような声。
「………」
黙ってその場から去ろうと動いた角名を侑がガシッと無言で捕まえた。その腕を恨めしそうに見る角名。

「みょうじくんがコンビニから出てきて、3人が口開けとったとこ?からやんな、アラン」

「せやな」
「なんや雛に餌やる親鳥みたいで、面白かったわ」

くすりと笑う北さんに、「「き、北さんが笑った…!」」とクララが立った…!ばりに驚く三人。

「…で、みょうじくんの唐揚げやんな?」

さっきまでの微笑みが嘘のように、真顔に戻った北さん。声色が冷たすぎて7月の猛暑なのに一瞬涼しくなった気がした。蝉の鳴き声も小さくなった気さえする。

「サ、サムは2個も食いました!俺は1個だけ!」
「いや、量の問題か!」尾白先輩がツッコむ。

「すまんなみょうじくん。うちの連中が」

北さんから謝られると俺も弱い。だって、あの北さんだもの。バレー部主将でかっこよくて、冷静で、インハイ予選の時も背中を押してくれた北さんだもの。

「いえ、そんな…北さんが謝ることじゃ…」

謝ってほしいのはお前たちだよ!と目を見開いて3人を見る。

「だって、テスト勉強して腹減ったからしゃーないですやん!」
「腹が減っては勉強はできぬ!」
侑と治がぶぅぶぅと反論した。

「ほう、テスト勉強しとったんか。珍しいな」
「なまえが図書館行く、言うんで付き合うてあげたんです。唐揚げはそのお礼や!」

「いや、誰も付き合ってくれとか言ってないからな」
「こじつけすぎや」
尾白先輩も呆れたように言った。

「みょうじくん、堪忍な。これ、代わりにあげるわ」

そう言って北さんはカバンの中から菓子袋を取り出した。それは茶菓子の定番、最中の詰め合わせだった。

し、渋い…!
最中を持ってる男子高校生って何だ?!

「い、いいんですか…?」
「ええよ。最中、食べる?」
「た、食べます。ほうじ茶とか合いそう…」
「!ええねぇ。それも」

和やかな雰囲気で会話をしていると北さんは三人を見た。

「分かっとるよな?」
「「…はい」」
「見とるで。ちゃんと。仲良いのはええけど、程々にしいや」

北さんに釘を刺された3人は身を寄せたまま、双子は頷いている。

「あと三人とも、赤点とか取らんよな?」
「「と、取りません…」」
「うん、約束や」

じゃあ遅うならんようにな、と言って北さんと尾白先輩は帰って行った。

「「うぁぁぁ、」」
気が抜けたようにお互いの肩をガクガクと揺さぶっているツインズ。

「何であのタイミングでおるんや?!」
「怖い!俺はもう怖い!どこから出てくるか分からん!」
「神出鬼没すぎる…」

北さんが去った後の3人を見て、改めてバレー部主将の威力を思い知る。

「すげえな北さん…。北さん呼び出しボタンとかないかな…」
「なまえ、恐ろしいこと言うな!」
「名前を呼んだらまた現れるかもしれへん!」
「ヴォルデモートかよ」
「名前を呼んではいけないあの人や!」
「いや、だからヴォルデモートだろ」
「「あかんんん!」」

何こいつら。助けて尾白先輩。
飽和状態の3人を置いて俺も歩き始めると、三人も着いてきた。

北さんの「雛に餌をやる親鳥」の言葉を思い出す。確かに、と思って少し笑った。

後ろを歩く賑やかな双子とその後ろを我関せずとふらっとついてくる角名。やっぱり面白くて笑う。

「何、笑てんねん」
「唐揚げの恨み、覚えとけよ」
「もう胃の中やねん。忘れたわ」
「あー、腹減ったぁ」
「言うな!俺まで腹減ってくる!」
「今日の晩御飯のメニューなんやったっけ」
「ああ、余計腹減るぅぅ」
「つか、さっきの北さんの「見てたで」がもはや家政婦のミタの件について」
「あ、それ思ったわ」
「北さんが、家政婦…ぶふっ」
「おい、想像すんな!笑てまう…ぶふっ」
「やめろ!あの北さんを家政婦にするな!…ぶっ」

4人で騒ぎながら帰るテスト週間の帰り道。
インターハイまであと1ヶ月弱。

夏が始まる。

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