33

(宮侑)

「ふっふサム、見たかこれ!」

寮の部屋の中で治に月刊バリボー、通称月バリの見開きを突きつける。

その記事には『高校バレー特集 インターハイ、稲荷崎 最強の挑戦者 宮ツインズここにあり!』と書かれている。

インターハイ特集の中で準優勝の稲荷崎が取り上げられた時、俺らが最強の双子として載ったわけだ。

「俺の方が写真多いんとちゃう?!」
「アホツム、俺やろ」
「俺の写真の方がでかい!」
「こっちは俺が打っとる時やん」
「これ、俺のトスする時のや」

2人で雑誌の中の写真を見て自分の姿を探す。雑誌に乗るのは嬉しかった。オカンも喜んでいたし、稲荷崎がそして俺たちが有名になるのは自分でも誇らしい。

全国の猛者達が載る雑誌に、俺らもやっと大きく載ることができた。

もっともっと強なって有名になったるんや…。

見開きを見ながらワクワクした気持ちが収まらない。もっと皆に知って欲しいという思いも生まれる。

せや、なまえに見せたろ。
今部屋おるかな、おるやろな。

携帯を手に取り、トーク画面を開く。なまえに キャラクターが手を上げているスタンプを押した。
画面を見ていてもなかなか既読にならない。待つのも面倒なので直接部屋に行こうと思い立つ。

「なまえ呼んでこよ」
「何するん?」
「ええか、その見開きを開いたまま机の上に置いとくんや。ほんでさりげなくなまえに気づかせるんや」

やって、自分らで載ったんやって言うのは何かかっこ悪いやん。ああ、そういえば取材されたわ載ったんやなぁ、ぐらいの余裕があればかっこええやんな?

スリッパを履き自室を出て、なまえの部屋の前に向かう。
まだスタンプは既読になってはいないがドアをノックした。しばらくするとドアがゆっくりと開いた。

「侑?」
「おるやん。携帯。スタンプ送った!」
「ああ、課題してた」
「ちょい来て」
「は?」
「ええから、来て」
「え、何だよ」

鍵と携帯を持ったなまえの腕を引いて、部屋に戻ってくる。
なまえが治に 「何か連れてこられた」と声をかけた。
治は「いらっしゃい〜」とゲーム機を持って寝転がっている。

部屋はいつものようにボールやスポーツバッグが床に置いてある光景と机の上には開かれた月バリ。

「何か変わったとこないと思わへん?部屋ん中」
「いつもの光景だけど…。え、月一の部屋チェックの対策?何か隠してんのか?寮長に気づかれないようにしてんの?」
「ちゃうわ!」

訝しげに俺を見るなまえ。

「隈なく探してくれ!」
「何をだよ」

まーた侑の無茶ぶりが始まったわぁ、と言いながら部屋をウロウロするなまえ。

その姿を見てニヤけそうになるのを我慢する。せやせや、そこの机の上、気づけ!

ああっ、惜しい!壁とかそっちやないねん!机の上や!

「大体何を探すんだよ、部屋チェックっておかしいもの無ければ普通に合格するし…ん?」

なまえが机の前で立ち止まる。

おおおおっ!気づいたか?!

机の上に置かれた見開きの雑誌には俺と治が大きく写った記事が載っている。

机の上から雑誌を覗き込むなまえに今度こそ顔がニヤけた。

「…侑…と治…?」

きょとんとした顔で雑誌を見た後、見出しを読んだのかバッと顔を上げた。

「えっ、なにこれ?!」
「ふっふっ、月刊バリボー、バレーボール雑誌や。月バリ言うねん」
「えっ、雑誌…に、載ってる?!」

驚くなまえにええ反応や、とニヤニヤが止まらん。

「インハイの後取材があってん。何かー、普通に答えただけなんやけど、記事になったらしいわー」

何でもない別に驚くことでもない普通のことや、と余裕さを忘れずサラッと返してみる。

「すげええ、読んでいい?」
「ええよ」
床の上にぺたりと座り、俺たちの記事を読み始めるなまえ。

その目は真剣に一文字一文字を追っているようでそんななまえに、俺は目が離せなかった。

試合の俺達を、雑誌の記事を通して知る。なまえがどんな反応するか逃したくなかったというのが正しいかもしれない。

治も同じようで、ゲーム機は一時停止の画面になっている。治も横目でなまえを見ていた。

「すげぇ…」
なまえが感嘆の声を漏らす。

「バレーボールのこと、全然分かんないけどすげぇな…だってこれ普通に本屋で売ってる雑誌だろ?」
「せや毎月買うてる」
「日本の皆が見るんだろ?」
「まあバレーが好きな奴は見るやろな」
「すげえ…そんな雑誌に載ってるんだ…」

パッと顔を上げたなまえは目をキラキラさせていた。

「すごい!!」

なまえの目が俺を見る。
そのダイレクトな一言に、いきなり心臓が強く脈打った。嬉しくて、照れくさくて、むず痒いような気持ちになる。

「せ、せやろ」

そんな目で見られると何か照れくさくなってくる。思わず目を逸らした。

「お前らすごいなあ…!最強宮ツインズ…お互いに高め合う存在…」

読み上げながら、何これすげぇ〜とじっくり見ているなまえになんだか途端に恥ずかしくなった。

一通り読み終わった後、なまえはため息を吐いた。
「はぁ…次元が違う…」
ぼそりと呟いたなまえはまだ記事から目を離さない。

「同じ高校生なのに…全然違うわ。すげぇなあ…」
なまえは、静かに笑った。

「あっもう消灯の時間や」「やべ、見回り始まる」
バタバタと帰るなまえに「また明日」と声をかけた。

「ん、おやすみ!」

部屋を出ていくなまえを見て俺は充足感でいっぱいだった。

あの驚いた顔!あの賞賛、羨望の目!期待通りの反応で嬉しくて鼻歌まで出た。

「ご機嫌やなぁツム」
「あのなまえの顔、見たかサム」
「いっつも絡んでなまえ怒らせたり、笑かせたり驚かせたり、忙しいやっちゃなあ」
「あいつの反応おもろいやん。コロコロ変わるし、のくせして走っとる時鬼みたいな顔やし。ギャップやばない?」
「まあ確かにな」
「なんやろ、なんかクセになんねん。なまえの反応」
「意味わからん。寝るで」
「おやすみー」

俺は記事を見つけた時のなまえの顔を思い浮かべながら気持ちよく眠りについた。



***


翌朝、登校したら教室で囲まれた。

「宮、お前すげえな!」
「うちの姉ちゃんバレーしとったんやけど、月バリに載るのはやばい、言うてたで!」
「侑くん、かっこええわ!」
「月バリ出てた、言うて廊下に見に来てる人おったわ」
「宮くんすごいねー!」

スポーツ雑誌に載ったというだけなのにこの盛り上がりように朝から忙しい。
教室に来る前の昇降口から廊下までも色んな人から声をかけられ、大変だった。

「おーきにー」

囲まれている隙間からなまえが教室に入ってくるのが見えた。俺の周りの人集りを見て、一瞬立ち止まる。

どや、すごいやろ。人集りできてんねんで。

なまえも一緒になって「俺も昨日知ったんだよ、すごいよなぁ」なんて言ってくれるかと思いきや。

なまえは静かに机の上にリュックを置いた。なまえに気づいた生徒が「あ、ごめんね。邪魔だったね!」と退けようとした。

「あ、いいよいいよ。俺、まだ座らないから」

そう言って俺の顔も見ずに教室を出ていった。

…何やねん。面白(おもろ)くないなー。
期待通りの展開にならずちょっと残念だったが周りに持て囃されるのは悪くない。

クラスメイトの質問に答えたりと話をしていたが、結局なまえが席に戻ってきたのは朝のSHRが始まるギリギリだった。

飛び込むように担任と時間差で入ってきて席に座るなまえ。

「どこ行っとったん」
「ん、ちょっとな」
顔は向けるも、目は合わない。
「ふーん」

担任が入ってきて、SHRが始まった。

SHRが終わったあと、移動教室でも廊下を出て移動している途中に他学年や他組の奴らから声をかけられた。

なまえの所に行こうとしたが周りに来る人のせいで近づけなかった。

移動先の教室でも俺と隣になりたいという人が多くなまえは少し離れたところに座っていた。
いつもならこの教室は隣に座るのに、なまえも隣に来るのに、と思った。

授業後、教室に戻る途中、さっきの授業でなまえの隣に座った奴が「宮、すごいよなぁ。全校レベルで有名じゃん。他学年の人も来てたし」となまえに話しかけていた。

「おお、すごいよなー…」
昨日とは打って変わってすごいとも思ってなさそうな愛想笑い満載の顔。

「みょうじいつも一緒にいるじゃん!すごいよなあ有名人と仲良いって」
「はは…」
愛想笑い満載パート2。

は??なんやあいつ。ほんで、なんやその顔。

取って貼り付けたような胡散臭い笑顔で受け答えしている。

お前、俺のことすごいて言うたやんか。あれは嘘やったんか?

急にムカついてきた。
教室に戻った後、前の席座るなまえに声をかけた。

「おい」
「…なに?」

今日初めて目が合った。と思ったらすぐに目を逸らされた。

「今日、お前おかしいで」
「なにが?」
「何でそんな余所余所しいんや」
「え?そうか?いつも通りだけどな…」

いつも通りやったらそんな露骨に目ぇ逸らさんやろが!

「なんや俺の周りに人ばっかりおるから腹立ってんのか?しゃーないやん。月バリに載ったんやもん」

ふん、と鼻を鳴らすとなまえは首を振った。

「んなわけない。普通にすごいことだし、皆が集まるのも分かる。侑も治もすごい奴なんだから」

そう言われて返す言葉が詰まる。
ほんなら、何でそんな目も合わさんで、他人行儀なんや。

なまえはそのまま前を向いてしまった。面と向かってすごいと言われたのに、全然嬉しくないのは何でなんやろう。

その正体が分からなくて俺はもやもやとした。


***

「……」
「ツム、何でイラついてんねん」
「……イラついてない」
「糖分不足か?」
「ちゃうわ。豚サムと一緒にすんな」
「…あ?なんやて?もっぺん言うてみ」

昼休み、2組の教室内で治と角名、銀と飯を食べているとやっぱり月バリ効果は絶大で廊下には俺達を一目見ようと来る人が多かった。

「朝から人に囲まれて疲れとんのか?」

銀の言葉に俺は否定する。

「確かにええ加減静かにしてほしいけど、そんなんで疲れてはない」

「ほな、何で…お、みょうじ、席座るか?」

俺の机の周りに集まっていたから、銀がなまえの席を借りて座っている。教室に入ってきたなまえに銀が席を立とうとした。

「あ、いや、使っていいよ俺1組で食べるし」

「………」
黙る俺に治がチラリと俺を見た。

「なあなまえ、ツム何かあったん?授業中、寝とって当てられたとか」
「いや?そんなことはなかったよな?」
「……」
「こいつご機嫌ナナメなんや」
「皆から大人気で疲れたんじゃね?」
「それは俺も言うたわ」
「あ、まじか、ははっ」

銀と治と談笑しているなまえを見て、やっぱり何か腹立たしい気持ちになってくる。

教室を出ていったなまえと俺を見て、角名が「うわ、めちゃくちゃ面倒臭いんですけど」と呟いた。

「何が?」銀と治が首を傾げる。
「いや…糖分不足じゃなくて、ただのなまえ不足じゃん」
「はぁぁぁ??」
角名の言うことに俺が一番首を傾げた。

「何寝ぼけたこと言うとんや角名。なまえ不足ってなんやねん」
「ふーん。じゃあ俺の勘違いか」

何でなまえが出てくんねん。ちゅうか別にイラついてないし!

「何でみょうじなん?」
銀が頭にはてなを浮かべる。

「だっていつも突っかかるのに今、そんな感じしなかったし…」
「…なんかあいつ今日おかしいんやもん。ノリツッコミが成立せえへん感じや。スルーみたいな?」

暖簾に腕押しとでも言うのだろうか。話しかければ普通に話はするし、無視されているわけではないのに、目をあまり合わそうとしないし、避けられているような気になるのだ。

「ははあ、なるほどなぁ面倒いな」
「うるさい、お前ら面倒い面倒いて」

なまえ不足とか絶対あらへん、と最後まで否定して昼飯を食べた。


放課後、練習に行く前に授業のノート回収があり、回収係を教師に頼まれた女子がノート回収に回っていた。

「みょうじくん、ノート貰う〜」
「あ、はい、これ」
「おーきに」
「それ重たいよな、手伝おうか?」
なまえが女子の手に集まるノートの束を指差す。

「ええよええよ。大丈夫」
「了解」

「宮も〜」
女子からノートを出せと言われて渡す。
「ん、」

ノートを回収して去っていった後、なまえを見てぼそりと呟く。

「ええかっこしぃや」
「え?そんなんじゃないわ」

へらりと笑うなまえにまたもやもやとする。

「じゃ、お疲れ」

さっと手を上げて教室を出ていくなまえ。なんだろうこの違和感は。



部室で練習着に着替えた後、体育館に行き、準備してアップを始める。

練習でサーブがが上手く決まらず、何回もボールを叩いていると治が後ろから「調子悪いんか〜」と煽ってきたから思い切り睨んでやった。

何でやろ。
何かが上手くハマらない違和感。
なぜ?何で?

ボールを上げて目で追う。思い切り叩こうとした時、合致して腕の動きを止めた。

そのままボールがポン、と下に落ちる。床をバウンドしたボールをキャッチして拾った。

「わかった…」

違和感の正体。思い返す今日のなまえの様子。
あれはクラスの奴らと『同じ』だったんだ。
話しかけると 愛想良く会話はするけど、どこか距離を取っているようなそんな感じ。
笑うけど、あんまり目を合わせない、当たり障りない会話、反応…。

わかった。いつものあいつは遠慮なく俺に言い返したり、からかってきたりする。

ノート回収の時だって ええかっこしいや、と言ったら、「侑のほうがチャラいくせに」とか「侑に言われたくはない」とか言いそうなのに。

へらっと笑ってやんわり否定しただけだった。
余所余所しいと感じていた原因が分かった。距離を取るようななまえの態度だ。

…何でなん、ムカつく。

原因が分かれば生まれるのは なぜだ?という感情。

今日は皆から持て囃され気持ちよかったのに、たった1人アイツの態度で心の隅にコブが出来たみたいにすっきりしない。

思い切りボールを叩いた。

今日初めて決まったサーブとは裏腹に俺の中の 何で?は深まるばかりだった。

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