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10月に入り朝は涼しくなってきた。

朝練の山を登る時間はまだ暗く、茶川三分と3人でロードバイクのリアライトを点け登る。後ろから来る車にも分かるように、赤いテールライトをつけ目立つように反射材を腕に巻いておくのも必須だ。

登りきった後、熱くなった体を頂上で冷ます。

「最後のレース、関東勢悔しそうやったなぁ」
茶川がボトルの水を飲みながら笑った。

「うん、勝った後の柴さんが勝って当然って感じで余裕だったから、余計な」

「囮とアシストとエースの本領発揮でバチッと決まるとあないにレースをコントロールできるんは最高やったな」三分が直線勝負気持ちよかったーと笑った。

「本当だな…」

9月末に開催された有名なロードレースで柴さん、秋田部長はワンツーフィニッシュでゴールした。

俺達2年も上位に入れたし、稲荷崎の圧勝とも言えるレースだった。というよりは柴さんが無双していた、に近いか。

引退した3年生が置いていってくれたレースでの走り方。それを経験した俺たちは次のビジョンが見えている。

「結局追い出しライドも無双されたし、やっぱ部長らには敵わんわ」
三分の言葉に頷いた。

「あの背中を追い越せないのが悔しい…。やっぱ強いよなぁ」

自転車競技部の次期部長は茶川になった。
副部長は三分で俺は新生自転車部の誕生に新鮮な気持ちと3年生がいないという心細さの両方を感じていた。

「もう、3年生はいない…俺たちで勝ちにいかなきゃな」
「せやな。絶対的なエースは次に進んでいったからな。俺らに出来ることは強くなることや」
さすが部長。頼もしい茶川に密かに微笑んだ。

柴さんは自転車を続けるために、部活引退後はアマチュアチームや大学生との練習に混ざってトレーニングを続けていくらしい。秋田部長は進学のために勉強に専念すると言っていた。

俺たちも進まなければいけない。

「地べた這いつくばって頑張らないとなあ…」
「みょうじ、ドMなん?」
「違うわ。茶川こそキツい練習好きだろ」
「ちゃうわ」
「いや、でもほんまドMじゃないとこんなキッつい練習毎日やってられん気ぃもするわ」
三分の呟きに3人とも目を合わせる。

「「「……」」」

俺たちはドMなのか…?
3人で深刻な表情をして顔を見合わせた後、吹き出した。

「うしっ、降りよう」
「ん、冷めきらんうちに戻ろか」

朝練が終わり、学校に登校すると周りは一気に文化祭一色になっていた。

近づいてくる文化祭、展示物の準備があったりと何処も彼処もいつもとは違う光景だ。

俺達の組も模擬店のたこ焼き販売と舞台の『稲荷崎新喜劇』の準備が始まっている。

部活の時間を削って放課後1時間は準備に当てたりと、この時期は変則的な時間割だ。



午後から6時間目と放課後の時間を使って文化祭の準備時間に当てられた。

銀は調理担当で家庭科室で試作を作っているらしい。

角名と店の看板を作成していると店長役の声が聞こえてきた。

「今日買い出しに行ける人誰かおらん〜?」

サボんなよと携帯をいじり始める角名を目で制しながら、ペタペタとガムテープを貼る。

「なあみょうじくん、」

名前を呼ばれて振り向く。
「ん?」
「買い出し、佐倉さんと一緒に行けんか?」
「ああ…うん、良いよ」

頼まれやすいのかこういう事はよく声を掛けられる。断る理由もないしな、と引き受けた。

「角名、これ後全部よろしく」
「え、無理」
「俺買い出しあるもん」
「じゃあなまえが戻るの待ってる」
「いや、やっとけよ」

倫太郎くん頑張って、と応援して教室を出る。佐倉さんと合流して廊下を歩く。

佐倉さんとは前に侑に彼女がいるかいないかを聞かれた時からちょこちょこ話をするようになっていた。
あの時は彼女いないらしいよと返したが、あれからどうなったのかは知らない。

「佐倉さん、舞台側に行かなかったんだ?」
「うん…宮くんいるし…恥ずかしいし」

照れくさそうに俯く佐倉さんに、侑と同じ舞台に行けば接点も増えるだろうにそういうもんなのか、と思った。
廊下をバタバタと走る足音や賑やかな声。文化祭だなぁと感じていると横から手が伸びてきて肩が重くなった。

「なまえ〜、どこ行くんや」
「うっ、侑…。買い出し。佐倉さんと」

そういうと、俺の影で気づかなかったのか俺の横を覗き込んで佐倉さんを見る。

侑と佐倉さんでは身長差が大きい。俺でさえ身長差を感じるのに、俺よりも低い佐倉さんは更に見上げるようになるだろう。

侑に見られて頬が赤くなっている。
「…2人でぇ?」
「うん。たこ焼きの材料の買い出し。重たい荷物持つの大変だろ」
「出た、なまえのええかっこしいや」
「違うわ。…佐倉さん、美術部だから看板とかデザイン考えてくれてんの。そんな大役してるのに買い出しまでして荷物持たせるわけには行かないだろ」
佐倉さんの良い所を侑に伝えようと頑張ってみる。

「ふうん」
「みょうじくん…っ、も、もうええから、行こっ!」
袖を引っ張られて、ゆでダコ状態の佐倉さんに気づいた。
「あ、うん。じゃ、そっちも頑張れよー」

侑の腕から抜け出してヒラヒラと手を振る。侑がじっと見ている。佐倉さんに興味を持ってくれただろうか。

「ごめん、余計だった?」
「いや、う、嬉しいです、けど、恥ずかしい…」

顔を赤くして困ったようにしている。

侑のこと、好きなんだなあ。
こんなに女子にモテるなんて、同じ男として羨ましいとも思うが自分が凡人であることは自覚しているのですごいな、という感想しか出てこない。

なんたってベースが違うのだ。顔も身長も体格も。比べる気にならないし、比べたところで悲しくなるだけだ。

買い出しの帰り道、荷物を持ちながら学校に向かっていると佐倉さんが口を開いた。

「宮くんて、寮だとどんな感じなん?」
「寮?えー、別に学校と変わらないけどなあ。朝、寝癖のまま食堂にくるとか?」
「寝癖!可愛ええなあ」くすりと笑う。

学校の敷地内に着いて、並んで歩く。
「後は…課題の邪魔してくる」
「じゃ、邪魔?!」

「うん、何か部屋にいきなり来て『暇や〜ゲームしよ〜』とか言って。あいつ勉強してないから、その次の日当てられる直前になって俺に聞いてくんだよ!前日に準備しとけよ!ゲームしてる場合じゃなかっただろ!って言うんだけど侑が聞くわけないよなー」
遠い目で空を見る。

「ふふふ、想像できるわぁ」
口に手をやって笑う佐倉さんに俺も笑ってしまう。

「教えてくれてありがとう」
嬉しそうな佐倉さんに少し心が温かくなった。応援したい、何か手助けしてあげることが出来ればな…。

買い出しを終えて報告した後、教室に戻る。

「角名、出来た?」
「ん」
「おい、全然進んでねえじゃん」

結局、俺も加わり佐倉さんがデザインした看板の組み立てを完了させた。


***

一日が終わり、寮のランドリールームで乾燥機を回していた。1人しかいなかったがランドリールームに山盛りの洗濯物を持って入ってきた奴がいた。

洗濯物の山から顔を出したのは侑だった。

「何その洗濯物の山」
「サムのが多いねん!あいつ!」
「じゃんけんで負けでもした?」
「そうや。俺が洗濯する時に限って大量に出してきよる!」

プンプンと怒りながら洗濯機に突っ込んでいる侑を横目に笑う。

「今日は随分と楽しそうやったなぁ」
「何が?」
「佐倉サンの荷物持ちや」
「ああ、」
「女子にええとこ見せようと思ってんねんやろ」
「んなわけないだろ。いいとこ見せてどうすんだよ」
「卒業までに彼女欲しいとか言うとったやん!」
「佐倉さんは…その、違うからな、そういうんじゃない」

佐倉さんには好きな人がいるんだ、とは言えない。言ったらどう影響するか分からないし黙っておくことに越したことはないだろう。

「怪しい。ヒジョーに怪しい」
「何が?!全然怪しくないけど! ?」
「何か隠しとる」
「佐倉さんはそういうの抜きにして、本当に良い感じの子、だと思いマス」

一生懸命、佐倉さんは良い人だと伝えてみる。

「…お前、佐倉サンのこと好きなんか?」
侑は眉間に皺を寄せて俺を見た。

「はああ?何でそうなる!好きじゃないわっ」

なぜそんな解釈になるんだよ!

「……」
疑いの目で見てくる。
「違うからな。よし、俺はもう上がるわ。おやすみ!」

乾燥機から出したほわほわの洗濯物を掴んで逃げるようにランドリールームを出る。

どうか佐倉さんに幸あれ、と願って部屋に戻った。

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