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(宮 侑)

文化祭の準備が本格的になり、学校は授業だけではなく文化祭の準備時間があるため一段と楽しい。

どんなネタにするか、舞台チームの全員が良いものを作ろうと考えている。

皆が全力で取り組むのは楽しい。持ちネタは絶対やりたいし、他にもおもろいことは全部取り入れたい。

文化祭楽しいなあ、なんて思っていたら同じ組の佐倉サンと買い出し行く言うなまえを見てもやっとした。

普通に買い出しなら分かんねん。

教室の窓から見えた校舎に入ってくる荷物を持ったなまえと佐倉サンが楽しそうに笑いながら話しているのが見えて何わろてんねん、とその緩んだ表情にイラッとした。いつもあんな緩んだ顔してへんやろ。

何か面白くない。そんな感じ。

舞台の裏方として準備している自転車部の茶川に話しかけた。

「なあ、なまえって好きな奴おるんやろか」
「え、みょうじ?ん〜どうやろ。なんや最近佐倉さんの話はよう聞くけど」
「やっぱり…」

あいつ違う言うて否定しとったくせに…。

「まあ文化祭きっかけで仲が深まる、みたいなんはよくある話やん。文化祭後に付き合うんが増えるの何なんやろな〜」
文化祭マジックや、なんて笑っている茶川に俺は雷を打たれたように固まった。

文化祭きっかけで付き合う…?
もしかしてなまえも…そうなる可能性が…?

まさかなまえがそんなわけはないやろ…。あのなまえや。なまえよりかっこええ奴はもっとおるし…。佐倉サンがなまえと…いや、ない。それはない!

有り得ないと決めつけて首を横に降った。

「文化祭マジックなんぞ俺は信じんわ…!」
「?お、おう…」

教室に入ると、机を寄せ集めてパネルに何やら貼り付けているなまえ、角名、銀を見かけた。

「何しとん」
「おお、侑。立体型たこ焼き貼り付けてる」

これ、すごくねと、見せてきた顔ぐらいのサイズのたこ焼きにバレーボールみたいだと少し思った。

「もう当日のシフト決まったんか」
「うん大体な」
「貸せ」手を出して渡すよう要求する。
「え、何で」
「何で、て合わせるに決まってんやろ」
半ば無理やり取るようになまえからシフト表を受け取る。
「あ、ここダメや。俺らのコントの時間やから。ここは開けてステージに見に来るやろ。で俺の時間こっからやから、ここから休憩な。ん。でけた」

なまえのシフト表にバツとマルを書いて返す。

「え?このシフトじゃダメっすか」
呆れたように俺を見る。

「ダメに決まっとるやん」当たり前やろ、と首を傾げるとなまえはため息を吐いた。

「暴君め。はぁぁ、角名の見せて」
「俺ここいいよ。変えてあげる。この後長く休めるし」

角名がニヤリと笑う。自分に利があるなら、と合理的な角名の提案になまえはずるい、と言いながら渋々シフト表を書き換えていった。

「これならどうデスカ侑くん」
「うん、ええで!」

言った通りに変わったなまえのシフト表を見て教室を後にする。

ほらな、なまえは俺が言えば、俺の通りにするんや。渋々といった顔でも俺の言うこと聞くんやもん。そこがええねん。

ふふん、佐倉サンとかどうでもええわ。なまえは俺ら、友達の方優先やろ!

と思っていた。

放課後
「今日、夜遅いからご飯別で食べるわ」
「え、何で?」
「佐倉さんの手伝い」
「ふうん…」

佐倉サンねぇ。「侑ー!練習遅れるで!」銀の呼ぶ声にスポーツバッグを肩に掛けて立ち上がる。

「お疲れ〜」
俺に手を振ったあと、忙しそうに教室を出ていくなまえ。


まぁ文化祭の準備期間やし?しゃーないよな。
しゃーない、しゃーない…。



***


そうして次の日も、その次の日も同じように文化祭準備で遅くなるなまえ。
結局文化祭前日まで 昼休みも放課後も準備準備と言って、席を立っていた。

あまりにも付き合い悪うないか??

治と2人で食堂で晩飯の油淋鶏を口に運ぶ。
「ツム、キレ悪いで。バレーも笑いも。あかんわ、明日本番やで。大丈夫か?」
「うっさい、たまたま今日ちーーっと悪かっただけやねん!それは悪いとは言わん!」
「いや、悪かったで。認めろや」
「ぐぬぬ…」
「あ、なまえや」

治の声に顔を上げる。

「おつかれ。今日の油淋鶏美味そ」
「美味いで。山盛りや」
「はぁー、やっと早く帰れた」
「大変やったなぁ」
「クオリティ高いの目指すと準備がなぁ。まあそれも今日で終わり」
なまえと治の会話を聞きながら頬張る。

「そっちはどう?」
「ツム次第や。俺はええけど、こいつがポンコツやねん」
「なんやと!」
「えー楽しみだけどな。すべんなよ〜」
「どアホ。俺らのネタで沸かしたる」
「狐耳つけるんだよな、俺達も耳つけて販売することになったわ」
「うげえ、なまえの狐耳とか、目が…」

舌を出してやればなまえがジト目で見てきた。

「おい、油淋鶏取られたいか?…あ、佐倉さんも狐耳付けるぞ」
は?何でそこで佐倉サンが出てくんねん。意味がわからん。もやもやする。

「舞台終わったら12時半から休憩やで」
シフト表の時間割を再確認をする。

「へいへい」
分かってるよ、渡り廊下のとこで集合だろ、と手を上げるなまえに俺はやっともやもやを飲み込んだ。

「治も休憩一緒?」
「いや調理の手伝いした後、休憩や。13時半から」
「ああ、じゃあ角名、銀と一緒だな。明日楽しみだな〜」
「結局なまえは何係なん」
「ん?角名と売り子兼清掃係。他にもいるけどね」
「ちゃっかりしとんなあ」
「ちゃっかりは角名な。あいつ絶対サボる気だわ」

呆れたように笑うなまえを見て、俺も楽しみやと思った。

ドッカン笑かして、午後からは店を回って目いっぱい食べたろ。
笑いのイメージトレーニングをしながら俺と治は明日へ期待を膨らませた。


***


文化祭当日。朝から校内は忙しない。
早めの全校集会で朝礼が終わり、各自、持ち場に配置されていく。
体育館のステージに行く前に2年1組、2組のブースに治と寄ってみた。

朝イチで試しのたこ焼きを焼いているようで小麦粉を加熱した良い匂いが腹の虫を誘う。

「腹減ってきた…」治はすでに空腹らしい。

「試作で銀とたこ焼き屋の橋本がたこ焼きを回しまくってたらしいぞ。今日は本気でひっくり返すって」
「後で撮ってやろ」
角名となまえの声が聞こえてきて振り返る。

「ぶっ…おまっ…!!」
思わず吹き出しそうになった。
2人して狐耳をつけてご丁寧に尻尾まで制服の後ろから出ている。

「おい、笑うな。似合ってないのは分かってるわ。角名はより一層チベスナに近づいたけどな」
「は?片耳ちぎるよ?」
「バイオレンスか!片耳ない狐とか、何か悲惨だろ!」
「ふっ、手負いの稲荷崎の狐」
「治安悪すぎだわ」

耳をつけた2人の会話姿が面白くて治と肩を震わせる。

「なまえに至っては壊滅的に似合うてない!」
「うるさい、うるさい」
「でも、ちょっとかわえ…」
「あ?」

んあ…?俺、今何言おうとした?可愛ええ…?
身長差で上目遣いに見上げるなまえを見た。

いやいや、どこが可愛ええねん。
普通に男子生徒が狐耳つけとるだけや。

「何でもないわ。ぶはっウケる、サム行こ」
「また後でな〜ステージ見に来てや」
「ったく散々笑いやがって。頑張れよ〜」

「朝から笑かしてくれたなぁ」
「はぁ〜笑ったわ。ツム、俺らも笑かすで」
「ッシャ!やったるで!」

衣装に着替えて出番を待つ。

1組2組の舞台チーム皆で観客を笑かすために考えた最高傑作だ。話は稲荷崎高校に迷い込んだ狐と生徒とのドタバタコメディになっている。

笑うこと間違いなし。

「稲荷崎新喜劇、開演や!」舞台チームの円陣を組んで掛け声をかけた。


***


「ミャーツム!おもろかったで!」
「あざーっす!」
体育館から出て渡り廊下に向かう。すれ違う人から声をかけられる。

ほくほくとした高揚感でいっぱいだった。
無事に稲荷崎新喜劇は笑いに包まれて終わった。

ええなあ、やっぱおもろいのはええわぁ。ふっふ、去年より大盛況や、笑いの腕が上がったなと実感していた。

渡り廊下でなまえが来るのを待つ。

何食べようかなぁ、大学芋美味しそうやったなあ、北さんらの組のお稲荷さんも食べに行きたいなぁと考える。

沢山の来場客で賑やかな校内。広い校舎とは言えども、混んでいる。パタパタと音が聞こえて渡り廊下を走ってきた人に声を掛けられた。

「み、宮くんっ」

佐倉サンだ。

「なん?」
「あの、…みょうじくん急遽シフト変わって、宮くんが渡り廊下で待ってるから行ってくれって…」

…は?
はぁ??どういう事やねん。え、昨日あいつ約束したよな??

「はぁぁ?あんの…っ、約束しとったんに!!」

いきなり告げられた内容になまえに対してキレそうになる。佐倉サンは申し訳なさそうに眉を下げた。

「あっ、いやっこれは私がお願いしてん…。みょうじくんが変わってくれて…」

ああ、佐倉サンのお願いねぇ。あれか、佐倉サンのお願い聞くために俺のことほっといて、佐倉サン優先させたんか。
はあ、なるほど。なるほどね。あいつ、ほんまシバいたろかな。

自分より佐倉サンを優先したなまえにイライラが募る。

約束したのに。回るって言ったのに。何なん、ほんま。
ムシャクシャした気持ちは収まらない。

「それで、えっと、もしよかったら…」
何か言いたそうな佐倉サンに俺は聞いた。

「…佐倉サンてなまえのこと好きなん?」
「…えっ?!」
びっくりしたような顔で俺を見上げる。

「ちゃうん?」
顔を赤くして焦ったように首を振る佐倉サン。この照れたような潤んだ目になまえはやられたんだろうか。

「違う…私が好きなんは…。っ、…みょうじくんではない」
「ふうん」

それを聞いてちょっと安心した自分がいた。なぜ安心したのかは分からない。
そんな俺を見て佐倉サンは数秒俺を見たあと、ふっと眉を下げて笑った。

「…楽しみやったんやね。みょうじくんと回るの」
「別に?楽しみちゃう。ただ約束破ったんが癪に触っただけや」
「ふふっ、」
「何で笑うん」
「いや、みょうじくんとほんま仲ええなぁて」
「あんな奴、仲良くないわ。もうええわ、勝手に回ったる」
なまえなんか知らんわ、と言っていると佐倉サンはよし、と声を出した。

「…ちょっとここで待っとって!」
「は…」
「動かんといて!!」

佐倉サンはビシッと俺を差した後、パタパタと去って行った。

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