1組、2組の合同舞台、稲荷崎新喜劇を見た後、模擬店に戻ってきた。
舞台チームのクオリティも高くて観客は楽しそうに笑っていた。双子は目立ちに目立っていて、人前に出ることは何でもないようだ。
すごいなあ、と関心する。俺は人前に出るのは苦手だし注目されるのも好きではない。ステージ上の眩しい役者達を眺めながら俺も笑わせてもらった。
さすが関西。お笑いの力、強い…なんて思いながらブースで狐耳を装着する。
たこ焼きを詰めている佐倉さんに声をかける。
「佐倉さん、俺のシフトと交換しない?」
「え、みょうじくん今から休憩やったよね?」
「そうなんだけど。俺、昼から侑とまわる約束してて。渡り廊下で待ってるんだけど、急遽俺と佐倉さんが変わったってことにして、侑とまわるの、どう?」
「…!!!え、…えぇ…?」
赤くなった佐倉さんにチャンスです、と拳を握る。
「そ、それは…そんな…」
「あ、無理にとかじゃなくて!どうかな、ってだけ!」
「…いいのかな」
「俺は全然…!」
「みょうじくん、ありがとう…っ」
赤い顔で先に上がった佐倉さんを見送る。上手く行けばいいな、なんて思いながら代わりにたこ焼きを詰めていく。
しばらく立って、佐倉さんが走って戻ってきた。
「あれ…」
「みょうじくん!」
「さ、佐倉さんどうした?」
「今、すぐ!渡り廊下に!今から上がって!私と交代!」
「え?」
急かすように背中を押されて状況が読めない。
「ごめん、宮くん怒らせた!」
「おこっ、佐倉さんに怒る?!は?あいつ、なに」
「いや、正確にはみょうじくんに対して怒ってる…」
「えっ…」
キレてる侑の顔が想像できた。
「ごめん、せっかくチャンスくれたのに勇気なくて…誘えなかった…。今、渡り廊下で待たせてるから!早く行って!」
押されるようにブースを出たからには、行くしかない。
上手くいかなかったか…と少し残念に思いながら渡り廊下に行くと侑が立っていた。他校の女子生徒から囲まれている。
「うわ、囲まれてんじゃん」
他校でも有名なのか、侑くんミャーツムくん、とキャイキャイ言われている。
遠目からその様子を見て近づくと、侑が俺に気づいた。
「お、ま、え…!!」
あ、やばい。何か怒ってる。
女子をかき分けて来た侑から逃げるようにUターンし早歩きで遠ざかる。
逃げろっ!やばいー!
ドキドキしながら競歩並に歩いていると腰をグイッと引っ張られた。
「ぎゃっ!」
後ろには侑。手には俺の制服から出た狐の尻尾を掴んでいる。そういえば、耳も尻尾も外すのを忘れていた。
「おい、約束破るとはええ性格しとんなぁ」
侑に凄まれ、あまりの圧に俺は目を逸らした。
「いやあ…」
「まわるって約束しといて他、優先ですか?あ?」
「これには事情があって…」
「佐倉サンの頼みやったら何でも言うこときくんか?え?」
「そういうわけじゃ…」
俺は佐倉サンの恋心を応援しようと思ってだな…。
「楽しみにしとったのにぶち壊された人間の気にもなってみ」
その言葉に侑が午後から文化祭をまわるのを楽しみにしていたことが伺えた。俺の良かれと思ったことが侑にも佐倉さんにも良いことではなかったんだろう。
「…んん、ごめん 」
狐耳を付けたままの俺は正直に謝った。
「…分かればええんや」
謝った俺に満足したのかケロッとしてお稲荷さん食いに行きたい!と階段を指差す。
「あ、その耳外したらあかん!約束破ったバツやっ、笑われてまえ」
「嫌だわ。外す」
「外したら、全部なまえの奢りなー」
「…くそっ」
本当に周りを振り回してくれる奴だな…、とため息を吐きながら侑の後ろをついて行く。
3年生の教室に行くと達筆な文字で『稲荷崎名物 お稲荷さん』と書かれた旗が飾られていた。書道部の力作らしい。
「北さん!来ました!」
「侑と、みょうじくん」
「おおー!みょうじ!なんやその耳!」
北さんと秋田部長が店番をしていた。
案の定、秋田部長から狐の耳を笑われた。
「うちの組はこれ付けてたこ焼き売ってるんですよ…似合わないのは分かってますっ」
「尻尾もついとんのか!」
ケラケラ笑う部長に頬を膨らませる。
ふっくらとした粒のいなり寿司は美味しそうで聞くと北さんちのお米を使っているらしい。
買って食べるとじゅわ、と染み出る味と白米の美味さに悶絶した。
「?!?!う、美味い…っ」
「やば、これサムが食べたら気絶するで…」
「ああ、治ならさっき10個買って行ったで。売り切れる前に欲しいて、ダッシュで帰ってったけどな」
治はまだ休憩時間じゃなかったはず。多分、抜けて買いに来たんだろう。
「10個!あいつ本気すぎるだろっ」
治の奇行に吹き出してしまう。
うちのたこ焼きも食べに来てください、銀が本気でひっくり返してるんで、と言うと北さんは分かったと頷いた。
それから俺はチュロスを、侑はチーズの肉巻きを買った。食べたいという侑に「一口な」とチュロスを向けると、口を大きく開けてチュロスにかぶりついた。
「おいっ、いつも言うけどそれ一口じゃないんだって!」
俺のチュロス、半分くらいなくなりましたけど?!
「肉巻き寄越せよ」
俺のチュロスの代償だと言うと、一口目は俺が先や、と言ってまた大きな一口で食べた。
こいつ…俺が同じように食べると思って先に多く食べておく牽制か?!
俺は常識人だからな、と侑が俺に向けてきた肉巻きに普通の一口で齧り付いた。ビョーンとチーズが伸びてちぎれない。
「んんん、チーズ!」
侑が肉巻きを上に持っていくもチーズは伸びるだけ。
伸びるチーズを追いかけるようにもぐもぐと食べ進める。
「ぶはっ!ひどい絵面や!」
ケラケラ笑う侑にもう一口追加で齧り付くと「あぁっ!」と叫んでいた。
校内をまわるとどこも賑やかで展示物や出し物、ステージも大盛況だ。
歩いていると校庭の茂みの影に隠れて座っている狐耳を見つけた。髪の毛のシルエットで誰か分かる。
「角名〜、お前サボってんな」
「バレた」
疲れたし、と足を投げ出して座っている。
手に持っているチュロスを向けると口を開けたため、突っ込んでみる。まるで餌付けだ。
もぐもぐとしている角名が俺の耳を見て笑う。
「なんで休憩なのに、耳つけてんの」
「恥晒しの罰ゲーム、デス…」
「なにそれ」
面白そう、とすぐにニヤニヤ笑う角名。
「なまえが約束破ったんや!俺というものがありながら…他を優先させるとか許せん」
「…出たジャイアン。お前は俺の何なんだよ」
「友達やん。優しくておもろくて、頼りになる最高の友達、侑くんやん」
「うわ、自分で言ってる」
「ほんで、なまえの物は俺のもの、俺のものは俺のものや」
「友達はそんなこと言いません。そんな友達はいらねえ」
「なんやと?さっきの肉巻き返せ!吐き出せ!」
「ぐえ、苦し、無茶言うなバカ!」
「バカ言うた奴がバカなんや!」
「こんな時だけまともな事言うなッ」
俺と侑のやり取りに角名が面倒くさそうに横目で見ている。
「友達優先やろ!俺らの絆はそんなもんなんか!」
「友情なんて恋愛1つで崩壊するものなのだよ侑くん…。俺に彼女できたら優先順位爆上がりだからな…」
俺の肩を掴む侑にニヤリと笑って返す。
「…寝言は寝てから言うて?」
真顔で俺を見つめる侑。
「え、辛辣ぅ」
「鏡見てから言ってくれる?」
「え、角名まで?え、お前ら俺のハートぶち壊したいの?」
散々な事を言われて傷つきました、と俺は自分の尻尾を持って泣く泣く座り込む。
「なまえの屍は俺が拾ったるで」
「そんな希望のないこと言わないでくれますかね。いつか俺のことを好きになってくれる子と結ばれる、はず」
「………」
急に黙り込んだ侑に、どうした?と覗き込む。
「優先順位は俺が一番やないとあかん」
ぼそりと呟いた侑の言葉は聞き取れなかった。
「ん??」
「あかん。それはあかんわ」
「何が?!」
「わかった」
すっきりしたような顔の侑に不安を覚える。侑が閃いた時は決まって良くなかったりするのだ。
にんまりと笑った侑が「ヨッシャ、ステージ見に行くで〜」と鼻歌混じりに動き始める。
サボり中の角名を置いて侑について行く。
侑の笑顔に不安を覚えながらも俺は2年目の稲荷崎祭を楽しんだ。
去年よりも印象的で楽しいと感じたのはきっと友達の存在が大きかったからだろう。
後夜祭で宮ツインズが立つステージを見ながら、俺は腹を抱えて笑った。