(宮 侑)
テスト期間も残り1日となった。
明日のテストが終わればバレーができる。テストは嫌だがバレーはしたいという対立する思いの末、テスト勉強も煮詰まり、ペットボトルのジュースを持って部屋を出た。
夕方の寮内はテスト勉強をする為に部屋にこもっている人間と、早く学校が終わるからと開放的になっている人間の二極化だ。
なまえ、何しとるやろ。
そんなことを考えながら、廊下を歩いているとキッチンルームの前でなまえを見かけた。
最近、ふとした時になまえを見かけて おっ、と思うことがある。なまえに用があるわけではないけど、いるかもしれないと姿を探してしまう自分がいた。
それは朝の食堂だったり、部活終わりの帰り道だったり、休日の寮内だったり。見かけると話しかけるのは当たり前になっていた。
「何してん」
「おお。小腹空いたから、晩御飯前に軽く食べようかなーって」
キッチンルームから出てきたのか手にはインスタントのカップスープを持っている。
今からレクルーム(レクリエーションルーム)に行くんだと言いながら階段に向かって歩くなまえについて行く。
「レクルームなんかジャンプもあるし誘惑だらけやん」
「これはテス勉の休憩。頭が方程式に侵されてるからリセットしないと俺は発狂する」
「はぁー、テストは来て欲しくないけど、練習の時間は来て欲しい。この相反する思いは何なんや!」
「どんだけバレーしたいんだよ」
呆れたように笑うなまえと一緒にレクルームに入る。
各階にあるレクリエーションルームは談話室として寮生の憩いの場?になっている。
誰かが寄贈したのか置き忘れたのか分からないような本や漫画もあり、寮のおっちゃんが毎週買っているジャンプもある。基本誰かが読んでるか持っていってるのか揃っていない。
珍しく誰もいない室内で、なまえはカップスープをテーブルに置いたあとリモコンを使いテレビの電源を入れた。
テレビに向かうように隣同士で座る。
なまえが食べているのはマカロニ入りのクリームスープ。
美味しそうな匂いがして、隣を見る。じっと見ていると「あげないからな」と言われた。
「……」
「見るなよ」
「……」
「だぁぁっ、マカロニだけだからな!」
フォークでマカロニを刺して俺に向けてきた。
にっこり笑って口を開ける。
「お前…」
「ん、も1個ー」
「くそっ」
空っぽの胃に入るマカロニが美味い。
テレビ画面は地元のローカル番組が放送されていた。
〈はい!今週もやってきました『男子高校生のお悩み相談室〜!』〉
〈ええね〜今週もどんなんが来てるんやろな〜先週は、「学校の先生がヅラだったということを皆にバラしてしまいました。不可抗力でした」とかやったしな!先生から復讐でスナイパーで狙われてんちゃうとか言うてな。もうその子の無事を祈るばかりやったな!〉
〈あれはおもろかったな〜!〉
なまえはマカロニを食べながら、俺は手にしたペットボトルのジュースを飲みながら、画面を見る。
「物理の先生、ヅラっぽいよな」
「あれはヅラっぽい髪型なだけやろ」
「いやでもヅラ鑑定士の播磨くんがヅラや、って言ってたぞ」
〈今週はちょっとまた色が違うで。えーではお便りをくれた男子高校生Bくんからです「僕には可愛くて皆から好かれている仲の良い友達がいます」〉
〈ほうほう〉
〈「親友のようにいつも一緒にいるのが当たり前なのですが、最近その子が笑った顔にドキドキしたり、ふと触れた時に意識してしまう自分がいます」〉
〈おおっ?!〉
〈「今までは何とも思っていなかったのに、その子が他の男子と話しているところを見ると何を話してるんだろう、ともやもやしています」〉
〈これは…〉
〈「一緒にいると落ち着けるし、ありのままの自分でいれます。その子が笑うと僕も笑顔になります。その子が弱っていると助けてあげたいと思うし、時々困った顔を見たくて、意地悪をしてしまう時もあります」〉
〈小学生か!〉
〈「その子の言動にドキドキしたりもやもやしたり、心臓がキツいです。僕は病院に行ったらいいのでしょうか?」〉
〈…いやいやいや!ちゃうて!ちゃうやろ!それは恋の病やろ!〉
〈医者に行っても治せんわ!「うん、それは恋煩いやな。帰れ」て帰らされるで!〉
〈「正直、僕はサッカー部なので心肺機能には自信があります。こんな胸の動悸は普通は有り得ないと思っています。不整脈を疑っています」〉
〈ちゃうんよなー!笑〉
〈不整脈なわけあるか!完全にそれは恋の動悸ですわ!〉
〈「内科と外科どっちに行ったらいいのでしょうか?」て書いてあるで笑〉
〈せやからちゃうてー!〉
ローカル番組のスタジオタレントがズッコケる映像が流れる。
「ははっ、ウケる。完全に恋だろ、それは!」
ケラケラ笑うなまえ。
「………」
俺は真顔でテレビ画面を見ていた。
…え、ちょっと待ってや。
俺、この男子高校生Bくんと全く同じやない?
眉を潜めながら自分でそっと
今まで何にも思わなかった友達に対して、
他の奴と話しているともやもやする → イエス
ふと触れた時に意識する → イエス
笑った顔に ドキドキする → ドキッちゅうか、たまに心臓がぎゅん、とすんねん
そしてその友達は…。
隣を見た。
「なに?」
「いや、別に…」
えっ?恋…? コイ…? KOI…?
……んなわけないやーん。もう一回隣見てみ。
「ん?」
「…いや…」
いやいやいやなまえやで?ふっつーの男子やで。そんななまえに恋のトキメキとかドキドキとか…。
〈ちょっとさ、Bくん、君はそれ恋とちゃう?〉
〈スタジオ全員で断言します。それは『恋』です!〉
〈Bくん、続き楽しみにしてるからまた近況知らせてや〜!〉
〈ほな、次は明日以降のお天気です!○○さん中継どうぞー!〉
「不整脈とか笑うわ〜、明らかに好きだよな」
な?と笑って見てくるなまえと目が合う。
あれ、何か俺も動悸が…。
「コイ…」
「侑まさかモテすぎて自分から好きになったことない、とかないよな〜」
「……」
「えっまじ?…はぁ、モテる奴はやっぱ違うわ。甘酸っぱいあの苦しさを知らないのか…あ、言ってて悲しくなってきた」
「なまえは恋したことあるんか?」
「…聞いてくれるな。実らない恋しかしたことはない」
ということはなまえは誰かを好きになったことがあるということだ。
なまえが誰かを好きになったということを知って何故か胸の当たりが痛んだ。
同時に、なまえが好意を寄せた顔も知らない過去の誰かを羨ましいと思ってしまった。
ズキ、と痛むこれは何だろうか。
「なんや振られたんか」
「いやいやそんな気持ちを伝えるとか。平凡な俺には自信すらないし、そもそもそんな勇気ねえわー。転校続きで、仲良くなる前に遠くに行くからそっと心の奥にしまってたな…」
遠い目をして窓の外を眺めている。
転校ばかりで諦めていたのなら高校に入った今はどうなんだ。
「ほんなら…高校に入ったら好きな奴できたんか?」
「え?いやー、うん」あ、こいつ怪しい。
「どうなんや」
「いや、そんな好きになるとか、ははは」
「言え。吐けや」 なまえの頬を掴む。
「うぐぐ、やめっ、侑に関係ないだろっ」
「ある。大ありや」
「どこがあるんだよっ」
力で俺に勝てるわけがない。絞めようとすると観念したようにわかった!と言った。
何だか胸がズキズキする。聞きたいような聞きたくないような。
「1年の時に…3年の先輩が…優しくしてくれて、それでちょっといいなあ、と…」
頬を顔を赤くしながら思い出すように言うなまえに少しイラついた。
「…黒髪眼鏡か」
以前、食堂で話していた時に好きなタイプは黒髪眼鏡と言っていたのを思い出していた。
「いや、そうでもない…」
「…お前…優しくされたら誰でも好きになるんか」
チョロい奴やなあ、と呆れた目で見る。
「そんな目で見んなよ。モテる奴と違って平凡な人間はちょっとしたことでも勘違いするんデスー」
開き直ったようななまえを鼻で笑う。
「はん、んでどうなったん」
「どうなったって、卒業して終わり、じゃん」
「ほおー」
どうやら先に進むつもりはなかったらしい。
「普通に可能性皆無だし。そもそも俺のこと認識してたかどうかすら怪しいし…。…俺は遠くから見てるだけで充分なんだよ!」
「意気地無しやなぁ」
常に向こうから好意を寄せられる奴には分かるまい、となまえはキレている。
相手に近付く勇気もなく、自分の気持ちに蓋をする、そんななまえを見て、どこか心の中で安堵する自分がいた。
自分から言い寄ることはない、と。それなら言い寄られない限りはなまえにそんな相手ができることもない、と。
なまえよりかっこいい奴はたくさんおるし、まず言い寄る奴はおらんやろ。
それならなまえは基本的に相手ができにくいというわけだ。そう考えて安心し、さっきまで感じていたイライラや不安が消えていく。
「一生付き合えんのとちゃう?」
「何でそんなに良い笑顔なんだよ」
「あれやろ、気になったら話しかけられんタイプや。どんどん離れていくやつ」
「…奥手男子と呼んでくれますか?」
「プププ、可哀想でならんわぁ」
「うるさい!」
「…今はどうなん。2年になってから」
「え…」
こいつ、こんなチョロい奴やからまさか…またどっかでコロッと落ちてんのちゃうか??
肩をがしりと掴んで「言え」と脅迫する。まるで取調室の刑事の気分だ。
「2年になってからはないな…侑達といる方が楽しくて充実してるなって思うし、2年になってから学校、今までで一番楽しい」
友達といる方が楽しい、と笑うなまえに俺は肩を掴む力をゆるめた。
その顔がすごく嬉しそうに笑うものだから、また胸がぎゅんとした。
それを言うなら、俺だって今まで好意を寄せられて一緒に遊ぶことはあっても、楽しいと感じたことはなかったし、今はなまえと遊んだり、何でもない会話をしたり、日頃の買い出し行ったりする方が何倍も楽しいと感じている。
一緒にいたい、と思うのはなまえ…。
「……あかん」
今、俺は非常に思ってはいけないことを思ってしまうような、感じてしまうような…。そして気づいてないけないような…。
頭の中で黄色信号が点滅している。
頭を振る俺になまえは首を傾げる。
恋、なんて断じてない。絶対に…!
目の前にいるこいつに!
「テ、テスト勉強やらな…」
ガタッと椅子から立ち上がる。
「あ、あの侑が自らテスト勉強…だと…?!」
頭大丈夫か?と聞いてくるなまえに俺も自分で俺の頭大丈夫やろか、と疑問に思った。
***
「なあ、サム。1組で可愛え女子って誰」
「部屋に戻って早々になんや」
「モテる子でええ。誰」
「モテるん言われてんのは…東雲さんとか?」
「ああ…」
思い出す。確かに可愛いと言われる顔立ちをしている。男子にも人気があり、ザ女子という感じ。
そこでなまえを思い浮かべる。どっちが可愛ええ?
そりゃもちろん東雲さんやろ…、いや待て、なまえのいじけた顔や嫌がる顔、笑顔、笑いすぎて泣きそうな顔が浮かんでくる。
…ええええ、なまえの方が可愛えとか思わんよな、俺!
「侑といると楽しい…」先程、そう言って嬉しそうな顔をするなまえを思い出して俺は項垂れた。(侑達と言っていたかどうかはこの際どうでも良い)
「どうしたんやツム」
「あかん、俺頭おかしなったかも」
「それは元からやん」
「あ??」
馬鹿を見るような目で俺を見る治を睨み返す。
「違う、断じて違う。今は春高とテストに集中や!!」
「なんやいきなり…」
「よっしゃ、テスト勉強しよ!!」
「テス勉とか…嘘やろ…?!ツムが壊れた」
全ての思考を無にするべく俺は机に向かった。
無心でテスト勉強したおかげか、
次の日のテストは少し解けた気がした。