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テスト期間終了後、12月後半に行われる終業式までの授業はある種の消化試合のような雰囲気が漂っていた。皆、テストというイベントが終わり開放的になっている。

「5時間目は自主学習やってー!」
「よっしゃあああ!」
「やった!寝よ!」
「喋ろ〜」

急遽先生の用事により自主学習となった午後一の授業。
クラス内の雰囲は最高潮に達していた。

「でも、静かにせな!隣のクラスにバレたら、めんどいで!」

学級委員の一言で皆のボリュームが下がる。

集まって話す女子、何故かキャッチボールを始める男子、寝ている奴、本当に自習している奴、本を読んでる奴、携帯をいじっている奴、音楽を聴いてる奴。

皆が思い思いの時間を過ごす。
俺は、というとカモフラージュとして担当教科の教科書とノートを開きつつ、茶川から借りた漫画を読みふけっていた。

後ろの侑は机に突っ伏して寝ている。
寝る子は育つと言うが、侑はよく寝ていると思う。良くも悪くも食後の午後の授業はお昼寝タイム、が通常のような奴だ。

だから身長も高いんだろうか、とぼんやりと考える。

漫画の単行本を読んでいると胸熱な展開で集中してしまい、あっという間に授業終了が近くなっていた。

後ろを振り向くとまだ侑は熟睡中だ。
俺の席は窓際の前から3番目。
侑は顔を窓側に向けて伏せている。腕の隙間から見える寝顔はやっばり整っているし、黙っていると羨ましいほどにはイケメンだとは思う。

窓から入ってくる12月の柔らかな陽射しでその横顔は穏やかに見えた。

寝顔を撮ってやろうと思い、携帯を構えて侑の寝顔をカメラに収める。

少し離れた席の銀も寝ていた。バレー部はすやすや時間か…とお昼寝タイムの幼稚園児を思い浮かべる。

侑に目を移す。明るい髪色が祖父の家で飼っているゴールデンレトリバーのチロルを彷彿とさせる。
思わず手で触れたくなって、ハッとする。

危ない危ない、こいつはチロルじゃない。

そうしていると授業終了のチャイムがなり、俺たちの夢の自主学習の時間は終了した。

休み時間になっても起きない侑の頭をつんつん、とつついてみる。

爆睡しているのか眉がピクリと動いただけだった。起きない侑が面白くて今度は頬をふにり、と指と指で挟んでみる。

「おーい、起きろー」
「んん…」

つついてみたりしていると眠たそうに瞼をもちあげた。

「やめ…」
「もう休み時間。次、移動」
「んー…」
起きたくないと言うような顔で仕方なく机からの頭を上げた。
まだ覚醒してないのか俺をぼーっと見ている。

「宮クン、次、移動っすけど」
「…ん」
「あと一時間。終わったらバレー出来るでー」
「…!!」

どうやら目が覚めたようだ。
本当にバレーバカだなぁと失礼なことを思う。
覚醒した侑が次の教科の準備をするのを待ち、席を立つ。

銀も一緒に3人で廊下を歩く。

「2人ともよく寝てたな〜」
「寝たおかげで今ならアランくんのスパイクも取れそうな気がするわ」
腕を振りながら歩く侑、自分の腕の長さを分かってないな、こいつ。と思いながらその腕をかわしながら向かう。

「みょうじは何してたん?」
「借りてる漫画読んでた。進撃」
「あ〜あれかおもろいよな」

「駆逐してやる…!!」
「ぶはっ、なりきんなっ」
「心臓を捧げよ!とか今日絶対練習で使ったろ。登り直前で叫ぶわ。多分5人くらいは吹いて、カウンター食らわせるかもしれない」

「おお、不意を着く作戦か!」

「茶川が真っ先にやられそうなんだけど、逆にあいつの事だから、うぉぉぉ!進め!とか言いそうで怖いんだよな」
茶川がノったらついて行くの大変だからなあ、とぼやく。

「楽しそうやなあ」
「バレー部は?そっちも面白そうだけど」
「昨日、侑のサーブがぶち当たってキレとった角名はおもろかったで。その後の練習で終わるまでずっと侑を狙っとったわ」
「はは、想像できる」

目覚めが良いのか、侑が「調子ええわ〜今なら飛べる気がする〜」なんてボヤいている。

「っよ!」

侑がいきなり隣からタタン、とスキップしてしジャンプした。真っ直ぐ上に上がった体、上に伸ばした手は廊下の天井に突き出たコンクリートの梁にタッチした。

「うわ…ジャンプ力えげつなぁ…」
すげえ飛んだなと思うくらい上に上がる伸びが…。
しかも制服で、普通の室内履きで、教科書とかペンケースとか持ちながらだ。

とん、と床に降りて、ふふんと笑う侑。
俺も見よう見まねでトトト、と走ってジャンプしてみる。
「ふんぬっ!」
侑とは比べ物にならないぐらいの低さ。上げた手は廊下の天井には到底及ばず、足元も30cmも浮いてないかもしれない。

「バネ無さすぎやろ!」
「一緒にしないでくれますかあ?」
「俺もっ」

銀も助走をつけて飛ぶ。軽々と飛んで侑と同じように廊下に突き出る梁にタッチした。

「銀より俺の方が高かったな」
「いや、俺やろ!」

ジャンプ力恐ろしい…俺とあいつらの脚は同じニンゲンなのに、と思う。

そんなことをしながら 、3人で教室に移動して今日最後の授業を受けた。



***



練習が終わり、部室のロッカー前で着替える途中、茶川に借りていた漫画を返した。それを見て三分が笑う。

「みょうじ、絶対この巻で感化されたやろ。いきなり「心臓を捧げよ!」とか言い出すから吹いたわ。笑ってリズム狂うやん」
「ヤバイよな、胸熱すぎて。狙い通り何人かは振り落とせた」
「せこいなぁ」
「でもやっぱ茶川は予想通りノってきたからさあ。キツかったわ」
「進めえぇ!とか言われたらさらに笑うわ」
「あ、せやみょうじこれな」

三分がカバンから取り出したのはホラーゲームのソフト。
「お、ありがと。俺も持ってきた」
俺はリュックからまた別のゲームソフトを取り出して交換する。

より多くのゲームをする為に、俺たちはお互いのゲームソフトを交換して遊んでいるのだ。漫画もゲームも貸し借りで潤っている。
早速帰ったらやろう、と楽しみにして解散した。

自転車で寮に帰って先に風呂に入った。誰もいない時間は把握しているから、一人でゆっくりできた。

大体皆部活があるしなあ。運動部だけでなく吹奏楽で稲荷崎に入学した同学年の男子もいる。夜遅くまで練習していることもあり大変らしい。

それも洗濯機の所でたまたま一緒になった時に会話した中で聞いた話だ。

部屋に戻ってゲームをしようかなと正座状態で心を踊らせながらテレビゲーム本体の電源を入れようとした瞬間、携帯に通知が来た。

〘宮侑がスタンプを送信しました〙

見ると、ご飯を食べるキャラクターのスタンプ。
うーん、と悩んで考える様子のスタンプを押してみた。

宮侑〘は?〙

早すぎる。既読のまま、どう反応しようかと携帯を持っているとまたメッセージが来た

宮侑〘もう食べたん?〙
みょうじなまえ〘まだ〙
宮侑〘はよ来い。腹減ってんねん。究極に〙

それなら早く食べ始めればいいのに、と思いながら待っているのだろう侑を思い浮かべて、まるでヨシ、を待つチロルのようだと笑ってしまう。

了解のスタンプを押して、ゲームはお預けのまま部屋を出た。

食堂に入り、座っている侑達を見つける。
治と角名は普通に食べているのに、侑だけ携帯をいじったまま箸を持っていない。

「侑!ヨシ!!」歩いてテーブルに近づきながらビシッと指差してOKを出す。
「はぁ?」
「待て、できて偉い!」

わらいながや頭をわしゃわしゃと撫でてやる。

「おい!やめ!待っとったわけちゃうし!」
治がそんな侑を見て呟いた。

「完全に飼い犬や」
「誰が飼い犬じゃボケ!」
「はー、腹減った。よそってこよ」
「あ、米以外はもうあるで」

治の言葉に侑の横にはトレーに乗ったキャベツメンチカツと汁物がある。おかずは揃っていて、白米だけがない状態だった。

「お、お前ら…」
こんなに優しかったなんて、と涙を拭く仕草をしてみる。
「侑が言い出しっぺだけど」
角名の言葉に侑が言い訳がましく口をひらいた。

「空腹が極限なんや!はよ食べたいのに来るん遅いし!」
「新しいゲームやる直前だったんだよ。先に食べててよかったのに」
「別に待ってへんし」
「はいはい。米とってくる」

白米をよそって来て、侑の隣に座る。

「何のゲーム?」角名に聞かれる。
「プレステの、ネットで怖すぎるって書かれてるホラーステルスゲーム」

「ああ、あの精神病棟のやつ?」
「それそれ」
「なまえってバトル系よりそういうやつの方が好きなん?」
そういえば治はウイイレを持ってたなと思い出す。

「いや、ウイイレとかも好きだしカーレース系もするけどメタギアとかステルス要素あるやつの方が得意なんだよな」
「ほう、せやから影が薄いんか…」
「すっごい失礼なこと言ってますけど治クン?」

まあ否定はしない。
空気を読むことも得意だし、何より特徴のない容姿でその他大勢に紛れ込むのは得意、というよりはそういう性質なのかもしれない。普通で平凡な人間だもの。

「ツムは一緒の寮におることさえ、知らんかったもんな」
「…自分でも不思議やわ。こんな変な奴がおったのに気づかんとは…」

「変ってなんだよ変って。俺は入寮日から認識してたぞ。うわ、何この双子…って」

そして俺は入寮日に誓ったのだ。この騒がしい双子には絶対近寄らないようにしよう、と。

「何ってなんや、何って」
「いや、初日に二段ベッドの上か下かで言い争ってたじゃん」
「それは今もでしょ」すかさずツッコむ角名。

「喧嘩した時とかどうすんだよ」
「…悪いと思った方がたまに上を譲る時がある…」
「反対に、勝手に上で寝とる奴もおるけどなあ?なあ?ツム?」
「あの後、お前に上譲ったやろが!」
「何や散々上でずーっと寝といて一週間後に「上…使ってもええで?」とか言ってきて今更っちゅう話やねん!あれは忘れんからな!」

言い合う双子に部屋の中でのやり取りを想像して微笑ましくなる。やっぱ兄弟だなあ、と。

携帯をいじっていた角名が顔を上げた。

「さっきのゲームZシリーズじゃん」
「それは言わないお約束だろ」
「風呂終わった後、なまえの部屋行くわ」
「え、何で?」
「そのゲームやりたいもん」
「えー、最初は俺がプレイするからな」
「俺も行こ」
「俺は寝るで。今日は最高に疲れとる」
「ふふん、俺は昼に自習でたっぷり寝とるからなぁ元気やわ」

そういう問題なのか?とも思いながら後で侑と角名が来ることになった。

食べ終えて食堂を出てから一足先に自室に戻る。一応出している物を元の位置に戻したりはしてみたが、特別普段より変わった印象はない。

部屋のドアがノックされて開ける。侑が入ってきた。

入る時にふわりとシャンプーの香りがして風呂上がり直後だと分かる。

「角名は?」
「あとちょっとで来るやろ」

侑がベッドに寝転がって、ゲームソフトの中の説明書を読んでいる。

お前、俺のベッドだぞ…。完全に自室と勘違いしてないか?まあいいやと準備していると角名も入ってきた。

ホラーゲームのオープニングが始まり、3人で静かにテレビ画面を見つめる。
侑はベッドの上、角名は隣で胡座をかいている。

厳かな精神病棟の一室で目が覚めた主人公はわけも分からず、病棟内を歩く。
いつコントローラーが震えるかと身構える。
「うお、こええ…」

歩いていると、いきなり横から人が飛び出してきた。人、というよりもグロテスクな生き物だ。

突然の飛び出しと切り替わる画面、震えるコントローラーに体がびくり、とする。
侑と角名を見ると、2人も予想していなかったようで画面を凝視している。

徘徊する人なのかよく分からないものに気づかれないようフロアを脱出するというミッションが始まった。ゆっくりと主人公を動かしてバレないように進んでいく。クリアして次の目標地を目指す。
「ほお…」隣で角名が感心するような声を出した。ステルスは任せろ、と少し得意になる。

今度は角名にコントローラーを渡して次の目標地までの行動を横から見る。

「あ、今危険。気づかれるぞ」
「あぶな…」
ゲーム内も静かだが部屋の中も静かになる。バレないように…。
「あっ!!!横にいんで!」二人で侑の声にビビる。
「侑の声が一番ビビるわ」
「静かにしてよね」

角名も何とかクリアした。「おお〜」やるじゃん、と見ればこれくらい普通ですという顔でコントローラーを侑に渡した。侑はベッドから降りてきて画面の前に座った。

「よっしゃ…」
やったるで、と主人公を動かし始める。

「あの影、あそこ、いるいる」
「今。チャンス」
「だぁぁっ!喧しいわ!」
「あっ、見つかった!走れ!走れ!」
「うおおおおっ」
見つかってしまえばもう襲われることは確定だ。出口に向かって走れと横から言うも出口の手前で捕まってしまい、無惨な結果になった。

「あーー。はい次、俺。俺のテクを見とけよ」
悔しそうな侑からコントローラーを取り、ステルステクニックを披露する。難無く、敵の数を減らしながら出口まで着いた。

「くそ、あんなゆっくり隠れながらより俺が動いた方が早いわ。こんな奴に任せてられんわ」
「ふっ、俺が、ってどういうこと」
「侑がこのゲームの世界でサバイバル…」

侑の珍発言に角名と笑いながら3人でゲームを進めていった。
一時間はあっという間で時計は22時になろうとしていた。

角名は部屋に帰り、侑はもうちょっといる、と言う。俺はまだゲームを続ける予定だからいいけど、とベッドでうつ伏せになって見ている侑を背に集中する。

キリの良いところまでゲームが進んだ時には気づけば23時だった。もう消灯時間じゃん、とベッドを見ると侑は寝ていた。

「おい、侑。消灯時間」
「………」

完全に寝ている。しかもベッドの上というのが悪い。机に伏せて、とかならすぐに起きれるだろうがベッドとなると深い眠りに落ちているとなかなか起きにくい。

「侑、おい」
揺すっても全然起きない。
うん…困ったな…。治にヘルプしようと携帯で〘侑が爆睡してる。起きない。〙と送った。

「…既読にならねー…」
そりゃそうか…疲れたし寝るって言ってたもんな。治も侑も爆睡か…。よく眠る双子に俺は天井を見上げる。

俺が寝れない。困る。
「侑っ!おい!」
隣の部屋に迷惑がかからないように小さめに強く揺する。

「……」
ビクともしないし、すごく気持ちよさそうに寝ている。

マジかよ!こいつどんだけ眠り深いんだよ!

普段使っているベッドは体格差のある侑が使うと小さく見える。しかもシングル用のベッドだ。退いてくれないと俺が非常に困る。床で寝るのも嫌だし、寒い事このうえない。

……仕方ない。ここは強行突破に出るか。

侑をぐいぐい、と押してベッドの端側に寄せる。このままベッドから落として無理やり起こしてやろうかと一瞬考えたが、可哀想だからやめた。

壁側に空いたスペースに侑を跨いで入り込み、掛け布団を引っ張って中に潜る。
侑は掛け布団の上に横になっているため寒くて起きるだろう。12月の寒さだ。

俺も眠いし、もう知らない。と侑に背を向けて、照明を落として目を閉じた。


意識も完全に落ちきった後、肌寒くて無理やり意識が戻ってきた。

(寒い…)
自分の体にかけていたはずの掛け布団がない。手で探してもなくてどこにあるんだと、顔を上げる。

横に何か大きいものがある、と見ると侑が掛け布団をそのままかぶり込んでいる。

(そうだった、こいついたんだ…何でまだ帰ってないんだよ…)
道理で寒いわけだ。そもそも布団の中に居なかったはずなのに、なぜ掛布団に潜っているのか…。

半分寝ている頭で掛け布団を取り返す。

自分の体の上に戻ってきた布団は暖かくて気持ちいい。すぐに意識が落ちた。


***


目覚ましの時計に目を開ける。半目の状態で背中越しに自分以外の体温を感じた。

頭を上げて振り返るとまだ、金髪頭はそこにあった。

「もう…」

結局お互いに布団を取り合うあまり、背中合わせで詰め合いながら一つの掛け布団に収まろうとしていたのだ。

無理がある。夜中、俺は何度か目が覚めていたし、狭いわ、寒いわで目覚めは悪かった。

起き上がって目をこする。
横にいるデカい奴を布団越しに小突いた。

「おい」
「……」
「おいっ」
「…ん…」

嫌そうに掛け布団を引っ張って潜り込む侑にさらに小突く。

「お、き、ろ」
「んん…」

渋々と目を開いた侑に「部屋戻れよ、もう朝」と伝える。

「っ?!何でなまえがおんねん」
「それはこっちのセリフ。自分の部屋戻れ」

ようやく周りを見渡して俺の部屋だと知り、自分が俺の部屋に来たまま寝たことを思い出したようだ。
のそのそと布団から出た。

「さむっ」
欠伸をしながら携帯を持って部屋を出ていった。
もう一度寝たいが朝練がある。

仕方なく俺は朝の準備を始めた。




<登校後の廊下にて>

「治、昨日!メッセージ送ったのに寝てただろ!」
「あー、朝見た。起きたらツムおらんかったし、寝落ちしたんやな〜って」
「布団取られるし寒いわ狭いわで最悪だったわ!」
「寝たら起きひんやろ。蹴っても起きひんで」
「け、蹴っても…。く、熊かよ…」
「おかんに大音量で頭の横で鍋叩かれてやっと起きるレベルや」
「ああ…なるほど…」

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