45

クリスマスの日、寮の晩御飯は豪華だった。

終業式も終わり、冬休みに入った寮は部活がある人くらいしか残っておらず、半分は帰省し始めている。

俺も年末年始には家に帰るため寮にいるのは残り少ない。侑達とご飯を食べるのも今年はあと何回か、と考える。

「今日ケーキあるやん。俺チョコ〜」
「ツム、俺のショートケーキ食うなよ」
「俺のセリフや。サムこそ俺のチョコケーキ食ったらド突くで」
「角名はチーズケーキか、俺モンブラン」

チキンの照り焼きにシチュー、オムライスと豪華なご飯に俺達もテンションが上がる。俺はモンブランを選んだ。

「美味ぁ!」
「シチュー美味い〜」
クリスマス一色の晩御飯を4人で頬張る。

「はあ、クリスマスなのに野郎で囲むケーキか…。悲しい。クリスマスデートとかしてみたかったな…」
「なまえ、鏡見てきたら?」
「ねえ、角名クンひどくない?」
「クリスマスデートなら、俺が夕方買い物付き合うてやったやんか!」侑が当然のように言う。

「いや、ただの日用品と菓子の買い出しじゃん。しかも俺のカゴにポテチ入れやがって」
「なまえも俺のカゴにトッポ入れとったやんけ」
「お返しだわ。帰りのコンビニで俺の唐揚げクン、2個も食べたくせに」
「お前ら、言うとくけど俺が頼んだビーフコンソメ味のスナック買ってこんかったの忘れてないやろな。食べ物の恨みは一生や」
「ついてこんサムが悪いんや。欲しかったら自分の脚で来い」
「腹立つわクソツム」
「はいはいストーップ。来年のクリスマスはイブからデート出来ますように。サンタさんにお祈りしとくわ」
ぎゅっと手を握ってキリストへ祈るように目を閉じる。

「無理やな。可哀想ななまえクンは来年もどうせ俺しか付き合うてくれる奴おらんで」

「そこは付き合ってあげるんだ」と返す角名。

「お、俺は優しい侑クンやからな!」

酷い奴らだなあ、と頬を膨らませながらオムライスを口に入れた。

「せやなまえはいつ帰るん」
「明後日。バレー部はいつまで練習?」と侑に返す。
「ギリギリまでやな。春高近いし」
「頑張るなぁ」
「休みなくてもええけど」
治の言葉に俺は笑ってしまった。

「せやな。もう2週間後には東京や。日本中の奴らがてっぺん目指してやり合いにくる。潰すか潰されるか。負けたら次は無い」
「休んどる場合ちゃうわ」

双子の意気込みに、全国ってすげえなと俺は唾を飲み込んだ。角名も何も言わないが同じ思いなのだろう。真顔だ。

「バレーが大好きな奴らが全力でバレーしにくる大会か…。すげえなあ」

俺の言葉に3人の顔がより引き締まった気がした。

「バレーが好きで、楽しくて仕方ない奴らで。でも楽しいだけじゃ勝てない。強いから勝てる。勝ったら、もっと楽しい…そんな繰り返しで、勝ちを求めて強さを極めた奴らが東京に集まんのか…」

強さを手にしている人はどれほどの勝利の味を知ってるのだろう。美味しいだろうか。
時に敗北し、苦しみもがいて手に入れた強さで戦い、空腹で飢えに飢えて手に入れた勝利は最高の味なんだろう。

戦う相手が強ければ強いほど、美味い。
侑、治、角名達はそんな相手と戦ってるんだ。

全国ってすごいよなあ、と純粋に思う。

俺は柴さんや秋田部長の力があってこそ、夏のインハイに出れたけど、一人だけだと総力は並だからインハイには出られなかっただろう。

でも、こいつらは一人一人が強い。

「稲高バレー部は一人一人が強いんだろ?バレーは6人で戦うもんな。強い選手の集まり…」

「せや…俺らは強いで。でも全国はもっと上がおる。そいつら皆潰して勝つんや」

「はぁ…バケモンの集まりか…」
「バケモンてなんやねん」
「北さんが言ってた」
「なんやそれ」

3人の本気の顔を見て、俺も胸が熱くなるようだった。頑張れ。頑張ってほしい。応援したい。

近くで見てきた、本気でバレーしてる友達たちを俺は応援したいんだ。

「…応援してる、全力で戦ってこいよ」
3人の顔を見る。当然、という表情だ。分かってる。俺の気持ちは伝わっている。

「シチュー冷めるから食べよ」
止めていた手を再び動かす。

デザートに手をつける頃にはお腹がいっぱいになっていた。

そういえばインハイ前に3人から応援がてらご飯分けてもらったなぁと思い出した。侑はブロッコリー、角名はハムソーセージ、治はクリームコロッケ。クリームコロッケを大きい一口で食べたら怒ってたなあと思い出して笑う。

「モンブラン、食いたい人〜」
俺が言うと三人とも口を開けた。いつもは口を開けても、俺のだ、と主張するが今日は違う。
春高の応援として、俺の大事なモンブランを分けてやろう。

「俺の応援の気持ちだからな、有難く受け取れ!」

一口分をフォークで取って、侑、治、角名の口に突っ込んだ。

「うん、モンブランも美味いわ」

ひと口じゃ足りひんわ、という治を無視していると北さんと尾白先輩が視界に見えた。

「「お疲れ様ですっ」」双子が背筋を伸ばす。
「お疲れ。みょうじくん、また雛鳥のえさやりか」
北さんの口角が少し上がっている。
「雛鳥っつーよりは、動物園の飼育係みたいな心境です!」
「ふふ、確かにな」

「あ、アランくんはいちごムースなん?」
「ええなぁ」
「2人ともそんな目で見るな、やらんで!」
「「え〜ケチや〜」」

「あ、北さんと尾白先輩もいります?俺の応援の気持ちです。春高の」
「…ええよ、もう残り少ないやん。食べ。気持ちだけもらっとくわ」
「じゃあ北さんの代わりに俺が食うで」
「治、食い意地どんだけやねん」尾白先輩のツッコみに笑う。

「…全力で応援してます!頑張ってください!」
席をガタッと立ち上がり北さんに言う。
俺より高い目線の北さんは俺の目を見たあと、頷いた。

「ありがとう。頑張るわ。な、アラン」
「当たり前や」

ぺこり、と頭を下げて座る。
北さんと尾白先輩はクリスマス色の晩御飯をよそいに行った。

「春高って中継あるんだよな。見とくわ」
「俺らはシード校参戦やねん。2日目からやで」
「ほう、おっけー」

俺は帰省した家で見ることを決めた。
クリスマスムードの晩御飯を終えて各自、部屋に戻る。

明後日には帰れるように少しずつ帰省の準備を進めておこうと用意を始めた。


***

帰省当日。午後の15時半。
重たいリュックとサブのスポーツバッグを持って寮の階段を降りる。

中には課題のための教科書やノート、ゲームも入っている。

バスや電車の中で音楽を聴くためのイヤホンもすぐに出せるようにポケットに入れている。

外は寒い。着込んだ服装で在寮掲示板の名札を裏返した。

侑達は帰ってきていない。部活中だろう。
寮の管理人のおじさんに声をかける。

「みょうじ、帰省します。今年もお世話になりました!」
「おお、帰りの日は掲示板のスケジュールにもう書いたか?」
「はい!」
「おう、ほな気いつけてな」
「ありがとうございますっ」

頭を下げて荷物を持ち、帰るためにバス停に向かう。

やっぱ12月は寒いよなあと歩いていると前方から歩いてくる生徒を見かけた。
ウインドブレーカーを来た背が高い3人。侑達だった。

向こうも俺に気づいたらしい。手を振る。
「今から帰るんか」侑を見上げて頷く。
「おう、練習お疲れ〜」
「次会う時は春高終わった後やな」と言う治に聞いてみる。
「調子はどう?」
「上々や」不敵に笑う双子に俺もニヤリと笑った。

「頑張れよ!!」双子の背中をバシッと叩く。
角名の後ろにも回り込んで、渾身の平手をする。

「倫太郎、頑張れ!俺らのりんたろーっ!」
「いたい。俺らって何それ」大して痛くもなさそうに眉を潜めている角名を見て、ははは、と笑う。
「じゃ、バスあるし行くわ。また年明けな」

手を振って侑達と別れる。
歩いていく三人を見た。
頑張れ、と心の中で呟いて俺も歩き始めた。

と思ったら、後ろから駆けてくる足音が聞こえた。振り向くと侑が横に来た。

「どした?帰らんのか?」
「…バス停まで付き合うたるわ」
ポケットに手を入れたまま、マフラーに顔を埋めて地面見ている。

「寒いだろ」
「…重そうやしバス停まで荷物持ったるで、この優しい侑くんが」
「…ふうん、じゃあ遠慮なく」
ほい、とサブのスポーツバッグを渡す。

「おんもっ!何入ってんねん」
「教科書とか…ノートとか…」
「うげぇ…」

侑と隣同士で他愛ない話をしながら、笑いながらバス停まで歩いた。

バスの時間まであと10分。
「ありがと。見送ってくれるなんて本当に優しい侑クン」
「言い方腹立つわぁ。俺はいつでも優しいねん」
「優しい友達は勝手に人のもの使ったり、食べたりしませんけどねえ」
「なまえのものは俺のものやもん」
「………」
バス停で立って並んでいるのは俺たち二人だけ。侑をじっと見た。
「な、何やねん」
俺から目を逸らしてマフラーに顔を埋めている。

手を伸ばして侑の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「〜〜このっ!頑張れよ!春高!頑張れ!」
「ちょっ、なん、」

どうしたらこの応援したい気持ちが伝わるだろうか。強い思いが自然と手を動かしていた。
侑の耳がほんのりと赤くて、寒いのだろうと思った。

「高校ナンバーワンセッター、宮侑。俺は宮侑を応援してます…!!」
「ん、」

駅に向かうバスがやって来た。ブザー音と共にバスの扉が開く。

「全力で、楽しんでこい!」
握った拳を侑の胸にトン、と当てた。
「じゃ、またな」
荷物を持ってバスに乗ろうとした瞬間、腕を引かれた。

「なまえ、ありがとう。頑張るわ」
宮侑の本気の顔だ。

「うん、俺も荷物ありがとう」
じゃ、と手を上げてバスに入り込む。
歩道側の席に座るとバスは動き出した。
侑に拳を見せる。侑も拳を俺に返した。

クス、と笑って俺は帰路についた。



***


久しぶりに帰り、年末年始は祖父の家に行きチロルと一緒に遊んだ。

年明けにはラインで柴さんや秋田部長、茶川や三分にあけおめメッセージを送った。侑達にも送ると、双子の餅つき動画も送られてきた。

俺はチロルの癒し動画を載せると角名から〘チロルの凶暴動画プリーズ〙と来たのでチロルと俺の冬の野原を仲良く駆け回る動画を渡しておいた。

〘これはもはやなまえがチロルに全力で追いかけられているだけの動画。わろた〙と帰ってきてお気に召してもらえたようだ。


侑達が東京入りをする前日、俺は祖父の家の近くの山を練習も兼ねてロードバイクで登った。
一人で黙々と自分の限界を超えるために追い込む。

山頂から見える日の出とロードバイクの写真を撮って侑に送った。

みょうじなまえ〘頑張れ。〙
宮侑〘全力や〙

侑達の積み上げてきた努力が花咲きますように。そう願って俺は春高二日目を迎えた。

家の自室でノートパソコンを開いてネットの春高中継ページを出す。

始まる前からソワソワして、椅子の上で体育座りをした。

〈春高、2日目ダークホース烏野とシード校強豪稲荷崎の対決です!!〉

「うわあ…始まった…」

吹奏楽部の応援は見事で、見ているこっちも稲荷崎の応援に圧巻する。

「我らが稲校…頑張れ…!!」

侑がサーブらしい。笛が鳴り、侑が左手を上げた瞬間。吹奏楽の応援がピタリと止んだ。

ドキ、とする。
上がるボール、そぉぉれ!という声が聞こえたと同時に剛球が侑の手から放たれた。

ドヂッと床に叩き付けられたボールに歓声が上がる。が、侑は応援席を睨み返している。

ああ、治が言ってたサーブの時は集中するために静かになるってこれのことなのか、と知る。

ただでさえ圧が強いのに、睨まれた女子は怖いだろうなと俺も画面の前で苦笑いした。
侑はそれほどまでにストイックな男なのだ。仕方ない。
その天性の才能が開花してコートで存分に発揮される時、人は魅了されて止まない。

盛大な応援に侑の人気が窺える。

試合がスタートして稲荷崎と相手高校、烏野の接戦が始まる。

(あああ、皆頑張れ!侑、治、角名、銀、頑張れ!!!)

俺たちも強いし、尾白先輩のスパイクも強烈だ。ただ相手の烏野も目を見張るものがある。
攻撃的で休む暇もない。もちろんそれは相手も、同じだろうが一年コンビの影山と日向の速攻には何が何だかわからなかった。
影山は前に合宿の話で侑が言っていた奴だというのは分かった。侑と同じく上手い。

あんな烏野の速い球取れるわけねぇ〜〜!と素人目線で見ていると侑と治も似たような速い球を繰り出して、実況も興奮している。

実況も色々解説しているが多分バレーのことを知っているとさらに手に汗握る思いなのだろう。

画面の前で「頑張れ、頑張れ…」と握る手は緩まない。

点の取り合いに瞬きを忘れてしまいそうになる。今、コートで全力を尽くしている侑達に直接声を出して応援を届けたくなった。

侑のサーブが烏野の俺らと同じ二年田中を狙っているのが分かる。
バレーをしている時の侑の顔。相手から勝ちをとるために、何をしたらよいか策士でいて、かつ攻撃的なプレイスタイル。

侑のボールに阿吽の呼吸でスパイクを決める治。ブロックで相手のボールを遮断する角名。

点が入ると画面の前で「ッシャ!!」と大声が出た

「なんだよ〜〜、あいつらいっつも寝てるだけなのに、カッコよすぎだろ…!強えぇ…」

バレーの知識が薄い俺でもすごい戦いだと分かる。応援の大きさ、観客で詰まっている東京体育館の熱気が画面からも伝わってくる。

「何なの、なまえ騒いで」
母親が部屋を覗いてきた。
「これ!俺の友達!寮も一緒!!全国大会で今戦ってんだよ!」
興奮気味に画面を指さす。

「え〜すごいじゃない!」
「いつもクラスも同じで寮もいつも一緒で、インハイの時も…応援してくれて…。俺の、友達なんだよこいつら…めっちゃ面白くて普段バカしてるのに…今すげえかっこいい…この宮侑と宮治が双子で侑は俺の後ろの席で銀も同じクラスで、治と角名は隣のクラスだけどいつも夜ご飯一緒に食べてて、」
画面の中の侑達を自慢する俺を見て、母親は笑った。

「良い友達ね。友達は大事するのよ」
「あっ!タイムアウト終わる!集中するからっ」

出てって、と手を退けると「もう、」と小言を言われたが俺の耳には入らない。

また椅子に座り直して画面を見守る。

攻防戦の中、1セット目は烏野が取った。

「あああ〜〜!!」
何かを抱きしめたくて、とりあえずベッドから枕を取って胸に抱く。

次のセット必ず取って、その次も取ってくれ!

始まった2セット目に1セットと同じ展開にならないかと不安になっていたが杞憂だった。

〈宮侑、リベロを相手に2本連続サービスエーース!!!〉

盛り上がる歓声、手を高くあげる侑に俺は机をダンダンと叩いた。
「うおおおっ!!!」

<いよいよ侑くんのサーブ本領発揮という感じですねえ>

相手のリベロが取れないサーブ…。強さを見せつける侑にシビれた。 すごい、俺達の侑、すごい…!!

そんな侑を警戒するようにセッター狙いのボールに治がすぐに補完する。
双子の補完に会場は息を飲む。
さらにそこで角名が相手コート内に ドパッとボールを打ち込んだ。

「っ!!角名!!!」

〈宮侑を退けたと思えば宮治が、宮侑を捉えたと思えば角名が、次々と立ちはだかる!稲荷崎が止まらない!!〉

そうでしょう、そうでしょうっ!俺ら最強の挑戦者ですから…っ!!!

侑の綺麗なトスに高く飛んだ角名の特徴的な打ち方のスパイク。烏野の主将の腕を弾いて点をもぎ取る。

1年理石くんのサーブに出る喝の入った鬼応援には俺もギョッとした。強い、強いぞ稲校…。

ノってきた稲荷崎の強さは見事だった。尾白先輩の力でもぎ取る点、

治のサーブになり、治は侑と何か言いあっていた。

繰り出すサーブはホームランのように飛んで行った。剛球が得点板にぶち当たる。

〈稲荷崎はたまにこういうのありますよねえ笑 爆発力は凄いのにムラがあるというか〉

アランくんに叩かれている侑を見て、どうせ侑が煽ったんだろうと想像できた。

点差はあるものの、ぐらついた稲荷崎にメンバーチェンジが入り、尾白先輩と北さんが変わった。

「北さん!」

北さんがコートに入ると、侑達がシャンとした。北さんすげえぇっ。
空気が戻った稲荷崎に銀がスパイクを決める。

「銀っ!おおおっ!」

2セット目は同学年の小作がサーブを決めて、稲荷崎が取った。
25-16と開いた点差にホッとする。

3セット目、ここが勝負だ、と枕を握りしめる。

稲荷崎の空気になっていたと思っていたのに、なかなかに相手の烏野もしぶとい。
止まらない点の取り合い。

大耳先輩や赤木先輩、尾白先輩、北さんの3年生の安定感に安堵する。

〈先程の1年生理石のサーブをきっかけに稲荷崎がグンと加速した様に見えますねえ。烏野高校は稲荷崎の勢いを止められるか!〉

コートチェンジで治のサーブから始まる。

返したボールは侑を狙われた、が治が上げた。瞬間の侑のスパイク。

「っ!!!!」

会場中が一瞬止まり、沸き立つ歓声。

な、な、なんだこれ…?!治は打つ方でボールを治める、侑は上げる方でボールを集める。バレーって、ポジションがある…はずなのに何でもアリじゃね…?!?!

〈なんとスパイカー宮治からセッター宮侑へのセットアップでマイナステンポの速攻を繰り出してきました!!〉

「す、すげぇえぇ…」

顔を両手で覆う。指の隙間から画面を見た。

侑の顔が楽しそうに見える。
3セット目18-17、尾白先輩の疲れも気になるが、銀と北さんがチェンジした。

点を取り、20-17になる。点差が開けば安堵するが、烏野がまた点を取ってくる。
侑と治の表情がピリッとした。

「うおお、烏野、点取ってくるぅ…」

それにいいぞ、と相手高校を褒める稲荷崎の応援席にまじかよ…と目を開く。

相手の三年東峰旭のサーブの強烈なサーブを北さんは綺麗に拾った。
侑が動き始めてコートがぐらつく、そんな中、北さんが崩れたボールに対応してフォローする。

ああ、北さんがいるからこそ、稲荷崎は、双子は暴れられるんだと画面越しに思う。

24-22になり「このまま!このまま!」と強く願う。その矢先、ラインギリギリに2年田中が打った。

「………まじか…」

観戦しているだけでこちらもドッとくる。バレーって、こんな熱いのか…。

正直、2年に上がって治達に話しかけられて侑達と一緒に過ごすようになるまでは、バレーのことなんか全然知らなかった。

でも転校ばかりでなかなか仲の良い友達ができなかった俺が初めて出来た友達、親友が本気でやっているスポーツ。

全力で、本気で、ボールを追いかけている姿を見て胸が熱くならないわけがなかった。

ボールの動きは速い。1点1点があっという間に決まることもあれば、続くラリーが永遠のように感じる時もある。

コート内のアイツらは今、ボールしか見えていない。勝つことだけしか考えていない。
俺も同じ気持ちだ。

(勝て、頑張れ、頑張れ!!!)

〈サッ来いやぁぁあっ!!〉

稲荷崎コートから聞こえる侑達の声。ぎゅっと手を握る。

稲荷崎24-25烏野

「うぁぁっ」
すぐさま侑がボールを上げて銀が打つ。

〈トリッキーなプレーの方が目立って見えるかもしれない侑くんですがそれだけでは「高校ナンバーワンセッター」とは呼ばれないですよね。優秀なセッターたちの目は影でギラギラと光っているんです〉

また烏野に決められて稲荷崎25-26烏野になる。

「うへぇ…あの1年日向…」

侑のサーブで24-26になる。

〈高校生とは思えないハイレベルなサーブの応酬…!!〉

「侑っ!」
雄叫びをあげる侑に俺も叫ぶ。
勝つ、俺たちは絶対勝つ!強いんだ!

角名のスパイクに烏野1年日向が拾った。

「うえええ、アレを取れるのか…すげえ…」

まず俺にはこんなレベルのバレーをするのか1ミリも無理だが、尋常じゃない動きをするコート内の選手に俺はただただ圧倒されていた。

点数はあっという間に30-30になった。
もう25点を過ぎているこの攻防戦に画面越しに俺は瞬き一つ許されないと思った。

皆疲弊しているのが分かる。
全力で3セット目の最後を迎えているのだ。

1年影山が上げずにツーで落とす。
「…ぅ…っ!」
稲荷崎30-31烏野

お願いだ、お願いだから…。点を…!

極限の状態、コート内の奴らに声は聞こえてないだろう。瞬間に判断して動く、跳ぶ、叩く、何が起きるかわからない。

ボールの動きを追って全神経を集中させたバケモンたち。

ボールが侑に集まる。
〈後衛の宮治が飛び出している…?!〉

誰もが予想しないことをする双子、宮ツインズの侑と治。

完璧なセットアップ、速さ、上げたボールを治が渾身の力で叩いた。

その先にあったのは

烏野1年コンビの広げた手。

ボールは跳ね返り銀が追うも、コート内に落ちた。

稲荷崎30-32烏野

画面に目を見開いて近づける。会場内の歓声がスピーカーから流れた。

ドキドキとする心臓、張り付いた喉。

稲荷崎が、烏野に敗れた…。

「………」
椅子にパタリと座った。

侑達は肩で息をしている。終わったんだ…。試合終了…。

〈東京体育館が驚きに揺れる!「ここぞ」というタイミングの宮兄弟の高速バックアタック!〉
〈なんと止めてみせた烏野一年コンビー!!熾烈を極める一戦を制したのは烏野ーーツ!!〉


相手コートは歓喜で喜ぶ選手達で埋まる。
その姿を見て俺は拳を握りしめた。しゃがみこむ3年の先輩たち、上を向く尾白先輩、立ち尽くす角名、ボールを前に手を伸ばしたままの銀。

試合は終わったのだ。

〈優勝候補の一角宮兄弟擁する稲荷崎高校初戦で沈む…!!春高2日目、早くも今大会最大級の波乱です…!!〉

撤収する侑達、侑が烏野一年の日向に指を差して何かを言っていた。その後蹴り合う双子、コートで整列した侑は不服そうな顔をしていた。

稲荷崎応援席の拍手が気に入らないようだ。
侑らしい、とも思う。ストイックなあいつだ。勝者でない以上、何も意味もない、と。

それでも応援席からは喝が飛んでいた、稲荷崎は強いな。と改めて思う。

黒須監督のインタビューが流れる。
〈今回勝つにはもっと手堅く攻めるべきだったかもしれないですね。私のミスです。……だが確実に選手躍進の一戦でした。〉

アイツらは全力で試合をした。
結果、負けたけどそれはまた力になる。

その悔しさは忘れない。

インハイで柴さんを真っ先に送りだせなかった時のことを思い出して胸が痛くなった。指で右腕をなぞる。あの時の落車の傷は隆起して少し残っている。

「………」


悔しい。烏野に負けた。
でも、親友たちの全力で挑む、本気の姿を見て俺は誇らしい気持ちで満たされていた。

prev Back next ︎︎