47

(宮侑)

春高全国大会が終わり、3年生は引退した。
始業式が始まる前日、寮に帰ってきた。

部屋に荷物を置くも、まだ終わってしまった春高の余韻は残っていた。
東京から買って帰ったものをカバンから取り出す。

「ちょっと精神統一してくるわ」
部屋を出る前に治に声をかける。

「精神統一てなんやねん。どうせなまえの部屋やろ」
「………」
見てくる治に無言の回答をして部屋を出た。

なまえの部屋の前に立ってドアをノックする。
あの電話をかけた日以来、話していない。そして自分の気持ちを認識したのもあって少しだけドキドキした。

開いた扉からなまえの顔が見えた瞬間、そのドキドキもどこかへ行った。安心、落ち着きの方が大きい。

久しぶりに会った気がする。実際に約2週間ぶりくらいだ。

「侑…」
俺を見上げた後、「おかえり」と返ってきた。胸がじわりとする。

「ただいま」

部屋に入れてくれたなまえに持ってきたものを差し出した。

「ん、」
「?なにこれ」
俺の手にはバレーキャラクターのキーホルダー。

「東京土産や。なまえに」

きょとんとした後、なまえは吹き出した。

「俺にぃ?ぶはっ、何でバレーのキャラキーなんだよ…っまてまてウケるわっ、俺、自転車競技部なんだけどっ」

ケラケラ笑うなまえに胸がぎゅん、とした。そうや、電話でもこの顔が見たいなって思ったんやった。

「ウケ狙わんで何狙うねん。ええやろ、それ付けとったらお前自転車とバレーどっちやねん!ってネタになるやん」

バレー全然分かってないけど、と笑うなまえの学校のリュックに近づいてバレーボールキャラクターのキーホルダーを付ける。黒リュックにキャラキーは目立つ。

「よし、これでええ」
バシッとリュックを叩いた。
「おい、勝手につけんなよ」
「絶ッ対に外すなよ。ええか。拒否権はない」
「ないんかい」

諦めたように笑った後、なまえは俺の目を見た。

「お疲れ、春高」
「……ん」
続く静寂。俺が言いたいこともなまえが聞きたいことも全て分かってるような気がする。でもそれは口に出さなくても伝わっていると思う。

もう、前を向いているのだ、と。

なまえが椅子に座って振り向いた。

「…俺、課題やってるから続けるけど。どうする?ゲーム?漫画?」

なまえと一緒に何かするわけでもなく、同じ部屋の中で各自がしたいことをする。

「…漫画読む」

「ん、テキトーに。そこらへんあるやつが全部」

床に置かれた漫画をシャーペンで差した後、机に向かい直してカリカリと描き始めたなまえ。

俺は床に座ってベッドを背もたれに漫画を開く。

部屋の中はお互い無言。でもこの静寂は嫌じゃない。
シャーペンがカリカリと動く音、俺のページをめくる音だけ。この静けさが心地良い。

何でこんなに落ち着くんだろう。

なまえの顔を見て、完全に春高の余韻は終わった。見合わせた顔に「もうお前は前に行ってるだろ?」とそう言われた気がした。

もう、前に進むだけ。強くなるだけや。

そっとなまえの背中を見た。

俺よりも小さなその背中。でも包み込んでくれるような安心感がある。そして頼もしい、そんな親友が好きだなと思う気持ちはもう止められなかった。



***


「おーい、起きろ!」
肩を譲られて閉じていた目を開ける。

なまえが座っている俺の目の前に立っている。
「んあ…」
「すぐ寝るんだもんなー」

どうやら漫画を見ているうちに寝ていたみたいだ。ベッドを背もたれにして睡魔にやられていた。

「もう晩御飯。どうする?行く?」
「んぅ。行く」

治に携帯で食堂行く、と送った。

2人でなまえの部屋から出る。目線を下に向けて、なまえを見下ろす。

…いやあ、有り得んと思うてたんに。こんなふっつーの男子を好きになるとか…。
でもなんや可愛く?見えてしまっている自分に恐ろしいとさえ思う。

「なんだよ…何かさっきからジロジロ視線がうるさい」
俺との身長差に必然的に上目遣いになるなまえ。
「はぁ?自意識過剰とちゃう?」
「なっ!」

怒るなまえに口角が上がる。痛くもないグーパンチをしてきた。
そう、このいじりがいがある感じも堪らんのや。

食堂に入り、晩御飯の天ぷらを見て腹がさらに減った。米にありつけるという喜びにホクホクしながら炊きたてのご飯と揚げたての天ぷらをトレーに乗せていく。
なまえと並んで味噌汁を注いだ。

向かい合わせに席に座る。

「治は?」
そう言われて携帯を見る。治からは〘後で食いに行く。今はええ〙と入っていた。

「後で食うらしいわ。先食べよ」
「ふうん」

いただきます、と手を合わせて米を食う。久しぶりの寮の味に懐かしさを感じる。

「バレーってさぁ、すごいな。春高見て、何か思ってたのと全然違った。動きが尋常じゃない。皆、すごかった…」

結局最後まで試合中継を見たのだと言うなまえに俺らも現地で見たと告げる。

「皆、強かったな。でも、うちも負けてない!」
「負けとるわ」
「いや、負けたけど!でも弱くはないし!」

俺は侑達の凄さを初めて知ったんだ、と息巻いて言った。

「正直、侑とかただのバレーバカだと思ってたんだ」
「なあ、俺を貶しとんのか?絞めるで?」
「ごめんて」
「ごめんのテンションじゃないやん。あとで絶対絞める」
「最後まで聞け。ただのバレーバカじゃなくて、バレーに狂ってるバレーバカだったと分かった」

「やっぱ絞められたいんやな。ご希望通りに後で技かけたるわ。新しい技習得中やねん」
「いや、褒めてんだよ!だって狂ってなきゃあんなバレー出来ないだろ!マジでかっこよかったんだって!俺、パソコンの前で騒ぎすぎて母さんから何事?って言われたくらいだから」

ははは、と笑うなまえに少し照れくさくなった。
「皆すごかったなぁ。治もカッコよすぎるし、銀も角名もバレーしてるのかっこよかった」

は?俺だけとちゃうんかい。こいつ…。
「誰が一番かっこよかった?言うてみ?もちろん侑くんよな?」

にこりと笑って首を傾げる。

「え、誰…それは決められん…だって尾白先輩のブロック超えの強烈スパイクとかも震えたし、北さんの綺麗に上げるレシーブ、あれも、あれも震えた…」

天井を眺めて思い浮かべる様子で、はぁ、かっこよかったなんて呟くなまえにイラッとした。

「はあ?俺とちゃうんかい」
「いや、侑ももちろんかっこよかったぞ。もう実況が侑くんはすごいですねえ、て言ってたし。何するかわかんないところも含めて体育館盛り上がってたと思う。俺は現地で応援したい、って思ったもん。繋ぐってすごいな…文字通り繋いで1つの点を取るんだもんな…すごかった…」

俺の目を見て言うなまえにうんうんと頷いて俺は満たされる思いだった。

「来年は校内の応援参加応募しようかな。そしたら応援行けるよな。来年も春高全国大会行くよな?」

一年も先のことを聞いてくるなまえに「当たり前やろ。インハイも来年の春高も全国行って、烏野どころか皆潰したるわ」と返すとニヤリと笑って、絶対な、と言った。

「そいや、烏野戦の最後、1年の日向翔陽に指差して何か言ってなかった?」
「ああ…あれなおれはいつかお前にトスを上げるでって言うた」
俺の言葉になまえは目をパチクリさせた。

「というと?」
「…セッターやもん。跳びの良いスパイカー見たら、使いたなんねん。こいつにボール上げたらどんな風に打つやろう、って。こいつ使って戦ったらさぞかしオモロいやろうなあって思たんや」
「うん」
「…バレーやっとったらいつかどっかで一緒になるやろ」
「侑…そんな先のことまで考えとったんかいな…」
「アイツはバレー続ける気がしてん。一生」
「…ふふふ、」
「何笑てんねん」
「いや、侑だなあって」
「訳分からん。ええから早く侑くんが一番かっこいいです、て言え」
「いや、それは…」
「躊躇う必要なんかないやろ!」

そんな奴にはこうだ、となまえのかぼちゃ天ぷらを箸で取って、自分の口に入れた。
「あっ!俺のかぼちゃ!楽しみにして残しといたのに!」
「先に食べんなまえが悪いな」
「ああ〜〜、くっそ…!侑以外皆かっこいいです!侑以外!」
「はぁ??以外??」
目を見開いてなまえを脅す。

「またやってる」そう言って角名がトレーを横に置いた。

「角名!春高、お疲れ。見てたぞ、かっこよかった。来年も頑張れよ!」
なまえが拳を角名の腕にトン、と叩く。

「…ん」
それを見て角名は少し頷いた。
そこに丁度治も来た。

「治!……お疲れ」
なまえは拳をグッと握って治に向けた。その拳に治の大きい握り拳がコツ、と当たる。

4人でテーブルに座って、飯を食う。
何も言わなくても伝わってる。俺らは分かっている。

「…俺の友達、皆かっこいいだろって母さんに言ったんだ」

そう嬉しそうに話すなまえに俺らは北さんに言われたことを思い出していたと思う。『俺の仲間すごいやろって』あの言葉が俺たちの原動力になる。

なまえのこの言葉が俺たちの力になる。自慢できる仲間になるで。俺らは。

「バレーってすごいな」

なまえの笑顔に次は絶対に勝ったる、と改めて誓った。

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