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(宮 侑)

待ちに待った日曜日。
朝から準備はバッチリだ。治から借りた服も着てコートを羽織り、鏡の前で最終確認をする。
髪ヨシ、服ヨシ、靴ヨシ。

「ほな、行ってきマース」
「……道端でコケてまえ…」

まだ覚醒していない寝ぼけ眼の治に声をかけて部屋を出る。
寮の玄関先で待ち合わせているため階段を降りようとした時、角名と出会した。

「はよ…。どっか行くん」
「角名、はよ「あ、侑?」

後ろからなまえの声が聞こえた。振り返ると階段の上から、なまえが降りてきているところだった。思わず角名を壁際に追いやってなまえの死角に入れる。

「ちょ、」
「あ、はよ!ちょい先行っといて!」
「?りょーかい」

なまえはトントンと軽やかに階段を降りていった。
良かった。なまえは角名に気づいてないようだ。危ない、角名が今日何も用事がないという事がバレたら全て水の泡になる。

「なに?」いきなり押し込まれて角名が疑わしげに俺を見てきた。

「ええか角名。お前は今日、用事があるんや」
「はあ?別に何もないけど」
「いや、あるんや。そういうことにしといて。あと5分はこの場から動かんといて。ほな」
「はあ?」

我ながら無茶なことを言っていると承知で角名を置いて駆け出す。階段を降りてなまえの姿を見つける。

「ふう、ひと仕事終わったわ」
「?お疲れさん」

2人で在寮掲示板の名札を裏返して出発した。

休日は出かける人も多く電車内は人が多かった。お互いに壁に寄りかかって駄弁る。

「はぁぁ、グレーのコートにニットとか完全に街歩きチョイスじゃん。映画見に行くだけだろ…?!」

俺を見て顔を顰めるなまえにコートをピシリと整え、ニヤリと笑って見せる。

今日のコーデはシンプルイズベストや。
コートにインナーはシンプルなニット、黒のパンツにトートバッグ。

「お洒落してナンボやん?」
「自覚あるところがまた腹立つわ…」
「侑くんは見た目も中身も良いんです♪」

なまえが白目を剥くような仕草をしたので両頬を掴んでおいた。

「何で友達と遊ぶのにそんなきめてくるかねえ侑クンは。女子とデートとかなら分かるけどさあ」

なまえは自分がマウンテンパーカーとジーンズ、ボディバッグというラフな格好なのが気に食わないようで唇を突き出している。

女子とのデート?俺はそれぐらいのつもりやけど??

「何なの?俺と遊びに行くんだよな??彼女作りにいくんじゃないよな??」
「何言うてんねん。遊びに行くだけや」
「くっそ、、世の中は何て残酷なんだ…」

上を向いて悔しそうにしているなまえを呆れた目で見る。

心配せんでもええのに。そんなお前を好きな奴はここに居ますケド。言うてはやらないけどな。

商業施設の中にある映画館に着いてお目当ての映画のチケットを買う。

「はあ、映画館の音響っていいよなあ」
なまえは楽しそうだ。

俺たちが今から見る映画にポスターには『ホラー映画の巨匠によるスプラッター!』と堂々と書かれていて、おどろおどろしい絵面だ。

その大きなポスターを見上げて俺は息を飲んだ。
「なあ…何で平気なん…」
「え?侑こういうの無理?」
「無理ちゃうけど…」
「んー多分、俺は自分自身が平凡すぎるから非日常的な刺激が好きなんだと思ってる。ゲームとか、漫画とかな」
「刺激…。自転車っちゅう危険なスポーツするんも刺激を求めてか…」
「!おお、確かにそうかも!常に危険と隣り合わせだからなあ…」
「あかん、危ない奴や…」
「いや、あくまで好きなのはフィクションだからな」

勘違いするなよ、というなまえと一緒にジュースとポップコーンを買う。

シアタールームに入り、暗い室内の階段を登って後ろの席に行く。

左側になまえが座る。ポップコーンは2人で分けて食べようと大きいサイズを一つ買った。塩バターとキャラメルのハーフだ。

映画泥棒の映像が始まると、ついに映画が開幕になる、となまえが目を輝かせた。

「始まるぞ…っ」
キラキラとした目で見てくるものだから笑ってしまう。

こんなスプラッター映画をキラキラした目で見る奴おるんかいな。

映画の内容はグロテスクホラーでびっくりするシーンの度に観客の叫び声が上がる。

なまえを横目で見ると笑顔だった。
こいつ、何で笑顔やねん。

「何で笑てん」
「え?この皆が怖がってるのが面白いじゃん」
「…サイコパスか?」
「いやいや、俺も怖いよ!怖いけど、面白いじゃん」

確かに怖いのは怖いらしい。ポップコーンを食べようとBOXに手を入れた瞬間、びっくりさせるシーンが来るとビクッとなっている。

怖いんか、面白いんか、どっちなんや…!

怖いもの見たさが強いんだろう。静かなシーンで今か今かと観ている全員が(来る…絶対来る…)と思っている時になまえの膝の上にあるポップコーンが食べたくてボックスに手を掛けたら、なまえの体がビクリと跳ね上がった。

「っぶな」
危うくポップコーンが落ちるとこだった。こいつにポップコーンは持たせてられんなと膝の上から回収する。

上映が終わって、シアター内が明るくなった頃、俺らはひとっ走りしてきたような気分だった。

「いやあ、観るのに体力使ったな…」
「結局アレ、バッドエンドやん…。最後鏡に映っとったやん…」
「気づかず幸せそうに笑ってたあの顔、ああああ…余韻がぁ…あ…?ポップコーンがない」
なまえは膝の上からポップコーンに消えていることに今更気づいた。

「もう食べ終わったし」
「はぁぁ?俺ほとんど食べてないわ」
「なまえがビクついとるから膝から回収したんや」
「ビクついてない」
「ビクビクしとったで」

ポコン、と軽くグーパンチしてきたなまえに笑う。拗ねた顔もええな、と思うのは重症なのかもしれない。



***

(みょうじ なまえ)

映画を見終わって席を立つ。
期待通りの映画でスプラッター系が好きな俺には十分に楽しめた。怖いもの見たさが強いと我ながら思うが見たいものは怖くても見たいのだ。

怖いもの見たさと言えば、侑に対しても最初は近づくのも話しかけられるのも距離を取っていたけど、一旦話すとどんどん距離が近くなっていったなあ、と2年に進級した春のことを昔のように思い出した。

シアタールームを出て2人で並んで歩く。

「ゴミ捨ててくるわ」
「ええよ。俺が捨てるわ。外で待っとって」
「おお、ありがとう」

ポップコーンの空箱を俺の手から取って歩いていく侑に、何だかいつもの侑と違うな、と感じた。

なんだろう、優しい?いや、違うか。気が利く?

いつもと違うと言えば、服もそうだ。
シンプルな服装なのに、バチバチに決まって見えるのは俺の目がおかしいのだろうか。

いやいや、おかしくは無いと思う。電車内でも視線が侑に集まっていた。

あいつ、自分が目立つの分かってるのか分かってないのか…。

高身長、整った顔、整った身だしなみ、黙ってれば羨ましすぎるくらいのステータスなのだ。
極めつけにトートバッグって。

運動部のDK(男子高校生)だろ!メッセンジャーバッグくらいにしとけよ!とツッコミたくなったがそれさえも余裕で着こなしそうなので止めておいた。

俺は隣を歩くのも憚られるくらいアイツの圧に押されているというのに…。

なかなか来ないなあと映画館の中を覗いてみる。高い位置にある金髪頭を探せ…、と視線を泳がせる。

見つけた。
女子2人に話しかけられている。年上っぼい。明らかに逆ナンじゃねえか!ああ、こんな光景最初から予想できてたわ。

断っているのか引かない女子に対して侑の顔がイラついているのが伝わってきた。やばい。ここでアイツがキレたら厄介なことになりそうだ…。

ズンズンと歩いて侑の方へ近づいていく。

「侑!」
「あ、」
ガシ、と腕を掴む。

「すみません!予定あるんでー」

「え、何かきたんやけど」
「こんな子放っておいて、ちょっとお茶しよ?」

いやいや、何かきたとかひどくね?こんな子って何?!心の中で大号泣ですけど!
「あ?」
侑が怖い顔をし始めた。やばいやばい。

「はいストップー。や、ほんと、時間ないんで!すんません!」
侑の腕を無理矢理グイグイ引いて映画館を出る。しばらく歩いたところで引っ張ってきた侑を解放する。

「はぁーー、一応聞くけどさっきの知り合い?」

知り合いだったら無理やり連れてきてごめんだけど、と心の中で呟く。

「ちゃうわ。あんな女子大生知らんし。お茶しよ、て話しかけられてん。断っとんのに執拗いねん」

女子大生…!!聞き慣れないワードに俺は目を回しそうになる。

「だぁーっ、そういう時は華麗にスルーだろっ、お前の顔で圧かけたら色々厄介なことになる!」

特にコイツは余計な一言を言いそうで怖い。

「いつもはサムがテキトーに対応してんねん」

でしょうねえ。侑よりは人当たりが良いからなっ。
「応える気がないなら愛想笑いしてテキトーに無理デスーって言っときゃいいんだよ、多分!」

俺は悲しいことにそんな状況になったことないし、これからもその可能性はゼロだろうから断言はできないが…!

「何で俺が愛想笑いせなあかんの?笑顔見せる必要あるか?」

ここで出るか、人でなし具合!
なまえやあるまいし、とご丁寧に俺の愛想笑いまでディスってきている。

「俺は環境適応能力が高い、と言ってほしいんですけど。いつも楽しそうに笑ってんじゃん。あれをやればいいんだよ。あれを」
「無理」
「即答すな。こうやって営業スマイルで…」
へらっ、と笑って見せる。
「…あかんわ、ひどいその笑顔すぐにやめえ。周りに見せられん」

頬をベチッと挟まれた。そりゃ俺も平凡な容姿の自分の笑顔が良いとは思わないがさっきから皆して酷くないか?

「おい、俺の営業スマイルを…。はぁもういいや。腹減ったな」
「うん。バーガー食べたい」
「わかるぅ。俺も」

頭の中にバーガーが浮かべば腹の減りは更に加速する。
近くのバーガーショップに入り、テラス席で齧り付いた。
俺はチーズバーガー、侑は半熟卵のテリヤキバーガーだ。

「美味い」
「………」
侑がじっと俺のチーズバーガーを見つめている。

「いつもいつも…その目で訴えるのやめてくれません?」

諦めの境地で、はい、と渡すとにこりと笑った。
そう、その笑顔を他でもすればいいんだよ。

「その代わり、俺も一口!」
「あっ、半熟の一番ええとこやん!」
「おいひい…」

唇から溢れたソースをペロリと舐める。
悔しがる侑に笑うと、俺をじっと見て急に黙った。

「なに?」
「…何でもあらへん」
「あっ、まーた一口がデカイ!」

もう一口がデカイのも慣れてきた。もう何言ったって侑の一口が小さくなることはないんだからな。

皆と遊ぶのも楽しいけど、こうして2人で遊ぶのも楽しいと感じる。

食べ終わって本屋に行ったり、ゲームソフトを見に行ったり、色々と2人で店を回っているとあっという間に帰る時間になっていた。

電車に乗り込んで寮へ帰る道につく。

「はぁ、今日笑いすぎて腹痛い」
「ツホりすぎやねん」
「侑が笑かしてくるからだろ」
「やって俺おもろいもん。しゃーないやん」
「その自信はどこからくるんだよ…」
「おもろくて、かっこよくて、中身も良い」
「ごめん、中身も良い、はないわ」
「あ?」
「やっぱ中身の悪さが漏れ出てる気がする」
「なんやと?」
「こういうとこ」
「む…」

なんだよ、む…って!唇を横に引いて我慢するような表情の侑にまた吹き出してしまう。
侑といると笑いが止まらない。

こんなことでバカ笑いできるとは今まで思わなかった。転校続きで諦めていた過去の俺に教えてあげたい。
高校に入れば、仲の良い友達ができるぞ、と。

理不尽でジャイアンなところもあるけど、一緒にいると楽しい奴だ。

遊び疲れた俺達は揺れる電車で船を漕いでいた。

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