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バレンタインデー当日。
校内は紙袋を持っていたり、ラッピングされた袋を手にする女子を多く見かけた。

朝から賑やかだな、と俺は冷めた目で見る。

結局、バレンタインデーの奇跡は俺には起きなかったのだ。

どこかで何かがきっかけで女子とお知り合いになれるとか、そんなこともなく。ただただ侑や茶川達と過ごすだけの毎日が過ぎていった。悲しい。

昇降口で靴を履き替えていると知らない女子から声をかけられた。

「あの、」
「?」
「これ…」
「…!!!」
可愛くラッピングされた包み。

ま、まさか…まさか俺にこんな日が…!奇跡はあるんだ!!

急に速くなる胸の鼓動。顔も名前も知らない女子だけど、これから知っていこう、まずは名前から聞かなきゃ、とドキドキした気持ちで手を出そうとした。

「ミャーツム先輩に渡してくれませんか…っ」
「へ…」

顔を赤くして頭を下げる女子に俺は一瞬、停止した。
ミャーツム、先輩…。
あ、ああ、そうか…そうだよな、そんなはずないよな…奇跡なんて起きるはずないよな…。

さっきまで弾んでいた心は一気に急降下した。

「あー、えっと誰か分かんないとお返しも…できないし…自分から侑に渡した方が…」
「お返しはいいんです!渡してくれるだけで!お願いします!」

半ば無理やり持たされてしまい、後輩であろう女子は走り去って言った。

残された俺は無の感情で贈り物を見た。

侑め…俺のトキメキを返せ…っ


***


「…何だ、その袋は…」

教室に入ると侑はすでに紙袋二つ目を手にしていた。もはや俺にはすごいな、としか思えない。
強豪バレー部の中でレギュラーでインハイも春高でもメインで出て、校内でも一番有名な宮兄弟がモテないはずはない。
今日という日は日頃のモテ具合が思う存分発揮されているだけなのだ。

「羨ましいやろ?」
ふっふ、と笑う侑に俺は舌を出す。

「別にぃ」
「強がらんでもええて」

ニヤリと笑う侑の席に女子が来た。

「宮くん!チョコ受け取ってくれる?」
差し出された可愛い小袋。
「お返しは出来へんけど、ええん?」
「お返しは全然!貰ってくれるだけで!」
「ありがとう」

にこりと笑う侑に顔を赤らめて嬉しそうに帰っていく女子。

俺は口を開けた。

こ、これか女子が落ちるのは…!お返しはできないと言いつつ、笑顔で受け取る…完璧な返し…。

「恐ろしすぎる…チョコの対価が笑顔…」
「お返しすんの大変やし。せっかく、くれるんやから誠意持って返さなあかんやろ」

普段からその誠意を持っていてください、と言いたいところだ。

「で、なまえは?」
手を俺に差し出す侑。
「は?」
「俺にチョコ」
「はぁぁ?あるわけねーだろっ」
「はぁ?」
逆ギレする侑。俺に向けているその手の平を上から叩いた。

「俺が欲しいくらいだわっ。あ、でもこれはお前に」

昇降口で受け取った小包を侑に渡す。
「ミャーツム先輩へ〜。多分後輩の女子、お返しは要らないって」と付け加える。

「なんやなまえからやないんかい」
「何で俺が侑にあげるんだよ。俺のトキメキを返せ。朝から心臓に悪いわ…」

頬を膨らませていると今度は同じ組の佐倉さんが侑の横に来た。手提げ袋から小さな袋を取り出した。

「宮くん、お返しはええから!これあげる。皆に配ってて」
「ありがとう」

俺は佐倉さんが侑に好意を寄せていることを知っている。
皆に、と強調しつつ、袋に入っている他の小包とはラッピングが違うものを侑に渡したところを見て、やっぱりそれは本命なんだろうかと思った。
好きな人がこんなにモテていると、あんまり嬉しくないよなあ、と考えたりしていると佐倉さんが俺を見た。

「あと、みょうじくんも…」
「へ…?」
侑とは大きさが違うものの、丁寧に包まれた小さな袋を差し出された。

「え、え」
「皆に、配ってるから。あ、義理チョコやで。色々とお礼」

ふふ、と笑う佐倉さんに俺は目を見開いたまま受け取った。

「あ、あ、ありがとう…」

佐倉さんが席を離れていっても俺は手のひらの上にある包み、ガン見していた。

ゆっくり侑を見る。
「俺に、くれた…」
「…義理チョコやん」

なぜか侑は面白くなさそうな顔をしている。

「義理でも初めてもらった…」

うわあ、嬉しすぎる。感極まる思いで侑を見返す。
「初めて、て…。そんな嬉しそうな…」
「どうしよう、お返し何がいいかな、うぇ、やば」

昇降口で高鳴った心がまた舞い戻ってきた。

「…おい、お前の初めてはこれや」
「むぐっ、」

口の中にいきなりト/ッ/ポを突っ込まれた。
チョコ菓子の風味が口に広がる。突っ込まれたお菓子に罪はないので咀嚼して食べた。やっぱ最後までチョコが詰まってるから美味い。

「なんだよ、急に」
「なまえの初めてのバレンタインチョコはこれや」
「いや、おかしいだろ。それは侑が誰かからもらったト/ッ/ポだろ。俺はこの佐倉さんからもらった「俺が貰ったもんはもう俺のもんや。んで、なまえはその貰った菓子を食べる前に、俺が上げたこれを食うたんやから、これが先や」」

言い切る侑に俺は眉間にシワを寄せた。

「何そのジャイアニズム」
「俺が上げたもんがいっちゃん最初や。せやから初めては俺や。物理的に」
「物理的に…?」
「せや。物理的に」

なぜ物理的に一番にしたいのか分からんのだが…。とハテナを浮かべるも、ドヤ顔で頷きながら言い切る侑にこれ以上抗議しても無駄な気がして諦めた。

佐倉さんからチョコをもらった事実は変わりないのだし。

「ていうか、これだけたくさん貰って食べきれんのか?」
「んー、協力して食べるで。もちろんなまえもその一人やけど」
「…それはまあいいけど」

お菓子をおすそ分けしてもらえるのは悪いことではない。それにしても、と大量のラッピングされた包みを見て肩をすくめた。

「皆、騙されてるよなぁ」
「何が?」
「いやぁ、侑のどこが良いんだろって」
「…今から表出て、やるか?」

笑顔で青筋を立てている侑をチラと見たあと、俺は頬杖をついて窓の外を見た。

チョコの受け渡しで色めき立つ教室内の喧騒に少し浸りながら、目の前の暴君がなぜモテるのか不思議でならなかった。


***

(宮 侑)

佐倉さんからチョコを貰い「初めてもらった」と嬉しそうに言うなまえの口にト/ッ/ポを突っ込んで、強制的に初めては俺、ということにしたところまでは良かった。

今度は「侑のどこがいいんだろ」なんて真面目に抜かしやがったので、さすがの俺も手が出そうになった。

頬杖をつきながら遠くを見る目でなまえは息を吐いた。

「恋は盲目って言うよなぁ。ジャイアンなところが見えてないんだろうなぁ」
「むっちゃ腹立つわ。やっぱ一回絞めとかな、あかんねんな?な?」

こんな奴を好きな自分が信じられないが、やっぱり好きなもんは好きなので、チョコを貰って嬉しそうななまえにモヤモヤしたし、佐倉さんにも嫉妬する自分がいた。

なまえが俺を見た。
「カッコイイのは分かるんだけどな」

そこまで素直に言われると悪い気はしない。

「黙ってれば、な」
「お前…」
「あー、俺も侑並にモテたらなあ」
「寝言は寝てから言いや」
「…侑には分からんだろうな。叶わない恋の辛さなんてさぁ。片想いとか共感できねえだろ」
「…そうでもないけど」
「えっ!好きな人いんの?」
目の前にいますケド。

「さあな〜俺はバレー愛しとるし」
「そういう話じゃねえし。モテモテの侑くんにも片想いの気持ちが分かるとはねぇ」
「モテても自分の好きな人が好きになってくれるか、っていうたら別やん」
「ふうん?でもさ、全力でバレーして、無双してる時の侑ってかっこいいし、普通に惚れない奴はいないんじゃないか?女子とか声援すごいじゃん」
「……」

ほんなら、お前も俺に惚れろや!

心の中で叫んだ。
純朴な顔で無双してる俺がかっこいい、とか。惚れない奴はいない、とか。真っ直ぐ言われた言葉がグサグサと胸に刺さる。嬉しいのに見事にそれに当てはまってない人間が約1名、目の前にいるのだ。

「つかいつも遊びに行く時もバチバチにキメてるしよー。隣を歩く俺の身にもなれよ。居た堪れないだろ」
「せやろな」
「認めんなよ」
「俺かっこええし。しゃーないやん」
「腹立つわ。女子は簡単に落とせてもな、それは皆騙されてるだけだからな。俺は知ってるぞ。宮侑がどんな奴か、ってのを」

俺は騙されないからな、なんて言っているなまえを見て、俺が一番落としたいのはお前や、という言葉を飲み込んだ。

「なあ、仮定の話やで。もし片想い中やったら、何したら落ちると思う?」
「え?何したら…うーん…ムズいな。ていうか、落ちるってどういうこと。落として告白させたいってこと?」
「やっぱ好きな奴に好きって言われたいやろ」
「自分から言う選択肢はないんだな」
「落として、惚れさせた上で、『好き』て言わせたい」
にこりと笑うとなまえの表情が引きつった。

「…性格悪っ」
「今更やん」
「まあ、侑なら本気出せば余裕と思うんだけどなあ」
「本気?」
「アピールして相手に伝わるようにするとか。ま、心配いらんだろお前は。カッコイイのはカッコイイし。好きな奴もコロッと落ちるんじゃね。知らんけど」

最後は無責任に一言で片付けたなまえはまだ手元の袋を嬉しそうに眺めている。

「…覚えとけよ、その言葉」
「んあ?」

俺のことが好きや、って絶対に言わしたる。

俺は今まで自分から言ったことは無いし、言われたことしかない。
本気で落としにいってやる。同性とか関係ない。男でも俺のカッコ良さに惚れさせたるわ。

なまえに「好き」と言わせたい。その言葉が聞けた暁には、笑顔でその想いを受け入れてやろう。

「あ、さっきのト/ッ/ポのお返し忘れたらあかんで?」
「は?!あの一本で?!アホか。それなら1箱全部寄越せ」

なまえの口にもう一本突っ込んだ。
唇を尖らせながらポリポリと食べていくなまえを見て、俺は口角が上がるのを止められなかった。

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