58

春休み、練習がオフの日を合わせて朝から侑達と大阪にあるテーマパークUSJに向かっていた。

「相変わらずガラ悪いな…」

最寄り駅で降りて正面ゲートまで歩く道のりの中、私服姿の双子を横目で見る。
いつもは制服やジャージ姿で半減される威圧感も、私服姿でさらに双子が揃うと相乗効果でガラの悪さを感じる。

背も高い、髪も派手、顔も整っている、となると威圧感が増すのだ。侑が俺を見下ろす。

「ガラが悪いて何やねん」
「いやみょうじが言うんも分かる気ぃするわ」

銀の言葉に俺は「だろ?」と返した。
ただでさえ圧が強いのに、動きやすさ重視とか言いながら侑はゆるいストリート系の格好だ。

俺が着るとパジャマですか?と思うようなパーカーも着こなしているところが悔しい。

双子の近くにいると何だか居た堪れないため銀の隣に立って歩くと侑が肩を組んできた。

「絡まれてる、の図」
角名が意地悪な笑みで携帯のカメラを向けてくる。

高身長集団に挟まれた俺は角名にパシャリと撮られた。
見えてきた正面ゲートと、USJの撮影スポットである巨大な地球儀にテンションが上がる。

「うおお〜っ到着!どこから回る?」
「俺ジュラシック・パーク行きたい」
「俺バック・トゥ・ザ・フューチャー」
「俺スパイダーマン」
「俺はターミーネーター」
双子、角名、銀の主張に苦笑いする。
「とりあえず順番にな!」

チケットを買った後、まずはパーク内を左回りに行こうと話してハリウッドエリアのスペースファンタジーというライド・アトラクションに乗った。

外のジェットコースターよりは軽めな乗り物で疾走感と暗闇の中でチカチカと点滅し、宇宙空間を演出したライトイルミネーションにはしゃぎまくる。

「やっぱジェットコースター系いいわあ!」
「あとで絶対、外のジェットコースター行きたい!」
「角名っ、おま、髪がっうける」

乗り終わった後、角名の髪が風に煽られ髪型が変わっていた。その姿を見て吹き出す。

「スーパーサイヤ人かよ」
ぶんぶんと頭を降って元に戻した角名がケラケラ笑う俺をじろりと見下ろして携帯を操作した。

いい笑顔で俺のいつしかの半ケツ動画のスクショを全世界に晒そうとしている。

「ねえ、倫くん、そういう脅し、僕は良くないと思うヨ」

本当にやめろよ?と釘をさして、いつか角名の衝撃的な場面を携帯に収めてやる、と誓う。

運動部の男子として日々鍛えている体は絶叫系アトラクションのちょっとやそっとの無重力には恐怖感よりも刺激的なスリルでしかない。

テンションの上がった俺たちはアトラクションの列にどんどん並んでいく。ニューヨークエリアのターミネーターに行ったあとは、スパイダーマンに乗り、最後にスパイダーマンに取られる写真でキメ顔をしようという話が出て全員で自分の思うキメ顔を決める。

「ちょ、なあっ!ぶっは、顔!あの顔!」
退場時に見せられる写真に5人で笑い合った。
侑と治は完全に変顔に全振りしているし、角名はいつも通りチベスナ顔だし、俺と銀はキメているはずなのに、ブレている。

「角名の顔がシュールすぎてウケるわっ」銀も笑う。
「何やねん、お前らキメ顔言うたら変顔やろ」
「俺ら見習えや〜」
侑と治のブーイングにお前らの方がおかしいだろっ、と抗議しながら外に出た。

バック・トゥ・ザ・フューチャーのアトラクションに向かう頃には昼中で人混みも増えてきた。

「トイレ行ってくるわ」
歩き出した侑に軽く返事をして、4人でフードでも買おうと売店のカートに近づく。
ポップコーンを買ってつつくも侑はまだ帰ってこない。人も多いし混んでいるのだろう。

「先、並んどくか」
少しでもアトラクションに並ぶ長蛇の列を進んでおきたい。4人で駄べりながら順番を待っていると携帯の通知が来た。侑との個別のトーク画面を開く。


宮侑〘どこおるん。はぐれた〙
みょうじなまえ〘バック・トゥ・ザ・フューチャーに並んでる。〙
宮侑〘むかえにきて。いまジュラシックパークのエリア〙

「はああ?」
俺のあげた声に「どしたん」と治が聞いた。

「侑から。はぐれたから迎えに来いって。しかも、ジェラシックパークに居るとか言ってんだけど。はぐれたのレベルじゃねえだろ絶対、自由すぎるわ…」

大方、気が赴くままに歩いて行ったんだろう。ワクワクしながら自由に行動する侑が想像できて呆れながら、こめかみに青筋を浮かべているキャラクターのスタンプを押した。

「はあ、行ってくるわ」
「俺も一緒に行こうか?」
「お、銀も行く?」
「……なまえだけでええやろ。俺ら待っとくわ」

治の言葉に「せやな〜みょうじ頼むわ」と頷いた銀。角名は携帯をいじりながら欠伸をしている。

「侑め…順番来たら先乗ってて。また後で並ぶわ」
治達から離れてジェラシックパークのエリアに向かう。

みょうじなまえ〘ジェラシックパークのどこ?〙
宮侑〘入口の門のとこ〙

ジュラシック・パークのエリアまで人混みを分けて歩いて行くと、エリアの入口にある門から少し中に入り込んだところでヤンキー座りをしている金髪頭を見かけた。

「おい、ジュラシックパーク感が台無しだろ」

ガラの悪い侑の前に立ちはだかり、見下ろす。

「おっそいねん」
「はあ?お前が勝手にこっちに来たんだろ」
「俺これ乗りたい」

指さすのは水しぶきを盛大にあげて高いところから一気に落ちるライドアトラクション。

「治達が未来で待ってんだぞ」

バック・トゥ・ザ・フューチャーに友達を置いてきていることを忘れないでいただきたい。

「ええやん。2人で回れば」
「5人で来た意味!」
「大丈夫や、サムにも今トーク送っといたし。俺ら2人で回るわー、て」
「ほんっとに…自由人…」

何が大丈夫なんだ、と思いながらもこいつは人の言うことを聞く玉ではない。諦めの気持ちの方が強かった。

迷子の小学生よろしく座り込んでいる侑が「起こしてー」と伸ばしてきた。

甘えたか、とツッコミながらその手を握る。
全体重を使って侑を引っ張り上げる。

「重てえー」
「筋肉の塊やから」

自信満々に言う侑をやっとの思いで立たせた。俺達はそのままジュラシック・パークのアトラクションに並んだ。待ち時間も話していればあっという間に感じる。

「侑さぁ体重何キロあるんだよ」
「73ー」
「おんもっ」
「筋肉やって。ほれ殴ってみい」
侑が ふん、と腹に力を入れるから俺は拳で侑の腹をポスン、と殴った。硬い腹筋が俺の拳を跳ね返す。
「くっそ、俺だってなあ」
殴ってみろと、拳を作って腹を力を入れる。
「……」
腹パンをしてくるかと思いきや、侑の大きな手が俺の横腹を掴んだ。

「あうっ、」
気の抜けた声と共に一気に腹の力が抜けて体を捩る。
「それは卑怯っ。脇腹は全人類の弱点だろっ」
睨み上げるもニヤニヤ笑う侑には効いていない。

アトラクションに乗る順番が来て、乗り込む。左右に激しく揺れ「おお…」「うお…」と2人して声を漏らしながら水流に押されてコースを進む。青空の下、恐竜達に見下ろされながら暗いトンネルに入り込み、最後は暗闇に吸い込まれて一気に急降下した。

「うおおぉーー!」
「ふぉーーー!!」
ハイテンションで両手を上げて水しぶきの中を潜り抜けていく。

「うっわあ、真ん中でよかったわ」
「端だったら確実に濡れとったな」

スリルを満喫した俺達はアトラクションを降りる前からすでに次どこに行くかの話になる。

「次どこ行く?ジョーズ?」
「それも行きたいけどなあ、俺あの外のジェットコースター乗りたい!」

侑が言うのはハリウッド・ドリーム・ザ・ライドという一番大きいライドアトラクションだ。

「ハリドリな」
「最低3回は乗りたいねん」
「3回っ、ぶっは、どんだけ乗んだよ!うけるわ」
「で、乗るやろ?」
「勿論。お供します」
キリッとした顔で頷いてやると侑は満足そうに頷いた。
「よかろう」

テーマパークでテンションが上がりノリも中二男子になっている俺達はまずジョーズに向かった。
待ち時間を見ていると混んでいるようでこのままだとハリドリに乗る時間がない。
ここは諦めようと移動しかけた時、声を掛けられた。

「あの〜すみません」
「?」
「2人ですか?私たちも2人で〜…一緒に回りませんかぁ?」

侑を見上げている制服姿の女子2人。多分近くの高校なのか?制服も可愛らしくてスカートは短い。

え、えっ?
も、もしやこれは…
女子から声をかけられる日がくるとは…っ!!

一生そんな機会はないと夢も希望も持ち合わせていなかった俺は侑の腕をツンツンとつついた。侑が俺をちらりと見下ろした。

親指を立ててグッと意思表示をする。俺は全然問題ない、大丈夫だ、むしろ大歓迎!という意味を込めて、最高の笑顔で。

侑が目が急に冷えた気がするが、深く気にせず口を開いた。
「もちろん!よかったら一緒に「あ、すんません連れおるんで無理です〜」えっ?!」

俺の言葉を遮って、にこと笑う侑。有無を言わせないその圧に女子2人は残念そうな顔をして去っていった。その背中を見て困惑する。

「え、え?」
「え?じゃあらへんわ。どアホ」
「何で断ったんだよぉ」

唇を尖らすと両頬を片手で挟まれた。

「はぁ?声掛けられたら愛想良く断れて、前に言うたんはお前やろ」
「いや最近はもう侑の引き寄せ効果を使っていくのもありよりのありかもしれないと思い始めてだな」
「あほんだら。人をハエ取りテープ扱いすな。ヘラヘラしよって、腹立つわぁ」
「してないし」
「しとったわ。…ほんま目ぇ離したら隙もクソもないわ」

ぶつくさ言う侑に俺は肩を竦めた。
終始、侑しか見ていなかった女子達に俺が最初から眼中にないのは分かっていたけど、少しは奇跡を信じてみたっていいじゃないか、という気持ちにもなる。

「はぁ腹減った〜」
「軽く食べてハリドリ行くか」
「そうしよ。何食べる?」
「肉や」
「フライドポテト系も」

お互いに買ったものをシェアしながら食べ歩きする。

「あっ一口デカイんだって!」
「うんまぁ」
「くっそぉ」

それから俺達は2人でハリドリに向かった。




***


夕方になり、治達と合流した頃には三人の頭の上にはキャラクターの耳がついた被り物が乗っていた

「やっと合流できた〜」
「俺らハリドリ5回乗ったで!」

ジェットコースターに乗りまくり満たされている侑のドヤ顔に、角名が一瞥して笑った。

「小学生かよ」
「そっちこそ、頭に耳つけてJKかよ。可愛いじゃん倫ちゃん〜」

口を抑えてプププ、と笑っていると角名が頭から外した耳を俺の頭につけてきた。

「あかんわ超絶似合わんななまえ」
治の言葉に俺は手で顔を覆う。

「やめろ、そういう抉るのひどい。銀だって同じ耳なのに!」
銀を指差すと、パシャパシャと角名がカメラを向けてくるため、睨んでおいた。
銀はどや?と楽しそうに撮られている。

パレードを見て帰ろうということになり、人混みが集まる中で、遠巻きに陣取った。雑談をしながら、進んでくるパレードショーを待つ。

バレー部達は背が高いから視界は良好らしい。俺は悲しいかな前の人の頭越しに通りを眺める。
鳴り響く音楽と歓声、パレードが始まり人集りはさらに増えてきた。周りはパレードに夢中でギュウギュウと詰めてくる。

狭いなぁ、と隣の人に押されるがまま、俺も隣の侑に詰める形になる。押し潰されるような狭さだがこの人混みだ。仕方ない、許せ。と心の中で弁解をしながらパレードを見ていると侑が俺の肩をぐい、と引っ張った。

侑が後ろから俺の肩に両腕を置いた。
俺は侑の胸の中にすっぽりと収まる形になる。

「うえっ、重いわっ」

いつも肩に腕を回され重さを感じているが、今は両腕、強いては若干体重もかけてきてないか?

この野郎、と顔を上げて侑を見る。
「重い」
「疲れたんやもん。支えがいるやん」
「俺を支えにすんなよ」
「楽やわー」

ジャイアンめ…、と侑の勝手さを恨むがさっきまでの押し潰されるような圧迫感は感じない。
侑の前ですっぽりと覆われているためか楽に感じる。

まさか、侑が気を利かして、とかはないよな。
極たまに優しい?というか気が利く時があるのも事実。
テンションが低い俺を昼休みにバレー遊びに誘ったり、映画見に行った時ゴミ捨ててくれたり、寮のランドリームルームで一緒になった時にカゴを持ってきてくれたり。

「………」
「なんやねん」
侑が俺を見下ろす。顔が近くにあって、垂れ目がちな大きな瞳が俺を見た。

「別にぃ。背が高くて羨ましいですネ」
「ふっふ、なまえなんか女子と変わらんわ」
「高校卒業までにあと5cmくらい伸びるかもしれんだろ」
「その分俺も伸びるわ。まだ高さ欲しいし」
「む、何食ったら伸びるかなあ」
「伸びんでええて。このままで可愛いやん」
「可愛い言うな。どこが可愛いんじゃ」

隣の角名が侑に後ろから腕を回されている俺を覗き込んで薄ら笑う。
「なまえに可愛い要素は皆無っしょ」
「いや、可愛い可愛い」
今度は治が適当に言った。

「なにこの言葉の暴力!別に可愛さなんて欲しくないけど、なんか貶されている気がする!銀っ、助けて!」
「うーん、やっぱ可愛い要素は皆無やとは思う…」
「真面目に考えんでいいわ!」

侑が堪えるように笑った。俺は肘で侑の腹を小突いておく。

「あっ、セサミストリート来た。クッキーモンスター動きえげつねえ!」

《皆ー!!前に出てきて一緒に踊ろう〜!!》

クルーの呼びかけに小さい子供達がパレードの振り付けを一生懸命踊っていて微笑ましくなる。
その横で一際デカイ奴が踊っていて、よく見ると治だった。

「おいぃぃっ!ひぃーっ、おさ、む、ぶっはやべぇ、なにそのキレキレダンスっ!顔!」

笑いすぎて腹が痛い。
子供に混じり無表情で踊るダンスほどシュールなものはない。何気に振り付けが完璧なのも笑いを誘い、周りの人達も笑っている。

角名も肩を震わせながら携帯で撮っていた。
「角名、手震えてんぞ!もっと治をクリアに撮れっ」
笑いながら角名にツッコミを入れる。銀も治を指差しながら爆笑している。

「何やねん、サムだけ笑い取りまくりやん!」
それは許せん、と双子の片割れまでダンスに参加し始めて残された俺達三人は爆笑しすぎて涙が出そうだった。

***

パレードが終わった後、帰りの電車内で角名の撮った動画を見返しては爆笑した。

「角名笑いすぎてブレてるし、震えてんのまじで笑うわ」
「俺のキレすごない?このパレード参加者の中で一番キレキレなん俺やん」
「サム、お前これどこで練習したんや」
「前日に動画見といたんや」

「予習までしとんのかい笑うわっ」
銀が吹き出して俺も笑う。

堪えられない笑いの中、友達って最高だな、と楽しい休日を満足していた。

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