68

部活が終わった後、男子寮に帰った俺はすぐに晩御飯と風呂を済ませた。

侑から来た〘飯行くで〙のメッセージには〘今日はもう食べた〙と返しておいた。
激おこスタンプが送られてきていたが既読だけにしておく。

課題をする気にもなれず、ベッドに仰向けになって天井を見上げた。

昼からずっと頭の中を埋めているワード。

「腰巾着…か…」
そう言われたのは俺と侑が対等ではないと見られているからなんだろうか。

人気があって、容姿も良い、バレーの才能も持っている侑と比べられると優劣なんて歴然としている。
それでも俺は侑のことを自慢できる友達だと思っているし、そんな侑と友達であることが誇らしい時もあるのに。

傍から見たら俺はスクールカースト上位にくっついている腰巾着…なのか…。

俺がもっと才能ある奴だったら違っただろうか。柴さんみたいに強くてかっこよかったら、侑達の中にいてもそんなこと思われなかっただろうか。

全ては釣り合わないから、なのか。

答えのない自問にもやもやして枕に顔を埋めた。

「ううぅ……」

昔から居場所を転々としていたから、ここに入って本当に仲良くできる友達が出来たと思っていた。人気者でかっこよくて優れたものを持っている侑達と仲良くなったことに浮かれすぎていたのかもしれない。

小池の言葉は冷水を浴びせられたような感覚だった。

お前は人の目を気にしすぎる、と身内からもよく言われている。外に対してはあまり自己主張はしないし、周りに合わせる方が得意だ。

自分の気持ちを突き通すよりも、どう見られるかどう思われるか、を優先してしまう。

悪目立ちしたくないし、周りに良く思われていないなら直すしかないよな…と考えている時点で結局のところ、自分は他人の目を気にする小心者なのだ。

「はぁ…」

明日から身の振り方を考えなければ、と決めて部屋の照明を落とした。






翌朝、侑と寮で顔を合わすこともなく、在寮掲示板の名札を裏返してそっと出発した。

朝練後も俺は常に周りを警戒していた。全ては侑にあまり近づかないようにするため。

腰巾着と思われるなら、付かず離れずの程よい距離感にするしかない。
席は前後だし、別に喧嘩してるわけでもないので無視するつもりはない。周りと同じような距離感で接していれば、腰巾着なんて見方はされないだろうと考えた。

昇降口から歩いて階段を上がっていると後ろから侑達の話す声が聞こえた気がして、勢いよく階段を駆け上がった。
いつもなら大体後ろからタックルをかけられるか、声をかけられるかだろう。教室に入ってしまえばそれもできない。

足早に教室に入って自席に黒リュックを置いた。
危なかった…、と迫りくる何かから逃げ切ったように胸を撫で下ろす。

しばらく経って教室に侑と角名が入ってきた。
席に座っていると後ろから俺の首元を侑が掴んできた。

掴むと言うよりは長い指の大きな手を後ろから添えて、すぐにでも俺の首筋を鷲掴みできますよ、と言わんばかりの手の動きにひゅ、と息を飲み込んだ

「おい、昨日の無視すんなや」と俺を覗き込むように見る。

「あーごめんごめん。腹減っててさ」

適当に言い訳を吐いてみる。侑は俺を見定めるようにじっと見た。

「帰り、練習何時終わりなん」
「今日は茶川達と帰るから時間わかんないんだわ。気にせず食べてくれ」
「……」

手を上げて、すまんな、とゆるく笑うと侑はじっと俺を見下ろした後、無言で席についた。

理解してくれたか…良かった良かった。
とりあえず第一ステージクリアのような安堵を感じる。

フェードアウトは得意な方だ。気づかれないようにさりげなく距離をとる。

別に真っ向から避けているわけじゃない、仲を悪くしたいわけでもない。少し、距離を取るだけだ。


***



それから俺は昼休みもすぐに茶川達の所に行くし、授業合間の休み時間も常に席を立っていた。
授業のグループ分けは侑以外の人と組むようにしたし、登下校も他の人と一緒に話すことを心がけた。

体育のソフトボールの授業でペアを組む場面では文化部の田中と組むように仕組んだ。

「では各自ペア組んでキャッチボール!横の距離取ってぶつからないように!」
「なまえっ、ボール貸せ!ふっふ、俺の肩の威力見せたるわっ」
「あ、俺田中と組むんだわ。侑は角名と組めよ」
「はぁ?」
「よし田中やろう」
「えっ、俺?!いいけど、みょうじは宮と…」

田中が俺の後ろを見て眉を下げる。

「俺キャッチボール下手だから、あんなぶっ飛ばす奴ムリムリ」

侑のことは見ずに、強引に田中と組んでキャッチボールを始める。侑の視線を感じている田中は何だか居心地が悪そうだったが、少しの辛抱だ、田中ごめん!と思いながら勢いのないボールを投げた。


自ら距離を取っていれば、必然と遠くから侑を見ることになる。

視界に入る侑を見れば常に色んな人に話しかけられていた。
校内で知らない人はいないであろう有名人な宮兄弟の片方、宮侑に話しかけたい人は多いだろうし、お調子者の侑は人を笑わせることも好きだ。

囲まれてその中心にいる侑を蚊帳の外から眺めていると、俺が隣にいなくても侑の周りは常に賑やかで楽しそうだった。

このまま付かず離れずの距離が定着すれば、それに慣れてしまって俺はただのクラスの一員、モブ生徒Bにでもなってしまうのだろうか、と虚しさを少し感じる。

(あいつの隣にいたのは俺なのに…)

転々としていた今までは友達なんて存在は諦めていたから別にどうだってよかったんだ。
仲良くなってもどうせ遠くの存在になってしまうし、浅い関係のままで過ごすだけだったのに。
一度仲良くなってしまうとこんなことを思ってしまう自分がいるなんて…。



「人間とは愚かな者だな…」
廊下で茶川と2人で立ち話をしながらちらりと教室内にいる侑を見てボヤいた。

「なん?厨二病か?」
「ゲームのラスボスのセリフ」
「あ〜言いそうやな。せや今週のジャンプもう読んだ?おもろかったわあ」

ぼーっとしていると教室内の侑と一瞬目が合った気がしたが、俺はすぐに茶川との話に意識を戻した。




***



「あら、みょうじくんいつも宮くん達と食べとるのに、最近一人やねえ。珍しいなあ」

寮の食堂で調理場に立つ寮母さんに言われて、「いやあ時間が合わなくて…」とへらりと笑った。

寮のご飯は時間をずらして別で食べる、侑の声が聞こえてくれば隠れる、回避する。教室では普通に話すけど、他では意識して離れる。
そんな生活を続けて一週間の平日が終わった。

ご飯を食べ終わり食堂を出た後、廊下で角名と出会した。

「侑と喧嘩でもした?」
「何で?教室でも普通に話してるだろ?」
「…うちの部、崩壊寸前なんだけど」
「え?」
「片割れがめちゃくちゃ機嫌悪くてカオス」

侑の機嫌が、悪い、とな?
それは…まさか…俺が絶妙にタイミングをずらして距離感を調整していることに気づいたわけじゃないよな…?

「ふーん…ほんと困った奴だなあ、早く機嫌なおるといいなっ」
「……」
角名が俺をじっと見た。そんなスンとした表情で見下ろされても困る。

「…早くあのバカどうにかしないと、最終的に困るのはなまえじゃない?」
「何でだよ俺は関係ないだろー、」多分。と内心付け加える。
「そう言えるのも今のうちかもね。手付けられなくなったら面倒いんじゃない…?」

口角の片側だけ上げて笑う角名に俺もひくりと笑い返す。
明らかに俺が原因のような言い草。もしかしなくても、侑にバレてるんじゃないかと思い始めてくる。

いや、別に避けてるわけじゃないし、ただ距離感を少し取ってみてるだけなんだし、と言い訳を心の中で呟くも、不機嫌な侑を想像すると頭が痛くなってきた。

「お、俺は関係ないからなっ!じゃ!」

角名に言い捨てて階段を駆け上がる。登りきった瞬間、目の前に出てきた顔を見て、心臓が止まるかと思った。

「あつっ、むじゃない!治!」

今回ばかりは似ている顔を恨めしく思う。

「なまえ…」
仰け反る俺に目を細める治。

「お前なあ、何考えとんのか知らんけど、俺がいっちゃん被害あるの分かっとるか?」

いきなり詰め寄るように言われてさらに顔を引く。
「え、ちょ、何だよ。話が見えない、」
「ツムの話や」
「…侑がどうかした?」
「誰かさんのせいですこぶるご機嫌ナナメやねんけど」

……うん。これはバレたな。というか、弁解をしたい。別に俺は避けてるわけじゃないんだぞ?無視してるわけでも、喧嘩してるわけでもないし…。

「…誰のせいなんだろな。よく分からんけど、俺は用があるので部屋に戻りますっ、じゃ!」

手を上げ身を翻してその場から駆け出す。

「あっ、逃げたな!ツムが探しとったで!」

後ろから聞こえる治の言葉にドキリとした。見つかったら、どうなるかなんて考えなくても分かる。

一旦部屋に戻って、洗濯物と携帯、部屋の鍵を手に周りを警戒しながら男子寮の階段を降りた。途中会話が聞こえてきて立ち止まる。

「侑さん、今日むちゃくちゃ厳しかったな…」
「主将も間違ってないけど、言われたあいつ、むっちゃ刺さったやろな…えぐいわ」
「あんな毒吐かれたら泣くで」
「毒の吐き方がえげつないねん。いっちゃん怖いのはサラッと吐く時やな。ガツン言われるのもあれやけど、あのサラッと吐いてくる時が怖い」
「わかるわあ」

バレー部員の会話のようで、侑の機嫌の悪さが窺えた。うわあ、今絶対に会いたくない奴ナンバーワンだな、と思っているとポケットの中の携帯から着信音が聞こえて画面を見た。
今絶対に会いたくないナンバーワンの奴の名前が出ていた。

「う…」
すぐにマナーモードに変更して音を消す。
携帯を持ったまま、出ずに固まっているとそのまま不在着信になった。ホッとしたのも束の間、また着信がかかってきて携帯が震えた。

…仕方ない、出るしかない。

「もしもし?」
『今から部屋行くわ』

耳を当てると同時に聞こえてきた低い声に腹の底が冷える気がした。確かに、機嫌悪そうだなと感じ取れる。

「いや…」
『今、部屋におるよな?』
「…まあ…うん」

廊下に居ながら、部屋にいると答える。居場所を伝えたら来られそうだから誤魔化しておくしかない。

『ほな行くわ』
「ま、まて、明日早いし、もう俺寝るわ」
『は?関係あらへん』
「いやっ今来ても無理だからなっ寝る!おやすみ!!」

返事も聞かずにブチッと通話を終えて息をついた。
あぶねえ…。早く洗濯終わらせて戻ろう。

ランドリールームに入って急いで洗濯をかけていると、足音が聞こえてきた。

もはや侑だけじゃなくて誰であっても今の状態ではとりあえず警戒するしかない。ステルスゲームの主人公にでもなったかのようにランドリールームでしゃがみ込んで息を潜めた。

机が良い障害物になっていると思う。

こういう時、ゲームの透視みたいなスキルが使えたらなあ、とか透視スコープみたいなのがあったらなあ、なんて妄想していた。

部屋に戻ったら溜めてたステルスゲームを進めようと考え始めていた時。

「おい、」
いきなり耳元で声が聞こえて、勢いよく振り向くとTシャツに半パン姿の侑の顔が目の前にあった。

「うおっ!!」
ビ、ビビったああと座り込んだまま後ずさる。
壁に背中が当たった。

「ど、どした?」

バクバクする心臓を押さえながら目の前の侑を見る。キレているのか目が据わっている侑にひくりと笑う。

「どした?じゃないねん。部屋おる言うたのどこのどいつや」
「いや、さっきまでは居たんだけど」
「嘘吐くな。部屋おらんかったの知ってんねん」

何で知ってるんだよ、と言いたいのを堪える。
嘘つき、と責めた目で見おろしてくる侑に手のひらを向ける。

「まぁまぁ…タイミングが悪くて。何か…機嫌悪いな?」
「…誰のせいや思っとんのや、あ?」

侑ってこんな低い声出たんだ、と思うほどには静かな怒りの声だった。

「お前、俺の事、避けとるやろ」
「え?避けてない避けてない」

こんなブチ切れの状態で避けてます、なんて言えるわけないので否定して即答する俺に侑は更に表情を険しくした。

「はぁ?」

しゃがみ込んだ侑が俺の顔のすぐ横に手をついた。背中には壁、逃げ場はない。

ひえ、怖い。
それが率直な感想だった。

「…もっぺん聞くな?よう聞いとけよ」
「う…」
「俺のこと、避けとんよな?」
「…い、いや…」

侑が目を細めた。
喉に牙を当てられたみたいに噛みつかれる直前のような恐ろしさを感じる。

「………」
黙り込んだ俺に「痛いの嫌やんなあ?全部吐きや?」とゆっくり笑った。
それは暗に吐かなければ、絞めるぞと言う脅しだ。

「いや、ほんとなんの事だか…」
「心当たりない?」
「…ない」
「ほな俺の気のせいか?」
「…気のせい…じゃないか?」

瞬間、侑の手が俺の脇腹を鷲掴みにした。

「ぎゃっ!」

人質に取られた俺の脇腹。必死にその手を退かそうとするもビクともしない腕。腹に這わされた指を力を込めて動かされると、大変なことになる。

「そ、それだけはやめて…」
侑に懇願する俺に、侑は淡々と続けた。

「最初はなあ、ちょっとタイミング合わんだけかと思とったけど、三日目くらいからおかしい、て気づいたんや。ほんま、さりげなく避けるん上手やなぁ?」
「そ、それほどでも…」
「調子乗んな。褒めてへんわ」
「あうっ!」
びくり、と体が跳ねた。侑の手が動いたからだ。
脇腹を這うその指が動かないことを切に願う。

「ゆ、許して…」

許しを乞いたいわけでもないが、侑の手を退けたくて咄嗟にくたから出た。

「なにを?」
「…色々タイミングが合わなかったこ、と」

また脇腹を掴む手が動いた。

「うあっ!おま、また動かすっ!」
「俺の思てる答えとちゃうねん。で?何を許してほしいん?」
完全に強者の顔つきで見下すように見てくる侑。俺は脇腹という急所を狙われてもはや床に倒れ込んでいる状態に近い。

「…避けてた?こと?」
「認めろや」
「ちょっ!言っただろ!」
「疑問形なんがおかしいわ」
「だって別に避けてるつもり無いし…ちょっと…諸事情があっただけで…あうっ!」

もう、本当に勘弁。脇腹だけは勘弁してくれ。
何で両手で退けようとしても動かないだよ、こいつの腕!

俺はコイキングのようにただただ何も出来ない跳ねることしかできず、ひんし状態だ。

「諸事情ってなに?何で避けんねん」

何でって、お前の腰巾着って言われました、なんて言えるか?

「…言いたくない」

俺にだってプライドってもんがある。
なけなしのプライドだけど、言ってしまったら心が折れる気がする。

「日本国憲法には基本的人権の尊重というものがあってだな…」
「喧しいわ」
「うぐっ」
侑の手の位置が脇腹から頬に変わり、片手で挟まれた。

「…世の中には色んな見方するやつがいるんだよ……一緒にいる人間を見て色々言うやつとか…」

伏せ目がちに俯くと、侑の手が離れた。

「誰に何言われたか知らんけど、他人の言うことなんか気にして何になるん?」
「……」
「言わせとけばええねん。気にする方がアホや」

しょーもな、と言いたげな侑から目を逸らした。

「…お前は気にならないかもしれないけど、俺は気にするんだよっ」
「他人の言うことが俺とお前の仲に何の関係があるん?関係ないやん」

そうだ、侑はこういう奴だ。ある意味強くて、ある意味冷たい。他人の事なんて関係ない、というスタンスは誰もが持てるものじゃない。

「…皆が皆、侑みたいに強いわけじゃないし…」

「せやから関係ない、て。他人の言うことを俺らの仲に持ち込んで来(く)な」

「……」

持ち込んでくるな、って言ったって…。
俺の主張と侑の主張がすれ違う中でどちらかが折れないとこの話は終わらないなと思った時。

「言うとくけど、俺は折れる気ないで」

心の中を見透かされたかのように先に宣言され、選択をする前に選択肢が掻き消された。

…俺が折れるしかねえのかよ…!

「ちゅうか何か言うてくる奴がおったら、俺が言ったるわ。俺となまえの仲にお前は何の関係があるん?て」

崩していた上体を起こしてヤンキー座りの侑と目線を合わせる。

強気なその表情にふと、過去のことを思い出した。

小学生の頃に転校先で馴染めない俺のことを揶揄う男子達に刃向かってくれた子がいた。
囃されて何も言えない俺の前に立って守ってくれた子が、いたんだ。

まだ上手いこと渡り歩くスキルもなく、傷つきやすくて弱く脆かった俺はあの子のおかげで次の日も学校に行くことが出来たんだ。

その子と侑が一瞬、被った気がして懐かしさに鼻の奥がつんとした。

「どこのどいつや。言うてみ」

すぐにでも言いに行ってやるというような意気込む侑に俺はため息を吐いた。

心境は、もう諦めに近い。目の前にいるこいつは折れる気もなく、他人に何を言われようと関係ない、勝手な真似はよせと言うのだ。

「……いいよもう。言われた事は忘れる」
「あ?言い返さんのか」
「…俺は飲み込んで消化するタイプだから…」

お前と違って正反対な俺は言い返すなんてとてもじゃないけどそんな度胸はない。自分の中で折り合いをつけて解決するしかないのだ。

解せないような顔をする侑。
そりゃそうだ。
いつもズバッと毒も含めて自分の思いを放つ侑の中で『何も言わずに飲み込む』という選択肢はないだろう。

「俺はお前じゃないから。俺は俺のやり方で消化すんの」
「…お前がええならええけど。今度避けるようなことしたら…分かっとるやろ?覚悟しとけや」
「だから、避けてはないって」
「避けとったやん」
「タイミングずらしてただけで…」
「それを避けとるっちゅうんや。アホなん?」
「む……」
「俺やって何で避けられるんか考えたわ。思い当たることなんもないし。…嫌いになったんか、とか」

ムスッとした顔の中に少しだけ寂しそうな表情が見えた気がしてぎゅ、と心が痛くなった。

侑の目から視線を逸らして、床を見た。

「……ごめん」

「考えた時間、返せ」
「ごめんて。ちょっと自分に自信がなくなっただけで…いや、自信は常にないけど…。とにかく、嫌いとかじゃない」
「…ほな好き?」
「何でそうなんだよ」

吹き出すと侑がじっと俺を見た。

「…好きよりの普通?」
「普通てなんや。好き、て言えや」
「好きは何か違うじゃん」
「何が違うんや」

友達的な好き嫌いはもちろん好きだけど、面と向かって好きと言うのは違う気がする。

「変な意味になるだろ」

恋愛の好き嫌いに捉えられそうでそれを友達に向かっては言うのはおかしくないだろうか、

「別に俺はかまへんけど」

侑が言ったと同時に洗濯機の終了の大きな機械音がランドリールームに鳴り響いた。

重なって聞こえにくかったが俺の耳が正しければ、構わないと言った…のか?

聞き間違えかもしれないし、脳の処理が追いつかず理解することをやめてそのまま聞き流した。

「あ、洗濯終わった。乾燥機入れよ、っと」

床から立ち上がり、洗濯機まで行く。
侑は黙ったままだ。
振り向いて声をかける。

「?どした?」
「…別に」
「……。てか何で俺が部屋にいないの、分かったんだよ」
「お前、廊下で電話出たやろ。部屋行っても反応ないし、かけたら着信音聞こえてん」
「おまっ、まさか…カマかけたのか…?!こっわ!!恐ろし!」
「はぁぁ?!どの口が言うてんねん!お前の方が恐ろしいわ!嘘つきやがって!」
「いや、どう見ても俺が廊下いるの分かってて電話してる方が怖いわ!」
「部屋おらんのに、外で平気で部屋おるっちゅう方が怖いわ!」

ギャースカ言い合いながら乾燥機に洗濯物を突っ込む。
俺の一週間の自粛?生活は侑のブチ切れにより強制終了した。

ランドリールームでの言い合いは外に漏れていたらしく、後から入ってきた角名からどっちもどっちと言われた。

乾燥機が終わるまで3人でランドリールームで駄弁った後、ほかほかの洗濯物を手に階段を上がる。

「じゃ、おやすみ」
「なまえ」
「なに?」
「明日、練習後ドラストに買い出し行くで」
「んーわかったー。また時間、送っといて」

日用品の買い物の約束をいつものように取り付け、侑達と分かれた。

***

翌日の練習で茶川から思い出したように「あんな、」と声をかけてきた。

「どした?」
「この間、宮の腰巾着と思われてんちゃうかって言うてたやん」
「うん」
「腰巾着っちゅうより、絡まれてる、に近いなあって思ってん」
「うん事実だわ。俺が、侑に、絡まれてる、YES」
「せやから腰巾着はちゃうと思うわ、それを今ふと思ってん」
「…それもっと早く言ってくれよ!俺しばらく悩んだんだけど!」
「え?ほんま?そんな悩むことやないやろ。みょうじはみょうじやねんから」

うう、茶川がいつも以上にお兄さんで俺は涙しそうになる。茶川部長、あざっす。と拝んで俺はペダルに脚をかけた。

「よし、走るか〜」
「おう、いくで!」

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