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「今日の体育は先生の日程が変わって2時間目から4時間目になります。4組と合同です。間違えないようにー」

朝のSHRで担任の周知を聞いて、普段とは違う合同体育に教室内が浮き立った。

4時間目になり、体操服に着替えた後、グラウンドに出る。

「今日なに?」
「サッカーらしいで」

やる気満々の侑に対して、俺と角名はだるそうに歩く。
4組と5組の合同体育授業ということでいつもの2倍賑やかだ。

すでにサッカーボールを取り出して遊んでいる生徒達もいる。侑もそのボールを追って遊びに加わっていた。

4組って確か佐倉さんがいたよな、と視線を動かすとかたまって話している女子グループの中に佐倉さんを見つけた。

目が合うと佐倉さんが手を上げた。俺も手を上げると佐倉さんがこっちに歩いてきた。

「みょうじくん、話すの久しぶりやなあ」
「隣の組なのにね」
「今日は賑やかそうやねえ」
「うちはアイツがいるからただでさえ賑やかだけどね。さらに賑やかになりそう」

侑を示す俺に佐倉さんは笑う。
「確かに」

佐倉さんと話していると侑が駆け足で俺たちの方へきた。

「なあに、話しとん」
「宮くん…」
侑を見上げる佐倉さんは少し頬を染まっている。

「久しぶりだねって話な」
「組分かれたから、あんまり話すことないよね。みょうじくん、宮くんはまた一緒ですごいわぁ」
「連続で一緒はビビったよ」
「2人とも仲ええし、先生が気にかけてくれたんかなぁ」
「佐倉さんも一緒だったらよかったのにね」
「あ?お前佐倉サンと一緒になりたかったんか!」
「いや、違、俺じゃなくて」
「みょうじくん!」
顔を赤らめる佐倉さんに自分の失言だったと慌てて訂正する。
「あ、いや、そうでもあって…」
「やっぱ一緒がえかったんか!」

騒いでいると「ボール!危ない!」と刺すような声が聞こえて、目を向けるとこちらにサッカーボールが向かってきていた。

「きゃっ!」

佐倉さんの怯える声と同時にバシン、とボールが弾かれた音がする。

侑の手が佐倉さんの頭からサッカーボールを守ったのだ。一瞬の出来事が目の前で起こり、俺は目が点になった。心臓の鼓動が速くなっているのが分かる。

「び、ビビったぁ…だからサッカーは苦手なんだよ…」

ボール直撃寸前の現場に居合わせた俺は肝が冷えた。

「大丈夫か?」

佐倉さんを見下ろして、確認する侑。
完全に恋する女の子みたいな顔で見ている佐倉さんに俺も照れてしまいそうになる。

恋してる子ってこんな顔するんだ…。いつもより可愛く見えるのは目の錯覚だろうか。

「う、うん、宮くんありがとう」

いや、今のは確かにかっこいいよなっていうかきゅんと来るよな、ピンチを助けられるのはポイント大きい…くそ侑め…それ以上モテんなと心の中で毒づく。

俺も、いつか女子が危ない目にあったら咄嗟に助けられるようにしよう、と心に決めた。

「宮くんいてへんかったら私絶対倒れてたわ。ボールこわ…」
「わかるぅ。俺もボール怖い」
「みょうじくんも?同じやねえ」

笑う佐倉さんに侑が「なまえはボール怖がりすぎやねん」と言った。

「そういえば、みょうじくんはインハイ予選もう終わったんよね?今年もインハイ出るんよね?」
「うん、何とかね。カツカツで勝ち抜けたって感じ」
「すごいなあ。バレー部は今週よね」
「そやな。ま、俺らは余裕で勝つけどな。全国しか見とらんし」

侑の自信満々の顔に流石だな、とさえ思う。

「インハイ予選終わったら体育祭やねえ、宮くんはやっぱりリレー出るん?」
「体育祭?出るで」

佐倉さんの邪魔をしては悪いと思い、俺は2人から離れて角名に近づいた。

「なあ、あの二人お似合いじゃね?」

会話している2人を見て角名を見上げる。俺を目だけで見下ろしてきた。

「それ侑に言ったらめんどいからやめろよ」
「何でめんどいんだよ」
「…はぁ」
「人を見てため息つくな」

背の高い侑と女子の佐倉さんだと身長差がかなりある。大きい男子が隣にいると女子のか弱さが目立つ気がして、女子っていうところが強調されているように見える。

「やっぱ女子って背高い奴の方がいいのかな…いいよな…」
顎に手を当てて一人考える俺に馬鹿らしいという顔で隣に立つ角名。

「なまえもあの佐倉さんとあんま変わんないけどね、身長」
「はっ?佐倉さんは俺より低いって。目線も一緒じゃないし!」
「いや俺らから見たら大差ないってこと」
「う…否定できんのが悔しい…」

悔しがる俺に薄ら笑いで返す角名。

体育教師がやってきて授業が始まった。授業
の後半は体力がある人だけサッカーの試合をして、他の人は観戦でも良いというゆるさ加減で、俺と角名は即行観戦側に回った。

侑はもちろん試合参加。

「宮ー!パス!」
「任せえっ!」

シュートを決めた侑と沸き立つ黄色い声。
あいつサッカーも出来るんかい、と白目を剥きそうにやる。

汗ばんだ侑が前髪をかきあげた。見えるおでこに女子の歓声が一層強くなる。

「うわあ、何あのサービス」
「試合中もあんな感じ」
「あっ!あいつ肩まくりまでっ!」

体操服を肩までまくって自慢の腕の筋肉をさりげなく見せている侑に俺は隣の角名を揺さぶった。

「サービス精神旺盛すぎるわ」
「アレもう普通だから」
「はぁっ!無意識?!意識的?!」
「半々じゃない?」
興味ないというような角名に俺が隣で騒いでいると侑が俺たちの方を見て、ビシッと指さしてきた。

「何あれ、何でポーズ決めてんだよ」
「『俺のシュート、見とったか?』じゃない?」
「さすが角名。意訳が上手」



授業が終わり、体操服を扇いでパタパタと風をおくる侑と一緒に教室に戻る。
「はぁ〜腹減った!俺のシュート見とったか?」
「見てない」
「はぁっ?!侑くんのかっこええプレー普通、見るところやろ?!」
「無駄にかっこつけててウザイから、角名と体育祭の話してた」

かきあげ、肩まくり、腹チラ、お前はなんなの?と呆れる俺に侑は「ちゃっかり見とるやんけ♪」と嬉しそうだ。

「かっこええやろ?俺」
「かっこいいやつは自分では言わないんですー」
「惚れてもええで?」
「…侑クン、かっこいい!惚れるわ!好きー!」

関西のノリに合わせるべきか、と両手を組んで侑を見上げてみる。
ツッコみがくるかと思ったら、侑が顔を背けて俯いていた。

「おい、ツッコめや」
「あまりの酷さに心臓が痛いねん…っ」

酷い言い様だ、と侑は睨み返しておいた。


***

部活終わりの帰り道、黒リュックを背に歩いているとバス停でジャージ姿の高身長3人を見つけて、声をかけた。

「おつー」
「お?なまえ今日チャリやないんか」
治の疑問に「明日の天気予報、雨だから置いて帰る」と答えた。

バスを待つ間、体育祭の話題になった。
「3組って白組だろ?治も応援団長になったん?」
「うん。なんや赤組はツムが応援団長やるから、俺もやれ、て」
「絶対サムには負けんで」
「ふっ、言っとけ。ツムに負ける気は1ミリもせんわ」
「応援団ってことは学ランか法被?和装?賑やかそうだなー。ま、俺はまた応援席で静かに見守っとくわ」
「俺も」
角名と俺のスローモードに双子は面白くなさそうにブーイングする。
お祭り騒ぎにテンションを上げる双子はまさに応援団長打って付けだろう。

「黒組と緑組の応援団長は誰?」
「野球部のキャプテンと、サッカー部の奴や」
「ああ、」

言われただけで誰がやるか分かった。運動部って最低一人はモテて人気をかっさらっていく奴がいるし、そういう奴が表に出てくるとなると今年の体育祭もすごいことななりそうだな、と予想した。その中でも双子は際立っているが…。

角名に「今年は借り物競走じゃなくてよかったな」と声をかける。今年の出場種目決めの話し合いでは角名はしっかり起きていた。
去年みたいに寝ていたら勝手に決まっていたなんてことは絶対に回避したいらしく、俺と同じ3人4脚リレーの出場者になった。

「借り物競争は侑だろ。俺は3人4脚リレー終わったら後はゆっくりできるわ。部活リレーも出ないし」
「ふうん、部活リレー出ないんだ?」
「俺より速い1、2年いるし任せた!俺は応援に徹する!」
「やる気出せよ」
「角名に言われたくねー」
「正直、女子みたいな玉入れが良い。あれなら投げなくてもバレないし」
「いや、玉入れで投げてなかったら目立つだろ。皆が懸命に玉を拾ってる中、虚無顔で佇む角名…。やばい想像したら雪景色の北の大地で遠くを見つめるチベスナが重なるわ、ぶはっ、ウケるっ」
「何一人で笑ってんの」

首を掴んできた角名にやめろ、と騒いでいるとバスが来て乗り込む。一番後ろの席に4人で座った。すでに一人座っているため詰めて窓側から治、角名、侑、俺で座る。俺の隣には他校の制服の男子が座っている。

「噂で聞いてん。借り物競争、お題に『好きな人』て入るんやて」
治の言葉に身を乗り出した。
「まじで?盛り上げるためのデマじゃない?」
「ホンマかは分からん」
「さすがにないやろ。ま、俺はどんなお題来ても1着やけどな」
「はいはい」

他の乗客もいるため静かにバスの中で揺られる。段々眠くなって来て、黒リュックを前に抱え込んで頭を乗せた。
夕方の揺られる振動で襲ってくる睡魔は昼休み後の授業の時の眠たさに匹敵する。

侑は音楽を聞いているのかイヤホンをしていて、俺もちょっとだけ寝ようかな、と目を閉じた。隣の人に倒れないように意識していたのに睡魔に堕ちかけると体が横に倒れそうになった。

瞬間、横からぐい、と引き寄せられて侑の方へ倒れ込む。
肩に回された腕に、隣の人に倒れないよう侑が寄せてくれたんだろう。
隣の人さーせん、侑ありがとう、と心の中で唱えながらも睡魔には勝てず、薄目をまた閉じてしまう。

侑の肩にガッツリ頭をのせた俺は降りるまで完全に爆睡していた。

肩を揺すられて目を開ける頃には男子寮の最寄りのバス停近くまで来ていた。

「次やで。起きや」
侑の声が心地よくてこのまま寝ていたい、とさえ思う。
『次は〇〇です。次は〇〇です。止まります。バスが停留所に停車するまで席をお立ちにならないようにお願いします。』

「おい、聞こえとんのか」
「ん…眠い…」

バスよ、あと数分ゆっくり走ってくれなんて思うもバスも時刻表どおりに走っているためすぐにバス停に着いた。

角名、治が席を立ち、侑が俺を引っ張るため一緒に立つ。
最後に運賃を払ってバス停を降りた。

治と角名が2人で歩いて先に行っている。侑がバスから出てくる俺を待っていた。

「あざしたっ」
運転手の人に挨拶して、バスから降りた。侑と一緒に男子寮まで歩く。

「ごめん爆睡してたわ。重かったろ」
「別にぃ」
「めちゃくちゃ眠かったぁ。練習終わりのあの揺れはやばい。侑達が居なかったら俺、多分終点まで行ってたわ」
「アホやん」
「はははっ!あと数分だけでいいから、このままでいさせて、って思ってたもん」

まじで眠かったあ、と笑う。

「…俺も。バスゆっくり走れ、て思たわ。まだ着かんといて、て」

返ってきた言葉を俺の脳みそは上手く処理出来なかった。

「…??」

頭の中にハテナが浮かぶ。
あれ、会話を成立させるためには相手の言っていることを理解して、返事しなければならないはずなのに、俺の脳みそ思考停止してんだけど…。

立ち止まって侑の言葉を反芻する。

侑も、俺と同じようにバスの中にまだいたいと思った…?
俺は眠いからもっと寝ていたかった。侑は寝てなかったし、俺が肩に頭を預けて寝てたから早く降りたかったはず。なのに、まだそのままでいたかった…?なぜ…?
そういえば侑、イヤホンで音楽聞いていたな。
あぁ、音楽か!バスから降りるなら外すしな。


「何してん?」
はよ来いや、という侑にとりあえず返事をする。
「おう」

足早に侑の隣に追いつくと、侑が横で歩く俺をじっと見下ろした。

「何だよ?」
「別にぃ」
両手を頭の後ろに組んで座って固まっていた体を伸ばしながら歩く。筋肉のストレッチに気持ちよさを感じながら侑と会話の続きをした。

「まぁでも分かるわ。音楽聞いてて盛り上がってきた時にバス着いたら『今いいとこっ!』てなるよな」
「ならんし」
「はぁ?」
「俺が言うたんはそっちやないし」
「どっちだよ」
「考えたら分かるやろ。あのまんまでいさして、思たんはお前だけやないっちゅう話や」

ポケットに手を突っ込んで歩く侑が「今日の晩飯なんやったっけ」とでも言うようなテンションでさらっと言うものだから、また俺の思考回路は停止した。

「侑も眠かったのか?」
「全然」
「………」

音楽を聞きたかったというわけではない、眠かったというわけでもない。…となると…。

いや、俺の頭がおかしいのかもしれん。


6月の風が顔を撫でる。侑の髪が夕日に当たってキラキラと眩しい。風に吹かれた長めの金髪が揺れて、黒髪の刈り上げた部分が見えた。ツーブロックに金髪とかどんだけチャラいんだよ、と思ったことがあった。

俺が今頭の中で考えていることは正しいのか間違っているのか分からない。正解はこいつしか知らない。

俺が寄りかかって寝ていたあの時間が続けばいいと思ったってことは。

俺ともっと一緒にいたかった…とか…?

いやいやいや、なんてことを考えているんだ俺は。おかしいだろ。

どこぞの青春ドラマだよ。
俺が女子なら分かる。帰り道でもっと一緒に歩きたかった、とか。話したかった、とか。

でも俺は男で、侑も男。
女子なら確実に勘違いする侑の言葉に俺の頭の中はハテナで埋め尽くされる。

今日の俺は思考回路がおかしいみたいだ。

「…腹減りすぎて俺の脳みそは思考回路が停止してるわ。はぁ、晩御飯なんだっけ」

「…ほんまアホやわ。このあほんだら」
「うるへーあほツムよりは勉強できるわっ」
「あ?もっぺん言ってみ?」
「ぎゃ!重いっ!」

歩きながら寄りかかってくる侑に抵抗する。

元来、俺は考えすぎる性格なのだ。深く考えないようにしよう、とこれ以上頭を使うのはやめた。

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