体育祭当日。
校内は朝からバタバタと慌ただしい。
「茶川と三分は緑組か〜」
「みょうじは赤組やろ?応援団長が宮ンズて、すごいことなりそうやな」
「うん。昨日、寮で応援団の演武の衣装見せてもらったけどガラ悪すぎて笑った」
「素直でよろしい」
体操服姿で廊下で三人で駄弁っていると、自転車部2年の奈良木の姿が見えた。
「茶川部長っ!」
「お?」
「どしたん?」
「今日の部活リレーのボトル、僕のでいいですか?」
「ええよ。奈良木の一番細いタイプやんな。縦長の」
「そうです、じゃ、また出る奴に渡しときます」
「奈良木、俺らは応援頑張ろうなー。何言うか今から考えとこ」
「うっわ、去年と立場逆転や」
「ふっふっふ、楽しみにしとけよ茶川ぁ」
帰っていく奈良木を見送ってどんな喝を入れようか考えていると、集合のため外に出ていく生徒が増えてきた。
茶川達と別れて自分の教室に入る。机に伏せている角名に声をかけた。
「侑は?」
「先行った」
「応援団長は忙しいな〜俺らも行くか」
「おっ、角名、みょうじ行くでー」
廊下から銀が顔を覗かせた。返事をして三人で昇降口に向かう。
「アイツら二人とも応援団長だから忙しいな」
「せやな、治も準備とか演武練習もあるし大変そうやったで」
銀の言葉に頷く。
「でも遊びには全力だもんなあ、あの二人」
「最近寮でもご飯食べながら寝てなかった?」
面白がるように言う角名に俺も頷いた。
「寝てた寝てた。口じゃないところにおかず持ってこうとしてたから誘導してあげたんだよ」
吹き出す銀にその時のことを説明しながらグラウンドまで出た。
さすがスポーツ強豪校だけあって、グラウンドも整地された上で芝生のフィールド、走行用の競技用レーンもあり競技場の環境は申し分ない。
美術部や書道部が作成したパネルが大きく設置されていてまさに祭り事の開催と言った雰囲気だった。
わらわらと集まる集合体の中で3年5組の後ろ側に立つ。
女子は赤色のハチマキを凝った結び方で頭に付けていた。一軍女子は編み込みのような髪と赤のハチマキが一緒になっている。
三つ編みみたいになっていて「すげえ、何あの技術…」と俺は感心した。
「ちょっと、角名。頭貸して」
「は?」
「俺もあれに負けない傑作を作るわ」
一軍女子を示して意気込むと角名からアホなん?と言われたが無視して角名を整地された地面に座らせる。体格差がある以上、頭を下に持ってきてもらわないと出来ないのだ。
「俺に全てを任せろ、Trust Me」と覚えた英語を言ってみる。
女子みたいに編み込みはできないが、猫耳みたいなのは出来そうだ、と思考錯誤しながら角名の頭の上で自由に結ぶ。
「出来たっ」
「わぁ、角名くん可愛ええ〜」隣に居た女子から褒められて嬉しくなる。
「は?」角名が恐る恐る頭の上を触るとハチマキで作った三角の部分に触れた。
「何これ」
「猫耳!上手いこと出来たわ!似合ってるから!絶対崩すなよ」
「…じゃあ、次俺の番」
「あっ!ダメダメ、俺今年は首に巻くスタイルで行くから。ネクタイ式で」
「そのまま絞めようか?」
「倫太郎くん、恐ろしいこと言わないでくれますか?」
角名が俺の真正面に立って首に赤色のハチマキをかけた。
「完成。崩したら俺も崩すから」
首元を触ると。ハチマキでリボンが作られていた。
「何でリボンなんだよっ」
「首輪つけられた猫みたい」
鼻で笑う角名に「お前も猫だぞ」とツッコんでいると後ろから衝撃が走る。
「ぐえっ」
「なんや、ネコネココンビか?」
侑の指が俺の首に巻かれたハチマキを、くいっと寄せた。
「にゃあ、て鳴いてみ?」
「誰が鳴くかっ」
「俺、鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス派やねん」
「意味不明〜」
侑の頭には応援団風の巻き方でスタンダードな巻き方に後ろが長く垂れている。正統派な巻き方も似合っているから悔しい。
隣の組の茶川と三分を見ると、茶川はスタンダードな結び方で、三分は腕に巻き付けていた。
〇ンピースのゾロみたいだな、と声をかけると「鬼斬り!」と漫画まんまのポーズをしたから茶川と爆笑した。
始まった開会式で見事に晴れた天気に校長が開口一番「私が晴れ男です!」と宣言したため「天気予報は最初から晴れやったんですけどー!」と周りからツッコミが入り、笑いの体育祭がスタートした。
流れるBGMと放送部のアナウンスにプログラムが進んでいく。
「3人4脚リレー出る人集合〜」
体育祭実行委員の声に俺と角名は集合場所まで行く。
「1回しか練習してないけどいけんのかな」
「真ん中のなまえが頑張ればいけるっしょ」
「なああ、まじで真ん中嫌だ」
「仕方ないじゃん。じゃんけんで負けたのなまえだし」
「はぁぁ、真ん中ってもう自由を奪われた身じゃん。端の二人はまだ片足を自分の意志で動かせるからいいけどさ、真ん中はもう訳わかんなくなるからな?」
「頑張れ」
「くそっ!他人事だと思って!」
俺と角名、そしてメンバーの勉強ができる田中と一緒に入場門からグラウンドに入る。
『次は3人4脚です!昨年は二人三脚でしたが今回は難易度アップ!皆さん頑張ってください!意思疎通が重要です!』
「田中、角名、俺は2人を信用してるからな」
「が、頑張るわ」
「俺は信用してない」
「おい、こら角名」
ピストルの合図と共に一年のメンバーからスタートしていく。赤、白、黒、緑と四色の色別に競り合ってバトンが近づいてくる。
3年の順番になって一組目がバトンを受け取りスタートした。設置されたコーンを回って帰ってくる。
「よし、」
左隣の田中と肩を組み、右隣の角名の腰を掴む。
「俺たちは、やれば出来る!」
隣で吹き出す角名にまずは右足からな、と声をかける。
田中がバトンを受けとり「せーの、」と揃えて足を出した。一歩目が肝心なこの種目はリズムに乗れば後は機械的に動かすだけだ。
「よしっ!いち、に、いち、にっ」
「ネコネココンビ〜」
「遅いで〜」
「うるせぇ、ぎゃっ」
双子の声に反応してしまい、リズムが崩れた。角名の足が俺の足を持っていきそうになって焦る。
「何してんねんなまえー!角名ぁー!」
「くっそ、野次馬!」
「も1回、せーの」
もう一度整えてたどたどしさはありながらもコーンを回って帰ってきた俺達は何とか次のメンバーにバトンを渡せた。
「うあぁ、ドキドキした…。田中、お疲れっ」
「みょうじも真ん中お疲れ。ちょっと崩れたけどコケずに済んでよかったわ」
スンとした顔で「なまえが悪い」と言う角名に「あれは角名もズレてただろっ」と返す。
それでも素知らぬ顔の角名に頭につけたハチマキの猫耳も相まって、まじで猫だな!とツッコミたくなる。
種目終了後に応援ブースに戻り、ペットボトルを手に取る。水が喉の乾きを潤してくれる。照りつける太陽に暑さも容赦ない。
「次、借り物競争やでー」
「あ、俺の番や」
「いってらー」
「赤組の高得点狙うてくるわ」
俄然やる気な侑を送り出して角名と座り込んだ。隣には銀も来ている。
「銀、そのねじりハチマキ似合いすぎ!」
「そやろ、祭りっぽいやん」
3人で談笑していると入場門から借り物競争の出所選手がグラウンドに出てきた。
『次は稲荷崎名物の借り物競争です!今年のお題はまさかの…!!前代未聞のアレが出るかも?!選手の皆さん、地面でコケても笑いではコケないでください!』
各所から笑いが生まれる。
「アレって何?!」
「『好きな人』ってほんまなんかな?!」
「バスケ部の子が好きな人が出てきたら、告白する言うとったで」
「えっ!ほんま?!やばぁっ!めっちゃ見たい!」
そういえばそんな噂があったな、と思い出す。
「あの噂ホントなんかなあ」
「どうやろ、でも体育祭実行委員長、テニス部のキャプテンやん。あいつウケ狙い好きやし有り得るで」
「さすが関西…」
スタートした借り物競争。
お題にそって審判である体育祭実行委員長の元に物や人を連れていく。
『お題「一番優しいと思う先生」、家庭科の先生!まさに!意義なしっ!行ってヨシ!』
『お題「身長180cm以上」、おお〜背ぇ高いの連れてきたな!行ってヨシ!』
「あ、奈良木出てる」
「奈良木?」
「あれあれ、あそこ。2年の自転車部の後輩」
奈良木がくじを引いてお題を見た瞬間、固まった。
「うっは、あいつ何引いたんだろ!」
隣の組の茶川と三分と目を合わせて笑う。
借り物競争には選手が呼び出しをしたい時のためにマイクが設置されている。奈良木はそのマイクを手に取った。
『えーと…お題は「優しい先輩」で…』
奈良木のお題に俺たちは三人は反応した。隣の組の茶川と三分の元に駆け寄って、三人で大きな声を出す。
「「「俺やろー!?」」」
俺が一番優しいやんなあ!と叫ぶ俺達三人に奈良木が困ったように笑った後。
『すんません、…みょうじ先輩で…!』
「うぇーーいっ!」
何かを勝ち取ったように喜ぶ俺に「奈良木覚えとけよー!」「練習でしごいたるわ!!」と叫ぶ二人に周りが笑う。
奈良木の元に駆け寄って一緒にゴールした。
「先輩、ありがとうございますっ」
「いいよいいよ。よく俺を選んでくれたっ」
肩を叩いて応援ブースに戻った。銀が俺を見て笑う。
「みょうじ、優しい先輩やったんやな」
「あったり前じゃん。俺から優しさ取ったら何にも残らんぞ」
「何も残らんって、それもどうなの笑」
笑う角名と銀と一緒にまた観戦に戻る。
借り物競争は3年の順番になっていて侑がスタート位置に立った。
「侑、来た」
「何引くやろ」
「ダンスとか、一曲熱唱とか引いてほしい」
「最高すぎる」
3人でニヨニヨしていると治が応援ブースに来た。
「おぉ治遅いぞー」
「トイレやってん。お、もうツムなん」
「あいつ速くね?!」
「赤組に高得点入れるって言ってたしガチだね」
「難題引いてビリになれ」
治の言葉通りに難題を引いたのか、侑はお題のくじを引いた後「はん?!?!」と固まった。
「何あの反応っ!ぶはっ何引いたんだよあいつ!」
「むっちゃ気になるわぁっ」
侑はくじをもう一度見たあと駆け出して、アイテムの中からバレーボールを取り出して審判の元に行った。
審判にお題のくじとバレーボールを見せる。審判がそのくじを見て首を傾げた。
『……バレーボールて、お題とちゃうわ。却下!』
『はぁ?!好きなもんや!』
『あかん、お題に沿ってなかったら却下や』
ニヤつく審判のテニス部キャプテンと、却下されてキレ気味の侑。
「今好きって聞こえた?!もしかして侑くん引いたの『好きな人』やろか?!」
「ええっ!やばい!どうしよ!鏡!」
周りが黄色い声で騒がしくなる。
「あの噂本当だったんか?」
銀の呟きを否定する。
「いや、まさか。てか侑に限って好きな人とか引いたら女子が倒れるだろ。選ばれなかった子の闘争が起きそうな…」
「確かに…危険やな」
『俺が愛しとんのはバレーや!』
『分かるけど却下。お題は、好きな「人」や!』
体育祭実行委員長の言葉に会場が沸き立つ。
「『好きな人』!」
「うわあ!ほんまやったんか!」
「えっえっ、誰が引いたん?!」
まさに今回の大目玉のネタをまんまと引いた侑に会場中が興味を示している。
「ああ、これは女子の戦争になるな。アーメン」
十字をきる俺に銀が笑う。
侑が俯いた後、パッと顔を上げて俺たちのテントに向かって走り始めた。
「うおっ、こっち来るで!」
周りの女子の声がさらに大きくなる。皆、誰が選ばれるのか分からないのだ。こんな展開になるとは予想していなくて楽しい。ゲラゲラと笑っていると、侑が俺達の前に立った。
はぁっ、は、と息をする侑にビシッと指差された。
侑の指の先が俺に向いている。
いや、俺の後ろの女子とかじゃないか、と後ろを振り向くも、女子はいなかった。
「ちょお、来い」
「ぶっ!!」隣で治が吹き出す。
「だ、大丈夫か治」銀が治の背中を叩く。
「え、誰?誰のこと?」
「お前や!」
「えっ!はっ?!」
ガシ、っと手を引っ張られて俺は首を振る。
「いやいやいや、俺は違うだろ!」
治がぼそりと「あかん、既成事実作ろうとしとるわ」と言った。意味はよく分からなかったが、考えている暇もなく侑に引っ張られる。
「なまえに拒否権はないねん!」
必死で抵抗したが虚しく、そのまま米俵を担ぐかのように持ち上げられてしまった。
周りの女子の歓声が悲鳴に変わる。俺も悲鳴を上げたいくらいだよ!
反対に男子は爆笑している。
「ええぞー!」「平和条約や!」「上手いなぁっ、みょうじ選べば闘争回避やな!」
くっそう、笑ってる奴ら許さぬ。
さっきまで人の借り物競争を見て笑っていた自分を棚に上げて、観客たちに恨み節を心の中で叫んだ。
「おい!侑!お題と違うだろ!」
俺の事を無視してそのまま審判の前に立った。
『お題!「好きな人」!』
『これでどうや』
『女子やないやん』
『異性とは書いてへんやんけ!文句ないやろ?』
『…宮、お前はええんか?』
『ええで!』
『…みょうじは、それでええんか?』
テニス部キャプテンが米俵状態の俺に聞いてくる。
『もちろん良くないが!?』
笑いが起きた。
『そこに愛はあるんか?』
『ある!』
実行委員長と侑の掛け合いにどっと会場が湧く。
『ほなら、行って、ヨシ!!』
ビシッと指差されたゴールラインに侑が俺を下ろして笑顔で走る。
「行くで!!」
「ちょ、まあぁぁっ!」
引っ張られるままに真っ先にゴールテープをきる侑と赤組の高得点に喜ぶ赤組メンバー達。
「くっそ、おまっ…変なお題引きやがって…」
「1着やないと意味ないやん?笑いも取れたし上々や♪」
おかげで俺は全校生徒の前で恥ずか死んだけどな!
競技が終わって満足そうな侑と応援ブースに戻ると周りから「赤組リードやで!ようやった!」と褒められた。
茶川が「そこに愛はあるんか?」とニヤニヤと聞いてきたため「ない!」と即答しておいた。
治が肩をポンと叩いて「なまえ…俺は同情すんで」と言ってきた。
「同情するなら自由すぎる片割れを何とかしろ」
「無理や。あいつ人の言う事聞かへんし」
「…ほんっとジャイアンめ…」
侑の自由さに振り回され体育祭の前半が終了した。