幼なじみが実は俺のことを好きだった件について


(佐久早聖臣×能天気 運動部 平凡男主)

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朝食を食べ終わり、いつもの出発時間まであと数分という所で、気づいた衝撃の事実。
片手に靴下を掴んでキッチンに立つ母親を見る。

「母さんっ!靴下、片方ないんだけどっ!? 」
「知らないわよ、お母さんに言わないでくれる?」
「左だけワンポイントになるじゃん!」
「なまえが洗濯機の中にちゃんと入れてたら、あるはずですけどねえ?ないってことは昨日、自分がちゃんと入れてなかったのよ」

ギクッ、として言葉に詰まる。自分の部屋に片方の靴下が落ちている可能性がないこともないな、と昨夜の行動を思い返したが、迫り来る時間は待ってくれない。

「あああっもう時間になったし…、仕方ない!」

時計の針が約束の時間を指している。
諦めて、近くにあった白色の靴下を引っ掴んだ。ワンポイント刺繍が入った白色靴下を左足に、白色無地の靴下を右足に履き、勢いよくスニーカーに足を突っ込む。

玄関を飛び出ると、幼なじみの佐久早聖臣が家の前に立ち、俺のことを待って……

はいなかった。

視線を道路の先に動かすと背中を見せて歩く井闥山ジャージが見える。うねった黒髪に高身長、あの後ろ姿は間違いなく聖臣だ。

追いかけて後ろから背中をドス、と押す。

「おいおい、数分くらい待てよ聖臣」

じろりと見下ろして来た黒眼に負けじと視線を返す。

「6時30分までに玄関に出てこなかったら、俺は先に行く。何度も言っただろ」

ローテンションで淡々と話す幼なじみは昔も今も変わらない。同い年で家が近いというだけだが、通う高校まで一緒になった聖臣とは、小学生の頃はそんなに差はなかったはずの身長も今は見上げるほどになってしまった。

愛想もない笑顔もない聖臣と能天気で楽観的な俺は、正反対な性格でたまに喧嘩はするが、特別仲が悪いわけでもなく、自然体で過ごせるし、隣に居るのが当たり前という感覚で今日に至る。

お互いに足して2で割るとちょうどいいんじゃね、と聖臣の従兄弟である元也から言われたこともある。

「今日は出てくる直前に靴下紛失事件が起きたんだから仕方ないだろ」
「昨日はネクタイ紛失事件…」
「そうやってすぐ俺をバカにしたような目で見るぅ」
「呆れてるだけだ」
「俺の部屋に小さいおじさんでも住んでて、靴下とかネクタイ持っていっちゃうのかなぁ」
「……想像させんな」
「想像した?めちゃくちゃウケるよな」

笑いもせずウザそうに俺を見下ろす聖臣だが、そんなことは日常茶飯事なので気にもとめない。
視界の先に明るい髪色の丸い頭を見つけて声を張り上げた。

「元也ぁ〜」

呼ぶと、振り向いて手を上げる古森元也。元也も小学生の頃から仲が良い。二人でふざけ合って聖臣から呆れた目で見られる日常を過ごしてきた。


「お〜、なまえ、聖臣、オッハー」
「はよ〜、なぁ聞いて?!こいつ、俺のこと置いてったっ」
「人のせいにすんな、遅れたのはお前だろ」
「ちょっとぐらい待ってくれたっていいのにさぁ」
「時間にルーズな奴を待つつもりはない 」

「とかいいながら、この間俺が『あー、もういいや』って追いつかずに離れたまま歩いてたら、立ち止まって俺が追いつくまで待ってたの、知ってるからな?聖臣、俺と一緒に登校したかったんだろ??そうだろ?」

ニヤニヤしながら聞くと人を射て殺すような視線で睨まれた。黙れ、と言わんばかりの目にギャハギャハと元也と一緒になって笑う。

「本当、不器用なんだからさぁ臣くんは」
「ふざけんな、潰すぞ」
「怖ぃぃっ、臣くんこっわぁぁ!」

小学生の時から聖臣をからかって遊ぶのが俺の楽しみの一つだ。

「なに?今日もまた何かの紛失事件?」

180cm超えの元也を見上げながら、頷く。高身長二人に挟まれる俺は平均身長はあれども、2人からすれば小さく見えるだろう。

「そう、今日は靴下。見ろよこれ」

ズボンの裾をちらりと上げて元也に靴下を見せるとケラケラと笑ってきた。

「ウケるっ!何で左側だけワンポイントなんだよ、しかも微妙に丈違うし」
「笑うなよ、俺だって好きでこうなったわけじゃないんだぞ?!あ、聖臣お前も笑うなっ」

傍から見れば笑ったかどうかも分からない顔の動きではあるが、ほんの少しだけ聖臣の口角が上がったのを見逃さなかった。

「やっぱ馬鹿だな」
「うるせーっ」
「今日体育あるし、それで出んのっ?」

ニヤニヤ笑う元也にあぁっ、体育のこと完全に忘れていた、と頭を抱える。

「なぁ聖臣、靴下貸して?」
「は??絶対に嫌だ」
嫌悪感MAXで即答された。

「なんだよ、靴下くらい」
「靴下くらいってウケる」
「お前の汗が染み込んだ靴下返されるくらいなら、捨てた方がマシだ」
酷いことを真面目な顔で言う聖臣にイラッときてじとりと睨む。

「おい、自分が綺麗好きの度を超えてるの分かってるか?前に食べかけのサンドイッチ、あげるって渡したら手にしたまま固まってたの、俺は忘れてないからな」

俺は根に持つタイプだぞと腕を組むと、隣で元也が「嘘つけ、寝たら大体忘れるくせに」と噴き出した。

「…くそめんどくせぇ」

腕組みして見上げながら絡む俺に、聖臣が面倒くさそうに眉を顰めた。

「おいおい、それは俺のセリフ。めんどくさいのは聖臣の方だからな?めんどくさい聖臣に俺は寛容な心でいつも接してあげてるわけ」

どちらがめんどくさいかと言えば、絶対に聖臣だ。断じて俺じゃない。ネガティブで、頑固で、真面目すぎる聖臣ほど、めんどくさい男を俺は知らない。

「寛容っていうかナマエは何も考えてないただの能天気なだけじゃん」

「あーん?元也くん、何だってぇ?元也も人の事言えねーぞ。小学の時のプール後、フルチンでぞうさんぞうさん言ってたのどこのどいつだ、おら」

「ぶっは!!思い出した!!着替えの時のだろ!めっちゃ笑ったよなぁアレ!二人でぞうさん連呼して遊んでたら、なまえが聖臣から蹴られて潰れたやつ!」
「そこまで思い出せとは言ってないっ」

苦い思い出に顔を歪めていると聖臣が「バカ二人」と言ってきた。舌を出して適当にスルーする。

話の話題は靴下紛失事件に戻り、体育のことを考えて肩を落とす。

「はぁ今日の体育、恥ずかしいなぁ。○○さんに気づかれたら嫌だな…」
「○○さんってなまえの組の女子?」
「うん」
「何だよ〜、好きなん?」

通学路を歩きながら、ニヤニヤ笑ってくる元也の言葉に顔を赤くした。ズバリ言い当てられたからだ。

「……最近さぁ、○○さんと良い感じなんだよな」
「……え、マジで?ごめん、冗談じゃなくて本気?」

否定しない俺に、からかうように笑っていた元也が途端に顔を引き攣らせた。それからちらりと聖臣の方へ視線を移す。

俺は元也に視線を合わせているため、聖臣の表情は見えないがそのまま、相手の○○さんもまんざらでもないような気がするんだよな、と伝える。

きっかけは些細なことだがよく話すようになり、距離が近づいたことでお互いに意識しているような感じがあるのだ。
よく目があったり、ドキドキして少しギクシャクしたり、でも話すと楽しい。そんな雰囲気に絶対に○○さんも俺のことを意識しているはず。

「あぁどうしよ…俺にもついに青い春が…」

聖臣と元也の影に霞んでいた平凡な俺も、やっと日の目が見えるかもしれない。THE普通な俺にも彼女という特別な存在が出来るかもしれない、と想像しただけで浮き足立つ。

「俺さぁ…○○さんに告ってみようかなぁ、て…」

むふふ、と口元に手を持ってきて笑うと頭上から低い声が降ってきた。

「は??」

いきなり動きを止めた聖臣と数歩の差が生まれる。

「どした?」

振り返って足を止めた聖臣を見ると、ものすごく不愉快そうな顔で睨まれた。

「告白って何だよ、聞いてねえ」

重々しい声といつもの睨みとは比ではないその表情に少しだけ戸惑いながら返す。

「いや、言ってないし…てか、今言ったし」
「あちゃー…激おこ…」

隣の元也が小さく呟いた。なぜ聖臣が怒るんだ。

「ふざけんな」
「ふざけてねえし。何?何で怒ってんだよ。俺にも恋くらいする権利があるだろっ」

「別に恋するなとは言ってないけどな」
相手が問題なんだよなぁ、と呟く元也に頭の中でハテナを浮かべた。
歩きながら見えてきた校舎にバレー部の聖臣達と分かれるタイミングが近づいてきたことを知る。

思い立ったら行動派、の俺は声を上げた。

「よし、俺、今日決行するっ!」
「はっ?え、まさか告白を?」
「うん!○○さんに放課後話す」

拳を握って、当たって砕ける覚悟で!と前を見据える俺に元也が微妙な表情で見てきた。

「なんだよ元也、応援してくれよ」
「え、うん、まぁ頑張れ?」

よぉし!○○さんとはお互い良い感じの雰囲気だし、告白成功する気がする!
俄然、やる気が漲ってきて朝練頑張れそうだ、と息を吸った。

「じゃ、2人とも朝練ファイトー」

別れ際に元也が「…当たって砕けたところを狙うしかないんじゃない?」なんて押し黙っている聖臣に話しかけていた。

何の話をしているんだろう、と深く気にせず朝練のためにバレー部とは反対方向に向かった。


▽ ▽ ▽


「ねぇ、」
「みょうじくん、どうしたの?」
「あのさ…、話したいことがあって…今日、放課後時間ある…?」
「……うん、いいよ」


少し間があった後、微笑みながら返ってきた返事に内心ガッツポーズをした休み時間。
あの反応は勝利したも同然だ。

昼休みに元也と聖臣に伝えると、聖臣の不機嫌オーラが倍増した。

ふっふっふ、もう誰にも俺を止められないんだぜ、俺はこのままゴールインします、告白成功させます、と宣言すると聖臣に舌打ちされた。


近づく放課後が、俺は待ち遠しくて堪らなかった。俺の青春の1ページ目がスタートする、と期待して迎えた放課後。

○○さんには約束の時間に空き教室に来てもらう話をしている。その前に聖臣のいる教室で心の緊張を落ち着かせていた。聖臣の前の席に後ろ向きに座り、深呼吸をする。

「はぁぁぁ、緊張するっ、成功率99%なのに緊張するっ」
「おいおい、どっから来んの、その自信」

元也が机の横に立ってケラケラ笑う。聖臣は机の上で拳をぐっ、と握りしめた。

「じゃ、俺先に体育館行っとくな〜。なまえまた結果教えてっ♪」
手を上げて教室を出ていく元也に親指を立てて見送る。

「はぁぁ、ついに俺も今日から彼氏という立場かぁ…」
顔を上げて噛み締める俺に聖臣の冷たい視線が刺さる。

「おい、なんだよその目は」
「…別に。 能天気な奴が幸せそうに笑ってて死ぬほど腹立つだけだ」

今の俺なら何を言われてもノーダメージだ。

約束の時間が迫っていることに気づき、「時間だっ!」と立ち上がる。足を踏み出そうとしたのにつん、と引っ張られる感覚に下を見た。

よく見ると、聖臣の手が俺の制服の裾を掴んでいた。

「…何だ、その手は」
「……」
「何だ、と聞いてるんですけど?」

聖臣の目は俺を見ずに真っ直ぐ前を向いたままだ。小さく開いた口から出てきた言葉に俺は驚いた。

「…行くな」
「…はぁぁっ?それは無理だろ〜」

何言ってんの臣くん、俺の青春が待ってるんだぞ、その手を離せと両手で聖臣の手を外そうとするが力が強すぎて離せない。

「おいっ、遅れる!俺の恋路を邪魔するなっ」

なんなの??ここに来て、これは何なんだ?と眉を寄せて怖い顔をしながら俺の制服を手離そうとしない聖臣を見下ろす。

「聖臣…恋する人間の気持ちがわかるかっ?!もっと話したいな、とか、もっと近づきたいな、もっと知りたいな、とかそんな気持ちになったことないだろ!俺はな、今そういう気持ちになって実らせたい恋があるんだよっっ!!」

熱く語る俺をちらりと見た後、目を逸らした。

「恋したことないお前には分からないだろ!そういう気持ち、なったことないだろっ?」

昔からローテンションの聖臣がそんなアツい気持ちになることなんてないはずだ。押し黙る聖臣にやっぱりな、と思う。

「ほら、やっぱり「…ある」…え?あんの?」

まじで?俺、初耳なんだけど…。幼馴染の恋に気付かなかったなんて、少しショックを受ける。

「あ、あるんかいっ…まぁ、あったとしてもだな、俺の恋路を邪魔する権利は聖臣にはないわけ」
「……ある」
「ない」
「……ある」
「何であるんだよっ」
「……うるせえ」
「はぁっ?」

言い難いことがあるとすぐに暴言吐くの何とかなりませんかね?とにかく俺は向かわなければいけないんだっ!と意地でも動こうとする。

「俺の青春ぶち壊す気かっ、一生恨むぞっ」

恨み言を吐き出せば、いきなりパッと手を離された。やっと解放されたかと思うと、聖臣が席を立った。舌打ちをした後、聖臣は感情のない目で「成功させるわけないだろ」と見下ろしてくる。

「は?」
「お前、ここにいろ」
「はぁぁぁ?」

いきなり動くなと言われて俺は眉を上げて盛大に首を傾げた。
何を言っているんだ、この幼馴染は。

「俺が代わりにフラれてくる」
「…はぁぁぁ?!」

本日2回目の驚き。
そもそもフラれる前提ってどういうことだ。静かキレている様子の聖臣の言動に、頭が追いつかない。

ズンズンと大股で歩き始めた聖臣は教室を出ていく。

「ちょっ、待てっ」

小走りで背中を追いかける。待ち合わせの教室に向かっている聖臣に追いついた頃には、目的の場所まで来ていた。まだ○○さんは来ていないが、ちょうど約束の時間を迎えている。

パタパタと走ってくる足音が聞こえて「まさか…ッ」と焦る。告白したいのに聖臣がいたら出来ない。教室の中で佇む聖臣をどうにかしなければと思っていると体をグイと押された。

教室後ろの掃除用具入れのドアを開けて、聖臣が俺をそこに押し込んでくる。

自分では絶対に入らない(物理的にも入れない)だろう空間に押しやるとはどういう事だと抵抗する。

「お、まっ何だ?!」
「黙って入っとけ」
「はっ?!」

バタン、と無理矢理閉められた用具入れの中は湿気を帯びた匂いが充満している。雑巾とほうきに囲まれ、用具入れの扉の隙間から教室の中を見た。

教室に入ってきた○○さんの声が聞こえてくる。

「みょうじくん…あれ、佐久早くん?」

呼ばれて聖臣が振り向いた。

「…ごめん、なまえじゃなくて」
「えっ、ううん。も、もしかして佐久早くん…私に…」

○○さんの顔が心做しか赤いような気がする。

「…教えてほしいんだけど、○○さんって…なまえのこと好きなの…?」

聖臣のボソボソと話す喋り方は用具入れの中だと聞き取りにくくて耳をすませる。脈アリな回答を返ってくるだろう、と期待した。

「私がみょうじくんを?!いやっ全然!」

えっ…ええっ…全然?!ちょ、ちょっと待ってよ○○さん、俺のこと、えっ…?す、好きじゃない…?

衝撃すぎて思わず用具入れの中で崩れ落ちそうになる。

「…よかった」

聖臣の言葉に○○さんは増々頬を朱に染めた。

「…ごめん、アイツ今日、話あるとか言ってたと思うけど気が狂ってただけだから、無かったことにしてほしい」

言い方ひどくね?気が狂ってるって何だよっ。

「?う、うん分かった…。前に好きな映画の話したからその話かなぁ、って思ってたけど何か違う話だった…?」

眉を下げて笑う○○さんに必死で首を振る。
えっ、映画の話?!違うよっ俺、告白する雰囲気出してたよね?!

「…完全にアイツの勘違いかよ…」

俺の勘違いっ?!脈アリじゃなかったのか?!

「佐久早くん?」
「…いや、こっちの話…話は終わった。時間取らせた」
「えっ、もう終わり?」
「…?ああ。もう言うことはない」

曖昧に笑い、気まずそうに帰っていく○○さんの背中を見て唇を噛み締めた。

聖臣め…、自分から告白するような勘違いをさせて、話は終わったなんて酷すぎる…。

静かになった空き教室の中心から聖臣が動いた。用具入れの前に立ち、扉を開ける。

「………」
「………」

お互いに対峙する。俺は腕組みをして聖臣を見上げた。

「おい聖臣、俺を用具入れに押し込むとはどういう事だ。俺を雑巾か何かだと思ってるだろ」

一歩、踏み出すと近づくなと言わんばかりに聖臣は一歩下がった。

「…あのまま告ってもフラれてただけだろ」
ボソボソと言う聖臣に腹が立ってくる、恨みつらみ言いたいことは山ほどあるのだ。

「最悪だ、人の恋路邪魔して、挙句の果てには目の前で公開処刑っ!ひどい!酷すぎる!」

さらに一歩近づくとまた下がった。コイツ…俺を用具入れの中に押し込んだくせにその態度、許せん。

「結果的にフラれることに違いはない」
「うるさい、もう聖臣なんて知らん。元也に泣きつくっ」

俺の青春崩壊された、って泣きつくんだと聖臣を非難すると、猫背気味に暗く沈んだ雰囲気をまとい始めた。

そんな聖臣の様子に、もしかしてネガティブモードに入り始めたか?と警戒する。 重々しいトーンで聖臣がボソボソと口に出し始めた。

「…どうせ女子がいいんだろ…明るくてよく笑う人間の方が…ガキの頃からずっとそういうタイプばっかだったし…好きなもの全部用意しても全然反応ないし…暗くて面倒臭い奴なんか…好きじゃないんだろ…」

「……」

ブツブツと吐き出す聖臣を見上げて目を細めた。

な、ん、で、ここでネガティブ発動させてくるんだよ!

非難されたせいかネガモードに入った幼馴染にめんどくせえ、と内心呆れる。

めんどくさいネガティブ聖臣は愚痴愚痴と回りくどい言い方で吐き出すため、毎度、俺がその回りくどさを汲み取って、聖臣の言いたいことを理解してやっている。

聖臣の言葉を反芻した。聖臣が何を言いたいのか。言葉の意味を考えれば、考えるほどに、何だか俺のことを…

「…何、聖臣、お前俺のこと好きなの?」

キョトンとして聖臣を見上げると、一瞬目が合ったがすぐに視線を外された。

「…誰もそんなこと言ってねえ」

目を合わせようとせず、壁を睨むように見る幼馴染を見上げる。

喧嘩して謝る時、言いたいことがあっても素直に言えない時、必ずと言っていいほど、非常に回りくどい言い方をするところは何度も経験している。

それでも、さすがに俺が好き、はないか?
いや、でもよくよく思い返せば、そんな風に感じ取れることがないこともないような…。

家に遊びに行った時、俺の好物を用意してくれていたり(「俺のためにありがとう!」と言えば「たまたま家にあっただけだ、勘違いすんな」と言っていたが…)、聖臣んちに泊まった時に寒いからとベッドに潜り込めば、今までは突き落とされていたのに最近は文句を言いながらもそのまま受け入れていたり、女子と話したとか恋バナすると不機嫌になったり、聖臣を褒めまくると顔には出ていないが照れていたり…。

あれ、お前、やっぱり俺のこと好きだろ…?

答え合わせをするために歩み寄ることにする。

「……」
「……」
「お前、俺を雑巾扱いしたんだぞ。」
「仕方ねえだろ」

どこが仕方ないんだ、どこがっ!

「今、俺は用具入れから出てきた出来たてホヤホヤ雑巾だ。それでも触(さわ)れるなら、お前の気持ちが本気だと信じてやらんでもない」

腕組みをして上から目線で言うと、片眉がぴくりと動く。無表情で見下ろす聖臣に近づくと肩が揺れた。

ああ、これは葛藤しているな、と察する。面白くなってきた。

用具入れから出てきた雑巾の俺に触れるか、触れないか。

ほうれ、触っちゃうぞぉ?抱きついちゃうぞぉ?といつものからかい半分遊び半分のテンションで近づく。

ニヤニヤしながら聖臣の周りをぐるぐる回ってやる。

「フッフッフ、良い眺めじゃないか聖臣くん」

イラついたような視線を寄越すが、聖臣は一歩も動かない。本当に良いのか?
潔癖症の聖臣にとっては触れるのは絶対に嫌なはずなのに。

聖臣の前でガバッと両手を広げる。
いいんですかぁ?と笑いながらゆっくりと聖臣のタッパのある体に腕を回した。

触れる瞬間、ぴくりと揺れた体はぎゅ、と抱きしめた後も動かない。

まさかの本気の本気か?
嘘はつかない、つけない男だ。

「おい、抵抗しろよ。今、雑巾が体にまとわりついてるぞ」

腕を回したまま、聖臣を見上げる。

「……」

唇を横に結んで耐えるような顔に、マジか…とそっと腕を離した。

「……」
「……」

どうやら幼馴染は本気で俺が好きらしい。

「…嫌じゃないのかよ」
「あとで消毒する」

即答された答えに噴き出しそうになる。

「…ごめん、ちょっと頭の中、整理させてもらって良いか?色々とこの10分間で起こったことが衝撃すぎて…」
「……」

困惑していると伝えると、変わらない表情の裏で少し気落ちしたような色が見えて心臓がギュッ、と締め付けられた。
聖臣のことだから内心ネガッて、やっぱ無理だろうな、とか、どうせ女子がいいんだろ…とかそんなことを考えているのかもしれない。

別に幼馴染に不安な思いをさせたいわけでもない。聖臣の顔を見てこてん、と首を傾げた。

「別に、聖臣の気持ちが分かったからって嫌な気はしてない」
「……」
「たださ〜、もうちょっと分かりやすく愛情表現してくれないと伝わってこないな、とは思ってるんだよなぁ〜」
「…調子に乗んな」

いつもの眉を寄せた表情で見下ろしてくる。

不器用オブ不器用な聖臣が暗に俺を好きだと言っている、あの聖臣が。
まさか、冷徹冷静な幼馴染がそんな感情を持っているとは驚きだし、ましてやその矛先が俺、なんて。

目が合って、笑うと聖臣はパッと目を逸らした。
そんな聖臣を見て少し可愛いと思ってしまったからやっぱり元也の言ったように俺は能天気な奴なのかもしれない。

回りくどい幼馴染の告白に、俺の中で淡い桃色の恋心が動き出したような気がした。
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