長かった1週間、やっと金曜日の放課後になった。
帰り支度をして教室から出たらこーがくんはすでにドアの近くで待っていた。
「お待たせー」
いつもより少し多い荷物を担いで一緒に階段をおり昇降口まで行く。
金曜日ということで今日は1人で暮らしいてるこーがくんにち泊まりに行く。
そのために下着とか私服とか詰めてきた。
黙って隣を歩くこーがくんを盗み見た。
黙ってればかっこいいんだけどなあ…。
いや、まあ口を開けると吠えるから厄介なだけで黙って歩いてればほんとかっこいいと思う。…まあ、平凡な俺が上から目線で言えることじゃないんだけど。
「なんだよ…。何かついてんのか?」
見つめすぎたせいかこーがくんは眉間に皺をよせていた。
「ううん、かっこいいなって思ってた。」
「っ…!!」
あからさまに向こうを向いて顔を隠しているけど耳までは隠しきれていない。真っ赤だ。
くすりと笑って荷物を持ち直した。
***
「レオン〜〜、おいでおいで」
部屋に入るとすぐにフローリングを蹴って駆けてきたレオンをもふもふした。
柔らかくて、耳元でハッハッハッ、と嬉しそうに舌を出してぺろぺろするところがたまらない。
レオンとこーがくんに続いて部屋の中に入った。
ギターや音楽雑誌や色んなものがあって、こーがくんらしいなっていう部屋。
俺の部屋とは色が違う。
「今日何のご飯?」
「ハッ、この俺様が作ってやるよ。何が食いてーんだ。」
「んー、イタリアンでよろしく。カルパッチョとピザとか」
「はぁっ?!」
「ぶふっ、うそうそ。何でもいい。何でも食べる。」
まさか俺が高度な料理を要求するとは思わなかったのかこーがくんは驚いた顔をしていた。
こうやってからかうのが面白くてついついやっちゃうのが俺の悪い癖だ。
多分こーがくんのことだから俺が帰ったあとイタリアンレシピとか調べたりするんだろう。それでうー、とかあーとか唸って結局ベッドの上で寝ちゃう。簡単に想像できた。ほんと可愛いわんこだ。
こーがくんが料理を作ってくれるあいだ俺はレオンと遊んだ。
たまにレオンがお腹の上に乗ってくることがあってくすぐったくて笑ってたらこーがくんがこっちをチラチラみてた。
構ってほしいのかムスッとしてる。それも気づいてるけど気づかないふり。わかりやすいなあ。
こーがくんの作ってくれたご飯は美味しくて、お腹いっぱい食べたあとは二人でゲームして、それぞれお風呂に入った。
あとは寝るだけだー、と思ってベッドにぼふんと突っ伏したらこーがくんの匂いがした。
「…こーがくんの匂いがする。」
「あっ?!」
顔を上げてこーがくんを見るとお風呂上がりでしゅんとした灰色の髪をタオルで拭きながら顔を赤くした。
変なこと言ったかなと思ったけど、1週間の疲れもあるし俺も眠たい。
先に寝てしまおうかと寝返りを打ったところでこーがくんはレオンが入ってこないようにベッドルームの扉を閉めた。
「おい、夜はこれからだろーがよ。」
寝ていた俺に覆いかぶさるようにこーがくんはベッドに乗ってきた。
「え…。まじ?」
「たっぷり鳴かせてやるからいい声聞かせろよ!」
おいおい、俺と同い年のはずなのにこの体力の差はなんなんだ。
尻尾がすこぐ振られてる気がする。ついでに耳も頭の上に見える気がする。
俺の首筋に顔を埋めてきたこーがくんに少し手で抵抗して声をかけた。
「待て。」
ぴたりと、止まるこーがくん。さすが、日頃の調教の賜だ!
「…1回だけね?」
「………ぅーー」
唸ってる!こーがくん唸ってる!
「だって、俺眠いもん…」
「…ちっ、仕方ねぇな。体力つけろよ!」
条件は飲まれたということで俺は抵抗をやめた。
だけども、結局待ては出来ず、1回どころか何回もしたわけだ!この駄犬は。
もはや朝に近くなるくらいずっと俺は大型わんこにのしかかられていたわけだ。
軋む体で眠りについたのは本当に朝方だった。
それから起きたのは昼前。
「……痛いんだけど。俺1回って言ったじゃん。」
「………。」
無言で顔を伏せて俺の腰に擦り寄ってくるこーがくんに俺は目を細めた。そうやったって許されると思うなよ!可愛いけど!
部屋の扉の向こうでレオンがクンクン、鳴いてるのが聞こえる。
「…はあ、レオンお腹すいてるからご飯あげないと。」
そう言ったらこーがくんは顔を上げた。満足そうな顔だった。こんにゃろー、と思いながら俺は動けないからレオンの餌はこーがくんに託した。
それから夕方までまたぐだぐだ過ごして2人でレオンの散歩に行って、帰ってきてご飯。
俺は日曜は家の用事があるから土曜日の夜には帰る予定で来ていた。
ご飯食べて少ししたら帰ろうかなあと思い少しずつ身支度を始める。
それをじっとこーがくんが見ていたのは気づかずに。
帰ったら風呂入って、マンガ読んで寝よっかなーと考えながら、よっ、と立ち上がった。
「そんじゃーそろそろ帰ろうかな。レオンーー、またなーー。」
レオンの首をムニムニと揉んで別れの挨拶をする。
こーがくんはレオンの近くに座っていて立ち上がる俺を見た。
俺はカバンを持って、じゃ、また来週ねと言おうとした。
「んじゃ、また来週ねーこーがくん、ご馳走さま」
遅いし送らないでいいからと言って玄関に向かおうとしたのに後ろからつん、と引っ張られる力がはしった。
「……?」
首だけ振り向くと、こーがくんが座ったまま手を伸ばして、俺の服の裾を握っていた。顔は下を向いててよくわからん。
こーがくんの隣でレオンがくぅーんと鳴いている。
「…こーがくん。離さないと帰れないよ?」
分かっているのか、もっとぎゅっと服を強く握ってきた。
何なんだ、それは!!
帰るなよ、ってことか?!
レオンが俺の足元に来て、くぅーんと回り始めた。帰らないで帰らないで、って聞こえる気がする。
あああ!俺の帰りを阻止するわんこが2匹!
「……レオンはちゃんと声に出して言えるのにねぇ」
そう言うとこーがくんはびくりと肩を揺らした。
「……レオンが帰んな、っつってんだよ…。」
俺の服をぎゅっと握ったままこーがくんを横を見て呟いた。
素直じゃないなあ、ほんとーに。
「ふーん。こうがくんは?別にこの手離してくれたら帰れるんだけどー…?」
さあ…どう出るかな…。
こーがくんが諦めて手を離すと考え、こーがくんの反応を待つ。
そしたらこーがくんは、目を泳がせてそれから耳を赤くしてぼそりと言った。
「…んなよ…。」
「ん?なに?」
聞こえなかったから聞き返す。
「……っ帰んなよ!泊まってけっていってんだよ!」
えーーーーー。
………ほんとーに…うちの駄犬はどこまで可愛いんでしょう…。
俺の服の裾を握りながら帰るなと乞うこーがくんが可愛くて、俺はカバンをその場に置いた。
素直になるのを待つのも悪いもんじゃないな、と。
「仕方ないなぁ。甘えたわんこのために今日泊まってあげるよ。」
レオンは俺が帰らないのがわかったのか喜んでぴょこぴょこ小さい足で走っている。
「…っ別に俺は!レオンのために!」
「じゃ、かえるね?」
「…っ!!」
ムスッとしながら俺の服を離そうとしないこーがくんに俺は笑いが漏れた。
「笑うんじゃねぇ!」
「…あははっ、」
握られた俺より大きい手に俺の手を乗せた。
「寂しがり屋さんだねー、こーがくんは。」
「…っ悪いかよ。」
そっぽ向いたこーがくんの頭にキスを落とした。
「よーし、レオン、今日は俺と一緒に寝よー」
「はっ?!」
「こーがくんはだめ。俺がよし、って言うまではだめ。」
「はぁ?!ふざけんな!」
果たしてこーがくんが孤高の気高き狼になれる日は来るんだろうかと俺はにやにや笑いながらソファに座った。
またしても可愛さにやられた休日だった。
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