ヤンデレひなた×男主
授業が終わって、合間の休み時間で俺はまた授業のように頭を捻らす。
「さあ、俺はひなた?ゆうた?どっちでしょう?」
にこにこと笑って俺の席の前で手を広げる葵くん。ひなたくんかゆうたくんかは俺にはわからない。そもそも俺はいつも2人のことを葵くんと呼んでいる。
この1年生の中にしては、イケイケな2人と平凡な俺が接するようになったのも、俺の発言がいけなかったのかもしれない。
俺は葵ゆうたくんと同じクラスだ。
少し前に葵くんと近くの席の俺は葵くんに「俺は今 ひなたかゆうた、どっちでしょう」と聞かれたことがあった。
正直、見分けはつかないし、俺は別のクラスの葵ひなたくんとは話したことがなかったし、いつもの葵くんのいつもの青色のアイテムに、俺はゆうたくんだと答えた。
「ぶっぶー、ひなたでした!」
楽しそうに笑う葵くんに、俺はハテナを浮かべた。だって、授業が始まっても終わっても、休み時間になっても葵くんはずっと俺と同じくその場にいたはずで席は外してなかった。
なんでだろうと思っていると、葵くんは「ネタばらしはね、今日は朝からゆうたくんとチェンジしてました☆」なんて言うから俺はなるほどすごいなと思った。
「ねえ、みょうじくんってみょうじなまえって言うんだ?なまえくんって呼んでいい?」
「うん。」
「じゃあ、俺のことはひなたって呼んでよ!」
「…いや、いつも葵くんって呼んでるから。」
「…それって俺とゆうたくんの見分けがつかないから?」
違うと胸を張って否定はできなかった。ただのクラスメイトだし、席が近いだけだし何となく葵ゆうたくんは辛いものが好きで、青を身につけてるっていう印象だけだ。
「俺はね、甘いものが好きで赤。それがひなただよ」
「ふうん。わかった。」
そうは言ったものの、俺はよく見分けがつかないし、いつも2人がそれぞれ入れ替わってることもあるから葵くんとずっと呼んでいる。
そしてまた今日、何回目だというほどの質問が来た。
「どっちでしょう?♪」
赤色を身につけている。ひなたくんと思わせる赤。でももしかしたら入れ替わってるかもしれない。
「…ゆうたくん。」
「ぶっぶー!違う!ひなた!」
赤色だし、甘いものもほら、こうして手に持ってるじゃん!
なんてチョコ菓子を振ってアピールしている。自慢じゃないけどこのひなたくん、ゆうたくんゲームを俺を当てたことはない。
今日もまた外してさすがにイラッとした。
「甘いものが好きって言うけど。葵くん、好きなものなのにあんまり好きって感じしないし…。分かりにくい。……ひなたくんって何が本当は好きなの?そんなんじゃ分かんないし。」
イラついたからと言って言いすぎたかなと思った。葵くんは俺が初めてこんなこと言ったからびっくりしたのか驚いている。
「…ごめん。」
咄嗟に謝った。見分けがつくようにわかりやすくしている彼らの努力を踏みにじることをしてしまったのは自覚している。そして、俺が葵くんとして二人を見て、それぞれ一人を見ようとしていないのもまた自覚している。
「本当に好きなものなんて…」
一瞬辛そうな顔をして俯いた葵くんに罪悪感が押し寄せてきた。でもすぐに笑顔になって「また次回に乞うご期待!☆」と言って教室を出ていった。
双子のお兄ちゃんって大変なのかな、なんて俺は罪悪感にまみれた心に無理やり蓋をした。
それから葵くん、葵ひなたくんは俺のところに頻繁に来るようになった。
二人が揃っていれば俺もひなたくんがひなたくんだとわかる。入れ替わっているとわからないけど。
「ねえ、なまえくん、この映画さ面白いんだって!一緒に見に行かない?」
「え、あー、いいけど…。」
「じゃ今日の放課後行こうよ!」
「うん…」
「やった!ゆうたくん、今日の手伝い代わってもらっていい?」
「えー、俺2日連続?まぁいいや。わかったよ。」
「ありがと☆」
こうして2人のやり取りを見ていると、何となくひなたくんとゆうたくんの性格や雰囲気がわかる。楽しみだね、と言って笑うひなたくんは無邪気でまるでゆうたくんの方がお兄ちゃんに見えるくらいだ。
すぐに放課後になって、俺はひなたくんと2人で歩いて繁華街に向かっていた。
映画館について、男子高校生らしく2人でわいのわいの言いながら劇場に入ってアクション映画を見た。楽しくて、俺は初めて葵くんをひなたくんだと認識できた日だった。
「ねえ、なまえくん、ひなたって呼んでくれる?」
映画が終わって近くのカフェでドリンクを買ってベンチで一息ついていたら、葵くんは俺に向かい合ってそう言った。
前も言われたことがある。名前で呼んで、と。
その時は2人を見分ける自信もなくて遠慮したけど、今なら少しわかる気がした。
返事をしようと口を開きかけた時に葵くんがこちらをじっと見て喋った。
「俺さ、なまえくんといると楽しいし、本当に自分が出せるって言うか、もっと仲良くなりたいから名前で呼んでほしいなぁって。」
少しはにかんだように笑う葵くんに俺も葵くんといて楽しいと思ったし、もっと仲良くなれたらいいなと感じた。
「…ひなたくん。」
「っ!もう1回!」
「ええ…。ひなたくん。」
「ふふっ!うん、しっくりくる!それでいこ!」
ぱぁっと笑うひなたくんはすごく嬉しそうで俺もちょっと頬が緩んだ。
***
ひなたくんといることが多くなると、必然的にゆうたくんといることも多くなる。
2人に俺が1人混ざってるような感じだ。
やっぱり2人は双子だけあって意思疎通が完璧だと思わされる時も多々ある。双子ってすごいな、なかなか友達としてはこの壁は超えられないな、なんて思うけどそれは彼らが家族だから彼らの中に入るなんて無理なことは百も承知で入ろうとも思わない。ただ楽しく友達として高校3年間やっていけたらいいなって俺は思う。
「あ、ひなたくん。」
1人でいるひなたくんに声をかけて歩み寄った。
「これ、さっき先輩からお菓子もらった。ひなたくんもどう?」
そう言って1口チョコを差し出したのに、ひなたくんは眉を下げて苦笑いした。
「あー…今、俺、ゆうた。」
「え?まじ?気づかなかった。ごめん」
まさかゆうたくんだとは思わなくて出していた1口チョコを引っ込めた。
「いいよ、俺でよかったよ。…アニキが怒るからあんまり間違えないようにね」
それは、俺が未だにひなたくんとゆうたくんの違いが分からなさすぎて怒られるってことか。
「ごめん。分かんなくて。でもゆうたくんもひなたくんも俺の中では同じ。なんか二人なのに一人と話してるような感じ」
あまりにも似てるから冗談でくすりと笑いながら話すと目の前にいるひなたくんに扮したゆうたくんは真顔になっていた。
「…あんまりそれアニキの前で言っちゃだめだよ。」
「あ、うん」
「アニキ、いつも二人で1つなんて言ってるけどさ、一人として見てもらいたいって気持ちもちゃんとあるから…とくになまえくんには…」
自分の言動が軽率だったと自覚して、項垂れた。
「ごめん…」
「あっ、気にしないで!なまえくんは何にも悪くないからっ」
俺の頭を撫でるゆうたくんにさらに申し訳なくなって俯く。
「ゆうたくん。」
「あ、アニキ。」
「何してるの。」
そこにひなたくんが来て、俺はまたいたたまれなくなった。軽率な言動で勝手に自分で2人との間に溝を作ったくせに、ひなたくんの声色がいつもより少し固くて俺はますます2人に距離を感じた。
視界に入るひなたくんは、青いものを身につけている。まるでいつものゆうたくんみたいに。分かるわけないじゃないか。だって俺はひなたくん、ゆうたくんみたいに以心伝心で全部が全部分かり合えてるわけじゃない。二人が入れ替わっていても、見分けるなんて俺にはできない。
そんな自分勝手な言い訳に俺は嫌になった。
「ごめん。部活あるから俺行くね。また明日」
そう告げて、無理やり笑ってその場から去った。
ひなたくんやゆうたくんを間違えるのが怖いと思った。間違えたら嫌われてしまうのかと思うともうひなたくん、ゆうたくんと関わらない方がいいんじゃないかって。
***
朝、教室に入って自席に向かった。
座って、勉強道具を取り出していると近くに人がトトトッと駆けてきた。
「おはよう!なまえくん!」
にこりと笑う顔に朝から元気だなあと思って挨拶を返す。
「おはよう、葵くん。」
あおいくん。
その言葉に目の前にいた葵くんは目を見開いていて笑っていた顔はどこかに行っていた。
「…なまえくん?」
「なに?」
「…葵くんって…、今日俺がどっちか分かる?分かるよね?」
なぜだか懇願するような祈るような表情で俺に問う。
青いヘッドホン、目の前にいるのはゆうたくんなのかひなたくんなのか。
「…ゆうたくん。」
「……違うよ。今日は……ひなた…だよ。」
葵くんの声が少し震えたような気がしたのは気のせいなのか。
ああ、やっぱりなと思った。俺には葵くんがどちらかなんて見分けられないんだ。間違ってしまったら、ほら今の葵くんみたいに悲しそうな顔される。それから嫌われるんだろう。見分けられない奴なんて友達じゃないって。
「…そう。でも『葵くん』なら間違いはないよね。」
自分でも最低なことを言っているのは分かる。でもどうせ嫌われるならもう俺のことなんて早く嫌いになって離れてほしいなって思ったんだ。
「……なまえくん…」
それ以上ひなたくんの悲しむ声を聞きたくなくて俺はひなたくんを見なかった。ひなたくんはパタパタと教室を出ていった。
俺にはひなたくんの友達になれる資格なんてない。これでよかったんだ…。
***
「なまえくん…。今朝はアニキがごめんね。今日ちょっといい?」
放課後になって、帰ろうとしたら葵くんから呼び止められた。アニキってことはゆうたくんなのかもしれない。
「…なに?」
「ちょっと、話があって。」
深刻そうなゆうたくんに断れずについていく。ひなたくんとのことだろうか?責められるんだろうか?悪いのは俺だし責められるのは覚悟している。どんな言われようだって受け入れようと決めた。
一室に入れられて、中を見るとそこには赤のヘッドホンをつけて立っているひなたくんがいた。カチリと鍵を閉める音が遠くに聞こえた。
「連れてきたよ…」
ゆうたくんがそっと言う。
ひなたくんが顔をあげて目が合った。いつもとは違うその瞳に少し狼狽えた。
「なまえくん…。俺がひなた、だよ。」
「…っ、」
ぺたりとゆっくりひなたくんが歩いてきた。俺より少し背が高いひなたくんは俺の目の前にくると俺をのぞき込んだ。
怖い、いつものひなたくんと違う。怖いという感情に囚われて、そばにいるゆうたくんを見たのに、ぐいと顎を掴まれて無理やりひなたくんを見る形になる。
「ゆうたくんじゃなくて、俺、ひなたを見て。」
「…っ、ひ、なたくん…どうしたの。」
怖い、なんて言えず。いつもと違う理由を聞こうとした。
「どうしたのって、なまえくんが俺を分かってくれないから…傷ついたんだよ…」
悲しそうに話すひなたくんに、ごめんと掠れた声で謝った。
「どうしたら分かってくれる…?俺がひなた、だって。」
「…ごめん」
俺にはそれしか言えなかった。それはひなたくんにとってはとても残酷なものだったのかもしれない。
ひなたくんが俺の肩を掴んだ。
「どうしたら…っ、どうしたら」
「い、痛いよ…ひなたくん…」
ぎりぎりと掴まれた肩が痛みで悲鳴をあげる。
「…ねえ、ゆうたくん。今まで我慢してきたけど、これだけは欲しいんだ…。絶対誰にも取られたくないんだ…どんな方法でも欲しいんだ…」
「ひなたくん…」
ゆうたくんの悲しそうな声が耳に入った。
「ねえ、我慢しなきゃだめ?もういいよね?もう、欲しいもの欲しいって言っていいよね?」
「ごめんね…なまえくん…。俺にとっては、唯一の兄弟で、アニキなんだ、だから俺はアニキに味方するよ…」
「な、なに、怖い…ひなたくん…」
「…なまえくんが言ったんじゃん。本当に好きなものは何か、って。答えはね、なまえくんだよ。俺が本当に好きで欲しいのはなまえくんなんだ。だからね、好きななまえくんに俺が、俺だって、ひなただって、知ってほしいわかって欲しいのは当たり前でしょう?それをなまえくんは俺がわからないって言う。葵くんって言って、俺を見ようとしない…そんななまえくんは…俺嫌なんだ…俺を見てくれるなまえくんが欲しいんだ…だからね…。どんな形でもいいから俺がひなたがなまえくんの中に残るならどんな方法でも嫌われても憎まれてもいいからなまえくんの中にいたいんだ。」
とす、と押されて狂気に染まるひなたくんを前に力が抜けた俺は簡単に倒れた。
床の上に倒れた俺に覆いかぶさるひなたくんは泣きそうな顔をしている。
「…っ本当はね、好きになってほしいんだよっ、だけどね、なまえくんの中に俺以外がいて俺がいないんじゃ嫌なんだ…っ、嫌われてもいいから…だから…俺はなまえくんを奪うよ…閉じ込めて理性がなくなるまで……」
なまえくん、なまえくん、触れられて嬉しい…、
なんて泣きそうなのにふにゃりと笑うひなたくんに俺はただただ目を見開いて見つめる。
怖くて今から何をされるかなんて想像も出来ないのに、怖いのに、痛そうに泣きそうに笑うひなたくんを恨むことなんてできそうになくて、これは最初から全部俺が悪かったんだとひなたくんにごめん、ごめんと小さく繰り返すことしかできなかった。
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