視線

(ヤンデレ泉×平凡男主)

本屋で適当に目についた雑誌を立ち読みしていると、ふと視線を感じた。

最近たまにふとした瞬間、視線を感じることがある。読んでいた雑誌から顔をあげて、周りを見渡しても、誰も俺を見ていない。

それでも誰かの目に見られているときがあって、自分が精神的に何か異常があるのだろうかと不安になるのが少し悩みだ。

日常生活でそんなにストレスを感じることはないので精神的に参ってるというわけでもないはずなのに…。

晴れない気分にやるせなくなり、手にしていた雑誌を元に戻して本屋を出た。

このまま家に帰って今日は寝ようかな。
明日からまた学校だし休みの日くらいダラダラすごしたい。とはいっても毎日ダラダラ過ごしているけど。

通っている学校が家から遠いため、一人暮らしの俺はいつもコンビニ飯だ。
帰る途中コンビニに寄り、適当なものを買って店を出た。

白いビニール袋を片手にスマホをいじりながら歩いていると、目の前の何かにぶつかってスマホが落ちてしまった。

『あ、すみません…!』

歩きスマホしてた俺が悪いのだからとっさに謝る。

「…前向いて歩きなよ。危ないでしょ」

目の前にいたのはそれはそれは綺麗な顔した人だった。あれ?この人どっかで見たことあるような…。

ふてぶてしく、でも俺から視線を外さずがっつり見てきているこの人に見覚えがある気がした。

『す、すみません…』

落ちているスマホを拾ってくれ、差し出してきた。
受け取ろうと持つも、目の前にいるこの美少年の手からスマホが離れることはなかった。

『…?』

もう1回、グッとスマホを引っ張るも手を離してくれない。

見上げて相手の顔を見ると、じっとこちらを見つめていた。

『あの…』

俺が声をかけたところでパッと手を離してくれた。

『すみませんでした。気をつけます』

何だったんだろうと思いながら、ぺこりと謝ってその場を離れた。
数十m歩いたところでやっと、違和感が拭えた。

あの人、さっき本屋で見た雑誌に乗ってた人だ。
すげえ、俺雑誌で特集されてる人に出会っちゃった。

自分がぶつかったことはさておき、俺はモデルと遭遇したという稀なことにテンションが少しあがって後ろを振り向いた。

遠く離れているが、さっきの人は俺とぶつかったところからまだ動いていなくて、彼もこちらを見ていた。

『なんか…雑誌とは感じが違うなー…』

さっきみた雑誌では微笑んで柔らかい瞳をしてた印象だったが、じっと見られるとあの瞳が少し恐怖という感覚に近いものを覚えてくる。

言うならば、俺がたまに感じるあの視線ように。

良くないことはあまり考えないようにしよう。
すぐに頭を振って、俺は家に帰るため前を向いて歩き始めた。


***


俺が近頃感じていた視線はさらに存在感を増すようになった。学校へ行く途中や帰り道、買い物してるときや、家の中でさえ。

なんでだ?こんなに視線を感じるのはなぜだ?

気持ち悪くなって、家にいるのも居心地が悪いくらいだ。誰でもいいから、お願いだからこの気持ち悪さを何とかしてほしい。

悩みに悩んだ末、友達に相談をした。

友達はその視線の原因を探るべく、家に帰るまで一日中一緒にいてくれることになった。

友達といるとあの視線を感じることはなく、楽しく放課後を過ごして家に帰ることができた。

久しぶりに気持ち悪さを感じることなく楽しく過ごせたと満足して、部屋の中に入った俺はカバンを床に起き、楽な服装に着替えた。スマホを片手にベットに寝転ぶ。

音楽でも聞こうとスマホを操作していると1件、新着メールが来ていた。

知らないメールアドレスからだ。
とりあえず中を見てみようとタッチすると、

[いつもなまえを見てるよ。俺はあいつよりなまえのこと全部知ってる。ご飯食べてるなまえも、外にいるなまえも、寝ているなまえも、全部全部いつも見てるよ]

『なんだ、これ…』

いつも監視しているとでも言うような内容にゾッとして、すぐにメールを削除した。

何かの間違いであってほしい。さっきまでリラックスしていたはずなのに一瞬で気分が悪くなり、めまいがしてくる。

深くため息が出ると、突然ピンポンとチャイムがなった。今の今、こんな気味悪いことが起きたためかなりびっくりして心拍が上がる。

自分の心臓がうるさいくらいドクドクと脈打っているのがわかる。呼吸が浅くなり、力が入らない足を無理やり立たせて、音をたてずに玄関に近づいた。

誰が来たのかと、恐る恐るドアの覗き穴に目を近づけた。

『…!!』

覗いた瞬間、ドアップでパーカーのフードをかぶった人が玄関の目の前にいた。背丈からして男と思われた。

顔がよく見えず誰か分からないが、俺は先ほどの現象から些細なことでも怖くなっていて居留守をきめることにした。

早く去ってくれ、と願っていると男はドアノブに手を伸ばした。鍵をかけているため、開くことはなかったがガチャガチャと音をたてて動くそれに俺はもう飛び上がりそうだった。

何で開けようとしてるんだ。

音を出さないためにもその場から動かずにじっとしているため、玄関のドア1枚を隔てて、男と対面していることになる。

ドアノブから手を離したのかさっきまでなっていた音もやみ、しーんと静まった。

やっと帰ったか、とほっとしていると、鍵が挿入される音がした。

鍵と鍵穴が擦れる音が聞こえて、何が起こっているのか分からなくなった。閉めていたはずの鍵が目の前でゆっくりと周り、カチャリと施錠が解除された。

何で、鍵が外側から開くんだ…?有り得ない出来事に頭の中が真っ白になった。

ドアノブがゆっくりと回り、開いてほしくないドアが静かに動いた。

早く行動しないと。逃げるか、隠れるか、相手を攻撃するか、頭の中で考えるが軽くパニック状態になっていた俺の頭ではどうすることもできず、目の前の男を見ることしかできなかった。

『あ…』

フードから見えた顔に見覚えがあった。

青い目、フードからちらりと見える銀髪、そして整った顔、以前ぶつかったモデルの人だ。

確か名前は…

『せ、瀬名、泉…?』

なんでこんな人が俺の部屋の前にいるんだ?

口から出た言葉に目の前の男は綺麗に口角をあげた。まるで笑顔のお手本のように綺麗に笑っている。

「迎えに来たよ、なまえ」

どういう意味なのか困惑している間に、玄関へ入り込んできて後退りする俺に手を伸ばしてきた。

払おうと手を振ったが、その手さえパシリと掴まれてしまい引き寄せられた。

『なっ…』

想像した以上に強い力で引っ張られ、口を布で覆われた。

遠のく意識の中で、なんで?という疑問だけが頭の中で渦巻く。ぼやける視界には見とれているかのようにうっそりとした眼差しで体勢を崩した俺を抱きとめる瀬名泉がうつっていた。


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