(瀬名泉×ストーカー男主)

あああ、今日も瀬名くんかっこいい。

廊下を歩く瀬名泉くんを目撃してすぐさまポケットに手を入れた。

スマホをさりげなく向けて、シャッターボタンを押す。もちろん無音アプリをつかっているため音は出ない。
撮った写真を確認して顔がニヤけそうになるが、必死でこらえる。

うん、今日の写真もなかなかいい。

俺の瀬名くんフォルダはすでにパンパン状態だけどそんなことをお構い無しに瀬名くんを見かけたらシャッターを押すことが日常になっている。

俺がこの学院に入ったのも、すべてはそう、瀬名くんを拝むためだ。雑誌で見た瀬名くんに一目惚れして追っかけの如く入学したのだ。

そこだけは男でよかったと心の底から思ったのが懐かしい。まあ、そんなメリットも転校生が来てから変わったけど。

そんな俺は瀬名くんとはほとんど話したことがない。入学してから3年、全く接点がないのだから仕方がない。

俺は人気ユニットに所属してるわけでもないし、瀬名くんの追っかけで入っただけなので才能もとりえもない。日々瀬名くんが見られたらそれだけで満足なのだ。

そんな思いも3年になった今、欲が大きくなっていた。今はまだ学校という接点があるが、今後卒業したら確実に瀬名くんと会えなくなってしまうだろう。いずれそうなるならば、今のうちに少し調子に乗って欲に素直に従ってもいいんじゃないか。そう思えてきてしまっている。

日々エスカレートする瀬名くんへの気持ちに惑わされながらストーカー気味な行為をしている。

撮った写真を見て、手に入れられない遠い存在を見るだけで幸せだと自分に言い聞かせていると、転校生に手を引かれて歩く瀬名くんが目に入った。

(はああ、いいなあ、いいなあ。3年間同じ学校に通ってるけど手を繋いだこともなければ、目も合ったこともないのに…。いいなあ、転校生はここに来て数ヶ月であんなに瀬名くんの近くにいる。)

転校生に手を引っ張られるがまま、ついていく瀬名くん達を俺も後ろから気づかれないように追う。

行き着いた先は保健室だった。
確かに瀬名くんは最近少し疲れているような顔をしていた。

そこに気づくとは…。転校生やるな…。ていうか、完敗です。お手上げです。だって俺は瀬名くんの手を引っ張って保健室に連れていくことなんてできない。

自分と転校生を比較して落ち込みながら保健室に入っていく2人を廊下の端から見つめた。

しばらくたつと、転校生だけが保健室から出てきた。ということは瀬名くんは休んでいるんだろうか。

不謹慎だが、今、保健室に入れば寝ている瀬名くんを見れるかもしれない。

万が一見つかってしまった時は、頭が痛くて休みにきたとか、適当な嘘でもつこう。

そっと保健室のドアに手をかけて、静かに入る。
ベッドのそばにいくとカーテンがひかれていた。

カーテンを開けば、そこで瀬名くんがいる…。喉がゴクリとなった。
震える手をカーテンに近づけ、そろりと動かしカーテンの間の小さな隙間から中を覗いた。

カーテンの隙間から見えたのは、瀬名くんの寝顔だった。

瀬名くんの寝顔を見たのは人生で初めてで自分がみるみる興奮状態になっていくのがわかった。

もっと近くでみたい、じっくり眺めたい。

他人には絶対に教えられないような欲が出てくる。少しだけならバレないかな…。瀬名くんも安心したように寝ているし大丈夫かもしれない。

近くで見たいという欲に勝てず、カーテンを開けて中に入った。
息をするだけで起きてしまわないか不安で、息を潜めて一歩一歩近づく。

そばに立ち、目を閉じた瀬名くんの顔を見る。

ほう…と少し息が漏れてしまったかもしれない。それでも、そのくらい綺麗で、かっこよくて、1言じゃ言い表せないくらい感動した。

(すごい…あの瀬名くんがこんなに近距離にいる…)

瀬名くんとこんなに近づいたことなんてなくて、この状況に夢なんじゃないかと信じられないほど興奮していた。

だから俺は瀬名くんの目が開いてこちらを見ているなんて、気づいていなかった。

「何してるの。」

ふと聞き覚えのある声が聞こえてどこから発せられたものか分からなかった。

瀬名くんを見ると、目を閉じていた瀬名くんではなく、今は目を開けて、青い瞳がこちらを見ている。

ばっちり目が合って、俺は頭が真っ白になった。息も止まった。

まさかの出来事に完全に思考停止だ。

『っ!!!』

言葉も出ないほどびっくりして体がかたまる。

「はぁ、何してるのか聞いてるんだけどお」

何してる、って瀬名くんの寝顔見たいがために忍び込みました、なんて言ったら俺は即座に変態認定されてしまうだろう。

頭が痛くて保健室来ましたなんて理由はカーテンの中に入っている理由にもならないし何も言えず俺は口を開いたきり、言葉が出なかった。

『…っ、ご、ごめ…!』

とにかくここから去るのが得策だ、と後ずさりしようとしたのだけど、瀬名くんの手が俺を掴んで動けなくなった。

「ねえ、俺が気づかないとでも思ったあ?ずっと付きまとわれちゃ気づくに決まってるでしょ?」

何を言ってるんだ瀬名くんは。とにかく焦っている俺は思考が追いつかない。脳内はパニックだ!

というか、いつも見ているのがバレていた?!ああ、どうしようもう俺明日から学校来れない!

『あ、…』

悲観した考えがどんどん頭の中をしめて、涙さえ出そうになる。瀬名くんに変態と思われてる…、絶対気持ち悪いと思われてる…。

じわりと視界が歪むのは自分の涙が目を覆ったせいだ。

『ご、ごめんなさい…』

胸のあたりがきりきり痛い。

「で、やっと近づく気になったってわけえ?」

『ごめんなさい、ごめんなさい、もう、もう、見ないから…ごめんなさい…』

俺は謝ることしかできなくて俯いて瀬名くんに掴まれた腕を見る。

こんな最悪な逆境でも、少しだけ瀬名くんに触れられて嬉しいと思う現金な自分がいて嫌になった。

「…、ていうか遅すぎなんだけどぉ。いつになったら、話しかけてくるかと思えば…3年かかってこの有様って。」

ため息をつきながら首を降る瀬名くんの言ってる意味が分からない。

「影から見られるのはもう充分なんだけど。」

そりゃそうだ人気モデルの瀬名くんはファンがたくさんいて、色んな視線があるはずだ。
俺もその1人だったんだろう。

『き、気持ち悪いよね…もうしないから…』

「はぁ、頭使いなよ。もっと近づきたいとか思わないの?俺がこの手離していいのお?」

ベッドにいるため自然と上目遣いになる瀬名くん。
そりゃ手を離してほしくなんてない。
だって触れられてる俺は心底嬉しがっているんだから。

『…き、気持ち悪いだろうから離していいよ…』

自分が言ってることにぐさりと傷つきながらやんわり瀬名くんの手を離そうとする。

「嘘。早く本当のこと言いなよ。俺がどんだけ待ってあげたと思ってるの?俺もそこまで気が長くないんだけどぉ」

さらに強く握った瀬名くんに俺は涙が引っ込んだ。

それって、それって、期待していいんですか?
瀬名くんが肯定してくれてるってことでいいんですか?

俺は馬鹿だから正直に真に受けちゃうよ?
いいんですか?

ゴクリと喉を鳴らして、

『離さないで』

というまであと3秒。

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