※ストーカーは犯罪です。
【 ストーカーから昇格】の続き。
待ちに待った1週間に1回の特別な日。
俺の宝物が増える日がやってきた。
朝の人がいない時間帯を狙って、向かうところは一つ。たどり着いて数ある袋の中から一つ、取り出す。
持ち上げて、頬が緩むのがわかった。
(ああ…、瀬名くんのゴミ…)
感極まるのはまだ早い。周りに人がいないかを確認して、少し袋の縛り口を緩めた。
袋の中に手を入れる。ガサゴソと手に当たったものを適当に取り出す。
(スプーンだ!!ぁあ!これが瀬名くんの口に触れたスプーンだ!!)
大事にしようと持参したポリ袋に入れようとした。
「何してんのぉ?」
低く冷たい声が後ろから聞こえた。
びっくりして振り返るとそこにはいつも追いかけている俺の憧れの瀬名くんがいた。
「あっ…、お、おはよう…!」
「…何してんのかって聞いてんの」
俺の挨拶を無視して瀬名くんは腕組みして立っている。あぁ今日もスタイル抜群セットも抜群、制服の着こなしも抜群、完璧最高瀬名くんをこんな間近で見られてありがとう、神様ありがとう!
「聞いてんの?今すぐその頭叩き割ってあげようかぁ?」
「うぇっ?!…あ、や、こ、これは…。その…ゴミが荒れてたから…片付けようと…」
しどろもどろに言い訳をした。まさか、瀬名くんのゴミを目的に来ましたなんて言えない。
「むしろあんたが荒らしてるんでしょ。で、その手に持ってるものはなに?」
「え、えと…これは…リサイクルしようと思って…環境に優しい行動を目指して…えと…」
ああ、朝から瀬名くんと話せるなんて倒れそうだ。幸せすぎるけど今だけはいつもみたいに俺をスルーしてほしい。
俺はこのスプーンがどうしても欲しいんだ…!
「はぁ?バカなのぉ?そんなゴミ汚いから。」
「き、汚くないよ…!帰って洗って綺麗にしてから…それから…俺も使うんだ…。同じものを…俺の口の中にいれて…、同じものを…はぁはぁ」
「キモちわる!やめてよねぇ!」
「ご、ごめん…気持ち悪いよね…ごめん…俺気持ち悪いから…ごめん…早く瀬名くんの視界からいなくなるね…」
「ちょっと。スプーンを確実に持ち帰ろうとしてるのバレバレなんだけど」
瀬名くんに背中を向けて去ろうとしたのに、俺のショルダーバッグを瀬名くんがぐいっと引っ張ったから、ぐえっと引っ張られた。
「こ、これ…俺の宝物…」
スプーンをぎゅっと握りしめて、いやいやと離さないようにしていると上からため息が降ってきた。
「はぁ…そんなもの集めるよりもっと他のことに労力使ったらぁ?」
「…俺はこれで充分だから…」
瀬名くんのスプーンを撫でて はぁと吐息が漏れた。瀬名くんに近づくこともできない俺はこうして瀬名くんのものに触れるだけで、瀬名くんの写真を日々撮るだけで幸せなのだ。
もちろんこうして近くにいることのほうが何倍も幸せだけど、釣り合わない俺はこれが合ってると思うんだ。
「一緒に帰りたいとか、登校したいとか、話したいとかさぁ、ないの?」
「えっ…」
「言ってみないと分からないかもよぉ?」
「い、一緒に登校してくれるの…?」
「しないけど。」
バッサリ切られてショックでスプーンを落としそうになった。
「ひ、ひどい…」
期待して損した。ひどすぎる瀬名くんに涙が出そうになった。でも、そんな瀬名くんもかっこよくて何かお腹のあたりがじくじくする。
「はぁはぁしてるような変態と一緒に登校なんてしたくないんだけどぉ」
「せ、瀬名くんだって遊木くんにはぁはぁしてるじゃん…」
「俺となまえを一緒にしないでくれる〜?」
「へっ…?」
い、いま俺のこと名前で呼んだ…?
呼んだ…?呼んだよね…?
あああ!なんでこんな時に限って録音してないんだ俺!
震える声で確認した。
「せ、せな、くん…今なまえ…」
「何?」
「あぁ、ぅ…な、なまえ…」
もはや なまえ という単語しか連呼できないくらいに感極まってしまった。
「も、もう1回なまえを…録音スタートしたから…」
「…ばっかじゃないの!そんな簡単に言わないからぁ!」
「うぅ…耳が…俺の耳が幻聴だったのかな…瀬名くんの声で俺の名前が呼ばれたのは幻聴…?俺の妄想…?ついに俺は音まで妄想できるようになったのかな…」
ぶつぶつ俺の独り言が垂れ流れていると瀬名くんは呆れたようにため息を吐いた。
「…名前で呼ばれたかったら今すぐそのスブーンを戻して今後一切ゴミを漁らないでよねぇ。俺もう先行くから。」
「ま、待って…!お、俺も行く…!いく…!」
瀬名くんに一緒に行っていいと言われていないけど、縺れるように後を追いかけた。
もちろんスプーンはちゃんと袋に入れて。
あとでそれが見つかって今度はほっぺたをぎゅうううと握られてすごく痛かった。
でもそんな瀬名くんもかっこよくて、触れられたことで最高潮だった。
ああ、今日も瀬名くんかっこいい。
うっとりしているとまた瀬名くんに暴言を吐かれた。
でもそれもまた素敵で俺はお腹がじわりと暖かくなったという日常のお話。
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