恋だった
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『別に先輩とどうこうなりたいってわけじゃないんだけどさ…』

ガーデンテラスの1角でいちごパフェをつつきながら、向かいに座っている嵐に話すと盛大にため息をつかれた。

「男らしくないわねぇ、当たって砕ける覚悟じゃないと駄目よぉ?」

『俺そんな男らしくないもん…』

「あらあら、拗ねた顔もかわいいけどねぇ、ってちょっとぉ!アタシのイチゴ!」

『へへー、もーらいっ』

「もうっ、あ…噂をすれば泉ちゃんじゃない♪」

『えっ!』

嵐の視線をたどれば、こちらへ向かってくる瀬名先輩が視界に入った。

あくまで視界に入っただけであって、瀬名先輩の目を見ることはない。絶対にない。だって俺は瀬名先輩の目を見ることすらできないのだから。

「いらっしゃい、泉ちゃん♪」

「また甘い物?そんなのばっか食べてると太るよぉ?」

「あら、私はいつも自己管理してるから大丈夫よっ。今日はなまえちゃんとだから特別なの」

えっ!?嵐!余計なこと言うなよおおお!
必死で空気と化して、パフェをガン見しながら黙々と食べてたのに!

少し咳き込んでしまった俺はいたたまれなくなって更に視線が下にさがる。

「ふーん。」

ほらほら…瀬名先輩だってどうでもいいって感じじゃないか…。

「はい、これぇ。転校生からなるくんに。忙しくて渡せないといけないからってさ。俺を使うとかありえないんだけどねぇ」

「ふふっ、そう言って届けてくれる泉ちゃんってやっぱり優しいわねぇ」

「当たり前でしょ。俺は優しいの。てかさあ、そこのアンタ。先輩がきてるのに挨拶くらいできないわけぇ?」

えっ、もしかしなくても俺か…?
どうしよう。焦って嵐を見るもにこにこと綺麗に笑ってるだけで何の手助けもしてくれそうにない。

ここは…言われたとおり挨拶しとけばいいのか…

『こ、こんにちは…』

「目ぐらい合わせるのが常識じゃない〜?」

えええ、目を合わせる?!難易度高いですよ先輩!
まず俺は1度たりとも先輩と目を合わせたことすらないんだけど…

このままだと先輩の機嫌を損ねそうなので意を決して視線を上げる。

瀬名先輩の形のいい唇、シャープな輪郭、綺麗な肌、それからさらに上を見ると真っ青な瞳に吸い込まれたような感覚に陥る。

こんな近い距離であの瀬名先輩を見上げることになるとは思いもしなかった。

俺を見下ろす瀬名先輩にクラクラしそうになる。うまく舌が回りそうにない。

『こ、こん、にちは…』

「はい、こんにちは〜。アンタもユニットの先輩が卒業して1人になったからってパフェばっか食べてると体型崩すよぉ?アイドル科の生徒ならきちんとしなよねぇ」

『えっ…は、はい…』

「じゃ、用はすんだからぁ」

そう言ってスタスタと去っていった先輩にもう俺は何から考えればいいのかわからなくなった。

『あ、嵐…、嵐…!せ、瀬名先輩…俺のこと知ってた…?!ユ、ユニットのことも…!』

「そうみたいねぇ、まあなまえちゃんのユニットも結構人気あったし知ってて普通じゃないかしらぁ?」

『いや、俺は憧れの先輩たちの後ろで影みたいな存在だったから…し、知ってたのかな…どうしよう…嬉しすぎて死にそう…』

「うふふ、なまえちゃん完全に恋する子の顔になってるわよぉ♪」

『はっ?!違う違う!俺のこれは憧れてる瀬名先輩と目が合ったから、俺のこと知ってたから、ってわけで!恋とかじゃ…』

「恋、よぉ。確実にね」

『ち、違…。恋じゃ…ない…はず…』

「はいはい、そんな涙ぐんだ目で顔真っ赤にされて言われても説得力ないわよぉ。むしろ泉ちゃんに見せてあげたいくらい♪」

涼しい顔で仕返しと言わんばかりに俺のイチゴをペロッと食べた嵐を睨んでみるものの全く効果はないみたいだった。

『だから、どうこうなりたいってわけじゃなくて…ただ…憧れてるだけ…』

言い訳がましく聞こえるだろうけど、そう言わないと自分の胸の奥に潜む気持ちに気づいてしまいそうで。

火照った頬を手のひらで抑えながら、先ほどの忘れられない瀬名先輩の瞳を思い出していた。

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