微ヤンデレ?奏汰×泣き虫男主
昔からあいつは泣き虫だと後ろ指を指されて生きてきた。
からかわれたら泣く、転けたら泣く、先生に当てられたら分からなくて泣く、動物の死骸を見たら泣く、テストの点が悪かったら泣く、
どんな時でも感情が高ぶると一気に涙腺崩壊する己の体質と性格をどれほど恨んだか。
泣くな泣くな!と思えば思うほど涙は溢れてきてまた周りからからかわれてばかりだった。
「なまえ、おうちにかえるまでがまん」
俺より少し背が高かった奏汰はえぐえぐと泣きじゃくる俺の頭を撫でながらいつもどうにか泣き止ませようとしてくれた。
その結果、高校生になった今では人前で泣かないようにはなった。
1人の時はまだ泣きぐせは治ってないけど…。
でもこうしてやっぱり泣き虫なところはまだ健在なようで…。
「だからぁ、そういうところがお子ちゃますぎてなまえくんはいつまでも童貞なんでしょ?」
「う、うるさい!」
「ほーら、目がうるうるになってる。」
「うるさい年中発情期のチャラ男が!」
「はぁぁ?童貞チェリーボーイに言われたくないんだけど」
羽風が怒ったように俺の頬をぐいぐい引っ張ってきた。
「はなせ!痛いだろ!」
「この涙は痛みから?それとも童貞が図星で悔しくて、からかなぁ〜??」
「うるさいうるさい!」
どうせ平均身長もないような平凡な特徴もない俺が誰とも付き合ったことがないからって、羽風にそれを笑われるのは悔しくて鼻がツーンとしてきて目に潤いが増した。
「かおる、なまえをなかせないでくださいね」
こぼれ落ちないように必死で上を向いていると奏汰が羽風と俺を離してくれた。
「ほら、なまえもがまん。がまん。ですよ」
「な、いてない!泣いてない…!」
ギリッと歯を噛んで食いしばって目を瞑った。
「いいこ。なみだはこぼしちゃだめですよ。なくのはいえにかえってから…。」
こうやって奏汰はずっと俺の泣き虫ぐせを見てきている。だから俺が泣かないように泣くな泣くなと言ってくるけど、その優しさがまた俺を泣かせてしまいそうになる。
海洋生物部の部室を出ていく羽風にあっかんべーをしてせめてもの恨みを晴らした。
「なまえがないていいのはぼくのまえだけ。」
そう言って俺の目尻を拭う奏汰にこくりと頷いた。俺はできれば奏汰の前でも泣きたくない。だってかっこ悪いじゃん
***
だから泣かないって決めてるのについ泣いてしまうのはやっぱり俺が泣き虫だからかもしれない。
その日は成績が悪くて、1人で座り込んで落ち込んでいた。
他の人は良い成績で、俺は悲しくなって教室にいられなくて1人になれる場所に来た。
俺だって頑張ったのに。
俺だって頑張ったのになんで俺は成績が悪いんだ。
自分の努力が報われなかったことに対して悔しさと情けなさから、今は1人だし、と涙腺が緩んでしまった。
ずず、と鼻水を啜りながらぼーっとしていると足音が隣に聞こえた。
「なまえ?」
隣には大男がたっていた。
まあ…、斑だけど。俺の泣き虫を知る人間。
奏汰ほど一緒に長く付き合ってるわけじゃないけど斑とも小さい時はたまに遊んでいた。
「また泣いてるのか!」
「泣いてない。」
「ふふっ、その目に輝るものは何なんだろうなあ!」
「汗だっ…」
「まあまあ、何か嫌なことがあったんだろう?話してもいいし、話したくなかったら話さなくてもいい、ママの胸で泣きなさい!」
ぐいっと引っ張られて斑の胸に飛び込むかたちになった。ぎゅっと抱きしめられて、斑の体温が俺に伝わってくる。
「ほら、誰もなまえの顔は見えないからな」
とんとん、とまるで赤ちゃんを寝かしつけるみたいに背中を優しく叩く斑の包容力に俺はまたじわりと涙が溢れてきた。
人前じゃ泣かない、って決めたのに…。
ママというよりはまるでお父さんみたいな温かさに俺は嫌なことも含めて甘えるみたいにえぐえぐ泣き始めた。
斑の服をぎゅう、と握りしめて頭を押し付けるみたいに泣いていると急に力強く俺は斑とは反対方向に引っ張られた。
「…か、なた…?」
「おっと、奏汰さん」
斑がまるで降参しましたというように両手を上げている。奏汰の背中に隠されるように手を引っ張られたため、奏汰の顔は見えない。けど何だかいい雰囲気じゃないのは伝わってきた。
「そんな殺気だった目で見るなんてひどいなぁ!」
「…なまえにさわらないでください」
「なまえが泣いていたら胸を貸さないわけにはいかないと思ってね!」
「そのむねをかりるひつようはいっさいないです。なまえにはぼくがいるのでひつようないです」
「か、かなた…。」
大丈夫かと奏汰を見やると、奏汰は俺をちらりと見てそれから斑を見て、「なまえはかいしゅうします」と言って、俺の腕を引っ張った。
いつもは優しいその手が、今は俺を力強く引っ張っていて痛いくらいだ。
「いきましょう。」
とぐいぐい引っ張られて海洋生物部の部屋に連れてこられていた。
何だか奏汰の機嫌は悪いみたいで俺は涙も引っ込んでいた。
「奏汰、大丈夫か…?」
こんなに機嫌が悪い奏汰は初めてかもしれない。すると奏汰は不機嫌さを隠すことなく俺を見下ろした。
「なまえもなまえですよ…。あんなやつのまえでなくなんて…」
「…ごめん…」
俺の何が悪いかわからないけど、とにかくここは謝っておいたいい気がした。
「そのなみだはぼくのまえだけでいいんです。ぼくいがいにみせちゃだめ。」
俺だって泣きたくて泣いてるわけじゃない。制御がきかないんだ。
「…俺は泣きたくない。もう泣き虫でいたくないっ…」
「…むりしないで。ぼくのまえではなきむしでいいから。」
「…恥ずかしいから嫌だ。」
「ぼくはずっとずっとむかしからそんななまえをみてるから、はずかしくないです。だからぼくのまえだけ。わかりました?」
やくそく、とぎゅっと奏汰から抱きしめられた。
「わかった…。」
「やくそくやぶったら、もうだれにもみられないようにとじこめますよ…」
ゆびきりげんまんしましょう、と小指を差し出した奏汰の目は薄暗いこの部屋の中で水槽のライトを反射してキラキラしていた。
冗談なのに、くすりと笑う奏汰。
輝いているのに、どことなく仄かなその目は冗談が冗談でないような感じがして、怖くて俺はまた涙で視界がぼやけた。
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