正直に言おう。俺は男が好きだ。
それも相手は可能性なんて0に等しい女好きの羽風先輩…。
かなり不毛な恋をしているのは百も承知。でも、これはやめられない。
だって、羽風先輩、普通にかっこいい。
一目惚れして、わざわざ同じ学校に入ってまで追いかけてきた人。おかげで羽風先輩に名前で呼んでもらえて、構ってもらえるほどの位置にはつけた。
だけど…この状況はやっぱこたえるんだよなあ…。
「ねえタンポポちゃん♪ガーデンテラスでお茶でもしない?」
俺とお茶しましょうよ先輩。
「あ、そんな嫌な顔しないでよ〜」
俺はそんな嫌そうな顔しませんよ!むしろ喜んで付き合うんですけど!
転校生に拒否され残念そうな羽風先輩は俺を見て「うーん、なまえがいるからかな?」と俺を原因にしてきた。
『ええっ!?俺のせいですか?!』
「なまえがいるせいでむさ苦しいからじゃない?」
『えー…』
そんなに言われると傷つくんですけど…。
まあ、それが羽風先輩の通常運転だから仕方ない。そんな羽風先輩を含めても好きだ…!
「はあー、仕方ないから、優しい俺がなまえに奢ってあげよう」
『え、まじっすか。』
「本当は転校生ちゃんに買ってあげたかったんだけどさあ」
うう、そんな本音を聞かされたらグサッとくるが羽風先輩とお茶できるだけで嬉しい。
最近新しく出たスイーツを買ってもらってテラス席についた。羽風先輩はコーヒーとサンドイッチだ。
「なまえって甘い物好きだね」
『まあ、美味しいですからね』
好きな甘いものを前に一口一口頬張っていると羽風先輩が「一口ちょーだい。」と言ってきた。
『…え?』
俺は自分の耳を疑った。あの羽風先輩が可愛くもない、男の俺に、一口ちょーだい、だと?
『えっと…』
すくって口に入れようとしていた手の動きを止めて、口を開けたままポカーンとしている俺に羽風先輩は俺の手を掴んで、そのまま自分の口元へと移動させ、俺の持っているスプーンからそのままパクリと食べた。
「うん、甘い。」
…うおおお!これは夢か…?!あの羽風先輩が関節キス…?!
目の前でおきたことが信じられず俺はただただびっくりすることしかできない。
『羽風先輩…、大丈夫なんですか…?』
「何が?あ、なまえやだった?」
嫌なわけないじゃないですか…!むしろ神様に全力で感謝しまくりたいし、生きててよかった、神様まじでありがとうって何回も心の中で連呼してます、ええ。
俺は必死で顔に出さないように堪えてるだけで内心、感極まってる。
『い、いや…』
いやではないです、なんて言えるわけない。
そんなこと言った日には羽風先輩からガン無視されるかもしれないし、気持ち悪いから近寄るなとか、言われてしまうかもしれない。
この状況に嬉しいような悲しいような複雑な思いだ。
「嬉しくないんだ?」
『はっ?嬉しい…?!んなわけ…』
「ははっ、嘘つき。なまえのその俺が好きすぎて困ってるような顔。」
『は…?』
「俺のこと好きでしょ?俺が気づかないわけないじゃん?恋愛については結構自信あるし♪」
『な、何言って…』
やばい。なにこれ。まさか羽風先輩の口からこんなにボロボロとネタばらしのように自分が必死で隠してきたものが晒されるとは思ってなかった。
やばいぞ。バレてる。てか、いつからバレてたんだ。どうしよう、もう羽風先輩に嫌われたかもしれない。明日から羽風先輩から無視される生活になるのか…?
不安になってしまい、目の前の羽風先輩を見ることが出来ない。甘いはずのスイーツも味が分からないほど動揺してる。
「…ね、そんな顔しないでさ。悪くいえば男嫌いな俺がさ、なまえと一緒にいるのはなんでだと思う?」
『…わかりません。』
「鈍いなあ。転校生ちゃん並に。」
『俺のこと…気持ち悪いって思うなら、そう言ってください…。』
そんなこと言われたら死ぬほど辛いけど。そう言ってくれたら俺は潔く退けると思うから。
「ごめんごめん、意地悪しちゃった。女の子じゃないし、女子並の顔かってわけでもないんだけどねぇ」
頬杖をついて俺の顔を見る羽風先輩に、憧れの先輩から見つめられているということに対して恥ずかしくなって俯いてしまう。
「でも、なんだろ。嫌いかって言われるとそうじゃないんだよね。」
『生殺しだ…。』
そんなまだ期待できる余地がある、みたいな言い方するなんて、なんて罪深い人なんだ羽風先輩は。
艶のある金髪の髪が風に揺れて、前髪なら羽風先輩の楽しんでるような目元が見えて、ああ、やっぱり羽風先輩はかっこいいなあと見惚れてしまった。
「直球な言葉が欲しい?」
『…。』
「欲しいなら、なまえの気持ちを教えてくれたら、きっと良い返事をしてあげられると思うんだけど♪」
ああ、なんでこんな事になってしまったんだ。
なんだこれ、わけわかんねえ。羽風先輩の言う事が理解できても俺の口から羽風先輩への気持ちなんて言えるわけがない。口が避けても言えない。
ずっと胸に隠してたこの気持ちを伝えたら崩れてしまいそうで言えない。それなのに俺が喋るのを楽しそうに待つ羽風先輩が少し恨めしい。
別に周りには生徒もいないし、テラスも人が少ないからここで何かを喋ったって問題になるわけじゃないけど、それでも俺は口を開くことができずにただ下唇を噛んで食べかけのスイーツを見つめることしかできない。
息苦しいし、考えすぎて頭は破裂しそうだし、時が止まったみたいにこの瞬間が長く感じられる。
噛みすぎていたのか、羽風先輩の指が唇に触れた。
「はは、強情だなあ。唇、血出るから。」
触れられたところが熱くてじんじんする。
「俺に言わせるとか、なまえも駆け引き上手だったりして〜?…なまえ。」
『は、い…。』
「こっち見て。」
目の前に座っているずっと恋焦がれて憧れてきた人を見る。モテモテで、女の子が絶えない人。でも、俺のことちゃんと可愛がってくれる人。からかってくるけど、ちゃんと優しい人。男なんて全く興味が無さそうなのに、俺と話してくれて一緒にいてくれる人。
この人のこと、俺は本当に好きなんだ。かっこよくて惚れてるんだ。
「俺さ、なまえのこと好きだよ。」
羽風先輩の口から発せられたそれに、心臓が止まったかと思った。耳で音を拾って、頭で理解した瞬間、心臓が全力で血液を送り出そうとドクドクと動きが早くなって少し息苦しい。
これが夢ならどうか冷めないでください。これが夢ならずっとこのままでいさせてください神様。
うまく呼吸できずに息が止まっていたせいなのか、嬉しすぎるせいなのか、少し目が潤った。
「あー、涙溜まってるじゃん。で、返事は?」
返事は、って聞く必要ないじゃないですか。だって羽風先輩、俺の気持ち知ってるんでしょ。ずっと前から気づいてたのに俺と過ごしてくれてたんでしょ。それで、そんな嬉しいこと言ってくれるんでしょ。俺の返事なんて決まってる。
『……も、心臓、止まりそう…です…。』
「あははっ!なまえにしては上出来かな♪」
女の子に見せる笑顔よりも、甘い微笑みに心臓どころか思考回路まで止まりそうになる。
今まで俺が見てきた中で、1番のとびきり甘い笑顔だった。
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