普通ってなんだと考えたことがあった。

小さな頃、男が女を好きになって、女が男を好きになるのが「普通」なんだと信じてやまなかった。

小学生の時、高学年のある1人の男の子にドキドキしたことがあった。その時は、ただの憧れのようなものだと思っていた。

それなのに、中学になってもそれはあった。胸が高鳴ってその人のことばかり考えてしまう。それが恋だと言うことに気づくのにさほど時間はかからなかった。

男なのに男が好きな自分は「普通」じゃないのかと怖くなった。皆、好きな女子の話や好きな体型、胸の大きさそんな話をしている中で俺一人だけ、心の中でそんなことには全く興味がなかった。

俺は「普通」じゃないんだ。

それから俺は上辺だけの相槌をうちながら周りに同調して過ごしていた。




「なまえくん〜今日も寄ってく?」

「薫ー遅い。行く行くー」

「俺こないだあそこで可愛い子見つけちゃってさぁ♪今日もいたら声かけちゃおうかなーって思ってる」

「へー、薫ならその場ですぐ声かけそうなのに」

「それがさ、その時別の子から絡まれてたからさぁ」

「はいはいモテモテですねー。」

甘い香りがして教室で待っていた俺のところに薫が来た。

高い背丈に長い襟足、 明るい髪色は光に反射して時々煌めく。その整った容姿を活かして女の子を虜にしていくのを楽しんでいる薫に俺は随分と前から女の子たちと同じように虜になっていた。

幼い頃に感じたあのドキドキと同じものを薫に感じている。そんなこと本人には口が裂けても言えないことなのだけれど。

「そう言ってなまえくんだって、この間女の子と連絡先交換してたよね?」

「あー名前忘れたけど。」

「ひど!それは俺のポリシーに反するなぁ。女の子たちは皆愛してあげないとね〜」

だって俺には女の子の連絡先も、顔も胸も声も興味ないんだよ。俺が薫と一緒に遊びに行くのだって、薫の近くにいたいから。たったそれだけの理由。

薫に声をかけられて顔を赤らめる女の子たちを隣でどれほど見てきたか。

女の子の立場になれたらどれほど幸せなのか考えなかった日はない。

俺も薫に口説かれたい、笑いながら手を握られたい、デートしたい、そんな不純な動機で今まで薫の隣にいたのだ。

薫と同じく女の子が好きだと公言してまで手に入れた立ち位置。気が合うね、と薫の隣にいられるようになった。薫の近くにいる深海や朔間さんみたいに派手じゃない普通の容姿の俺にはそうやって自分を偽らないと薫のそばにいられない。

自分の想いを、願いを口にすることは絶対にない。
言ってしまったら、気持ち悪いと軽蔑の目で見られるだろう。だって薫は男になんてさらさら興味はないから。




「はぁー明日からイベントに向けて練習とかあるしダルい」

隣で歩く薫を見上げた。いつ見てもその整った顔を見る度にドキドキしてしまう。

「ふーんそっか。じゃあしばらく遊べないなー」

「なまえくんは出ないの?」

「まさか。大人気のUNDEADと違って形だけの幽霊ユニットだし誰も活動してないし。まじで不真面目な。」

「俺も気分で動いてるけどなまえくんの自由さには負けるね」

「はは、人間関係が狭いだけ。だからいつもすることなくて暇なの。」

俺は真面目に活動してないし、容姿も整ってないし、薫の周りにいる容姿端麗で才能があって有名で人気なユニットにいる人たちとは違う。
たまにこんな不釣り合いな俺が薫の隣にいていいんだろうかと自問自答することもある。
その度に薫に口説かれる女の子を見て辛い思いをしようが、不釣り合いだと見られようが、薫のそばにいることを望んでしまう自分がいた。

「あっ、あの子いるじゃん」

「あ、」

「話しかけてこよ〜っと。」

お目当ての子を見つけてスタスタと歩いていく薫の背中を見て、胸が苦しくなった。
それももう毎度のことだけれど。

「なになに、今日は君たち2人なの?いいね〜可愛い子が2人も一緒って♪」

2人組の女の子ににこやかに話しかけて自然に溶け込むのは薫のお得意だ。

「え?俺たち?普通に友達だけど…、え?君たち付き合ってるの…?」

いつもは薫の隣で適当に聞き流す会話も今は違った。薫が興味を持った女の子は女の子と付き合っていて同性愛者だという。

「そっかー残念♪また話そうね〜」

離れていく女の子にバイバイと手を振って、薫はため息をついた。

「まさかのあの2人。付き合ってたとか。まあ女の子と女の子なら許せるけど、同性とか…あー、自分で想像しただけでもげろげろ。」

有り得ないよね、と笑って俺に同意を求める薫に一瞬時が止まったように感じた。

俺はいつも自分と薫のそんな想像をしては薫に想いを寄せているのに。
そんな自分を全否定される気がした。

「なまえくん?」

「…っ、あ、うん、、有り得ないよなー…はは」

自分で自分を全否定するしかなかった。口から出た有り得ないという言葉が俺の首を縛り付けて、息を止めようとしているように息苦しかった。

「男同士とかは絶対ない。無理。気持ち悪い。」

苦虫を噛み潰したような顔で無理を連呼する薫に泣きたくなった。

薫のそばにいるのも辛いことなんて数多くあるから耐えてきたのに、こればかりは胸が張り裂けそうだった。


「なまえくん?顔色悪いよ?」

「…ごめん。ちょっと調子悪い。今日は帰るわ」

薫の顔がまともに見れなくて俯く。

「大丈夫?送ろうか?」

「…ははっ、女の子じゃあるまいし、だいじょーぶ。また明日な」

ああ、また自分の首に茨が巻き付く。喉から血が出そうなくらい締め付けられる。

へらりと笑って手を振った。今だけは薫から早く離れたくて仕方なかった。

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