男同士は気持ち悪いと言った薫と別れて家に帰ってから涙が止まらなかった。

一人部屋の中で声を漏らさないよう静かに泣いた。

人を好きになるのは辛いことなんだと思い知らされた日だった。






ブブブ…

携帯が振動してメッセージが入ってきた。

【なまえくん、今日予定ある?19時から遊びに行かない?】


あれから薫となんとなく距離を置くようになった。
最初は辛かったけど少しだけ慣れてきたのに、薫はそんな俺に気づいてないのか遊びの誘いをよこしてくる。

誘ってくれたのは少し嬉しいけど、今一緒にいると俺は辛い。断りたい。でも薫に嫌われたくない、愛想をつかれたくない、そんな我儘な自分が出てきてしまう。

【イベントとかあるだろ?終わってからにしよ】

薫はイベントに向けて忙しいはずだ。誘いは断るけど次回にしようという完全な隔たりを作れない自分の中途半端な答えにすぐに既読がついて返事が来た。

【今日は19時までだから。その後からってこと。】

【遊ぶ体力ないだろ(笑)】

やんわりと断るのに薫は全く受け付ける気がない。

【俺の本気見せてあげようか?】

【いらねー(笑)疲れ溜めると響くぞ。】

【なまえくん年寄りみたい(笑)とりあえず19時ぐらいにレッスン室来てよ。】

どうしよう。薫の中で19時から遊ぶことになってる。どう返事したらいいか迷って頭を机に押し付けた。

薫のメッセージは既読にしている。返事を考えて10分ほど経ったところで、またメッセージがきた。

【待ってるね。】

ああ、これは決定なんだろうな。これも既読にして、薫の誘いに重い腰を上げた。


19時までとくに何をするわけでもなく、ただただ時間が過ぎるのを待った。

ここまで待つなんてどんだけ好きなんだよ、と自分でも思う。

19時前に薫から教えてもらったレッスン室に行き外から覗いた。

中には、朔間さんのみ。
汗をかいたのか少し髪が湿っていて色っぽい。やっぱりUNDEADのリーダーだけあって、オーラが違う。

俺が見ていたのに気づいたのか朔間さんは手をひらひらと振って、それから手招きした。

どうしようかと思ったけど無視するのも良くないと判断して、レッスン室に入った。

「おつかれさまです」

「薫くんなら飲み物買いに行っておるぞい」

制服のままの俺がこのUNDEADの領域に入るなんてかなり浮いていて、早く外に出たくなった。

「あ、そうなんですか…。もう終わったんですか…?」

「ここに残っておるのは我輩と薫くんだけじゃよ。みょうじくんは薫くんを待っておったのかえ?」

「あ、はい…。イベントあるし忙しいだろうから…本当は遊ばない予定だったんですけど…」

「ほう〜道理で…。薫くんが最近みょうじくんが付き合い悪いと駄々を捏ねておったからのう」

「はは…、いやーやっぱ俺と薫は不釣り合いっていうか、こうやって薫は忙しいし一緒にいるべきじゃ…」

「…何かあったのかえ?」

タオルを首にかけて近寄ってきた朔間さんは俺の目を見て話してみろと言った。

朔間さんは俺が薫のことを好きなのも初対面でいきなり見抜いた人だった。

だからこの人になら今の自分の気持ちを言ってもいいと思った。

「あー…この間一緒にいた時…お、とこ同士って気持ち悪いよねって話になって…」

「なんかもうそろそろ諦めないとなーって思って…」

朔間さんは俺の話を頷いて聞いてくれている。

「報われない恋しても辛いのは自分だけなんだな、って思ったんです。はは、笑えますよね。」

それなのに俺は今からまた薫と会おうとしている。そうやって自分から棘のある茨を握りしめることを選択する愚か者だ。

「男なんて好きに…っ、ならなきゃよかった…」

「でも好きなんです…っ、嫌われてもい、」

言い切る前に朔間さんの腕が俺の頭を寄せて、朔間さんの胸に閉じ込められた。

朔間さんに抱きしめられている?びっくりしていると、バコッと床に物が落ちる音がして振り向いた。

レッスン室のドアに立ち尽くしていたのは薫だった。薫の足元にペットボトルが落ちていた。

練習後であの長い襟足はヘアゴムで括られている。薫はびっくりしたように俺たちを見ていて、それから何を考えているのか分からない無表情になった。

すぐに朔間さんから離れて、薫に手を伸ばした。

「お、い、薫勘違いするなよ。男なんて…」

また己の首を茨で締め付けるような弁解をしようとした俺を薫は冷たい目で見た。

「なに。男が好きだったの?さっき言ってたじゃん。朔間さんに近づくために俺とつるんでたの?」

「ち、ちがっ …」

「薫くん、みょうじくんは、」

今ならまだ間に合うかもしれない。笑ってそんなわけないじゃん、って俺は女の子が好きなんだよって今のはただのじゃれ合いだよって言ったら…間に合うかも…

誤解をときたくて薫に触れようとした。

パシッ

伸ばした手に痛みが走った。

「触らないで」

冷たい声が胸が刺さって手より胸の方が何百倍も痛かった。

「か、かお…る」

血の気がどんどん引いて、俺は今情けないほどひどい顔をしているかもしれない。そんな俺を一瞥して薫は荷物と一緒に出ていった。


完全に嫌われてしまった。
でもこれでよかったのかもしれない。

嫌われてしまったらもうこれ以上落ちるところはないのだから。

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