「なまえ!今日の活動報告だ!」
「……いらん。」
「なぜだ?!なまえには逐一俺のことを把握していてほしい!」
「その必要性が全く感じないんですけど。てか、毎日毎日何なんだお前は。」
わざわざ違うクラスなのにいつからか毎日俺の前に現れるようになったこの男、守沢千秋。
今日も俺の机の前に立っている。
こうなったのも以前、守沢千秋が俺に誰と何を話したかとか、いつどこで何をしたか、なんてことを聞いてきたことが原因だ。
即、なぜお前に言わないといけないんだと断ったら守沢千秋はしばらく言葉を失って、それから「そうだな!なまえのことを全て知るには俺のことも知ってもらわないと可笑しいな!」なんて俺には理解できない言葉で返してきた。
それからというもの、活動報告なんて言って自分の日々を事細かに書いたものを持ってくる。
これを受け取ったら、こいつを受け入れたと変な勘違いされかねないからな。絶対に受け取らない。
「もう放課後だし、俺は用あるから」
「ああ!そうだな!鍵も閉まるし早くかえろうか!」
教室を出て昇降口へ向かう俺の後ろを守沢千秋が着いてくる。
こいつも今日はそのまま家に帰るのか?
いつもならレッスンやら部活やらで何も無くても学校に遅くまでいそうなのに、靴に履き替える俺を待つように立っている。
何か嫌な予感がしなくもないけど、同じタイミングで下校するってだけかもしれない。
正門を跨いで、校外へ出た。
それでも守沢千秋は俺の後ろにいる。
なんだか気持ち悪くて少し止まって守沢千秋が先に行ってから帰ろうと思い足を止めた。
俺の予想なら、すぐに止まった俺を守沢千秋が追い抜いて帰っていくはずなのに、いくら待っても守沢千秋の姿が見えない。
途中でどこか寄ったとかで後ろにいない、とか?
そう考えて後ろを振り向いた。
「っ!!」
真後ろに守沢千秋がいた。
近すぎて心臓が飛び跳ねそうだ。
「な、なにお前。」
「帰り道だって敵から必ず守るからな!」
「何言ってんの…」
「なまえより前へ出て敵から身を守りながら歩くのも考えたんだがな、やっぱり視界にいれて歩く方が安心するし確実に守れるからな!」
「…離れてくれないか?」
「絶対に守る!約束だ!」
ダメだこいつ。話が通じない。
俺が嫌そうな顔をしているのを気づいていないんだろうか。
「とにかくついてくるな!一緒に帰りたくない。」
少し強めに言ったら守沢千秋は驚いた顔でこちらを見た。
「守るって約束したんだ…一緒に帰るのは当たり前だろう?」
「なんだよその守るって…。別に誰も頼んでないし」
「なまえは俺がいないと駄目なんだ…襲われてしまう…」
「何ブツブツ言ってんだよ。とにかくついてくるなよ!」
俯いてブツブツと言っている守沢千秋に念押ししてその場から離れた。
しばらくして後ろを振り向いてもついてきていなかったから、あいつも諦めたんだろう。
それにしても何の遊びかわからないけど何を俺相手にやってるんだか。
まあ守沢千秋のことは忘れよう。今日は発売日の本を買いに行く予定があるし先を急いだ。
「ありがとうございましたぁー」
本屋を出る頃にはすっかり暗くなっていた。
漫画や雑誌を見漁っていてかなり時間を忘れていた。
早く帰ろうと徒歩で帰路につく。
繁華街から住宅街に行くにつれて、人も車の通りも少なくなっていた。
少し肌寒い風が制服の上から体を冷やした。
足早になっていると、後ろから小さな足音が耳に入ってきた。
こんな人が少ないのに、歩いている人がいるんだと気になり興味本位で後ろを振り向いた。
「……?」
おかしいな、誰もいない。
俺の空見だったのかもしれない。
気にせずまた歩き始めた。
それでもやっぱりかすかに後ろから足音は聞こえてくる。
やっぱりいるよな…?
さっと振り向いたのにそれでも後ろには誰もいない。
なんか、気持ち悪いな。
少し不安になり、いつもとは違う道で帰ろうと細い裏道に入った。
あまり人が使わない道だし、これならもう後ろもいないだろう。
と、思ったのに。
細い道に入ってもなお、足音は聞こえる。
さっきよりも確実に俺の後ろにいる。
不安から恐怖の方が大きくなり俺は走り出した。
恐怖心から心拍数も跳ね上がって苦しい。
それなのに後ろから聞こえる足音は止まない。
怖い!
どうにか撒こうと角を曲がってすぐに隠れることにした。
見えてきた先の角。曲がったら、商店がある。そこの店の裏にでも隠れよう。
ダッシュで裏道から抜け出て、左角の商店の裏へ入り込んだ。
ハァハァと肩が大きく上下する。それでも息を殺してじっとした。
すぐに足音はやってきて、俺を探して付近でうろうろしているのか、足音は遠ざからない。
どんな奴なんだと裏から慎重に道を覗きこんだ。
「っっ…!!!も、…」
守沢千秋…!!
きょろきょろと周りを見渡している。
「なまえはどこに行ったんだ…。」
うわ言のように呟きながらふらふらしている守沢千秋を見て俺は鳥肌が立った。
「やっぱり怖い目をみないとな…悪があるから正義があるんだ…悪を…悪を…」
何言ってるんだあいつは…。
あんな守沢千秋、学校では見たことない。
いつも笑顔で俺がどれだけ拒否しても話が通じなくても笑いかけてきていたのに、今は無表情でぶつぶつ言っている。
理解できない怖さに俺は震えた。それなのに守沢千秋から目が離せなくて瞬きもせず見ていた。
周りを見渡していた守沢千秋が諦めたのか、きょろきょろするのをやめてどこか1点を見ている。
やっと諦めたかとほっとして瞬きをした。
その瞬間、さっきまでどこか違うところを見ていた守沢千秋が俺の方を見ていた。
それも、寸分の狂いもなく俺を。
目と目が合った瞬間に冷たい汗が背中をつたった。
「見つけた…」
俺は必死で首を振った。来るな、と。
守沢千秋は無表情の顔から、笑顔を貼り付けてこちらへ一歩一歩近づいてきた。
青ざめた俺を笑顔で見下ろす守沢千秋。
ヒーロー、なんて、正義、なんて、
俺の目の前に立っているこいつは……何者なんだ。
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