あっさり甘いSS 日々樹渉×男主


好きな人がいても、もう俺はその人を見ることはできない。

見惚れるほどに整った顔で、たくさんの表情を見せてくれるあの顔も。

俺を喜ばせようといつもサプライズしてくれることも、全部全部もう俺には見ることができない。

白いもやがかかったように彼の顔も景色も全てぼやけて、たまにすごく怖くなる。

どこにいるの、声は聞こえるのにその顔が見たくてたまらないのに、見えない恐怖が容赦なく俺を襲う。

手を伸ばしても届かない距離がもどかしくて、俺の目が見えないうちに遠くに行ってしまうんじゃないかと考えてしまうのだ。

俺を見つめる顔も、目ももう見れない。

もう…この肉眼で君を見ることができないのだ…。






「……それは貴方の目が悪いだけなのでは?」

「うん、まあね。」

せっかくしんみりした雰囲気を作っていたのに渉がツッコミでぶち壊してきた。

「大袈裟すぎますけど…」

「いいじゃん。いつも俺がツッコミしてやってるんだから。たまにはボケないとやってられん。」

「ん〜少し語弊がありますね。私がいつも突っ込んでるんですけど」

「……ばっか!!お前、それ今言うか?!ほんと意味わかんない!まじで変態!!」

「おやおやあ?真っ赤ですねぇ」

「ニヤニヤすんな変態!!」

「自覚してます♪」

さらりと言ってのけた渉にプンプンしていたら、ソファに座っている俺の隣に渉は珈琲を持って腰掛けた。

「視力がさ、もうやばくて。ほとんど見えない。眼鏡とかコンタクトがなかったらほんとぼやけてる」

「そうですか。だからスマホを見る時もかなり至近距離なんですねぇ」

「……そうなの。だから渉もこの距離じゃないと見れないんだわ」

珈琲を机に置いたのを見計らって、渉をぐいとこちらに引き寄せた。

キスでもするのかというくらいの至近距離でぴたりと止める。

俺のピントが合う位置だ。

この距離なら渉の目も、整った顔も見れる。

渉は引き寄せられて少し驚いたように眉をあげた。

「あめーじんぐ?どう?びっくりした?」

くすりと笑ってみせると渉は肩を震わせた。

「ふふ、相変わらず面白い。」

目を細める渉が好き。人を笑わせる彼が笑うところが好き。

俺も笑ったら、渉は俺にキスをした。

「…不意打ちかよ。」

「私はこちら側の人間なので♪」

ふふんと笑う渉は、自分は人の虚をつく立場だと主張する。たしかに俺はそんな渉を好きになったけど、でももっと好きな渉が俺にはいる。

「もっと真面目な顔した渉が見たい。俺の見えるこの距離で」

たまにはわがまま言ってやろうとリクエストした。多分いつものようにおちゃらけるかなと思っていると渉は真剣な顔で俺を見つめてきた。

俺はさすが舞台に立ってるだけあって切り替えが早いなと関心した。

「うん、その顔も好き。」

何で好きかって言うと渉が俺を抱く時に不意に真剣な、それでも愛おしそうに俺を見てくれるからだ。

その顔は絶対に見逃したくない。それが俺の愛されてる形のひとつだから。

その顔に俺は自分から顔を近づけた。触れる唇、だんだんと濃くなる口付け。

「ふ、ぅ…」

互いに啄みながら、俺は薄く目を開いて渉を見た。この距離なら見れるんだ。

「私が見えますか?」

「うん、見えるよ。」

「その目で見てくださいね。」

「うん、見える位置にいてくれたらね」

くすり、と渉は笑って俺に覆いかぶさってきた。渉の髪がカーテンみたいに垂れて視界がきらめく。

「もちろん。いますとも。誰よりも近くでなまえの肉眼におさまるように」

自信に満ちたその表情に俺は嬉しくなって、優しい愛撫に身を任せた。


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