ヤンデレ天祥院英智×クズ平凡ヒモ男主
お金目当てじゃなかった、と言ったら嘘になる。
お金に困っていたから俺は拾われた。
大学を出て職にありつけず、周りの友達は有名企業や安定した職についたのに俺はフリーターとして生活をしていた。
友達の話はいつも仕事のことばかりで全て自慢に聞こえて、自分から距離を置いてしまい友達とは疎遠になった。
バイトだけで得る金は自由もなく、効率よく金を稼ぐ方法はないかと考えて、たどり着いたのがウリだった。
男もいける質だったので適当に客を見つけようと歩いてたときに、体調を崩し倒れかけた英智に手を差し伸べたことがきっかけで英智に拾われて俺はヒモになった。
英智の家はマンションの最上階だった。
住んでいい、何をしてもいい、自由に暮らしていいと言われて、バイトを辞めてすぐに英智の家に引っ越した。
英智は御曹司で恋人はいないという。最高な金蔓を見つけたと思った。
しかも英智はアイドルもしているという。テレビや世間の情報に疎かったため知らなかったけど、俺は英智のことを話す友達も知り合いもいないので問題はなかった。
英智の恋人という名のヒモ男に成り下がったわけだ。
夜遅くまで遊んでもいいし、金も自由に使える、果てには御曹司でアイドルなんていうハイスペックな金蔓を携えたわけだ。
それに加えて、俺は特に何もしないでいいと言う。英智の部屋に住んでさえいればいいと言うのだ。
人生万々歳だな、と俺は調子に乗っていた。
だから、日常がちょっとずつ変わっていっていることに気がつかなかった。
ある日、飲んだくれて帰ってきたら英智が真っ暗な部屋の中、椅子に座ってじっとしていてびっくりした。
「…!びっくりした…ああ、クラクラする。英智早く寝ないと明日仕事だよね?」
「…遅かったねなまえ。」
今までどんなに遅くても飲みまくってても何も言ってこなかった英智が遅いと言ったので驚いた。愛想をつかれて捨てられたら困るので咄嗟に謝る。
「ごめん。怒らないで。」
椅子に座っている英智の元へ歩いて、英智の足元に座った。
冷えた床が酒で火照った体に気持ちいいと思いながらぺたりと座り込んで英智を見上げた。
「…今度から僕が帰る前には家にいてね」
ね?と言われて、内心抗議したい気持ちが湧き出たが主導権は英智が握っている。俺はヒモだから聞かざるを得ない。
「…わかった。」
「それと、今日一緒にご飯を食べていたなまえの友達、大学の時の友達だよね。随分親しいんだね。」
「え…」
「もう会わないでくれるかな。」
「え、いや、別に英智のことは言ってな「嫉妬してしまうよ。可愛いなまえに親しい人がいるなんて、嫉妬してしまうから会わないで欲しいな。」
有無を言わさないような笑顔で俺の頭を撫でる英智。
何で今日友達と食べたことを知ってるんだろうか。何で大学の時の友達って分かるんだろうか。
でも金持ちの英智ならそんな情報を探すことくらい容易いことなのかもしれない。
英智に対して肯定の返事しかできない俺は渋々了解するしかなかった。
「……わかった。」
「ふふ、約束だよ。ほら、シャワー浴びておいで。」
英智に促されて浴室に向かう。全てにおいて高級で完璧な造り。こんなところに住んで衣食住完璧な生活を簡単に手放せるわけなかった。
英智の仰せのままに。
そう思って不満を飲み込んだのにその日から英智は俺に色々と制限してくるようになった。
「夜まで遊ばないで。心配だよ。」
「僕の隣で寝ること。僕が起きるまでベッドの中にいて。」
「誰と会ったの?」
「僕に言えないの?」
「新しい飼い主を探してるの?」
「飼い主は1人で十分だよ。他の人間とは縁を切ろうね。大丈夫、僕がやるから。」
「もう部屋から出ないで。」
「僕以外誰とも話さないで。」
携帯も財布も全て取り上げられ外部と遮断され、部屋に閉じ込められたことでこの状況が異常なことに気がついた。
完璧で不自由ない生活を優先して今まで文句を言わずに大人しく従っていたけれど、ここにいたら俺は壊れてしまう。
今でさえ、英智に縛り付けられて追い詰められて気が狂いそうなのに。
最初からおかしかったんだよ。こんな平凡な男にハイスペックな金持ちが手を差し伸べて生活を援助するか?普通しないだろ。恋人なんて言って一度も寝たこともないし、恋人らしいことすらしたことがない。金持ちの考えることは分からない。一般庶民が金を与えて堕落する様を見たかったんだろうか。玩具(おもちゃ)のように。遊びで俺の無様な様子を酒の肴にしていたんだろうか。
ここから逃げ出したい。逃げ出さないと俺は玩具として壊されてしまう。
ただここから出ても、家も金もない。金をどう工面しようかと考えていると、英智の部屋が目に止まった。
「そうだ…あそこに金がある……」
英智の部屋に現金があるのは知っていた。
少ないけど、と言いながら数百万程現金を所持していた。
あれを…少しだけ…。
悪いことだと分かっていながら今後の生活を考えると喉から手が出る勢いでほしいものだった。
あれが手に入るなら金には困らない。あとは…ここを出る方法だ。
部屋から出るなとは言われているけど、実際に出ようと思えば出られる。黙っていなくなったって、それこそ携帯も持っていないし分からないはずだ。
頭の中で何度もルートと手順を繰り返しシミュレートした。
お金を持って、玄関を出て、マンションを出てあとはできるだけ遠くに行く。
英智が仕事で帰ってこない日を狙って決行することにした。
その日はすぐにやってきて、帰らないからしばらく待っていてねと俺の頭を撫でて英智は仕事に出た。
いってらっしゃい、と珍しく見送りして別れる。
夜だ。暗くて人目につきにくい夜に俺はここから逃げ出す。
人の金を持って逃げ出すなんて犯罪行為なのは百も承知なわけで昼ごはんは喉を通らなかった。
それでも俺はそうすることが正しい、いやこれから生きていくためにはそうすることしかできないんだと正当化するほどには脳内が麻痺していた。
日が沈み外が真っ暗になってきた頃。
そっと英智の部屋に入った。電気をつけず、金が収められている場所まで静かに歩く。
英智の書斎はいつ見ても整っている。1番下の重たい引き出しを開けると、小さな金庫が入っている。
鍵がかかっていないその金庫を開けるとイメージしていた通り札束が入っていた。
目にした瞬間、どくりと一際大きく心臓が動いた。
これを手にしたら…もう戻れない。
定められたルールを破って、犯す罪に鼓動が速くなる。
いけない、いけない、それは悪いことだ、いけない、頭の中で鳴り響く警報。
それなのに、手は動いて札束を掴んでいた。
「はぁっ、は、」
息苦しくて目眩がしそうになった。早く、早くここから逃げ出さないと。
カラになった金庫を元に戻して、札束を鷲掴みにしたまま立ち上がった。
早くここから出たい!
英智の部屋のドアへ向かって走って、部屋の外へ出ようと足を出した瞬間、その足は固まった。
部屋の外に英智がいた。
「…っ!!!!!!」
ヒュッと喉が鳴った。
部屋の電気をつけていないため、暗い中で顔は良く見えないけれど、英智だとわかった。笑っている。
英智が笑ってこちらを見ている。
「ぁ、…し、しご、と…は」
体が、喉が震えて呂律が回らない。
「嘘だよ。」
一言だけ発したその言葉。全身の血の気が抜けていく感覚に、札束を掴んだ手が痺れた。
その声色は何故か嬉しそうに聞こえてもう終わったと思った。
今、照明をつけられたら手に持っている札束がバレてしまう。
隠すために必死に服の中に入れようと手を後ろにやり、後退りながら服をめくったところで英智が照明をつけた。
急激に訪れた明るさに視界がチカチカとして反射的に目を細める。
「っ、」
「どうしたんだい、汗びっしょりじゃないか」
冷や汗が垂れて、顎からポタリと落ちた俺とは対照的に英智は涼しい顔で立っている。
俺は手を後ろにやったまま。
俺の汗を拭おうと1歩近づいてきた英智に、ビクリとして後ずさった。
「…その後ろにあるものは何かな。」
「…っ、な、…」
何でもない、なんて馬鹿げた言い訳をいいたくても極度の緊張感から声が出なかった。
バレたらどうなるんだろうか。警察に連れていかれるのか、いや、財閥の権力で人道的でないひどいことをされるのか想像しては震えた。
ゆっくりと英智が俺に近づいて、正面から後ろにある俺の手を掴んで、前へ持ってきた。
「ぁ…」
カタカタと震える俺の手をしっかりと握る英智とのあいだに札束が俺の震えに合わせて小刻みに動いている。
「……悪い子だね。」
ゆっくりと静かに英智は言った。
「ご、ごめ、なさ…」
震える声で謝ろうとしても呼吸が乱れて上手く話せない。
「これでどうしようとしたの?ここから出ようとしたのかい?」
「…ち、…ちが」
「違わないよね。逃げようとしたんだよね。本当に君は悪い子だね。」
英智は笑みを絶やさず俺を見下ろしている。
「ずっと優しく扱えば壊れることはないと思っていたのに。」
そのままぐい、と引っ張られて英智の書斎を出た。
札束を持ったまま手を引かれ、寝室に連れていかれる。
「ご、めんなさい、ごめんなさい、返します、返しますから…っ、」
何をされるか分からなくてひたすらに謝った。
「も、っもう、こういうのやめ、やめたいです…っ、い、いままでお世話になったけど、、…も、これからはちゃんと生きてこう、って、だ、だからもうここから出「何言ってるの。」
「ここから出る?勘違いしてないかい?今まで誰がなまえの世話をしてきたのかな?誰か分かる?目を見て。今、なまえの目の前にいる、僕だよ。今まで何のために甘やかしてあげたと思っているんだい。それを…ここから出たい?恩を仇で返すようなことをなまえは言うんだね。お金を持ってそのまま逃げようと思ったんだろう?このお金を。」
札束を掴んだ手を強く握られた。
「馬鹿だね。逃げられないんだよなまえ。例えここから出ても僕の力があれば君を見つけることなんて容易い。もう君は僕のものなんだよ。……あの日拾ったときからね。」
耳元で囁かれた残酷な言葉に震えた。
「ごめんなさ、」
「謝らないでよ。不安になったんだろう?何もしなかった僕も悪いよね。壊しちゃわないか触らないようにしていたけど、やっぱり手に取って遊ばないと本当の楽しさは分からないのと同じだよ。」
ねえ、そうだよねと笑う英智は震えている俺をベッドに押し倒した。
持っていた札束が散らばって、紙幣が俺の周りを囲んだ。
「ふふふ、ああ、いい景色だね。その顔と君の周りにあるお金。そうだね、最初はその契約で始まったのにね。」
お金なんてどうでもいいよ、君がいれば。
深い口付けが降ってきた。震えて涙目になっている俺はお構い無しに口内を犯されて息が上手くできず苦しくなる。
どこで間違えたのか分からない底辺の人生が苦しくて、ヒモになって調子に乗っていた自分が苦しくて、欲に負けてお金を手に取った自分が苦しくて、英智に啄まれて何もできずに絶望を感じている自分が苦しくて、苦しくて涙が零れた。
泣く権利なんて無いかもしれない。それでも俺はこんな自分がいることに情けなさと絶望を感じて悲しくなった。
抵抗する気力もなく、金に囲まれたまま動かない俺に、泣かないでと言う英智は月明かりに照らされていて、ひどく綺麗だ。
嬉しそうに、楽しそうに笑う英智はまるで子供のように無邪気そのものだった。
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