男主をいじめて泣かせるのが好きな英智×もやし男主
招待されないと参加できないパーティーに父親と一緒に来ていた。
天祥院グループの傘下にある会社を経営している父に連れられた大きなパーティー会場。
たくさん集まっている偉い人達への挨拶や会話は疲れるし得意じゃないけど僕はそれでもここに来たい理由があった。
僕の目線の先には、人に囲まれた天祥院英智くん。
小さな頃から彼は雲の上の存在だ。僕の父も畏まるくらいに。幼いから遊んでいる仲ではあるけど、僕にとっては憧れの存在であまり身近ではない。
今日も少し顔色が良くなさそうで、周りに断りを入れて席を立ったのを確認した。
1人になるんだろうか。その隙に話しかけたいと思って、会場を出た英智くんを追いかけた。
タタタ、と小走りに走りすぐに英智くんに追いついた。
「え、英智くん…」
僕が声をかけると英智くんは皆がうっとりするようなその顔を、その目を僕に向けた。
「あ、あの、今日、僕も連れてこられて…」
「へえ、そうなんだ。」
英智くんと話すのが少し照れくさくて、英智くんの顔を見て話せない。英智くんは多分、僕を見ている。
その視線を感じると尚更顔を上げられなくて下向き加減に話を続けた。
「あの…さっきたくさん囲まれてたね…!ぼ、僕もお話したいな、って思って…」
同い年なのに英智くんと話すのは緊張する。だって同い年なのに英智くんは賢いし、体が少し弱いこと以外は非の打ち所がない。
「僕とかい?」
「うん…あ…や、やっぱりだめだよね…」
「……いや…いいよ。」
「ほ、ほんとっ…!?」
嬉しくてすぐに早くなる鼓動。英智くんと2人で静かな部屋に入った。
英智くんは椅子に腰掛けて足を組む。その姿さえ見とれてしまいそうで慌てて目を床に移した。
とにかく僕から誘ったんだから何か話さないと…!
「え、英智くん今日もそのスーツかっこいいね…」
「ああ、これかい? 適当に選んだだけだよ…なまえは?」
「僕、今日、この間英智くんが教えてくれたあそこのスーツ着てきたんだ…!」
英智くんがかっこよく着こなしていたスーツがおしゃれで気になって僕もそんな服が着れるようになりたいと思って恥ずかしながら英智くんに教えてもらったブランドだった。父に頼んで買ってもらったその服は、やっぱり良い物で僕は一生大事にしようと思ったくらいだ。
「…ああ…。」
「英智くんに「似合わないね。」」
英智くんに見せたくて、と最後まで言えなかった。
冷たい英智くんの声が僕の言葉を遮った。
「全然似合ってない。よく着て来れたね。」
皆に向けるような微笑みを顔に浮かべて、英智くんは目を細めながら僕を見ている。
「…っ、そ、そうかな…」
家を出る前に鏡の前で確認して、これは英智くんが教えてくれたものだからとっても良いものだし、僕は英智くんが教えてくれたところの服に包まれているのが嬉しくて何回も鏡の前に立って、襟を整えながら一人微笑んでしまうほど舞い上がっていた。
「うん、鏡の前に立って見なかったの?僕だったらとてもじゃないけどそんな姿じゃ外に出られないよ。まあひどいのは服だけじゃなくて全部だよね。」
くすり、と静かに笑う英智くんに僕はどうしたらいいのか分からなくて、合わせて笑ったほうがいいのかと思い頑張って笑おうとしたけど口の端が少し動いただけだった。
じわりと心臓に痛みが染み込んだ。
「……そ、そうだね…。え、英智くんの…言うことは正しい…もんね…」
「当たり前だろう?僕は嘘なんて言ってないよ。」
「う、うん…」
きゅううと胸が痛くて、必死に目を瞬かせてじわりと出た涙を広げた。
「どうしたんだい?」
「な、なんでもない…」
「ふふ、そう?」
英智くんはさっきとは変わって顔色も良さそうでニコニコしている。何だかとても楽しそうに嬉しそうに笑っていて僕のどん底の心境とは全く反対だ。
「ご、ごめ、僕もう先に行くね…」
「まだ話そうよ。久しぶりになまえに会えたしたくさん話しておきたいな」
英智くんに微笑まれて話したいと言われてしまうと僕もその場を去ることはできなくて、動かした足を戻した。
英智くんの視線が強くて、僕は壁を見たり床を見たり、英智くんの靴を見たり、英智くんと目を合わせられない。
「…最近学校はどう?友達と遊んでるのかい?」
「え、あ…う、うん。」
「どんな友達?」
「どんな…、ぼ、ぼくのしたいことに付き合ってくれたりすごく優しい友達がいるんだ」
英智くんとは学校が違うからこうしたパーティー会場や何かがないと会えない。幼い頃はよく会っていたけど、今はそれもない。だから僕は会えるだけで嬉しいしアイドルとしての英智くんも見たくてライブを密かに見に行っていたりもする。
「へえ…。それってこの間ライブに来てた時の隣にいた子?」
「え…?」
「先月のライブ、なまえが来てるなぁって思って。」
まさか英智くんに見に行っていたのが知られていたなんて…。お客さんはあんなにたくさんいたのに、その中から僕だと分かったなんてすごいことだ。
「す、すごいね…。ごめん…、え、英智くんかっこよくて見てみたかったから…」
「謝る必要はないよ。なまえなんてどこにいてもすぐに見つけられるよ。で、あの隣の子?」
「あ、う、うん…。いつも一緒に…」
「ふうん…。いつも一緒に何してるの?」
「話したり…遊んだり…家に行ったり…」
「…ふふ、何かムカつくなあ。こっちが療養してる間、なまえは好きなことして遊んでるんだ。その顔をヘラヘラさせてその『友達』にひっついてるんだ?」
「ち、ちが…」
「小さい頃からそうだったよね。うざいくらい後ろをついてきて、鈍臭いし邪魔だしすぐに泣くし本当うざったかったなあ、ふふふ」
英智くんはくすくすと笑っているのに、その言葉は僕の胸をもっと締め付けるもので、もう僕の目からは涙がこぼれ落ちそうだ。
「ご、ごめん…なさい…ぼ、僕、英智くんが体…弱いからいつ倒れても助けられるように…って思って…いつも後ろについて…」
「……」
でもそれも英智くんにとっては不愉快極まりないものだったらしい。もうここから逃げ出したくて僕は自然と足を動かして走り出そうと思っていた。
なのに、ガシリと腕をとられたと思ったら英智くんが座っていたソファに押し倒されていた。
「っ、えい、ちくん…」
押し付けられた腕がぎりぎりと痛い。
「…余計なお世話だよ。なまえなんかにそんな心配してもらいたくないね。」
「ご、ごめんなさい…」
ついに涙は僕の目からひとすじこぼれ落ちた。
「体が弱い?心配?なまえは僕よりひ弱だろ?そのなまえが僕の心配?こうやって泣き始めるのに?それになまえ、僕しか友達いなかったじゃないか。それなのにどうしたんだい?その『友達』にもひっついて媚売ったのかな?」
英智くんが怖くて縮こまる。
「どうしたの?震えてるけど体調が悪いの?」
くすくすと英智くんが嬉しそうに笑った。英智くんの指先が頬に触れて少し冷たく感じた。
「僕はなまえのせいで今イラついてるんだ。分かる?」
僕はもうこくこくと頷くしかなかった。
「へえ、分かってるんだ?じゃあ僕のイラつく原因をなくすこともできるよね?」
英智くんの言ってる意味が分からなくて目を見開いて英智くんを見た。
「『友達』と一緒にヘラヘラしてるなまえがムカつくからさ、その『友達』と絶交してよ」
「え…、そ、そんな…」
「その『友達』もなまえと一緒にいるのは本当は苦痛だと思うよ。なまえには言ってないだけで、なまえと居ても面白くないよ。僕が証明する、ふふふ」
英智くんに僕の全てを否定されてしまい嗚咽が漏れ始めた。
「でもね、僕だけはなまえとこうやってお話してあげてるし、僕だけはなまえといてあげてもいいと思ってるよ。」
さっきまでのひどい言葉とは打って変わってその優しい言葉に救われる思いで英智くんを仰ぎ見た。
「ね?嬉しいだろう?」
ゆっくりと頷けば英智くんは満足したように口角を上げた。
「なまえには僕が必要だよ、それで僕にもなまえが必要。おもちゃは大事にしないとね」
僕をおもちゃだと言う英智くんは優しく僕の頭を撫でた。
その言葉に傷つきながら、優しい手つきに僕は今日も翻弄される。
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