かなりの人混みに僕は戸惑っていた。

夢ノ咲学院のライブイベントに来たはいいけど、周りはどこもかしこも人が多くてそれだけで圧倒された。

きっかけは敬人くんから校外のお客さんも入れるイベントが開催されると教えてもらったから。

外部のイベントなら英智くんが出る時に、行ったりしたけど夢ノ咲学院に行くのは初めてだった。

英智くんは生徒会長をしていると言っていたし、そんな姿も見れるのかなと考えると行きたくなった。

敬人くんにスケジュールを教えてもらって夢ノ咲学院に着いた時にはこんな賑わいを想像していなかった。

いや、ライブだからある程度盛り上がってるとは思ったけど、校内の生徒もたくさんいるし校外のお客さんもいてかなりの賑わいだった。

サイリウムの配布場所に行って、受付をして2本のサイリウムを受け取った。

ぎゅっと握りしめて校内を踏みしめる。

すごいなぁ…、広いなぁ。ここで英智くんは学んで過ごしているのかな、と考えると少し高揚した気持ちになる。

英智くんには今日僕がイベントに行くとは言っていない。

色々な出店もあり、目が足りないほどでキョロキョロしていると人にぶつかってしまった。

「あ、あっ、す、すみませんっ、!」

ペコペコと頭を下げてちゃんと前を見て歩かないととサイリウムを握りしめた。

お祭り状態のイベント独得の空気に浮き足立ちそうになる。

英智くんの歌って踊る姿が少しでも見られれば嬉しいなと思いまだfineのライブ時間は先だからと校内を見て回ることにした。

ふらりふらりと適当に歩いていたところに後ろから声がかかった。

「なまえ?」

この声は、と振り返ると赤と白の和風な衣装に身を包んだ敬人くんだった。

「っ敬人くん…っ」

制服姿でいつもきりりとしているイメージとは違い、華やかで上品な衣装にさすがアイドルだと思った。

「わぁ…か、かっこいいね…っ、」

「ありがとう。来てたんだな。」

「うん、すごく広いんだね。」

「ああ、迷子にならないよう気をつけろよ。…英智には言ってるのか?」

「い、いや言ってないよ!」

「…そうか。」

口元に手をやり少し考えた敬人くんは、俺に着いてこいと言った。

連れられて人が少ない落ち着いた休憩スペースのようなところに来た。

「ここなら、あまり人が来ないからゆっくり過ごせるだろう。」

「あ、ありがとう…っ」

「蓮巳殿!」

「どうした神崎。」

「急ぐほどではないがもうステージの方へ集まろうと思い声をかけさせていただいた。」

「ああ、そうだなすぐに行く。」

「承知した。では我は先に。」

敬人くんと同じ衣装を着た男の子は綺麗な髪を靡かせて走って行った。

「あいつは後輩で同じユニットなんだ。」

「そ、そっか、ご、ごめんね。忙しいのにここまで連れてきてもらって…!」

「気にするな。…あと、英智にもし見つかったら……遅かったか。なまえ、すまない。」

敬人くんの謝る意味が分からなくて困惑していると、後ろからコツリと音がした。

「やあ。」

振り向くとそこには真っ白な衣装に身を包んだ英智くんと、同じユニットの日々樹くんがいた。

2人とも背が高くて並ぶと圧倒的だ。この衣装の英智くんはライブのステージ上でしか見たことがないし、こんなに近くで見るのは初めてだとドキドキした。

何よりも偶然にも校内で出会えるとは思えなくて嬉しかった。

「えっ、英智くん…っ!」

敬人くんや日々樹くん、そして英智くんという人達がいるなかで俺だけ小さくぽつんといるために恥ずかしくて顔が赤くなるのを抑えられなかったけど、会えた喜びを隠せなかった。

「きょ、今日初めて夢ノ咲学院にきてみたん「敬人。もう時間だろう?」っ」

僕の言葉に英智くんは目もくれず敬人くんに声をかけた。
少しドキリとしたけど、ライブ運営で忙しい英智くんたちにはそれどころじゃないのかもしれない。大人しく静かに口を噤むことにした。


「敬人。後で説明、してね。ほら、早く行かないと。」

にこりと笑ってあちらへと指を指す。敬人くんは苦い顔をしていた。

「…なまえ。また後で。」

「あっ…うん。敬人くん、頑張ってね…っ」

笑って手を振ったのに、敬人くんは英智くんをちらりと見て苦い顔で去っていった。

「おやぁ、あの人のお知り合いですか?そして英智とも?」

その場にいた日々樹くんが口を開いた。
僕も日々樹くんと話すのは初めてで、その高身長と整った顔に圧倒されそうになりながらぺこりと頭を下げた。

「あ、あの英智くんの友「知らないよ。」」

え…

日々樹くんに挨拶しようとしたところで、英智くんの冷たい声が遮った。

「誰だか知らないけど、僕の知り合いじゃないよ。敬人の知り合いじゃない?忙しいから僕達も行こうか渉。」

え…え、と頭が追いつかなかった。

心臓はどくどくと速くなる。

「え、えい、ちくん…」

英智くんは透き通るような色素の薄い空色の瞳で僕を見下ろした。

お前なんか知らない、と言われてるみたいで視線を合わせることができなかった。

英智くんは日々樹くんを連れて行ってしまった。

僕は英智くんの知り合いでも何でもなくただの他人だったんだろうか…。でも、敬人くんと話す英智くんは確かに僕の知る英智くんで…。

何で英智くんは僕を知り合いじゃないと言ったんだろうと、考えた時、英智くんは僕が知り合いだと周りに知られたくないんだと思った。

僕のことをいつもダサい、鈍臭い、面白くない、という英智くんは確かに僕を好き好んで誰かに紹介なんてしたくないだろう。

英智くんは生まれながらにして全てを求められている人だから。交流もちゃんとしておかないといけないのかもしれない。

僕みたいな陰湿なやつと知り合いだと思われたら困るのかもしれない。

残念、だな…。とサイリウムを握って涙腺が緩まないよう必死でこらえた。じくりじくりと痛む胸に、仕方の無いことなんだと何回も言い聞かせた。



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