ヤンデレ三毛縞斑×男主
「あっはっはっはっはっ!!!」
廊下の先から聞こえる豪快な笑い声に俺は誰の声かすぐに分かった。
「うわぁ…出たよお祭り男……」
ぼそりと呟いた声は隣にいた奏汰に聞こえていたらしい。
「……はやくきょうしつにはいりましょう」
ジト目で廊下の先を見つめる奏汰をこれほどにさせるとはよっぽどの人間だよ、あいつは。
教室に入り込もうとしたら、後ろからよく通る声が突っ切ってきた。
「おおおおーーーい!なまえさーん!奏汰さーーん!」
「うわぁ……」
バレたか、と廊下を見ると手をぶんぶん振りながら来ていた。
あっという間に俺たちのところにやってきた三毛縞は息も切らさず笑っている。
「久しぶりだなぁ!」
「相変わらず台風男なことで…」
「もっと再会を喜んでくれてもいいんだぞー?!」
「いやぁ…お前と話してると疲れるし」
「はははっ!面白いこと言うなぁなまえさんは!」
ぎゅうと抱きつかれて俺は絞め殺されるかと思った。
「ごろつき、なまえからはなれなさい」
奏汰の手刀が三毛縞の頭に落ちるのを見て痛そうだった。
久しぶりに帰ってきた三毛縞は台風みたいな男で色んなところに現れてはかき回す。じっとしてはいないからこうして話していてもすぐにどっか行くだろう。
「いてて…。あっ!そうだ!なまえさん、お昼はどこかで食べる予定でも?一緒に食べよう!」
「え〜…久しぶりに帰ってきたんなら後輩とか、月永とかと食えば?」
「そんな寂しいこと言わないでほしいなあ!一緒に食べようじゃないか!」
「…はぁ、仕方ねぇな。」
三毛縞と昼食の約束を取り付けて教室に戻った俺は次の授業の準備をした。
***
昼休み、どこで食べる予定もなく教室で三毛縞を待っているとすぐにやってきた。
「待たせたなあ!行こう!」
「へいへい」
立ち上がった三毛縞と一緒に食堂に向かう。
隣に立つ三毛縞は長身で見上げるほどだ。
「今回は海の綺麗な街で、これを!なまえさんにあげようと思ってなあ!」
三毛縞の手から渡されたのは白い巻貝に綺麗な飾りがついたストラップみたいなものだった。
「へー、ありがと。…毎回土産なんてくれなくてもいいのに。」
三毛縞はいつも帰ってくるたびにこうして各国のお土産をくれる。時に物だったり、時に服だったり、時にお菓子だったり…。律儀にくれるわけだ。俺は何にもあげたことないのに。
「いいんだ、俺がしたいだけだから」
「へぇ…。お返し期待されても何にもないからな?」
「あっははっ!いつか返してもらいたいなあ!別の形で!」
「別の形ねぇ」
「そうだなあ…。なまえさんの人生とか…!」
指をピンと立てて提案する三毛縞に俺は思わず吹き出した。
「俺の人生?なにそれ。はー、笑ったわ。ずっと家でぐーたらさせてくれて養ってくれるなら考えてやる。」
ケラケラと笑うと三毛縞は真顔で頷いた。
「そうかあ、わかった。それなら簡単かも」
「はぁぁ?何本気にしてんだよ、ほんとウケる」
三毛縞の背中をパシッと叩けば三毛縞はいつもの笑顔に戻った。本当変な奴だ。
食堂について俺はオムライスの食券を買うことにした。
お金を入れようとしたところで、俺の肩口から手が伸びてきて食券機にチャリンとお金を入れられた。
「…ん?」
俺のすぐ後ろからお金を入れたのは三毛縞だった。俺の背後から易々と入れられるほど背が高いのが何だか少し腹が立つ。顔を向けるとすぐ近くに三毛縞の顔があってびっくりした。
「なんだよ…奢ってくれんの?」
「しばらく会えなかったから俺からのプレゼントだぞお!」
「お前は俺の彼氏かっつーの。じゃあ遠慮なくいただきまーす」
彼女に奢る彼氏の如く最近会えなかったからなんて本当に三毛縞は変なやつ。噂によると三毛縞はお金には困っていない家柄のようでそんなことを耳にしていた俺はありがたく受け入れた。
俺は三毛縞の買ってくれたオムライス、三毛縞は焼肉定食。2人で空いてる席を探して座った。
「香美脆味!食堂のご飯はいつも美味しそうだなあ!」
「帰ってくるの久しぶりだったっけ。」
「ははは!!なまえさん!前回俺と会ったのは37日前だぞお?忘れてしまうとは悲しきかな!」
「そうだっけ?そんな日にちまで分かるわけないだろ」
「大丈夫!俺もさっきのは適当だったからなあ!」
「おい。」
ツッコミどころ満載な三毛縞に呆れながらぷるぷるふわふわな卵に包まれたオムライスを1口含んだ。
「おいひいーー。うめぇーー。」
いつも弁当な俺は食堂のご飯に至福を覚える。
「あはは!なまえさん、顔がハムスターみたいにとろけてるぞお!」
「しあわせ…」
とろけてるのは致し方ないだろう。だって美味しいんだもん。
「…色んな国の美味しい食べ物、なまえさんに食べさせてあげたいなあ」
「そっか三毛縞はいいよなー色んなの食べられるし。月永と色々行ったんだっけ?」
「ああ、レオさんとは暑いところ、寒いところたくさん回ったなあ!」
お祭り男の三毛縞と生活するなんて俺には体力なくて無理だな、と思う。まずあまりに…うざくて…。
「あっ!なまえさん今俺の事ウザイって思っただろお!」
「思ってない思ってない」
「顔に書いてあるぞお!」
「へいへい。人一倍賑やかでウザイのに一人が好きって変なのって思っただけだから。」
「あっ、さらっと言ってくれるなあ!」
かっかっと笑う三毛縞はいつものようにウザがられてもぜんぜん堪えていない。
「…こんな俺でも傍にいたい人はいるのになあ…」
「ん…?何か言った?」
「いやあ、何でもない」
ぼそりと低い声で話した三毛縞の声をよく聞き取れなかった。何でもないならいいや、と基本他人に執着しない俺はオムライスをぺろりと平らげた。
「三毛縞、ごちそーさま。」
満足、満腹と手を合わせて合掌したら三毛縞は満足そうに笑顔で頷いた。
昼飯を食べた後は教室に戻って仁兎とお喋りしたり、隣の席のやつと話したり。午後の授業もぼーっと受けているとあっという間に放課後になった。
今日は校内アルバイトがあるから少し遅くなりそうだ。
資料作成というアルバイトのためAV室にこもってせっせとパソコンに向かった。
「うーん、やっと終わった…」
肩を回して出来上がった資料を生徒会室に提出しに行った。後は帰るだけ。廊下の窓から外を見ると夕暮れも終わりそうだった。
グラウンドでは人がぽつぽつと黒い影を作りながら走っている。陸上部だろうか。遅くまでやってるんだなあと眺めながら俺は昇降口に向かう。靴に履き替えて玄関を出たところで立ち止まった。
早く帰りたいし、チャリ通の俺は自転車がある。駐輪場まで近道しようかな…。
近道するためにはグラウンドの傍を通らないといけない。まあ、人少なかったしいいか。
近道決定。グラウンドに向かって歩く。
「おおおーい!なまえさーん!」
ん?名前を呼ばれて見ると、グラウンドの中心から走ってくる三毛縞がいた。
「今から帰りかあ!」
「うん、っつーか、おい、おま、その状態で抱きつくな!」
俺の目の前に来た途端、ぎゅうと抱きついてきた三毛縞は練習していたからか汗だくだ。ふわり、と三毛縞の汗の匂いが香った。嫌な匂いではないけど何か生理的に、な。
「ひどいなあ!はははっ!」
「遅くまでやってるんだな陸上部。」
「んー、俺がまたすぐに出発しなきゃいけないからなあ。光さんやアドニスさんがそれなら遅くまでやりたいって言うから付き合ってたんだ!嬉しいなあ!」
「ふーん、じゃあもう明日とか?」
「そうなるなあ!なまえさん、寂しいかい?」
「いや、全然。」
「あははっ!なまえさんはいつも手厳しいなあ」
ここは友達ではあるしあくまで寂しがった方が良かったか?三毛縞ごめん、と心の中で軽く謝る。
もうだいぶ辺りは暗くなってきた。三毛縞の顔も見えにくいほど。急に三毛縞は黙り込んだ。
「…こうやっていつも学院から離れなきゃ行けなくなる度に思うんだあ。」
「何を?」
「なまえさんを攫って行ってしまおうかなあって」
「……攫うって…」
何言ってるんだ三毛縞は。
「…なんだよ。一人が好きなくせに、寂しがり屋か?言っとくけど俺が攫われたら大捜索だぞ。三毛縞逮捕されるぞ。」
あれ、何かもっと面白い返しを言うはずだったのに真面目な回答になってしまった。三毛縞の顔があまりに真剣味なものだから俺の回答もイマイチになる。
「…正義は必ず勝つ。正義は世界を救うと言うけれど、それをもみ消すことだって出来る…。それを悪と言うのか愛のための善と言うのか…」
「…な、何の事だよ」
「もう暗い。こうして2人の時に俺がなまえさんを攫ってしまえば誰にも分からない。」
日が落ちたグラウンド内にもう人はいなかった。静かな中で時折海風が穏やかに流れてくるだけだ。
「…三毛縞…?」
大きな体、暗い中で見下す三毛縞は少し怖かった。
早く自転車のところまで行って…帰らないと…。
1歩、左足を後ろへズリ、と下げる。
後ずさりした瞬間、三毛縞の目に光がさした気がした。パシリと腕を掴まれて三毛縞に引き寄せられた。
暗い中でも三毛縞の目だけはよく見えた。冷めきった緑色の瞳から目が離せない。
「一緒に行こう。なまえさんの望むまま、ずっと家の中で過ごせるようにしよう。楽しく笑顔で暮らせるように俺が飽きさせないさ、お祭り男だからなあ」
嬉しそうに三毛縞は静かに笑った。それは俺が初めて見た三毛縞斑という人間だった。
そして、俺はその日から行方不明になった。
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