俺の隣の席は守沢千秋という人間だ。
そして前の席は羽風薫、左斜め前は瀬名泉という配置。
瀬名→〇〇←羽風
守沢→〇●←俺
こんな感じで俺の席はこの3人に囲まれている。
「見てくれ!!俺が考えた悪を倒すストーリー!どうだ!瀬名!素晴らしくないか?!」
「ちょっとぉ!背中叩くのやめてくれない?ちょ〜ウザイ!」
「むう…羽風!!羽風!!ちょっとこれを見てくれ!!」
「はい、却下〜。今女の子とメールしてるから無理。」
「…なぜだ!なぜ俺の素晴らしい作品を見てくれないんだ?!」
守沢の大きな声が常に響く空間。
ちなみに俺はというと、こんな中で我関せずで本と対面している。読書は俺の趣味だ。
3人は仲がよろしいようで何だかんだ言っていつもこんな調子。
「はあ…仕方がない。部活に持って行って皆に見せるかな…、いや、まずは流星隊の皆に見せよう!」
きゃっきゃと1人盛り上がってる守沢を放置して瀬名と羽風は2人話している。
「ていうか次の時間、数学じゃん。やば、サボろっかな」
「かおくん、さすがにやばくない?そろそろ出といた方がいいと俺は思うけどね〜」
「いや、子猫ちゃんが俺を呼んでるし寂しい思いはさせられないじゃん?」
「え、子猫?!子猫って言ったか?! 」
「ちょっとぉうるさい。耳が痛い。」
「もしかして、あれか?この間子猫を見かけたんだが近づこうとしたらすぐに走っていってしまってな!」
「あの子猫ちゃんは俺には懐いてるから近づいてくるの」
「むうう、羨ましいな俺も動物からも愛されるヒーローになりたい!」
動物から愛されるヒーローって…パオーンとぞうさんにさえ懐かれる守沢をふと想像してしまって、ぶふふと笑いそうになった。
にやけるように口角が上がってしまい隠すように本を持ち上げた。
「あっ、なまえが笑ったぞ!」
「えっ?!」
「うそ、まじ?」
三人が一斉に俺の方を向くもんだから俺は咄嗟に俯いた。
「笑ってないじゃん〜」
「守沢のうそつき。」
「いやっ!俺は確かになまえが笑ったのをみた!」
いや、見なくていいっす。
心の中でそっと呟いて読書に戻った。
「まぁ俺もなまえが笑ったところ見たことあるけどねぇ」
「いやいや俺も見たことあるから。子猫ちゃん追いかけてたらなまえくんのところに行ってみゃーみゃーしてる時になまえくんすっごく柔らかく微笑んでたの俺見たからね。」
「いや、俺も見たことあるぞ!豪快に口を開けて笑うなまえの笑顔は最高だった!」
いやいや、君たち何話してんですか俺の記憶の中ではそんなエピソード1つたりともないんですけど…。
俺は周りから笑わないと思われている。
いや、俺自身笑いのツボは浅いから笑ってるんだけどどうも顔に出ないらしい。
面白くない?と言われるから面白いと答えるのに笑わない俺に皆反応が困るらしい。
まあ俺は気にしてないからいいんだけども。
「あ、俺なまえくんと遊んだ時すごいはしゃいでて、多分誰も見たことないねあの笑顔は。俺しか見たことないだろうね。」
「なに?!いや、俺も部活の時になまえを誘ったんだがその時楽しそうにバスケして俺と2人で汗を流して熱い戦いだった!!」
「2人とも甘いねぇ。俺なんかなまえの家にまで、行ったことあるからぁ。勉強机の上に可愛いパンダの置物があったりさぁパンダよりお前の方が可愛いよって思ったくらいだよねぇ」
いやいや、待て待てお前ら。俺は羽風と遊びに言ったこともないし、守沢とバスケしたこともないし、瀬名に至っては家に連れてったことさえないのに何でパンダの置物があることを知ってるんだよ?!?!怖いよ!!
驚愕しすぎてツッコむのさえ怖くなってきた…。
気にしないようにしようと本のページをめくるのに、全然頭に入ってこない。
「いや、俺なまえくんと同じベットで寝たことあるし。」
「はぁ?俺なんかなまえにピーーして、ピーーしたことあるよぉ?」
「俺はな!この間なまえがうたた寝してる時にピーーーーーーー「…おおおいっ!!お、お前ら何の話してんの…っ?!」
我慢できず、ツッコンでしまった。
理解が追いつかず酸欠しそうな勢いで放ったら、三人はきょとんとしてこちらを見た。
「何って、なまえの話。」
「そうだよ、なまえくんの話」
「お、俺はお前らが話してるようなこと全部記憶にありませんけど…?」
「嘘だぁ。なまえくん記憶喪失?俺となまえくんピーーしてピーーしたじゃん?」
「いやいやいやいや待て待て待て…そんな記憶」
「いや、かおくんのそれは嘘。なまえは俺とピーーーーーーー「だから!!そのピーーをやめい!!」
普段あんまり感情が表に出ることがないためハァハァと顔を赤くして遮る。
読んでいた本なんて机の上に投げ出されてぐちゃぐちゃだ。
「よし、こうしよう!なまえは記憶喪失で今までのことを忘れてると!では今日俺と放課後探検に行こう!これから今までのこととこれからのことしっかり教えこんでやるぞ!」
「待って…理解が追いつかない…ちょっと…」
席の配置もあってか、三方向から向けられる視線が痛くて右を見るも、壁。逃げ場はない。
「え、守沢、抜け駆け?許さないよぉ?」
「なまえくん俺と今日遊ぼっか。もりっちより俺の方が何倍も楽しいからね?」
「いやいやいや…」
ほんともう何このカオス。
まあ、この席順になった時からカオスだというのは分かってました、はい。
俺はただの傍観者でいようと思っていたのにそうさせないのがこの三人だった。
「なまえくんどこ行きたい?」
「俺オシャレな美味しいカフェ知ってるよぉ?」
「なまえ!デパートのヒーローショー行くか!」
痛む頭を抑えて息を吸った。
「……ゲーセンで…。」
「決まり!ていうかもう今から行かない?」
「あと3時間頑張れば放課後なんだから我慢してよねぇ」
「ゲーセンか!燃えるな!」
また3人の話が始まって俺はとりあえず机の上に放置された本を救出した。
ねえ、なまえくんはUFOキャッチャー得意?やらカラオケ行こうよ?なんて言葉が投げかかってくるたびに読書が中断されるのだ。
こうして傍観者Aの考察はいつも心の中でツッコミするだけ留まらず、三人によって巻き込まれるのだった。
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