たまには学食もいいかな、と思って1人で食堂に来た俺は数あるメニューから少し迷いつつからあげ定食を頼んだ。
揚げたて熱々のからあげ定食を受け取って空いてる席に座る。
からあげの香ばしい匂いがたまらない。
箸で持つと衣がサクサクなのが伝わってくる。
はむ、と口にふくむとサクサク衣からジューシーな肉汁がしみでた。
うまい。
あっという間にぺろりと食べて、一人で本を読んでたら昼休みも終わる時間が近づいてて急いで食器を返した。
足早に教室に向かって授業が始まる1分前に何とか教室に入った。
自分の席にすわって急いで次の教科のノートを出したところでチャイムがなった。
ギリギリセーフ。よかった。
教師がきて、今日のプリントくばるぞー、と前の人に後ろの列分のプリントを渡していく。
俺は一番後ろだから何もしなくてもいいから楽だ。
後ろに回ってくるプリントを眺めていると俺の左隣の列の瀬名が(おれの左斜め前が瀬名で、左隣が守沢だ)守沢にプリントを回そうと後ろに振り向いた時、ふと目が合ってしまった。
俺はすぐに逸らしたけど視界の隅で瀬名がプリントを後ろに渡そうとした姿勢のまま固まっているのがわかった。
「ん?瀬名?どうかしたか?」
「……。」
「瀬名?具合悪いのか?目が見開いたままだぞ?!羽風!瀬名の瞳孔が開いたままだ!」
「え、羽風?!無視か?!瀬名?!」
なぜか一人で慌て始めた隣の席の守沢をいつもの事だとスルーして、いや、俺はいつも周りのことはスルーしてるけど、羽風からのプリントを受け取った。
暫くして瀬名は ハッと気づいたように守沢にプリントを渡したあと前を向いた。
…んだが、さっきから前というより俺の方をチラチラ見てる。
俺はあえて瀬名を見ないけど、俺の後ろに何かあるのかと思ってさりげなく自分の後ろを見た。
何も無い。
なんなんだ…と少し不安になったけど俺は真面目に授業を聞こうと前を見る。
前を見ると必然的に瀬名と羽風が視界に入るわけだけど…。
んん…瀬名のチラチラした視線が痛い。
ここで俺が見たら負けだと思い必死で黒板を見る。
「やばい…。」
瀬名がぼそりと呟いた。
それに羽風が反応した。瀬名と羽風はコソコソ話しているようだけど会話の内容はかろうじて聞こえる。
「…なにが?」
「…なまえの唇がぷるぷるしてる…」
「えっ?!」
ガバッと羽風が後ろを向くもんだから俺はがっつり目が合った。
羽風が俺を見て目を見開いたあとまたすぐに瀬名に向き直った。
「やばい…。」
「でしょ?」
え、え、俺の口なんか着いてんの?
歯に海苔とかついてたらまじ恥ずかしいわとか思いながら少し唇を動かした。
「なにあれ、誘ってんの?」
「は?かおくん誘うわけないじゃん。俺に決まってるでしょぉ?グロスかな。グロス塗って俺誘ってるのかも」
「いやいや、なまえくんの唇は俺のでしょ」
ぬめ、っとする感触。油を塗りたくったように滑りのいい感触に、あ、と気づいた。
そういや昼にからあげ定食、食ったんだった。
あのからあげ、結構脂ぎってたからなあ…。
それが唇についてたのか。てことは今、俺の唇は油でテカテカなわけである。
「エロくない?やばいよねぇ」
「ちょっと、せなっちずるくない?斜め前だからってそうやってチラ見するのは反則。」
「はぁ?何言ってんのこの席の特権使って何が悪いわけぇ?」
ちょっと、2人ともさっきから会話がもろ聞こえてるんだが。からあげの脂にそこまで反応しないでください…。
とにかく恥ずかしくてハンカチで唇をぐいぐいと拭った。
「ん?なまえどうした?」
「…いや、なんでもない。」
「…何か唇が赤くなってるぞ?大丈夫か?!」
隣の席の守沢がぐいと身を乗り出して俺の頬を両手で挟んだ。
え?と思いながら俺は守沢に顔を覗き込まれる。
「どうした?!熱か?!」
いやいやいや、俺の唇が赤いのはさっきゴシゴシ擦っただけだから。ていうか、今授業中なんだけど…。
それなのに後ろの騒ぎに教師は何も言わない。
「もりっち、今すぐその手を離そうか」
「いや、でもなまえの様子が、」
「ちょっと守沢、廊下に立ってきなよ。なまえに触った罰で一時間。」
いやいや、えーー。なにこれ。
「え、俺か?!なまえ、一緒に廊下に行くか?!」
いやいや、行きませんから。俺を巻き込むな。
「じゅ、授業中だから……」
「大丈夫だ!自らを反省する時こそ人は強くなる!うん!熱くなってきた!よし、なまえ!いこう!」
うん…今日も3Aトリオは平常運転だ。
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