(ヤンデレ衣更×平凡男主)
ああ、また見つかった。
「みょうじ!こんなとこにいたのか!」
嫌いなダンスの授業を抜け出して空き教室でサボる俺のところに、同じクラスの衣更真緒がやってきた。
俺なんてただのそこらへんのモブにすぎない平々凡々とした人間で、自分がなぜアイドル科なんてところに入ったのかも分からなくて毎日適当に過ごしている俺のところに、なぜか衣更真緒はやってくる。
常に忙しそうなのに、周りの人間におせっかい、いや、よく言えばお人好し、世話焼きな衣更は同じクラスの人間だからなのかこうして俺にも隔たりなくおせっかいを押し付けてくる。
『…気分悪いから休んでるだけだし。』
「気分悪い〜?お前そう言ってこの間もサボってただろー?いい加減、授業出ないと評価下がるぞ!ほら、立って。」
俺の腕をとって、立たせようとする衣更はなんでここまでするのか疑問だ。
俺なんてあの有名な転校生にさえ、名前を呼ばれたこともないし目もあったこともない陰気臭い人間なのに。
衣更は周りにすごい人達ばっかいて、衣更自身も常にキラキラしてるすごい人なのに。
意味がわからない。
『はあ、衣更には関係ないじゃん。』
「俺の気が済まないんだって。」
ぐいぐいと割と強く引っ張られ、無理やり立ち上がらせる。
俺も抵抗する気力はなく、しぶしぶ言う事を聞く。
『分かったって。分かったから、もう離して』
そう言うと衣更は掴んでいた手を離してくれた。
お人好しは周りの人間だけにしとけよ。俺にまでその世話焼きを押し付けてくるなよ。
そんな言葉を噛み締めながら、とぼとぼと授業に戻った。
***
アイドル科の生徒みたいに個性的ではない俺は、先生からよく頼み事をされる。頼みやすいからだろうか。
重い物を持って歩きながら、早く終わらせて帰りたいと思っていた。
ふいに横から またか、とため息を吐きそうなほど見覚えのあるやつがいた。
「みょうじ!重そうだな。俺、手伝うよ。それ貸して。」
手伝うのが至極当然のことだというように衣更は俺から荷物をとろうとする。
その行為が俺をイラつかせた。
周りから頼られて、率先して周りを助けて、忙しいと言いつつ器用にこなす衣更に嫉妬しているのだ。
そんな衣更に当然のように助けられる自分が嫌だった。
衣更の腕を拒否して荷物を強く持つ。そして即答した。
『いい。これぐらい1人でできる。』
「いや、見るからに重そうだぞ?貸せよ、手伝うから」
『いいって!衣更にやってもらわなくても、一人で充分だから!必要ない!』
強く言いすぎてしまった自分に罪悪感を覚えた。俺の言葉を聞いて、少し目を見開いたあと表情をなくした衣更にヒヤリとした。
「みょうじ…」
『あ、違…。衣更いつも忙しそうだから俺一人でできるってこと…。衣更の手を煩わせるのは迷惑だから…』
急いで弁解していると、後ろから衣更を呼ぶ転校生の声が聞こえてきた。
『呼ばれてるぞ…。早く行けよ。』
「…っ、わかった。こけないよう気をつけろよ?」
早く行けと言うと、無表情だった衣更ははじかれたように表情をとりもどしてあのいつものような少し困ったような顔で笑って転校生の方へ駆けていった。
先ほどの衣更の無表情を思い出して、少し居心地が悪かった。
***
帰り道、俺は学校近くの本屋やら寄り道しながらダラダラ帰っていた。
下校途中の生徒とすれ違いながら歩いていると、向こうから転校生と衣更の姿が見えた。
まあ転校生と衣更のツーショットなんていつものことか、と特に気にすることなくぶらぶら歩いていると俺に気づいたのか声をかけてきた。
「お、みょうじ今帰りか〜?」
何で声かけるんだ。
俺は歩く足は止めずに応えた。
『おう。じゃーな。』
そのまま通り過ぎようとしたが、衣更の手によって行く手を阻められた。
「もう暗いし…送ってくぞ?」
『…はぁ?!』
何言ってるんだこいつというような顔を衣更へ向ければ送って当然だというようないつもの顔をしている。
そもそも、お前は転校生を送っているんじゃないのか?
『や、衣更に送ってもらうとか女子じゃねえし…。てか、転校生送ってんじゃないの。じゃ、2人とも気をつけてな。』
手をひらひらさせてまた歩き出した。
後ろで何か話しているが気にせず帰路につくと、後ろからトンと肩を叩かれ顔を向ける。
「転校生は寄るところがあるみたいだから、途中までで良いってさ!一緒に帰ろうぜ!」
なんて爽やかな笑顔で言う衣更に少し引いた。
「みょうじは転校生より、危なっかしいというか…ついつい手を貸したくなっちゃうんだよな…」
どう見たら俺がそんな風に見えるんだ。隣を歩く衣更を怪訝そうに見ても衣更はちっとも気にしていない。
『手を貸すのは誰にでもしてるだろ。』
「うーん、そうだなぁ…。みょうじは特に目につくんだよ。」
『はあ…そう。』
どこからどう見ても平凡な俺が目に付くとは衣更の世話好きは重症だな。
これ以上話していると俺の性格の悪さがにじみ出そうだから衣更と別れる理由をつけて一人で帰ろうと考えた。
『じゃ、俺んちこっちだから。また明日な。』
俺の家はまだまだ先だけど、嘘をついた。
「…え?みょうじの家はそっちじゃないだろ?」
不思議そうにしている衣更に、俺は頭の中で こいつは俺の家を知らないはずだ。と違和感を覚えた。
だって、高校の友達は家に連れていったことがないのだ。知るはずがない。俺はあくまで自分の嘘を通した。
『いや…、こっちだし。』
「…嘘つくのは良くないぞ。」
さっきまでとは全く別人ように無表情だ。
『…何で嘘だって分かんの?』
「何でって…。いつも見てるし。困ってる時も笑ってる時も、イラついてる時もどんな時も見てるよ。だって目がいくんだから仕方ないだろ?」
いつもの衣更じゃない。いつもの衣更は疲れてても、忙しくてもキラキラして目も生き生きしてる。
それなのに今俺の目の前にいる衣更はどこを見ているか分からないような目をして、俺を見ている。
訳の分からないことを言う衣更にゾッとして、自分の腕に鳥肌がたっているのがわかった。
「ふはっ…。鳥肌たってる。暗くなってきたから少し肌寒いか?」
たった鳥肌をなぞるようにすすす、と腕を触る衣更に怖くなって腕を払う。
『や、めろ、!』
「いつも見てるから、助けたいんだよみょうじを。どんな時だって。だから…俺を必要としないなまえは少し嫌い、かな」
困ったように笑った後、静かに目を開いた衣更に俺は動くことができなくなっていた。
心臓がドクドクとして、動かしたい足も言う事を聞かない。
夕日が沈みきった暗闇で、掴まれた腕がやけに熱くて、俺はそこを凝視することしかできなかった。
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