階段を降りている時、足の踏み場が悪かったのか俺の足は何も無い空間を踏んでしまい、体が傾いた。

あ、階段から落ちるかも。

スローモーションみたいに思えたのにそれは一瞬のことで、体にくるはずの痛みはなくてその代わり、人の体温を感じた。

気づいたら、俺は守沢先輩の腕の中にいた。

「大丈夫かっ?コケそうだったから、反射的に…」

守沢先輩の顔が近くてドキドキする。
こんな平凡な俺を助けてくれて…、こんな近くで俺を覗き込んでくるなんて……

もしかして守沢先輩って俺のこと……


「ストーーーーップ!!!」

はりの効いた声がどこからか聞こえてきて、守沢先輩の腕の中にいた俺はぐいっと誰かに引っ張られた。

「真緒?」

「何、顔赤らめてるんだよ!部長、あざっす!こいつは回収していきます!」

「お、おお…?」

ぐいぐいと引っ張られるように真緒に手を引かれる。それでも俺のドキドキは止まらない。

どうしよう…このときめき…どきどき…これはもしかしなくても恋……

「恋じゃないからな!」

「…こんなにドキドキするのに…?」

あの守沢先輩の俺を助けようとする目…、あれは絶対に俺にだけ向けられた…

「ストップストップストップ!!もー、ほんと目離すとすぐにそうやって…。いいか、なまえの彼氏は俺だろ?」

「うん」

「じゃあ、何で俺以外のやつにドキドキしてるんだ」

「だって…ドキドキするんだもん…」

「はぁーーー、この恋愛体質どうしたものか…」

俺は人よりドキドキしたりときめいたりすることが多いらしい。

少し手が触れただけでドキドキするし、もしかしてこの人俺に気があるんじゃないかな…って思ってそこから恋が始まる。

それがただ短期間でころころ変わるというだけだ。

なのに、真緒はそんな俺でも恋人として付き合っている。

いつもなら俺がドキドキして勝手に恋するだけで脈ナシなばかりでむしろ存在さえ認識されてないこともしばしばだ。そんな流れで真緒にドキドキして、ときめいていた時に真緒も俺のことを好きになってくれて結ばれちゃったのだ。

真緒と結ばれた今でもやっぱり俺はほかの人でもドキドキしちゃうわけで、それを真緒がいつも阻止している。

「どうやったら俺のことだけ見るんだよ…」

顎に手を当てて考える真緒にそんなに気にしなくてもいいのにと思う。

「好きだよ、真緒のこと。」

「…知ってる。でも他の奴にドキドキするなんて…不安になるっつーか。」

馬鹿だなぁ、真緒は。平凡な俺なんか相手にもされないのに心配無用だよ。

「俺がもっとなまえのことドキドキさせるしかないのかな…」

人のいないところで俺と真緒は壁にもたれかかって話をしている。ふと真緒が壁に背をつけている俺の前に立った。

真緒が俺を見下ろしていて、少し上目遣いになる。真緒はちらりと周りを見て人がいないのを確認した。

「目、閉じて。」

言われた通り目を閉じた。

それからふわりと真緒の匂いがして、唇にそっと柔らかい感触が伝わった。

ああ、真緒からキスされてるんだ。

真緒の顔が見たくて少し目を開けた。

目を閉じた真緒の顔が至近距離で、なんだか猛烈にドキドキしてきた。

真緒、俺のこと好きなんだ。俺、愛されてるんだ。

なんて考えていると今まで感じたことのないほどの大きなドキドキ。

顔を離した真緒に教えてあげないといけない。

「俺はね、真緒といるだけでいつもドキドキしてるよ…。真緒といるとドキドキと一緒に心が満たされる感じがある。」

「…わかったから。」

真緒の頬は少し赤くなっている。

「どうしたの?真緒もドキドキしてる?」

「…してるよ。そんな恋する乙女みたいな顔で見られたらドキドキするだろ…っ」

ふいと目を逸らしながらムッとする真緒に自然と口元が緩んだ。ぎゅっと真緒の背中に手を回す。

「真緒だけ好き。」

「そう言って、俺以外のやつにドキドキするくせに…そんななまえも含めて好きだけど!」

真緒も俺の背中に手を回してきたから、やっぱり俺は真緒が好きだなと満たされた気持ちになった。



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