「ふぁぁ……ねむ。」
「…凛月眠いの?」
「ひざ。」
「え、え…?」
芝生の上に座る俺の太ももに頭を置いてきた凛月にびっくりして背筋が伸びた。
「り、凛月…っ!ひ、ひざって」
膝枕のこと…?!
「お、俺の膝枕、かたいかも…や、柔らかくないし…!」
いきなりのことに、女の子みたいに柔らかくない俺の膝枕なんて寝心地悪いかもと不安になる。
「うるさい。黙って。」
簡潔にそう言って凛月は目を閉じた。
自分の膝の上で寝る凛月にどうしようもなく、嬉しいような恥ずかしいような気持ちに顔が赤くなった。
いつかの光景。記憶の中にあるこれは、夢の中だと分かった。
この時はまだ幸せだった。何も知らないで、凛月が俺に甘えてくれたということだけで舞い上がって嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
ふっといきなり周りが真っ暗になって俺の上で寝ていた凛月はいなくなっていた。
ああ、そうか。もう凛月はいないんだ。
どっと悲しみが押し寄せてきて、夢の中なのに本当にその場にいるみたいに呼吸が辛い。涙が出て嗚咽が漏れる。
むせび泣き、心臓がバクバクとしてもうお願いだからこれ以上辛い思いをしたくないと思った。
そこでやっと目が覚めた。薄暗い部屋に真緒の家に止まっていることを思い出した。
本当に泣いていたのか、目元は涙で濡れていて枕は湿っている。泣いた後のように肺が重たい。
コンコンと控えめなノックの音に顔を向けた。
「なまえ…?起きたか?」
「…うん。」
「今日休みだろ?俺ちょっと出てくるから!」
「ん、…」
パタパタと出かけていった真緒に俺は甘えてごめん、と心の中で謝った。
いつでも頼ってくれよ、という真緒の口癖に甘えてしまうのは俺の悪い癖だと思う。
起き上がってリビングに向かった。
1人だとどうしても凛月のことを考えてしまう。
凛月は俺が出てせいせいしただろうか、もう他の人を連れ込んでるんだろうか…。
俺がいた部屋で別の人と……。
想像してしまいどうしようもない気持ちになった。
考えるなと頭に言い聞かせても簡単にイメージできてしまうそれは胸を締め付けるものだった。
立ち尽くして絶望することしかできない俺は目覚めてもなお凛月のことが忘れられなかった。
「……あはは。…辛いなぁ…」
凛月が他の人と遊んでいた時よりもずっとずっと辛いなんて何の天罰なんだろう。
もう凛月のそばに居られない、話せない、目を合わすことができない、その方がずっと辛い。
それを作ったのも俺自身なのにな…と自分で自分を笑った。
何かしてないとずっとそのことを考えて重くなって気が滅入ってしまいそうだ。
何も考えないように外に出ようと決めて、真緒に置き手紙を残した。
外に出かけます。真緒ありがとう。鍵はポストの中いれとくね。
鍵を置いてくれている真緒にメモを残して玄関で靴を履く。
鍵をポストに返してから街へ出る。
外に出てもとくに目的もなくふらりふらりと放浪者のように歩く。
凛月は家にいるんだろうか。それとも誰か他の人の家にいるんだろうか。今なら家に戻っても大丈夫だろうか。
服や荷物を取りに行きたくても凛月と鉢合わせするのが怖くて動けなかった。
何度も気にして見る携帯には凛月からの連絡も何も無い。
はぁ、とため息よりも思い何かを吐き出して近くのベンチに座った。
これからどうしよう、なんて考える気にもならずただぼーっと前を見つめるだけ。
傍から見たら生気のない人間の抜け殻みたいに見えるかもしれない。
街に溢れる人を見れば見るほどどん底の自分が惨めに思えてきて辛かった。
幸せそうな若い男女に目が行く。
凛月がいない未来なんて想像できない。
凛月の隣にいたかったのは自分なのに。
願わくば、凛月に話しかけたあの日に戻りたい。
話しかけなければ俺は…凛月を好きにならなかっただろう。
凛月に好かれるために必死で頑張った。
それも全部無駄なことだったのだと認めたくなかった。
両手で顔を覆うと視界が真っ暗になって安心した。
誰もいない、真っ暗な視界なら何かを見て傷つくこともない。
「あの、大丈夫?」
落ち着くなあ、と思っていたらすぐ近くで声がした。
誰のことかと思い手を離して周りを見る。
若い青年が一人、俺の隣に腰掛けていた。
「あ…」
心配そうに俺を見ている。
「どこか痛いの?」
「…や、大丈夫です…。」
柔らかそうな長めの黒髪が凛月を思い出させた。 中性的な顔立ちがよりいっそう胸を締め付けた。
心配してくれて申し訳ないという気持ちから手を振って大丈夫と伝えた。
「何かあったの?話聞くよ?」
「そ、そんな…」
遠慮して首を振るのに俺の手をとってベンチから立ち上がらせた。
「いこ、落ち着ける場所あるから」
腕を引かれてびっくりしている俺を余所に有無を言わさずぐいぐいと引いていくその人に憔悴していた俺はされるがままだった。
「あ、の…どこに…」
「大丈夫大丈夫。落ち着けるとこだから」
だんだんと街並みも人が少ないところになってきていて、進行方向からもしかしてホテル街に行くのではという考えが過ぎり、足を止めた。
「あのっ、離してください…」
「…だめ。君俺の好みだから。同じでしょ?見て分かるし。」
何が同じなんだ、とか。好みとか頭が追いつかなくて焦る。
「は、離してくださいっ、」
「いこうよ。辛いこと忘れちゃお?」
行き交う人は俺たちを見て見ぬ振りで誰も助けてはくれない。
男に手を繋がれたままいやだ、いやだと首を降っていると俺の視界に真っ黒な姿が写った。
息を飲んでその姿を見た。
「…り、つ…」
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